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真里編:第3章 新天地
誓い
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ユキが来てくれた……! もう会えないかと思った……安堵と嬉しさで涙が出て来た。
僕が上体を起こしているうちに、ユキが左手に刺さった棒を引き抜く。左手のそこにポッカリと穴が開いていて、そこから力が抜けていくような感覚がある。
「魂に傷がついた、右手で押さえて塞いで」
そう言ってユキは、僕の左手の上に右手をかぶせて上から押さえた、ユキの手が温かい……むしろ熱いくらいだ。
「ごめんなさい勝手に……んんっ」
髪を引っ張られて上を向いたところで、何度も噛みつくようなキスをされた、引っ張られた髪が鈍く痛い。
「あ……ユキっ」
「魔力補給だ」
怒ってる……そりゃそうだよね。
僕はされるがまま貪られる、舌を絡め取られて、吸われて、噛まれて……気持ち良さとは裏腹に、次第に意識と視界がクリアになっていく。
そして気付いた、さっきの二人組が塀に突き刺さっている! 光るボルト状の物で胸を貫かれた状態でこっち見てる!
「んん——っ!?」
なんなのあの状況! アレで死なないの!? なんで黙ってこっち見てるのーっ!?
「よし、元気でたな」
「元気じゃないよ!」
見られた! さっきあの二人にされた事なんて全部吹っ飛ぶくらい恥ずかしい! ひたすら恥ずかしい! どこかに消えてしまいたい!
「なんだぁ総長様のペットかぁ! こんなところに霊魂いるからおかしいと思ったんすよーハハハ!」
「輪廻門まで連れて行こうと思ってたんですよー?」
今ペット扱いされた!
「言いたいことはそれだけか?」
ユキがゆらりと立ち上がった、負のオーラが可視化されるほど黒く禍々しく立ち昇ってる、誰がどう見てもキレてる、なにより目つきがやばい!
「望み通り連れて行ってやろうじゃねぇか」
「「ひぃっ!」」
ユキが両手を前で組み、黒いオーラが手元に集まっていく、地面が揺れる、塀に刺さった二人の周りの壁が四角く
盛り上がり、赤い鬼の顔が大量に縁取られた門が現れた。
「うわあああっ!」
「やばい消されるっ!」
「来世で赤子からやり直せ、輪廻もっ…ぐっ!」
唖然としていたら、突然ユキが首を押さえながら苦しみ始めた、ユキの着けている首輪が縮まって首に食い込んでいる。
「ユキっ!?」
「こんなところでそんな大技使っちゃダメでしょ」
上から黒い塊が降ってきた、長い外套をはためかせながら軽やかに着地したそれは、短い漆黒の髪、尖った耳とその根元から生える角、顔立ちは中性的だが……身長が伸びてる!? 声も低い……男だ! さっきの人とは別人!?
突然現れたその悪魔が指先を少し動かすと、壁の二人がボトリと落ち、二人はそのまま平伏した。
「……申し訳ありません」
ユキが謝った……間違いない、この悪魔……魔王なんだ!
「頭に血が上りすぎだよ、この二人は私直轄の懲罰房へ連れて行くからね」
「ヒッ…!」
二人の肩が平伏したまま揺れた。
「覇戸部、連れて行きなさい」
「……はい」
もう一人上から降ってきた、薄い髪色の大男、あの時僕の部屋にいたもう一人だ。
魔王といい一体どこから? 降ってきた方を見上げると、他の建物より高い蔵がすぐそばにあった。もしかしてあそこから?
覇戸部と呼ばれた男は二人を軽々と持ち上げて、こっちを向いた……いや、睨みつけられた! 鋭い三白眼で。
魔王から"行きなさい"と促され、消えるような速さで去って行った。
なんなの……?
