死が二人を分かたない世界

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真里編:第3章 新天地

僕らの幸せ

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 なんだか凄い体験をしてしまった……。
 一応『最後までしない』という約束は守ってくれたけど、だからってあれは『触る』の範疇じゃないと思う!

 恥ずかしさでユキの顔が見れない、あんな痴態もう二度と晒したくない! ただ……すごく気持ちよかったのは、否定できないのだけど……。

 ユキが向かい合わせに僕をぎゅっと抱きしめて、胸に耳を当てている。犬耳だからフワフワして、柔らかくてくすぐったい。

 耳が生えてる頭頂部が可愛くて、僕はユキの頭を撫でた。

「これが幸せってやつかぁ」

 ポツリとユキからこぼれたその一言に、涙が溢れてきた。

 僕はずっと君を幸せにしてあげたかった、夢でいつも泣いていた優しい君を、僕が助け出してあげたかった。
 僕は今、あの子を……彼を幸せな気持ちに出来たのだ、こんなに嬉しいことはない。

「僕も幸せだよ、ユキ」

 ユキの頭に頬を寄せた、多分ユキの頭に涙が流れてしまったけど、どうしても触れたかった、気持ちが溢れて胸がいっぱいだ。

 僕達は幸せに飢えていた、だからお互いを夢で繋いだんだ……。
 僕は義両親に出会って幸せを知った、ユキはどうだったんだろうか……慕った人達を目の前で殺されて、絶望して、そのまま千年過ごしてきたのか。
 もっと、もっと早くユキのところに来てあげたかった、早く君を助けてあげたかった……千年も待たせてしまってごめんね。

 ……あれ? 途切れ途切れだけど夢の記憶がある、いつも内容は思い出せなくなっていたのに……なんで? 死んだから?

「これ以上抱き合ってると、魔力供給が多過ぎて酔いそうだ」
「僕はいつまででもこうしてられるけどね」

 ユキは多分幸せ慣れしてないんだな、幸せが多過ぎて悪いことなんてあるわけない、僕が毎日溢れるほど幸せにしてあげたい、そのうちきっと慣れるだろう。

「このままでもいいが、気持ち悪くないか? これ」
「ひぃっ!」
 そういってユキが僕のお尻をぬるっと撫でた、ユキが愛しくて色々ぶっ飛んでたけど、お尻がジンジンするし、ヌルヌルして気持ち悪い!

「一緒に風呂に入るか?」
「ひとりで入る!」

 魔界では基本汚れないが、故意的に汚されると汚れるらしい……そりゃそうか、これはお風呂必須だ。

 部屋のお風呂はちゃんと浴槽もあって広かった、好きな水温をイメージして力を注ぎ込むと、シャワーが出る仕組みだ。
 悪魔の力の使い方は面白い、イメージして、力を溜めて、放出する、必要なのは分析、理解、想像、形成だ。

 物を理解していれば形になる、イメージがあやふやなものは出来ない、水はありふれたものだからもちろん容易に形成出来た。

 シャワーを使いながら曇った鏡に違和感を感じた、なんか……頭の形が変!
 手のひらで鏡を撫でて曇りを取ると、僕の髪に馴染むように犬耳が頭に生えている! でも触ろうとしても触れない、気体みたいにスカッとすり抜ける。
「何これーっ!!!」

 思わず叫んだけど、そういえばユキが耳がどうとか、お揃いがどうとか言ってたような……。

「どうした?」
 と、ユキがノックも無しに無遠慮にドアを開けて来た。
「わーっ! ノックくらいしてよ!」
「いいだろ別に、さっき全部見たし、これからも見っ、わっ! 水を掛けるな!」
「しーめーて!」
「はいはい、かわいいなぁ」

 何もかわいい事はしてない!

