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真里編:第3章 新天地
職権濫用
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ユキは玄関を出た後、一度扉の前でうずくまって居た。
(やってしまった……もっと場を整えて言おうと思ってたのに、勢いで言ってしまった!)
真里にはサラッと説明していたが、魔王様より眷属を作ることを許可されている悪魔は、魔界でユキ一人だった。
お陰で魔界ではユキの眷属になるのは誰なのか、誰がその地位を勝ち取るのかと噂は広がり、眷属=正妻のような扱いであった。
つまり先程の告白は、ユキにとってはプロポーズのようなものだったのだ。真里にちゃんと説明できていないせいで上手く伝わらなかった、そのことをかなり後悔している。
こんな所でモタついてる場合じゃない……最速で終わらせる、そう意気込んで立ち上がり、自分の職場へかなりの早歩きで進み出した。走らないのはユキが急いだ様子だと、それを見た周りの悪魔たちが何事かとざわつくからだ。それでも十分急いでる速度なので、周りはザワザワしているのだが……。
ユキは真里にスカウト業をやっていると自己紹介したのだが、本職は魔界治安維持部隊の総長である、といっても隊員はユキを含めて4名のみだ。
ユキは事務所へ向かいながら叫んだ。
「ショー! おい、ショー! 飛翔ーっ! 居るのはわかってるんだぞ!」
ガラッと乱暴に事務所の引戸を開けるが、中には誰も居ないかのように反応がない。
……が、入り口に背面を見せているソファーの肘置きから、鮮やかな緑の目立つ髪の毛がチョロっと見えている。
ユキはソファーの横まで行くと片足を上げて踏んだ、そこに寝転んでいる人物の顔面を、靴のままで。
「テメー俺が留守にしてるからってサボりか! いい度胸だな」
「いだだだだっ!!!」
「定時連絡にも応答しないでお昼寝とは、どういうことだ」
寝ていた人物は飛び起きて、ユキを少し上から見下ろす、ユキも背は高いがそれよりまだ背が高い。
髪色は緑だ、悪魔とはいえ元々日本人なので当然地毛ではない、生前から緑に染め上げている現代人だ。
名前は『飛翔』治安維持部隊で一番脳筋で、一番下っ端である。
「踏むのはいくらなんでもひどくねぇ? ユキが留守だったからこそ疲れてんだぞ!?」
「だからって寝るな、お前の為に俺を動かすな」
ユキに労われることもなく不機嫌そうな顔を向けられて、飛翔が"パワハラ上司だ"、"ブラック企業だ"と口を尖らせてブーブー言っている。そんな光景を尻目に、ユキは先程の通信相手と連絡を取った。
「……聞こえるか? 飛翔は寝てたぞ、後で訓練してやれ」
「いやだー!! カズヤのシゴキはいやだー!!」
デカイ図体で地団駄とブーイングする飛翔を見ながら、ユキは
(これ真里がやったら可愛いんだろうなぁ……)
と眺めていた。
「お前じゃちっとも癒されんな」
「緑は癒しの効果があるんだぞ! 俺の方が物知りなんじゃないか!?」
……と、ドヤ顔する飛翔と、呆れながら大きなため息と共にソファーに腰掛けるユキ。ユキは疲れていた、飛翔とのやり取りにではなく純粋に力の使いすぎだった。
(最速で終わらせると言ったがしんどい、でも早く終わらせて真里に会いたい、真里に会って魔力補給したい……やっぱり早く終わらせよう……)
堂々巡りに頭を抱え、せめてキスくらいしてくれば良かったと思ったところ……そもそもそんな時間もくれなかった元凶が目の前に立っていた。
「お前覚えてろよ」
「ええっ!? そんなに怒ってんの!? ってかなんでそんなに疲れてんの、めずらしい」
「少し現世で力を使いすぎた、俺は速やかに家に帰りたい」
「じゃあスカウト終わったって事か! もう連勤も終わりだな!」
言うほど連勤してねぇだろ! と心でつっこんだが、声に出す気力はなかった。