「魔王様、真里を俺の眷属にします。御許可を」
「その権限はそもそも彼の為に与えたものだ、私の許可は必要ない」
「感謝します」
ユキが魔王に深々と一礼して僕を見た、目が合うとユキの瞳が揺れた、つられて僕の視界も滲む。
「心配した……! 部屋にいないから探したぞ! よかった無事で」
「——っごめんなさい!」
両手で抱きしめられたので、どうしても受け止めたくて、穴を押さえていた手を離してユキにしがみついた。
やっぱりそこからシュウシュウと力が抜けて行くようで、僕はそのまま脱力してしまった。
「その穴は魂のままだと塞がらない、今から真里を俺の眷属にする」
ユキが指で右手の手のひらに傷をつけた、そこからポタポタと血が滴り落ちている、魂は血が出ないのに悪魔は血が出るのかと驚いた。
「眷属は魂への誓いだ、死が二人を分かたない世界で永遠に、決して離れないと誓おう」
「まるでプロポーズだね」
「真里の答えは?」
「僕も誓うよ、永遠に離れない、絶対に」
ユキの顔が近づいたので目を瞑ると、そっと唇が触れ合った。穴の空いた左手をギュッと握られると、手から、触れ合った唇から温かさが流れ込んできた。
人前でキスするのって恥ずかしいな、それになんだかこれって結婚式のようだ。
胸がドキドキする……あれ? 本当にドキドキしてる! 自分の心臓の鼓動のようなものを感じられた。
思わず自分の胸に手を当てると、ユキが僕の耳を"かわいい"と言いながら舐めた。
「いきなり舐めっ……えぇっ!?」
びっくりして耳を触ると僕の耳は尖っていた、ユキの犬耳とは違う、僕を痛めつけたあの二人や、覇戸部と呼ばれたあの男のように。
「君はここで第二の生を得た、おめでとう我が子よ」
「魔王様からすると孫ですけどね」
口角だけ少し上げたほぼ無表情で、パチパチパチと手を叩く魔王と、それに軽口を叩くユキ、二人は気楽な間柄のようだ。
「直血の子は特別だからね私から贈り物をしよう、君の"弱点"はその左手だ、私の手袋をあげるよ」
そう言って魔王様は手袋を外して差し出してきた、僕は深く一礼して、それを両手で受け取った。
「この手袋は並の子達の力では絶対に破れない、人前では決して外さず身に付けなさい」
「ありがとう……ございます」
優しく接してもらっても近付けばヒシヒシと伝わる、この底知れぬ恐怖の圧。このプレッシャーはやっぱり、僕の部屋に来た悪魔と同じものに感じる……見た目が変わっているけれど、恐らくあれは魔王様だった。
「魔王様、以前お会いした時とお姿が変わっているように見えるのですが……」
魔王様の温和な表情に見せていた口角が下がった、僕は思わず生唾を飲んだ。
聞いちゃまずかった……?
僕が上体を起こしているうちに、ユキが左手に刺さった棒を引き抜く。左手のそこにポッカリと穴が開いていて、そこから力が抜けていくような感覚がある。
「魂に傷がついた、右手で押さえて塞いで」
そう言ってユキは、僕の左手の上に右手をかぶせて上から押さえた、ユキの手が温かい……むしろ熱いくらいだ。
「ごめんなさい勝手に……んんっ」
髪を引っ張られて上を向いたところで、何度も噛みつくようなキスをされた、引っ張られた髪が鈍く痛い。
「あ……ユキっ」
「魔力補給だ」
怒ってる……そりゃそうだよね。
僕はされるがまま貪られる、舌を絡め取られて、吸われて、噛まれて……気持ち良さとは裏腹に、次第に意識と視界がクリアになっていく。
そして気付いた、さっきの二人組が塀に突き刺さっている! 光るボルト状の物で胸を貫かれた状態でこっち見てる!
「んん——っ!?」
なんなのあの状況! アレで死なないの!? なんで黙ってこっち見てるのーっ!?
「よし、元気でたな」
「元気じゃないよ!」
見られた! さっきあの二人にされた事なんて全部吹っ飛ぶくらい恥ずかしい! ひたすら恥ずかしい! どこかに消えてしまいたい!
「なんだぁ総長様のペットかぁ! こんなところに霊魂いるからおかしいと思ったんすよーハハハ!」
「輪廻門まで連れて行こうと思ってたんですよー?」
今ペット扱いされた!
「言いたいことはそれだけか?」
ユキがゆらりと立ち上がった、負のオーラが可視化されるほど黒く禍々しく立ち昇ってる、誰がどう見てもキレてる、なにより目つきがやばい!
