死が二人を分かたない世界

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真里編:第3章 新天地

交流

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 しくじったかな……明らかに魔王様の表情がくもった。
「真里、魔王様に会っていたのか?」
「以前って、いつのことだい?」
「僕の部屋にいらっしゃった時です」
「あぁ……あの時ね」

 魔王様は口元だけ少し可笑しそうに笑った。
「これのことかな?」
 魔王様が外套を翻すと、身長が縮んであの時見た少し幼いような様相に変わった。

「こっちの方が楽なんだけどね、威厳を出さないとうるさい部下がいるから、少し背伸びをしていたんだよ?」
 やれやれといった様子で、肩をすくめる魔王様……声も幼くなっている、それ背伸びの範囲じゃありませんよ。

「では、あの時僕に何を……先程も、僕は貴方に誘い出された様に感じました」
 見た目が幼くなったので、つい言うつもりもないことまで言ってしまった、それを聞いたユキが明らかに眉をしかめた。

「魔王様、真里に何を……?」
「私の配下に値するか試験だよ、ユキ? 私が出した条件を忘れてはいないね?」
 プレッシャーが飛んできた、人を恐怖させ萎縮させる圧が! ユキが耳を伏せながら僕の前に立ちはだかった、が……気づけば魔王様が目の前に来ていて、ユキを押し退けて僕の胸に指を突いた。

「私は君の魂が大っ嫌いだ!」

 寒気が全身に走った、魔王様が一瞬目を見開いてはじめて表情を見せた、しかしすぐに温和な顔つきに戻り、僕の頬を両手で覆った。

「でも君の事は好きだよ真里、また私を楽しませてね」

 そうして僕の顎を撫でる様に去っていった……緊張の糸が切れて僕は腰を抜かし、それを震えるユキが受け止めてお互いすがりつく様に抱き合った。

「真里が……消されるかと思った……すまない怖い思いをさせた」
「大丈夫……心配させてごめん」
 ユキはまだ耳を伏せて震えていた、一番怖い思いをしたのはユキかもしれない……そう思って僕はユキの頭を抱いて撫でた。耳が可愛いなーと、思わず犬猫にやるように耳の裏を撫で回してしまった、ユキはまだ耳が伏せったままだ、まだ怖い?
「真里……もういいから」
「あっ……ごめん」
 恥ずかしくて耳が下がっていたみたいだ、顔が真っ赤だ! 可愛い! あんな事があってすぐなのに、ユキを撫で回して喜んでるなんて、自分の神経の図太さにビックリする。
 もしかしたらユキは僕の精神安定剤なのかもしれない。

「帰ってゆっくり話をしよう」
 ユキが立ち上がって僕の手を引っ張り上げてくれた、こめかみから髪を優しく撫でられて、くすぐったくて気恥ずかしくなる。

「ユキー! アイツら見つかったー?」

 少し遠くからユキを呼ぶ声が聞こえた、アイツら? 複数形って事は僕の事ではないのだろう。

「お前らが取り逃がしたせいで真里が酷い目に遭っただろーが!」
 えっ! 僕が!? って事はさっきの2人組の事か。

 ユキの後ろから声がしたので顔を出すように覗き込むと、僕らの居る道の直線上に、3人の悪魔がこっちに向かって来ていた。
 声を掛けて来たのは真ん中にいる金髪の背が小さいスカジャンを着た人の様だ、見た目の年齢は僕とそう変わらないくらいだが、どう見てもヤンキーだ、ニコニコ笑顔のヤンキーだ。
 その人の右側に黒髪でそう長くない髪を後ろに束ねてる和服調の人と、左側には目立つ鮮やかな緑髪のカジュアルな格好をした背の高い人が……。

「……こんにちは」
 挨拶は大切だよね! ちょっと緊張するけど! 特に髪の色がおかしい二人に。

「おー!? キミがスカウトされて来た子なんだね、よろしくー!」
 金髪の子が話しかけてくれた、っていうかずっと笑顔が顔に張り付いてる、ちょっと感情が読めないところは魔王様に似ているかもしれない。

「スカウトってまだ子供じゃん! お前相変わらずえげつねぇなぁ」
 そう話しかけるのは緑の背の高い人だ、金髪の人と違って表情豊かに喋るので少し警戒心が解ける。

「ルイが負傷したって聞いたが、元気そうだな」
「ここを切った」
 ユキの問いに金髪のルイさん? の腕を見せながら、代わりに答えた黒髪の人も表情豊かではない、物静かそうな感じだった。
「もう塞がってんじゃねーか! 過保護やめろ!」
 ユキが黒髪の人のおデコをグーでコツンとした、コツンされたおデコをさすっている、少し天然な人なのかもしれない。

「真里紹介する、俺の部隊の仲間だ。右からこの黒いのが副長のカズヤ、基本無害だ、魔界にはもう百五六十年居る」
「よろしく」
 手を差し出されたので挨拶をしながら握り返した、百五六十年……長い!
 真ん中から前髪を両サイドに流して少し隠れているが、眉の上に細い傷跡がチラッと見えた。

「金髪のちっこいのがルイだ、キレやすいからあまり怒らせるな」
「ルイはこう見えても中身40前のオッサンだぜ」
「飛翔はいい度胸だな、足腰立たねぇよーにしてやろーか」
 笑顔を張り付かせたまますごい発言だ、ジョークなんだろうか? 張り付いた笑顔の裏に見える愛嬌が、物腰柔らかにプレッシャーをかけてくる魔王様とは大違いだった。僕としてはルイさんの方が接しやすいと思う、絶対に。

「この無駄にデカイ緑のヤツは飛翔だ、アホで一番下っ端でうるさい、魔界に来てまだ2年くらいの新米だ」
「なっ! なんか俺の紹介だけ酷くね!? なぁなぁ! ユキが連れて来たって事はウチに配属なんだよな! やっと俺に後輩ができるぜ!」
「真里です、悪魔になりたてほやほやですが、よろしくお願いします」
「真里がウチに来るかは魔王様の采配次第だな、俺に決定権はない、お願いする事くらいは出来るが……」
「ウチに来いよ! 後輩としてこき使ってやるぜ!」
 ビシッと親指を立てた飛翔さんに、とてもいい笑顔でこき使う発言をされてしまった。

「……ちょうどいいな、真里こっちに来て」
 ユキが僕の肩を抱いて3人と少し距離を取る、そして僕の額に指を当てて、母さんを"視せて"くれた時の様にイメージが送られて来た。

「これが力の使い方だ、真里ならすぐできるだろう、出来るだけ軽くアイツらに向けてフワッと風を切るんだ、早く切らないように気をつけて」
 僕は送られたイメージ通り、手首に力を集約させるようにイメージした、するとほんのり手首が温かくなってきて……。

「今だ」
 合図と同時にフワッと手を横に薙いだ、すると暴風が発生し3人めがけて襲いかかった。
 カズヤさんはルイさんを庇うように腕の中に入れ……そして飛翔さんは叫びながら後方へと吹っ飛んでいた。

「えっ…!?」

 一体何が起こったの!?
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