悪魔はみんな自由である。全員魔王様から仕事は与えられているが、結構好き勝手に好きなことをしているし、魔王様も人に合わせて、与える仕事をコロコロ変えたりしている。
治安維持部隊はその名の通りハメを外して、治安を乱す奴らにお仕置きする機関だ、こういうものがないと無秩序になる。しかし基本は自己責任の世界だ、それぞれそれなりの能力もあるので、人に対して働いた悪事はその場で本人より制裁されるのが基本である。
隊員はユキが現世から連れてきたメンバーで、比較的強くて真面目な傾向だ。飛翔もその辺の悪魔に比べれば、かなり真面目な方である。
構成員は
総長 魔界No.2のユキ
副長 木刀のカズヤ
釘バットのルイ 脳筋の飛翔 だ。
まるで取り締まる方が不良グループのような面子である。
あくまでそう呼ばれているだけで、実際カズヤが使うのは木刀ではないし、ルイも釘バット使うわけじゃないのたが、面白おかしく誇張されているのだ。
ピリリリリリリリリリッ
カズヤからの着信だった、ユキは縮小させているインカムを、ボタン一つで通常サイズに戻して受信する。
『ユキ、すみません二人組を取り逃がしました、噴水広場に向かって逃げてます、先回りしてください』
「珍しいな、お前も疲れてるのか? 俺ももう限界だ、帰る」
『ルイが負傷してます、あなたなら瞬殺できる相手なのでよろしくお願いします』ブツッ
「アイツ切りやがった……!」
(まぁいいか広場ウチの真ん前だし、先に部屋に寄って真里にキスくらい出来るんじゃ……)
「飛翔、お前定時報告上げて、二人と一緒に来い」
「ユキは!?」
「俺は先に行く、いいか! 報告はちゃんと上げろよ!」
(三人が来るまでに少しはイチャつけるだろう)
ユキは下心で部下に指示を出した、なかなか最低である。
しまいには我慢できずにとうとう走り出した、そんな様子を見た周りの悪魔達は行き以上にザワついた、当然のように何事が起こっているのかと憶測が飛び交う。
そんな事はお構いなく、足に強化までかけて全力で帰ってきたユキを待っていたのは……
誰も居ない部屋だった。
(やってしまった……もっと場を整えて言おうと思ってたのに、勢いで言ってしまった!)
真里にはサラッと説明していたが、魔王様より眷属を作ることを許可されている悪魔は、魔界でユキ一人だった。
お陰で魔界ではユキの眷属になるのは誰なのか、誰がその地位を勝ち取るのかと噂は広がり、眷属=正妻のような扱いであった。
つまり先程の告白は、ユキにとってはプロポーズのようなものだったのだ。真里にちゃんと説明できていないせいで上手く伝わらなかった、そのことをかなり後悔している。
こんな所でモタついてる場合じゃない……最速で終わらせる、そう意気込んで立ち上がり、自分の職場へかなりの早歩きで進み出した。走らないのはユキが急いだ様子だと、それを見た周りの悪魔たちが何事かとざわつくからだ。それでも十分急いでる速度なので、周りはザワザワしているのだが……。
ユキは真里にスカウト業をやっていると自己紹介したのだが、本職は魔界治安維持部隊の総長である、といっても隊員はユキを含めて4名のみだ。
ユキは事務所へ向かいながら叫んだ。
「ショー! おい、ショー! 飛翔ーっ! 居るのはわかってるんだぞ!」
ガラッと乱暴に事務所の引戸を開けるが、中には誰も居ないかのように反応がない。
……が、入り口に背面を見せているソファーの肘置きから、鮮やかな緑の目立つ髪の毛がチョロっと見えている。
ユキはソファーの横まで行くと片足を上げて踏んだ、そこに寝転んでいる人物の顔面を、靴のままで。
「テメー俺が留守にしてるからってサボりか! いい度胸だな」
「いだだだだっ!!!」
「定時連絡にも応答しないでお昼寝とは、どういうことだ」
寝ていた人物は飛び起きて、ユキを少し上から見下ろす、ユキも背は高いがそれよりまだ背が高い。
髪色は緑だ、悪魔とはいえ元々日本人なので当然地毛ではない、生前から緑に染め上げている現代人だ。