「望み通り連れて行ってやろうじゃねぇか」
「「ひぃっ!」」
ユキが両手を前で組み、黒いオーラが手元に集まっていく、地面が揺れる、塀に刺さった二人の周りの壁が四角く
盛り上がり、赤い鬼の顔が大量に縁取られた門が現れた。
「うわあああっ!」
「やばい消されるっ!」
「来世で赤子からやり直せ、輪廻もっ…ぐっ!」
唖然としていたら、突然ユキが首を押さえながら苦しみ始めた、ユキの着けている首輪が縮まって首に食い込んでいる。
「ユキっ!?」
「こんなところでそんな大技使っちゃダメでしょ」
上から黒い塊が降ってきた、長い外套をはためかせながら軽やかに着地したそれは、短い漆黒の髪、尖った耳とその根元から生える角、顔立ちは中性的だが……身長が伸びてる!? 声も低い……男だ! さっきの人とは別人!?
突然現れたその悪魔が指先を少し動かすと、壁の二人がボトリと落ち、二人はそのまま平伏した。
「……申し訳ありません」
ユキが謝った……間違いない、この悪魔……魔王なんだ!
「頭に血が上りすぎだよ、この二人は私直轄の懲罰房へ連れて行くからね」
「ヒッ…!」
二人の肩が平伏したまま揺れた。
「覇戸部、連れて行きなさい」
「……はい」
もう一人上から降ってきた、薄い髪色の大男、あの時僕の部屋にいたもう一人だ。
魔王といい一体どこから? 降ってきた方を見上げると、他の建物より高い蔵がすぐそばにあった。もしかしてあそこから?
覇戸部と呼ばれた男は二人を軽々と持ち上げて、こっちを向いた……いや、睨みつけられた! 鋭い三白眼で。
魔王から"行きなさい"と促され、消えるような速さで去って行った。
なんなの……?
「魔王様、真里を俺の眷属にします。御許可を」
「その権限はそもそも彼の為に与えたものだ、私の許可は必要ない」
「感謝します」
ユキが魔王に深々と一礼して僕を見た、目が合うとユキの瞳が揺れた、つられて僕の視界も滲む。
「心配した……! 部屋にいないから探したぞ! よかった無事で」
「——っごめんなさい!」
両手で抱きしめられたので、どうしても受け止めたくて、穴を押さえていた手を離してユキにしがみついた。
やっぱりそこからシュウシュウと力が抜けて行くようで、僕はそのまま脱力してしまった。
「その穴は魂のままだと塞がらない、今から真里を俺の眷属にする」
ユキが指で右手の手のひらに傷をつけた、そこからポタポタと血が滴り落ちている、魂は血が出ないのに悪魔は血が出るのかと驚いた。
「眷属は魂への誓いだ、死が二人を分かたない世界で永遠に、決して離れないと誓おう」
「まるでプロポーズだね」
「真里の答えは?」
「僕も誓うよ、永遠に離れない、絶対に」
ユキの顔が近づいたので目を瞑ると、そっと唇が触れ合った。穴の空いた左手をギュッと握られると、手から、触れ合った唇から温かさが流れ込んできた。
人前でキスするのって恥ずかしいな、それになんだかこれって結婚式のようだ。
胸がドキドキする……あれ? 本当にドキドキしてる! 自分の心臓の鼓動のようなものを感じられた。
思わず自分の胸に手を当てると、ユキが僕の耳を"かわいい"と言いながら舐めた。
「いきなり舐めっ……えぇっ!?」
びっくりして耳を触ると僕の耳は尖っていた、ユキの犬耳とは違う、僕を痛めつけたあの二人や、覇戸部と呼ばれたあの男のように。
「君はここで第二の生を得た、おめでとう我が子よ」
「魔王様からすると孫ですけどね」
口角だけ少し上げたほぼ無表情で、パチパチパチと手を叩く魔王と、それに軽口を叩くユキ、二人は気楽な間柄のようだ。
「直血の子は特別だからね私から贈り物をしよう、君の"弱点"はその左手だ、私の手袋をあげるよ」
そう言って魔王様は手袋を外して差し出してきた、僕は深く一礼して、それを両手で受け取った。
「この手袋は並の子達の力では絶対に破れない、人前では決して外さず身に付けなさい」
「ありがとう……ございます」
優しく接してもらっても近付けばヒシヒシと伝わる、この底知れぬ恐怖の圧。このプレッシャーはやっぱり、僕の部屋に来た悪魔と同じものに感じる……見た目が変わっているけれど、恐らくあれは魔王様だった。
「魔王様、以前お会いした時とお姿が変わっているように見えるのですが……」
魔王様の温和な表情に見せていた口角が下がった、僕は思わず生唾を飲んだ。
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