「この耳みたいなのなんなの?」
「おそらくだが、力を使った時だけ発現する現象みたいだな、俺の特性が真里に混じったんだろうなぁ……」

 ユキは最後に"お揃いだ"と嬉しそうに言ったけど、思案してる時の声色はそうでもなかった……やっぱりユキはあの耳が好きではなさそうだ、可愛いんだけどな。

「しかし、力を使うのが目に見えて分かるというのは良くないな、相手に隠しつつの使用ができない……服装でカバーするか」

 ユキは独り言のように呟きながら部屋へ戻って行った、服装……そういえばずっと部屋着のままだった事に気付いた、あの格好でこれからずっと過ごすのは嫌だ。
 そしてお風呂を出ても服がない事に気付いた、全部寝室だ……仕方がないので腰にタオルを巻いて出た。

 寝室に戻ると、ユキが見たことない新しい服を持って待っていた。
「タオルで隠さなくてもいいのに」
 至極楽しそうに笑う、きっと僕は何をやっても喜ばれるんだろうな……と思った、ユキが喜んでくれるなら本望だけど。

「あ、下着は綺麗にしといたぞ! 真里のえっちなお……」
「わーーーーッ!! やめて!」
 
 パンツに鼻をつけてスンスンしないで! 変態! 下着を綺麗にされるってなかなか恥ずかしい。
 ユキの手から下着をひったくって渡された服も着た、サイズはピッタリだ……これも僕の為にと準備してくれていたものの1つなんだろう。

「真里がシャワーしてる間に上着のフードに耳をつけたぞ、俺とお揃いみたいで良いだろ?」

 そう言ってユキが嬉しそうに出してきた、黒い薄手の上着には耳付きのフードが付いていた。

「耳付きフード、しかもペアルック風……恥ずかしすぎるよ!」
「これを被れば耳の有無は分からない、力の使用を隠したい時だけ被ればいいさ」
「被る被らないの問題じゃないよ」
「真里は俺のものだって誰が見てもわかる」
 フードを被せるようにそれを僕に着せてから、ユキがニヤッとしながら顔を覗き込んできた。
 恥ずかしいことを恥ずかしげもなく平気で言う、さっき僕も言ったけど……あれは勢いで出ちゃっただけだし!

「すごく可愛い」
「そういうことサラッと言うよね」
 恥ずかしくて手の甲で口元を隠した、耳が熱い、顔が火照る、悔しい、こっちだってやり返したい! しかしどうすればユキの照れ顔が見れるのか……。

「真里が可愛いから、思わず口から出てしまうんだろうな」
「僕もユキの事は……かっ、可愛いと思うけどね!」
「そうか?」
 ユキを照れさせようと口に出して言ってみたけど、全然照れる気配もなく……僕はまた抱えてベッドに倒されてしまった。

「こんな事しても可愛いか?」
 僕を見下ろす少し意地悪な顔と、サラッと落ちてきた黒髪に一瞬見惚れた。
「綺麗だ」
 率直な感想を言うと、ユキの白い頬がカァッと赤くなった! やった報復成功だ!
「本当だ、思わず出ちゃうもんだね」
 頬を染めたユキを腕を伸ばして抱き寄せた、やっぱりユキは可愛いと思うんだけど、本人自覚が無さそうだ。
「まいったな」
 ユキが両手で顔を塞ぎながら横に寝転がった、ふふっと二人で目を合わせて笑い合う、また胸がグッと温かくなる。

「今日は疲れたんじゃないか?」
「実はさっきから……眠いんだよね」
「魔力が満ちていれば睡眠の必要は無いが、人間の時の名残で疲れを感じると眠くなったりする」
「ユキは?」
「俺は悪魔になって長いからな、一晩中でも真里の寝顔を楽しむさ」
 倒れるまで力を使ってくれたのに、ユキはすごいな……ダメだ、もう意識が落ちる。

「起きたら魔王様のところまで挨拶に行こう」

そう言ったユキの言葉を、僕は頭の中で理解できないまま意識を手放した。
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