死が二人を分かたない世界

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真里編:第5章 約束

君の隣に

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「いやぁ、無事で良かったねー」
「急に呼び戻されたから驚いたぜ!」
「お騒がせしました……」

 ユキと一緒に治安維持部隊の事務所へ顔を出した僕は、ルイさんと飛翔さんに背中をバンバン叩かれて、心配させてしまったと反省した。
 事務所の応接セットに促されてユキと並んで座ると、2人も向かいに腰を下ろした。

「ユキなんかヤバかったぜ! "真里に何かあったら……"って殺気振りまいてさ!」
「伊澄もねユキの形相に、顔真っ青にして飛び出していってねー!」
「お前らな……」
 飛翔さんがユキっぽいモノマネを交えながら、ルイさんと二人でユキを茶化しているようだった。
 そんな中お茶を準備してくれたカズヤさんに湯飲みを渡され、"無事でよかった"と朗らかな笑顔を貰うとホッとした。

「真里、お前一人で取り押さえたらしいじゃん! やるな!」
「だから言っただろオレ! 真里は強いから大丈夫だって!」
「いやぁ、ユキが来てくれなかったら危なかったですけどね」
 わぁ……ルイさん僕の事こと強いって言ってくれたんだ……嬉しい! なんでか理由は分からないけど、こう信頼されてるって感じがして、俄然やる気が出る。

「あのユキがあんなに取り乱すなんてねー……確かに真里はユキの好みって感じではあるけど、何があってそんな大事な存在になったの? 眷属にまでしちゃったし」
「素質もなかなかのものですけど、それだけで眷属に選んだわけではないですよね」
 ルイさんとカズヤさんが興味津々の顔である、ルイさんは変わらずニコニコ笑顔だけど、ワクワクしてる感が伝わってくるし、気持ちカズヤさんも目がキラキラしてる!
 ちょっと恥ずかしい流れになってきたので、貰ったお茶に口をつけて誤魔化す……あ、このお茶すごく美味しい!

「勘違いすんなよ、真里が俺の好みなんじゃない! 俺の好みの原点が真里なんだよ」
 ——っ!?
 危ない、お茶吹き出すかと思った!

「意味わかんなーい!」
「ずっと真里っぽいのでお茶を濁して来たが、やっと本物に会えたって事だ」
「いや、ますます意味わかんねんだけど!?」
「いいんだよ分かんなくて、真里が分かってれば……な?」
 すっごい可愛い笑顔で言われて、きゅんとしてしまった……そうか、僕っぽい人を探して"童顔茶髪"……。

「……じゃあユキは僕がもっと年取って、オジサンになっても迎えに来てくれたの?」
「当たり前だろ! 俺はオジサンになった真里も抱ける自信があるぞ!」
 オジサンになっても僕は抱かれる側なのか……。

「じゃあ僕は聖華に"年齢操作"を伝授してもらおうかな、僕もっと背が高くなりたかったんだよね」
「"年齢操作"は若返るのは容易だが、歳を取る方は成功例はほぼないぞ?」
「それはやりがいがありそうだね」
 やりたい事がまた増えた、きっといつかは出来るだろう、なんせ時間はたっぷりあるのだから。

「あーぁ、惚気られただけだねー行こ、行こ」
 ルイさんが手を払いながら立ち上がる。
「真里を探すのに結構聞き込みしたので、お礼の挨拶に行って来ますね」
「あ! そっか! 俺もだ! 商店のおっちゃんが後でアイス取りに来いって」
そう言ってカズヤさんと飛翔さんまで立ち上がる、本当に迷惑かけてるじゃないか! そこまで大事になっていたとは思ってなかった。
「す、すみません! 僕も一緒に!」
「いいって! 挨拶がてらのパトロールだからな! あとで真里にもアイス食わせてやるからな!」
「お前、アイスの事しか考えてないだろ」
 ルイさんがまた飛翔さんの脇腹をど突いている。
「ユキ、留守番頼みますね」
「おう、悪いな」
 そう言ったカズヤさんを殿に、三人は事務所から離れてユキと二人きりになった。

「僕も管理課戻ったほうがいいかな?」
「どうせ伊澄も聖華もいないだろうからいいだろ」
 ユキがカズヤさんに出されたお茶を飲みながら、反対の手で僕の手をぎゅっと握る、行くなって事だろうか……。

「今日はごめんね、心配かけて」
「俺の方こそ……元は俺が蒔いた種だ、巻き込んでしまって、すまなかった」
 ユキが湯呑みを置いて、改まったように僕の方を向いた。

「今日真里は聖華を庇っていたが……俺は真里に何かあれば、本気であいつを消すつもりでいたからな」
 その眼はすごく真剣で、冗談で言っているのではないと、周りの空気がピリつくほどだった。
「誰も殺したくないなら、無茶をするな。俺は真里が一番大事だ、それ以外なんて何を捨てても構わないと思っている……覚えておいてくれ」
「……わかった、心配かけないように強くなるね!」
 僕が握られたユキの手を両手で掴んで宣言すると、ユキがガクッとうなだれた。
「そっち?」
「だって僕も魔力量でいうとユキと同じくらいなんでしょ? じゃあユキに追い付けるように頑張ろうかと思って」
「……んー、まぁ、真里に大人しくしておけと言っても無理な話だな」
 ユキが頭を抱えるように空いた手を額に当てている、そうか……大人しくしとけという意味だったのか! それは確かに僕の性分には合わない、無理だな。

「僕はユキに守って貰いたいなんて思ってないんだ……ユキと並んで歩きたいんだよ」
「真里……」
「これからもずっと一緒に居たい、胸を張ってユキの横に並びたいんだ……頑張って追いつくから……待ってて」
 出来るだけ真剣な顔をしたつもりだった、ユキが凄い人なのは分かってる、みんなから憧憬の念を抱かれていることだって……他の人が聞けば今の僕の発言は分不相応、さぞ滑稽に聞こえたことだろう、それでも僕は本気だった。
 ユキが額に当てた手を目の上に移動させて、笑いを堪えるような仕草をした……でも僕はそれを嘲笑されているとは思わなかった。

「無理かな?」
「いや、無理じゃない。真里の好奇心の強さと勤勉さ、吸収力、順応性……どれも他に敵う人間など居ないほどだ」
 手を外したユキの表情は心底嬉しそうな顔だった。
「カッコいいな、真里……惚れ直しそうだよ」
「じゃあ、もっと頑張らないとね」
 これ以上無いくらいの褒め言葉を貰ったから、僕もつられてニヤけてしまう。せっかくカッコつけたのに、台無しになったかもしれない……それでもユキが嬉しそうに僕を抱きしめたから、ますます僕は頑張ろうと決意を新たにした。

「僕も頑張ればユキみたいに……悪魔だけど人助けなんて出来るのかな?」
 僕は出来れば人を呪ったり殺したりするより、ユキがしてくれた様に人を助ける為に力を使いたい、存在として矛盾しているのは重々承知の上だ。

「俺でも人助けなんて出来ないぞ、あれは秘策中の秘策だ……」
 そう言ってユキが指を一本口元に当てて、小声で話す。
「あれはな、天界の天使長の力を借りたんだよ」
「……はっ!?」

 "天使長"——っ!??
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