死が二人を分かたない世界

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真里編:第3章 新天地

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 これは非常にまずいというのは分かってる、だけど今更引き返せない、引き返す道も分からなくなった。

 今僕は、窓から見えたあの悪魔を尾行している。なぜあの時部屋にいたのか、何をされたのか……僕には全く記憶がなかった、聞かなければならないと思って追ってきたが、今思えば無謀だった。

 自分の足元を見れば、靴下で比較的フラットな石畳の道に立っている。しかし『汚れないから風呂は要らない』と言われた通り、靴下は汚れていない。
 周りの建物を見れば奥に行くに連れてだんだん古い様式になっている、今僕がいる辺りは一昔前や田舎でよく見かけた瓦屋根の平屋だ。道に面した区画は塀になっていて、上には瓦がついていたり、木や竹で作られたような柵がついていたり……いかにも古そうな建物も一目見てわかるほど新築同様だ、ここは汚れない世界なんだ。

  周りの建物を見回しながら、見失わないように追いかけたが、何度も道を折れて既に幅が1.5mくらいの細い道になってしまっている。やっぱりこんな所まで来るべきではなかった……完全に平和ボケしてた、ここは魔界なんだから……実感がなさすぎたんだ。後悔しているけれど、ここまで追ってきたからにはどうしても聞き出したい。あの時の出来事が引っかかって仕方ないんだ、あの時の夢は忘れちゃいけない事だった気がする。

 今は一緒に居たもう一人は居ないのだろうか、一対一だからってどうにかなるとは思ってないけど……。
 追っている悪魔は上から下まで真っ黒なのはユキと同じだけど……何故だろう全然違う、ユキには親しみを感じたけど、一見無害そうなこの人から底知れない恐怖の様なものを感じる。

 ふと黒い悪魔が立ち止まって振り返った、まずい! どこかに隠れなければと焦った時……フッと消えた、目の前から。

 逃げられた! 最後の一瞬笑っているように見えた、もしかしてずっと前から気付かれてた!? じゃあなんでこんな所まで気付かないフリなんか……。

「あれぇ? 何こいつ 人間の魂じゃん」

 突然声を掛けられて振り向くと、二人組の男の悪魔がこっちを見ていた。

「もしかして脱走霊魂なんじゃね?」
「じゃーこいつ捕まえりゃ俺たちお手柄だな」

 あー……これヤバイやつだ、もしかしたらさっきの黒い悪魔に誘導されたかもしれない。
 あまりにも魔界に来たという実感が湧いてなくて、のこのこ外に出てしまったけど、どう考えても出ていいわけなかった。

 悪魔といえど元人間、耳は尖っているけど日本人っぽい顔立ちだ、言葉も通じるし話せばわかるのではないだろうか……。ユキの名前を出せば、連れて行ってもらえるかもしれない、それなら安全に戻れる!

「あのすみませ……」
「なんてな!」

 僕は大きく後ろに吹っ飛んだ、お腹に鈍痛、蹴り飛ばされたらしい、飛んだ割に痛くないけどびっくりした。

「おぉ! 軽っ! 俺、霊魂ってはじめて蹴ったわ」
「飛んだなー」
「おもしれぇ! 腹いせにサンドバッグにしよーぜ!」

 本当にヤバイ、これはピンチだ間違いなく、話が通じなさそうな相手に見つかってしまったらしい。
 鈍く痛むお腹を押さえて起き上がると、胸ぐらを掴まれて持ち上げられた、軽々とだ。

「マジで軽いな」
「おろしてください!」
「脱走霊魂のクセにナマイキだなぁ、よくこんな所まで見つからずに逃げて来れたな」
「俺たちも逃げてる最中だけどな! ギャハハハハ!」

 どうしようチンピラに絡まれた時の対処法なんて知らないよ! お金!? お金なんて持ってないよ!?

 突然自分の体が浮いた、軽く上に投げられていた、僕を投げた男が拳を構える、殴られる!
 咄嗟に顔を庇って腕でガードしたが、受け身は取れず飛ばされて転がった。

「おお! 反応いいな!」
 
 もう一人がすぐに追って来て、まるでサッカーボールのように僕を蹴る、体を守るために縮こまって本当にボールの気分だし、ボールの様に飛んでいくし、ふざけんな!

「飛んでいくから蹴りごたえがねぇな! 固定するか」

 起き上がろうと手をついたところで、左手に1メートル程の長さの光る棒が刺さった、痛みは強くない、血も出ない、だけど僕のトラウマを抉るには十分だった……体が固まって動けない。フラッシュバックする、あの時の暴力が、あの時傷つけられた心が。

「あっ……」
 反射的に体を縮ませて片手で頭を守った、幼い頃培われた習性が嫌でも表に出てくる。
 そこに容赦なく蹴りが入り続ける、体が浮くが左手が地面に固定されて飛ばない分さっきより痛い。

 「ごめんなさい……ごめんなさい」
 心臓が無いはずの胸が萎縮するように痛い。

「こいつ謝ってるぜ! いじめられっこか?」
「現世でもあの世でもサンドバッグとはご苦労さんだな」

 何か言われてる気がする、でも意識が朦朧としてきてよく聞こえない、前にもこんな事あった……そうだあの寒い日だ、もう死んでるのにまた死ぬのか……最後にユキに会いたかったなぁ。

「急に弱ってきたな、もしかして"トラウマ"だったか?」
「"トラウマ"が弱点なのは霊魂も一緒だっ……がっ」

 ドンドンっと鈍い音が二回した後、絶え間無く襲ってきていた痛みが止んだ。

「真里! 気をしっかり持て」
 声を聞いただけで意識が戻ってきた。
 視界がぼやけているけど、この声、この背中間違いない……!
「ユキっ……」
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