死が二人を分かたない世界

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真里編:第4章 願望

vs聖華

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 聖華せいかから差し出された書類には、確かに僕の顔写真と名前などが書かれていた、間違いなく自分の物だ。書類には朱墨調で、達筆過ぎて読めないような字が羅列してあった。皮肉じゃなく、マジで読めない類のやつだ、やたらと見たことない漢字が多いし、ひらがなはほぼ繋がっている……。

 唯一読めたのは命日・享年の欄だった、六月七日が朱で六月六日に書き直されている。
 記載ミスだったのだろうか? 魔界の書類も間違えたりするんだなぁと流そうかと思ったが、妙にそれが引っかかる気がした。

「ここ、なんで修正してあるんだろう?」
「どれどれ……?」
 聖華は唇に人差し指を当てて、んー?とぶりっ子している。

「真里が寿命一日分を使って契約を結んだって書いてあるよ、本当は今日死ぬ予定だったんだねぇ」
 ニコッとまた愛らしい笑顔を向けてくるが、言ってる内容が内容なだけに恐怖すら感じる笑顔だ。

 今日死ぬ予定だったと聖華に言われて気付いた、ユキが母さんを助けるために使ったのは、僕の寿命一日分という事に……たった一日分の寿命で人の命が助けられるのか?

「真里みたいな真面目そうな子が、寿命一日分で何を願ったのか……とても興味があるなぁ」

 自分の考察は聖華の一言に遮られた、浮かぶ笑顔はもう単純な愛想笑いでは無い、そこに込められた悪意に、背中にゾッと寒気が走る。

「もしかして、騙されたんじゃないのぉ? たった一日分の寿命だからって捨てるように願いを叶えてもらったら、まさか自分が死ぬなんて思わなかったんでしょぉ」

 クスクスと楽しそうに笑う聖華の顔は、まさに悪魔の顔だ。
 確かに僕は翌日死ぬなんて思ってなかった、だからこそ自分の寿命は正当な対価だと思っていた。だけど蓋を開けてみれば一日分、これじゃ全然"対価"になってないんじゃないか? 対価と言いつつ対等じゃ無い、全然足りてなかったんじゃないだろうか……。

「本当に……騙されてたよ、真相が知りたいんだけど、ここなんて書いてあるの?」
「本人に聞けばいいじゃない、これ……ユキさんの字だよ」

 聖華の口元だけ笑った顔が恐ろしい、目が全く笑っていない。
 僕らの雰囲気を察してか、取り巻きの6人がパラパラと集まり始める、囲まれたら呼べって言われてた、念のためポケットに入れたインカムの起動準備をする。

「知ってた? 噂になってるんだよ、ユキさんが慌ただしく走り回ってたとか、見たことない悪魔を大事そうに抱えて連れ帰ったとか……その人相が、真里にそっくりなんだよ」
 聖華は僕を見た時から察していたというわけだ。
 周りの取り巻きは聖華を加勢する気はなさそうだ、"修羅場だ"とか、"殴り合え"とか言って囃し立てる。

 ここで誰かを呼ぶのも考えたが、出来れば自分で解決できるところまで粘りたい。このまま聖華との間に誰かしらが入った場合、聖華は僕を認めないだろう……そうすればここの部署では役目を果たせないまま終了だ、ユキの庇護下を離れて自立するという目標には程遠い。

「そんな噂があるんだ? 恥ずかしいね」
 念の為戦闘準備としてフードを被る……といっても僕が出来るのは風を吹かせる方法と、魔力相殺くらいだけど。

「その服と手袋、魔王様とユキさんが二人して後ろ盾についてるって事だよ? 見せつけてんの?」
 服飾品はそんな意味を持つのか! ローカルネタだよ! 誰か先に説明しといてよ!!

「お、お揃いとか、恥ずかしいよねぇ」
 なんて返していいか分からず、単純に自分の感想を述べてしまったが、今のは失敗したかも!
 案の定聖華はガタッと立ち上がり、今度は口元も笑っていない。

「真里はユキさんのなんなのさ!」

 いいぞいいぞ、やれやれと周りがうるさい! 僕がユキの何なのか!? そんなの僕が知りたいよ! だって一度も明言していないんだから、僕たちの関係についてなんて!
 強いて分かっていることはひとつだけ、僕はユキの……。

「僕はユキの……眷属けんぞくらしいけど」

 聖華の顔がみるみる赤くなっていく、周りはワーワー騒ぎ出す。
「正・妻・宣・言!」
「面白くなってきたぞ!」
「ちょっと待って! 正妻ってどういうこと!?」

 予想外の単語が飛び出してきてただただ驚いた、またスラングか! ローカルネタか! だから分からないっての!
 聖華がデスクをバンと叩いた、うるさかった取り巻き連中はシンと押し黙る。
「眷属の意味も価値も分からないまま、その地位に居るのか!」
「……分かるわけないだろ、見たとおり僕は昨日死んだばかりだ、聖華にとっての眷属の意味と価値を教えてよ」

 さすがにイラッとして、デスクに置いた自分の書類をトントンと指で突いた。
 取り巻きたちは静まり返ったままだ、聖華は奥歯を噛みしめるように悔しそうにしているが、明らかにトーンダウンした……。

 聖華がふうっと短く息を吐いてから
「仕方ないから教えてあげる!」
と椅子に片足を上げて、両手を腰に当てて偉そうなポーズを取った、ちょっと声が震えてるけどどうした?

 周りの取り巻きたちは少しずつはけていった、口々に"おっかねぇ"だの、"直血からかうもんじゃねぇや"などと言っている……え? 何、僕の事なの!? ちょっと怒っただけじゃん! どんだけメンタル弱いんだよ悪魔達!
 なんだか毒気を抜かれてしまった、目の前の聖華のポーズもなんだか可愛いものに見えてくる。

「真里のプレッシャーなんか怖くないんだからね!」
「ごめん、もう怒ってないから教えて!」

 なるほど、僕が魔王様に感じるアレか。
 僕は本当に眷属の価値とやらがわかってなかったらしい。
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