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真里編:第4章 願望
興味と願望
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「おじゃまー! 真里迎えに来たよ!」
ルイが管理課に顔を出すと、顔面蒼白の伊澄が真っ白い紙を持って振り向いた。
「ルイ……」
「真里は?」
「聖華と口論になって、出て行ったアイツを追いかけて行ったらしい」
あまりにも狼狽している伊澄が面白すぎて、ルイは思わず吹き出しそうになったのを我慢した。
「……マジかーユキがブチギレるね」
「どどどどどうしよう!」
「ところでその紙何ー?」
ルイは真里を心配してはいなかった、軽く払っただけで巻き起こった暴風を目の当たりにしている、あんな莫大な魔力量がある上、魔力相殺が出来るのだから、聖華ごときに害される事があるはずが無いと。
それより何も書いてない白い紙を、大事そうに持っている方がよほど気になった。
「この書類を見ながら言い合いになったみたいなんだが……」
「何も書いてないけどー?」
「恐らく閲覧制限だ、なんでそんなものがウチの課にあったのか分からんが……」
「ふーん……まぁ、真里もあんな感じだけど一応直血悪魔なんだし、大丈夫でしょ」
それが既にただの紙きれだと分かると一気に興味が失せた、次は狼狽する伊澄とキレるユキに興味が切り替わる。
「……心配なのは真里の貞操だ」
「取り敢えずユキに連絡取るね」
ルイがインカムを起動させる。
「そうだ! それで真里に連絡すれば良いんじゃないか!?」
「それがさーアレ発信はいいんだけど、受信にトラブルが発生してる予備のヤツだから無理なんだよね……あ、ユキ? 真里の貞操の危機らしいよ」
「やーめーろぉぉぉおおお!」
ーーーーー
聖華はふぅ、と短く息を吐いて顔を上げた。目元と鼻は真っ赤になっていた。それでも僕の胸元にすがりついた手は離れず、聖華の距離はとても近い……今しがた大泣きした聖華を無下にもできず、僕はただ困惑した。
「後にも先にもあの時のエッチが一番気持ちよかったんだよね! 直血悪魔すごいなって、他の人も試してみたかったんだけど……ハルキさん誘ってもそういうの興味ないみたいだし、覇戸部さんはなんか嫌われてるみたいで、おっかなくて近寄れないし!」
聖華は泣いてしまったのが恥ずかしかったのか、誤魔化す様に僕にまくし立てた。
「あ、あの目つきの悪さで睨まれると怖いよね」
「目つき!? アンタあの握り潰されるみたいなプレッシャーを感じないの!?」
「握り!? それはよく分からないけど、視線は痛いよ!」
「……そうか、真里も直血悪魔だから」
僕が魔王様に感じるあのプレッシャーは、魔力量の差で変わったりするのか? そう仮定すると、僕が怖がられたり、あの人のプレッシャーを魔王様ほど強く感じないのに説明がつく、魔力量がステータスというも納得だ。
聖華が掴んでいた服を放したかと思うと、今度は肩を壁に押し付けられた。少し緑がかった薄い色の瞳が好奇心に満ちたようにギラついて、狙った獲物を目の前にした肉食獣のように舌なめずりしている。
「この家はね、俺が気に入った子を抱きたい時に使うんだよ……だからね、ユキさんはこの家の存在自体知らないよ? 助けは期待できないね」
「——っ!?」
聖華の笑顔に背筋が凍る、最初から"そういうつもり"で僕を招き入れたのか!
「あの人の味を知らないうちに、俺の体無しじゃいられないようにしてあげる! どっちの初めても貰ってあげるよ!」
「結構ですっ!」
上の服を捲り上げられて、手が胸の上を這ってくる。後ろに逃げようと後ずさろうとしたが、それは壁によって阻まれた。
「真里はどんな味がするんだろう……直血を抱くのは初めてだから楽しみ」
「絶対イヤだ!」
逃げ場がない、しかしこのまま好きなようにされる訳にはいかない! 殴るか、蹴るか!? 僕ができる事は……!
手に力を貯めて、早過ぎないように……フワッと! 払う!
「わっ……!」
強い風に部屋の小物が散乱して、聖華が後ろに2メートルほど吹っ飛んで転がった。
できた! 距離を取れた! すでに見られたかもしれないけど、念のためフードを被って自分の体制を起こす。
「あの人は特別なんだ……魔王様の最初の眷属で、魔力量だって同じ直血のハルキさんや覇戸部さんを遥かに凌ぐ。誰にでも優しいけど、誰のものにもならない、そうでなくてはいけないんだ……」
聖華がボソボソと喋りながらゆらっと立ち上がる。随分自分勝手な言い分だ、ユキに自分の理想を押し付けないでほしい。インカムに手を伸ばそうと考えたが、まだ何も決着がついていない、そう思うと躊躇われた。
「真里は知らないだろ! あの人には誰とも違う、特別な何かが……何かが宿ってるんだ! あの人こそ次代の魔王なんだよ! 誰か一人のものになっていい訳ない!」
「……宿ってる?」
ユキに何かが……? なんだろう、何か思い出せそうな気がする。
思考が自分の記憶に傾いた時、聖華が目の前に迫っていた。肩を抑えられて畳に押し倒される、見た目は全く変わっていないのに凄い力で全く押し返せない! 聖華の手から肩にかけて魔力を使用している形跡が見えた、腕の強化をしているのか!
