37 / 191
真里編:第4章 願望
謝罪
しおりを挟む
ユキの顔も雰囲気もプレッシャーも……横にいる僕でさえ怖いと思った、直接その身に受けている聖華はどれだけ怖いだろうか。
今にも聖華の頭を握り潰さん勢いだ、これは非常にマズイ! しかしユキの手を注視すると、どうやら強化はしていない素手のようだ。
僕は不謹慎ではあるが安堵した、ユキの無強化の握力で聖華の頭部に危害が加えられる事は"絶対にない"と知っているからだ。
僕は知っている、無強化のユキはとんでもなく非力だ。
「何を見た……管理課にあった真里の資料か?」
「……は、はひぃ」
「消すか? 俺と真里の記憶ごと全部」
「ヒッ!」
「ユキ! やめて!」
あまりにも怯えて可哀想になったので、ユキの腕を掴んで聖華から離した。
「僕が読めないところを聞くために見せたんだ! 聖華は悪くない!」
「……しかし」
「見られた僕がいいって言ってるんだ! もうこの話は終わりでいいだろ!」
本当はこんな喧嘩みたいなことしたくないんだけど……記憶を消すって言った! 聖華から、僕だけならまだしもユキの記憶まで! そんなの絶対にダメだ!
ユキが引いてくれたのか、はぁっと呆れたようなため息をつかれたけれど、取り敢えず聖華への圧力は止んだ。
「いや、いやあぁ忘れたくない、うあぁっ」
「大丈夫だよ聖華、もうユキは消したりしないって」
突っ伏して子供のように泣きじゃくる聖華を、なだめるように背中を撫でた。
するとユキがどこから声を出したのか"はぁぁっ!?"と奇声をあげる。
「な……なんで聖華にそんなっ!」
「君が意地悪言うからだろ!」
「そんなことして! 聖華がお前に惚れたらどうするんだ!」
「あるわけないだろ! 聖華はこんなにユキの事が好きなのに……っていうか!」
僕は聞き逃さなかった、バタバタしてはいたけれど、聖華が僕に言った"会ってもくれない"というあの一言を……。
「ユキ! 僕は君が聖華を説得するよう話合いをした上で、聖華が納得しなかったんだと思ってたんだけど……?」
ユキがゴクリと唾を飲む音が聞こえた。
「聖華から"逃げ回ってた"そうじゃないか」
これはカマを掛けだ、しかしユキとは十年来の付き合いだ、意外と面倒くさがりなのを僕は知っているぞ。
「あ、いや……そのそれは、ちょっと時間が足りなかったというか」
「"逃げ回ってた"を否定しない……という事は、本当なんだ?」
「……あっ」
「聖華に謝って!」
「うー……」
「謝って!! じゃないと1ヶ月無視する!」
「わかった!」
ユキが両手を上げて降参した、聖華の方を見るとまだガタガタと震えていたが、見ているのは僕の方だった。
「今度は真里のプレッシャーに怖がってるぞ、な、真里も怖いだろ?」
なるほど、こういう怒りでもプレッシャーが出てくるもんなのか、絶対に穏やかに過ごそうと僕は心に固く誓った。
ユキが聖華の背中に手を当てるのを見て、若干のヤキモチが出てきた……自分で言っておきながら、ユキが他人に触れるのに嫉妬してしまう。
「悪かったな、聖華……俺はもう真里だけだって決めたんだ」
「……もういいです、でも避けないでいてくれますか?」
「わかった」
聖華がまた可愛い笑顔でニコッと笑った、ユキに無視されていたのが余程悲しかったんだろう……それは本当に嬉しそうな笑顔で、そんなにユキの事好きだったのにごめんね……と内心こっそりと謝った。声に出すとまた面倒そうだから言わないけど。
聖華が立ち上がったかと思うと、僕に向かって"ありがとう"と"ごめんね"を、しゅんとしながら伝えてきた。
聖華とはこれからいい関係を築いていけそうな気がする、聖華が味方になってくれるなら、管理課だってきっとすぐ立て直せるはずだ。
「ユキさんは諦めますけど……真里は、アタシを抱く気にはならない?」
デカいままの聖華を見上げながら、心からこいつ何言ってんだと思った。
「……ならないね」
「やだぁ! アタシ真里の事、本気で好きになっちゃいそうなのに!」
「……な? コイツこういう奴なんだよ」
いい関係、築いていけるかなぁ? 急に不安になってきたんだけど。なんかユキに謝らせたのが申し訳なくなってきた……。
「じゃあ、真里は連れ帰らせて貰うからな」
そういってユキは片手に僕の靴を持って、もう片方の腕に僕を乗せて言った、またこの恥ずかしい抱き方!
