死が二人を分かたない世界

ASK.R

文字の大きさ
上 下
18 / 191
真里編:第3章 新天地

職権濫用

しおりを挟む
 ユキは玄関を出た後、一度扉の前でうずくまって居た。
(やってしまった……もっと場を整えて言おうと思ってたのに、勢いで言ってしまった!)

 真里にはサラッと説明していたが、魔王様より眷属けんぞくを作ることを許可されている悪魔は、魔界でユキ一人だった。
 お陰で魔界ではユキの眷属になるのは誰なのか、誰がその地位を勝ち取るのかと噂は広がり、眷属=正妻のような扱いであった。

 つまり先程の告白は、ユキにとってはプロポーズのようなものだったのだ。真里にちゃんと説明できていないせいで上手く伝わらなかった、そのことをかなり後悔している。

こんな所でモタついてる場合じゃない……最速で終わらせる、そう意気込んで立ち上がり、自分の職場へかなりの早歩きで進み出した。走らないのはユキが急いだ様子だと、それを見た周りの悪魔たちが何事かとざわつくからだ。それでも十分急いでる速度なので、周りはザワザワしているのだが……。

 ユキは真里にスカウト業をやっていると自己紹介したのだが、本職は魔界治安維持部隊の総長である、といっても隊員はユキを含めて4名のみだ。

 ユキは事務所へ向かいながら叫んだ。
「ショー! おい、ショー! 飛翔ーっ! 居るのはわかってるんだぞ!」
 ガラッと乱暴に事務所の引戸を開けるが、中には誰も居ないかのように反応がない。
 ……が、入り口に背面を見せているソファーの肘置きから、鮮やかな緑の目立つ髪の毛がチョロっと見えている。

 ユキはソファーの横まで行くと片足を上げて踏んだ、そこに寝転んでいる人物の顔面を、靴のままで。
「テメー俺が留守にしてるからってサボりか! いい度胸だな」
「いだだだだっ!!!」
「定時連絡にも応答しないでお昼寝とは、どういうことだ」
 寝ていた人物は飛び起きて、ユキを少し上から見下ろす、ユキも背は高いがそれよりまだ背が高い。
 髪色は緑だ、悪魔とはいえ元々日本人なので当然地毛ではない、生前から緑に染め上げている現代人だ。
 名前は『飛翔』治安維持部隊で一番脳筋で、一番下っ端である。
 
「踏むのはいくらなんでもひどくねぇ? ユキが留守だったからこそ疲れてんだぞ!?」
「だからって寝るな、お前の為に俺を動かすな」
 ユキに労われることもなく不機嫌そうな顔を向けられて、飛翔が"パワハラ上司だ"、"ブラック企業だ"と口を尖らせてブーブー言っている。そんな光景を尻目に、ユキは先程の通信相手と連絡を取った。
「……聞こえるか? 飛翔は寝てたぞ、後で訓練してやれ」
「いやだー!! カズヤのシゴキはいやだー!!」

 デカイ図体で地団駄とブーイングする飛翔を見ながら、ユキは
(これ真里がやったら可愛いんだろうなぁ……)
 と眺めていた。

「お前じゃちっとも癒されんな」
「緑は癒しの効果があるんだぞ! 俺の方が物知りなんじゃないか!?」
 ……と、ドヤ顔する飛翔と、呆れながら大きなため息と共にソファーに腰掛けるユキ。ユキは疲れていた、飛翔とのやり取りにではなく純粋に力の使いすぎだった。

(最速で終わらせると言ったがしんどい、でも早く終わらせて真里に会いたい、真里に会って魔力補給したい……やっぱり早く終わらせよう……)

 堂々巡りに頭を抱え、せめてキスくらいしてくれば良かったと思ったところ……そもそもそんな時間もくれなかった元凶が目の前に立っていた。

「お前覚えてろよ」
「ええっ!? そんなに怒ってんの!? ってかなんでそんなに疲れてんの、めずらしい」
「少し現世で力を使いすぎた、俺は速やかに家に帰りたい」
「じゃあスカウト終わったって事か! もう連勤も終わりだな!」

 言うほど連勤してねぇだろ! と心でつっこんだが、声に出す気力はなかった。
 悪魔はみんな自由である。全員魔王様から仕事は与えられているが、結構好き勝手に好きなことをしているし、魔王様も人に合わせて、与える仕事をコロコロ変えたりしている。

 治安維持部隊はその名の通りハメを外して、治安を乱す奴らにお仕置きする機関だ、こういうものがないと無秩序になる。しかし基本は自己責任の世界だ、それぞれそれなりの能力もあるので、人に対して働いた悪事はその場で本人より制裁されるのが基本である。

 隊員はユキが現世から連れてきたメンバーで、比較的強くて真面目な傾向だ。飛翔もその辺の悪魔に比べれば、かなり真面目な方である。

構成員は
総長 魔界No.2のユキ
副長 木刀のカズヤ
釘バットのルイ 脳筋の飛翔 だ。

 まるで取り締まる方が不良グループのような面子である。

 あくまでそう呼ばれているだけで、実際カズヤが使うのは木刀ではないし、ルイも釘バット使うわけじゃないのたが、面白おかしく誇張されているのだ。

ピリリリリリリリリリッ

 カズヤからの着信だった、ユキは縮小させているインカムを、ボタン一つで通常サイズに戻して受信する。

『ユキ、すみません二人組を取り逃がしました、噴水広場に向かって逃げてます、先回りしてください』
「珍しいな、お前も疲れてるのか? 俺ももう限界だ、帰る」
『ルイが負傷してます、あなたなら瞬殺できる相手なのでよろしくお願いします』ブツッ

「アイツ切りやがった……!」

(まぁいいか広場ウチの真ん前だし、先に部屋に寄って真里にキスくらい出来るんじゃ……)

「飛翔、お前定時報告上げて、二人と一緒に来い」
「ユキは!?」
「俺は先に行く、いいか! 報告はちゃんと上げろよ!」

(三人が来るまでに少しはイチャつけるだろう)
 ユキは下心で部下に指示を出した、なかなか最低である。
 
 しまいには我慢できずにとうとう走り出した、そんな様子を見た周りの悪魔達は行き以上にザワついた、当然のように何事が起こっているのかと憶測が飛び交う。

 そんな事はお構いなく、足に強化までかけて全力で帰ってきたユキを待っていたのは……

 誰も居ない部屋だった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!

かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。 その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。 両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。 自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。 自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。 相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと… のんびり新連載。 気まぐれ更新です。 BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意! 人外CPにはなりません ストックなくなるまでは07:10に公開 3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

うちの前に落ちてたかわいい男の子を拾ってみました。 【完結】

まつも☆きらら
BL
ある日、弟の海斗とマンションの前にダンボールに入れられ放置されていた傷だらけの美少年『瑞希』を拾った優斗。『1ヵ月だけ置いて』と言われ一緒に暮らし始めるが、どこか危うい雰囲気を漂わせた瑞希に翻弄される海斗と優斗。自分のことは何も聞かないでと言われるが、瑞希のことが気になって仕方ない2人は休みの日に瑞希の後を尾けることに。そこで見たのは、中年の男から金を受け取る瑞希の姿だった・・・・。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

処理中です...