「……っ! ユキに宿ってるって、何か見たの!?」
「こんな状況でもユキさんの事が気になる? 見たよ……大きな黒い……犬みたいな」
「犬……」
『私には犬の祟り神が憑いている』
梅の花弁が舞う夢の中、そう告げた幼い頃の雪景が僕の脳裏に蘇った。
僕は知っていたはずだった、その黒い犬の正体を。
ルイが管理課に顔を出すと、顔面蒼白の伊澄が真っ白い紙を持って振り向いた。
「ルイ……」
「真里は?」
「聖華と口論になって、出て行ったアイツを追いかけて行ったらしい」
あまりにも狼狽している伊澄が面白すぎて、ルイは思わず吹き出しそうになったのを我慢した。
「……マジかーユキがブチギレるね」
「どどどどどうしよう!」
「ところでその紙何ー?」
ルイは真里を心配してはいなかった、軽く払っただけで巻き起こった暴風を目の当たりにしている、あんな莫大な魔力量がある上、魔力相殺が出来るのだから、聖華ごときに害される事があるはずが無いと。
それより何も書いてない白い紙を、大事そうに持っている方がよほど気になった。
「この書類を見ながら言い合いになったみたいなんだが……」
「何も書いてないけどー?」
「恐らく閲覧制限だ、なんでそんなものがウチの課にあったのか分からんが……」
「ふーん……まぁ、真里もあんな感じだけど一応直血悪魔なんだし、大丈夫でしょ」
それが既にただの紙きれだと分かると一気に興味が失せた、次は狼狽する伊澄とキレるユキに興味が切り替わる。
「……心配なのは真里の貞操だ」
「取り敢えずユキに連絡取るね」
ルイがインカムを起動させる。
「そうだ! それで真里に連絡すれば良いんじゃないか!?」
「それがさーアレ発信はいいんだけど、受信にトラブルが発生してる予備のヤツだから無理なんだよね……あ、ユキ? 真里の貞操の危機らしいよ」
「やーめーろぉぉぉおおお!」
ーーーーー
聖華はふぅ、と短く息を吐いて顔を上げた。目元と鼻は真っ赤になっていた。それでも僕の胸元にすがりついた手は離れず、聖華の距離はとても近い……今しがた大泣きした聖華を無下にもできず、僕はただ困惑した。
「後にも先にもあの時のエッチが一番気持ちよかったんだよね! 直血悪魔すごいなって、他の人も試してみたかったんだけど……ハルキさん誘ってもそういうの興味ないみたいだし、覇戸部さんはなんか嫌われてるみたいで、おっかなくて近寄れないし!」
聖華は泣いてしまったのが恥ずかしかったのか、誤魔化す様に僕にまくし立てた。
「あ、あの目つきの悪さで睨まれると怖いよね」
「目つき!? アンタあの握り潰されるみたいなプレッシャーを感じないの!?」
「握り!? それはよく分からないけど、視線は痛いよ!」
「……そうか、真里も直血悪魔だから」
僕が魔王様に感じるあのプレッシャーは、魔力量の差で変わったりするのか? そう仮定すると、僕が怖がられたり、あの人のプレッシャーを魔王様ほど強く感じないのに説明がつく、魔力量がステータスというも納得だ。
聖華が掴んでいた服を放したかと思うと、今度は肩を壁に押し付けられた。少し緑がかった薄い色の瞳が好奇心に満ちたようにギラついて、狙った獲物を目の前にした肉食獣のように舌なめずりしている。
「この家はね、俺が気に入った子を抱きたい時に使うんだよ……だからね、ユキさんはこの家の存在自体知らないよ? 助けは期待できないね」
「——っ!?」
聖華の笑顔に背筋が凍る、最初から"そういうつもり"で僕を招き入れたのか!
「あの人の味を知らないうちに、俺の体無しじゃいられないようにしてあげる! どっちの初めても貰ってあげるよ!」
「結構ですっ!」
上の服を捲り上げられて、手が胸の上を這ってくる。後ろに逃げようと後ずさろうとしたが、それは壁によって阻まれた。
「真里はどんな味がするんだろう……直血を抱くのは初めてだから楽しみ」
「絶対イヤだ!」
逃げ場がない、しかしこのまま好きなようにされる訳にはいかない! 殴るか、蹴るか!? 僕ができる事は……!
手に力を貯めて、早過ぎないように……フワッと! 払う!
「わっ……!」
強い風に部屋の小物が散乱して、聖華が後ろに2メートルほど吹っ飛んで転がった。
できた! 距離を取れた! すでに見られたかもしれないけど、念のためフードを被って自分の体制を起こす。
「あの人は特別なんだ……魔王様の最初の眷属で、魔力量だって同じ直血のハルキさんや覇戸部さんを遥かに凌ぐ。誰にでも優しいけど、誰のものにもならない、そうでなくてはいけないんだ……」
聖華がボソボソと喋りながらゆらっと立ち上がる。随分自分勝手な言い分だ、ユキに自分の理想を押し付けないでほしい。インカムに手を伸ばそうと考えたが、まだ何も決着がついていない、そう思うと躊躇われた。
「真里は知らないだろ! あの人には誰とも違う、特別な何かが……何かが宿ってるんだ! あの人こそ次代の魔王なんだよ! 誰か一人のものになっていい訳ない!」
「……宿ってる?」
ユキに何かが……? なんだろう、何か思い出せそうな気がする。
思考が自分の記憶に傾いた時、聖華が目の前に迫っていた。肩を抑えられて畳に押し倒される、見た目は全く変わっていないのに凄い力で全く押し返せない! 聖華の手から肩にかけて魔力を使用している形跡が見えた、腕の強化をしているのか!
「……っ! ユキに宿ってるって、何か見たの!?」
「こんな状況でもユキさんの事が気になる? 見たよ……大きな黒い……犬みたいな」
「犬……」
『私には犬の祟り神が憑いている』
梅の花弁が舞う夢の中、そう告げた幼い頃の雪景が僕の脳裏に蘇った。
僕は知っていたはずだった、その黒い犬の正体を。
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