よく見るとユキは腕に強化をかけているようだ、今までも毎回僕を持ち上げるたび強化していたのかと思うと、少し可笑しくなってきた。これもユキなりの僕に惚れさせよう作戦なのかもしれない……もうただ、ただ可愛い。
「聖華……明日も管理課来るよね?」
「あったりまえでしょー! 一番長いアタシが行かなくて誰が行くのよ!」
"じゃあ明日……"と、ユキに連れられて転移する一瞬……不安なくらいに失意に落ちた顔の聖華が見えた気がした。
声をかけたいと思った時にはもう、僕はユキの部屋に帰ってきていた。
「ユキ……聖華、大丈夫かな?」
ユキの腕から降ろされながら問いかけると、かなり強めの力で抱きしめられた。
「もうアイツのことはいいだろ! どれだけ心配したと思ってるんだ!」
「僕が消されるかと思った?」
「……いや、真里の初めてが奪われるかと思った! しかも聖華にあんな風に優しくするなんて……!」
やっぱりそっちか! しかもヤキモチ妬いてる……!
そんなに聖華の背中をさすったのが気に食わなかったのだろうか? お詫びとばかりに僕を抱きしめるユキの背中をよしよしとなだめた。
僕も二大淫魔なんて聞いてたから、聖華には注意すべきだったと思うけど……二大淫魔のもう片割れは今、僕の目の前に居る。
ピリリリとインカムが鳴り、僕を抱きしめたままユキがそれに応答する。
「あぁ、真里は無事回収した、落ち着いたら連れて行く……え? 通信が切れてない?」
そう言いながらユキが僕のズボンのポケットからインカムを出す、そう言えば場所を知らせるために通信してから切ってなかった!
「……聞いてたか?」
『……聞こえづらくて何も分かりませんでした』
「ならいい」
ユキが少し不機嫌そうに自分のと僕のと通信を切った後、僕をお姫様抱っこで抱き上げる。
「ユキ……? 僕はもう落ち着いてるけど?」
「……俺が落ち着いてない、寝室に行く」
今っ!?
ーーーーー
「アハハハッ! ユキ完全に尻に敷かれてるじゃん! おっもしれぇ!」
「やっぱり強かったねー真里は!」
「……二人とも、今日聞いたことは全部忘れろ」
「なんで! こんなおもしれぇの! 上司イジりに使わない手はなくね!?」
「いいから忘れろ! 副長命令だ」
普段声を荒げる事のないカズヤの強い口調に、ルイと飛翔は押し黙った。
今にも聖華の頭を握り潰さん勢いだ、これは非常にマズイ! しかしユキの手を注視すると、どうやら強化はしていない素手のようだ。
僕は不謹慎ではあるが安堵した、ユキの無強化の握力で聖華の頭部に危害が加えられる事は"絶対にない"と知っているからだ。
僕は知っている、無強化のユキはとんでもなく非力だ。
「何を見た……管理課にあった真里の資料か?」
「……は、はひぃ」
「消すか? 俺と真里の記憶ごと全部」
「ヒッ!」
「ユキ! やめて!」
あまりにも怯えて可哀想になったので、ユキの腕を掴んで聖華から離した。
「僕が読めないところを聞くために見せたんだ! 聖華は悪くない!」
「……しかし」
「見られた僕がいいって言ってるんだ! もうこの話は終わりでいいだろ!」
本当はこんな喧嘩みたいなことしたくないんだけど……記憶を消すって言った! 聖華から、僕だけならまだしもユキの記憶まで! そんなの絶対にダメだ!
ユキが引いてくれたのか、はぁっと呆れたようなため息をつかれたけれど、取り敢えず聖華への圧力は止んだ。
「いや、いやあぁ忘れたくない、うあぁっ」
「大丈夫だよ聖華、もうユキは消したりしないって」
突っ伏して子供のように泣きじゃくる聖華を、なだめるように背中を撫でた。
するとユキがどこから声を出したのか"はぁぁっ!?"と奇声をあげる。
「な……なんで聖華にそんなっ!」
「君が意地悪言うからだろ!」
「そんなことして! 聖華がお前に惚れたらどうするんだ!」
「あるわけないだろ! 聖華はこんなにユキの事が好きなのに……っていうか!」
僕は聞き逃さなかった、バタバタしてはいたけれど、聖華が僕に言った"会ってもくれない"というあの一言を……。
「ユキ! 僕は君が聖華を説得するよう話合いをした上で、聖華が納得しなかったんだと思ってたんだけど……?」
ユキがゴクリと唾を飲む音が聞こえた。
「聖華から"逃げ回ってた"そうじゃないか」
これはカマを掛けだ、しかしユキとは十年来の付き合いだ、意外と面倒くさがりなのを僕は知っているぞ。
「あ、いや……そのそれは、ちょっと時間が足りなかったというか」
「"逃げ回ってた"を否定しない……という事は、本当なんだ?」
「……あっ」
「聖華に謝って!」
「うー……」
「謝って!! じゃないと1ヶ月無視する!」
「わかった!」
ユキが両手を上げて降参した、聖華の方を見るとまだガタガタと震えていたが、見ているのは僕の方だった。
「今度は真里のプレッシャーに怖がってるぞ、な、真里も怖いだろ?」
なるほど、こういう怒りでもプレッシャーが出てくるもんなのか、絶対に穏やかに過ごそうと僕は心に固く誓った。