名前は『飛翔』治安維持部隊で一番脳筋で、一番下っ端である。
「踏むのはいくらなんでもひどくねぇ? ユキが留守だったからこそ疲れてんだぞ!?」
「だからって寝るな、お前の為に俺を動かすな」
ユキに労われることもなく不機嫌そうな顔を向けられて、飛翔が"パワハラ上司だ"、"ブラック企業だ"と口を尖らせてブーブー言っている。そんな光景を尻目に、ユキは先程の通信相手と連絡を取った。
「……聞こえるか? 飛翔は寝てたぞ、後で訓練してやれ」
「いやだー!! カズヤのシゴキはいやだー!!」
デカイ図体で地団駄とブーイングする飛翔を見ながら、ユキは
(これ真里がやったら可愛いんだろうなぁ……)
と眺めていた。
「お前じゃちっとも癒されんな」
「緑は癒しの効果があるんだぞ! 俺の方が物知りなんじゃないか!?」
……と、ドヤ顔する飛翔と、呆れながら大きなため息と共にソファーに腰掛けるユキ。ユキは疲れていた、飛翔とのやり取りにではなく純粋に力の使いすぎだった。
(最速で終わらせると言ったがしんどい、でも早く終わらせて真里に会いたい、真里に会って魔力補給したい……やっぱり早く終わらせよう……)
堂々巡りに頭を抱え、せめてキスくらいしてくれば良かったと思ったところ……そもそもそんな時間もくれなかった元凶が目の前に立っていた。
「お前覚えてろよ」
「ええっ!? そんなに怒ってんの!? ってかなんでそんなに疲れてんの、めずらしい」
「少し現世で力を使いすぎた、俺は速やかに家に帰りたい」
「じゃあスカウト終わったって事か! もう連勤も終わりだな!」
言うほど連勤してねぇだろ! と心でつっこんだが、声に出す気力はなかった。
悪魔はみんな自由である。全員魔王様から仕事は与えられているが、結構好き勝手に好きなことをしているし、魔王様も人に合わせて、与える仕事をコロコロ変えたりしている。
治安維持部隊はその名の通りハメを外して、治安を乱す奴らにお仕置きする機関だ、こういうものがないと無秩序になる。しかし基本は自己責任の世界だ、それぞれそれなりの能力もあるので、人に対して働いた悪事はその場で本人より制裁されるのが基本である。
隊員はユキが現世から連れてきたメンバーで、比較的強くて真面目な傾向だ。飛翔もその辺の悪魔に比べれば、かなり真面目な方である。
構成員は
総長 魔界No.2のユキ
副長 木刀のカズヤ
釘バットのルイ 脳筋の飛翔 だ。
まるで取り締まる方が不良グループのような面子である。
あくまでそう呼ばれているだけで、実際カズヤが使うのは木刀ではないし、ルイも釘バット使うわけじゃないのたが、面白おかしく誇張されているのだ。
ピリリリリリリリリリッ
カズヤからの着信だった、ユキは縮小させているインカムを、ボタン一つで通常サイズに戻して受信する。
『ユキ、すみません二人組を取り逃がしました、噴水広場に向かって逃げてます、先回りしてください』
「珍しいな、お前も疲れてるのか? 俺ももう限界だ、帰る」
『ルイが負傷してます、あなたなら瞬殺できる相手なのでよろしくお願いします』ブツッ
「アイツ切りやがった……!」
(まぁいいか広場ウチの真ん前だし、先に部屋に寄って真里にキスくらい出来るんじゃ……)
「飛翔、お前定時報告上げて、二人と一緒に来い」
「ユキは!?」
「俺は先に行く、いいか! 報告はちゃんと上げろよ!」
(三人が来るまでに少しはイチャつけるだろう)
ユキは下心で部下に指示を出した、なかなか最低である。
しまいには我慢できずにとうとう走り出した、そんな様子を見た周りの悪魔達は行き以上にザワついた、当然のように何事が起こっているのかと憶測が飛び交う。
そんな事はお構いなく、足に強化までかけて全力で帰ってきたユキを待っていたのは……
誰も居ない部屋だった。
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