ユキが聖華の背中に手を当てるのを見て、若干のヤキモチが出てきた……自分で言っておきながら、ユキが他人に触れるのに嫉妬してしまう。
「悪かったな、聖華……俺はもう真里だけだって決めたんだ」
「……もういいです、でも避けないでいてくれますか?」
「わかった」
聖華がまた可愛い笑顔でニコッと笑った、ユキに無視されていたのが余程悲しかったんだろう……それは本当に嬉しそうな笑顔で、そんなにユキの事好きだったのにごめんね……と内心こっそりと謝った。声に出すとまた面倒そうだから言わないけど。
聖華が立ち上がったかと思うと、僕に向かって"ありがとう"と"ごめんね"を、しゅんとしながら伝えてきた。
聖華とはこれからいい関係を築いていけそうな気がする、聖華が味方になってくれるなら、管理課だってきっとすぐ立て直せるはずだ。
「ユキさんは諦めますけど……真里は、アタシを抱く気にはならない?」
デカいままの聖華を見上げながら、心からこいつ何言ってんだと思った。
「……ならないね」
「やだぁ! アタシ真里の事、本気で好きになっちゃいそうなのに!」
「……な? コイツこういう奴なんだよ」
いい関係、築いていけるかなぁ? 急に不安になってきたんだけど。なんかユキに謝らせたのが申し訳なくなってきた……。
「じゃあ、真里は連れ帰らせて貰うからな」
そういってユキは片手に僕の靴を持って、もう片方の腕に僕を乗せて言った、またこの恥ずかしい抱き方!
よく見るとユキは腕に強化をかけているようだ、今までも毎回僕を持ち上げるたび強化していたのかと思うと、少し可笑しくなってきた。これもユキなりの僕に惚れさせよう作戦なのかもしれない……もうただ、ただ可愛い。
「聖華……明日も管理課来るよね?」
「あったりまえでしょー! 一番長いアタシが行かなくて誰が行くのよ!」
"じゃあ明日……"と、ユキに連れられて転移する一瞬……不安なくらいに失意に落ちた顔の聖華が見えた気がした。
声をかけたいと思った時にはもう、僕はユキの部屋に帰ってきていた。
「ユキ……聖華、大丈夫かな?」
ユキの腕から降ろされながら問いかけると、かなり強めの力で抱きしめられた。
「もうアイツのことはいいだろ! どれだけ心配したと思ってるんだ!」
「僕が消されるかと思った?」
「……いや、真里の初めてが奪われるかと思った! しかも聖華にあんな風に優しくするなんて……!」
やっぱりそっちか! しかもヤキモチ妬いてる……!
そんなに聖華の背中をさすったのが気に食わなかったのだろうか? お詫びとばかりに僕を抱きしめるユキの背中をよしよしとなだめた。
僕も二大淫魔なんて聞いてたから、聖華には注意すべきだったと思うけど……二大淫魔のもう片割れは今、僕の目の前に居る。
ピリリリとインカムが鳴り、僕を抱きしめたままユキがそれに応答する。
「あぁ、真里は無事回収した、落ち着いたら連れて行く……え? 通信が切れてない?」
そう言いながらユキが僕のズボンのポケットからインカムを出す、そう言えば場所を知らせるために通信してから切ってなかった!
「……聞いてたか?」
『……聞こえづらくて何も分かりませんでした』
「ならいい」
ユキが少し不機嫌そうに自分のと僕のと通信を切った後、僕をお姫様抱っこで抱き上げる。
「ユキ……? 僕はもう落ち着いてるけど?」
「……俺が落ち着いてない、寝室に行く」
今っ!?
ーーーーー
「アハハハッ! ユキ完全に尻に敷かれてるじゃん! おっもしれぇ!」
「やっぱり強かったねー真里は!」
「……二人とも、今日聞いたことは全部忘れろ」
「なんで! こんなおもしれぇの! 上司イジりに使わない手はなくね!?」
「いいから忘れろ! 副長命令だ」
普段声を荒げる事のないカズヤの強い口調に、ルイと飛翔は押し黙った。
0
お気に入りに追加
102
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
訳ありな家庭教師と公爵の執着
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝名門ブライアン公爵家の美貌の当主ギルバートに雇われることになった一人の家庭教師(ガヴァネス)リディア。きっちりと衣装を着こなし、隙のない身形の家庭教師リディアは素顔を隠し、秘密にしたい過去をも隠す。おまけに美貌の公爵ギルバートには目もくれず、五歳になる公爵令嬢エヴリンの家庭教師としての態度を崩さない。過去に悲惨なめに遭った今の家庭教師リディアは、愛など求めない。そんなリディアに公爵ギルバートの方が興味を抱き……。
※設定などは独自の世界観でご都合主義。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日(2025.1.26)からHOTランキングに入れて頂き、ありがとうございます🙂 最高で26位(2025.2.4)。
※断罪回に残酷な描写がある為、苦手な方はご注意下さい。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる