死が二人を分かたない世界

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真里編:第3章 新天地

今生との別れ

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 なんだか暖かい……意識がだんだんしっかりとしてきて、ゆっくりと目を開けた。
 汗でべったりと黒い髪を頬に張り付かせたユキが、僕を抱きかかえたまま眠るように目を閉じて座っていた。

「ユキ! 大丈夫!?」
「ハハッ! いきなり俺の心配をするのか!」

 そりゃぁするだろう! だって目の前で倒れたんだ!
 "悪魔は人助けしない"って言ってた、つまりかなり無理をさせたんだと思う、その証拠にこんなにも顔色が悪い。

「分かってるのか? お前死んだんだぞ」

 言われてハッとなった、自分の足元に自分の死体が転がっていた。
「うわあああああああっっ!! ビックリした!」

 自分の死に顔を見てしまった……! 本当に死んだんだな……心臓に悪いからあまり見ないようにしよう……いや、心臓はもう動いてないんだけど。

「すまなかったな、今生の別れもさせてやれなかった」
「いいよ別に……そんなことより、ありがとう母さんを助けてくれて」

 ユキの頬に張り付いた髪を拭うと、ユキも僕の前髪を搔き上げて額に軽くキスした。

 温かい
 ずっと冷たかったユキに温度を感じる。

「母さんと父さんは悲しむかな……」
「悲しむだろうな……会いに行くか? 両親に」
「会えるの!?」
「お前の姿は見えないし、声も聞こえないだろうがな……一方的に話しかけるのは可能だ」

 それはもちろん会いに行きたい! けど、こんなに消耗してしまってるユキに、これ以上無理させるのは……。

「僕を連れて行くのと、声を届けるだけならどっちが楽?」
「そりゃ、声だけの方が……って、だから聞こえないかもしれないんだぞ?」
「対価は?」
「——っあぁもう! 俺とずっと一緒に居ろ! それが対価だ!」
「ダメだって言われても離れないから!」

 なにその対価、僕にとってはご褒美だよ!
 ユキは僕を抱きしめて、"めちゃくちゃ元気でた"って可愛い顔で笑った。僕も全力で抱きしめ返した、温かい……気持ちいい、愛しい……体の中心から温かくなる感じがする。

 僕の命を使うまでのあの流れ、上手くユキに誘導されたような気がした。一瞬全て謀られたのかという考えも過ぎったが、この笑顔を見たらそんな不安は吹っ飛んだ。きっと僕のためにしてくれたことなんだろう……そう盲信できる程には彼を信用している、何せ十年来の友である。

「本当は肉体と分離したばかりだから、魂の力は使いたく無いんだが……真里の力を混ぜた方が聞こえる可能性が上がる、少し疲れるかもしれないが……」
 ユキが僕の肩を抱いた、そういえばさっきも僕の肩を掴んでいたような……これで僕の魂の力? ってのをユキが使えるようになるのかな?

「あまり時間は長くない、伝えたい事だけ手短にな」
 触れられた肩が温かくなった、なんとなく今だというタイミングが分かった。
 僕は両手を祈るように組んで、願った。

「父さん、母さんごめんなさい、こんなに大きくなるまで育ててくれてありがとう、本当に感謝してます」

 暖かく繋がった線が、細くなっていくのを感じる。

「本当の息子として育ててくれた事、愛してくれた事絶対に忘れません。2人の子供になれてよかった、愛してるよ」

 プツンと切れた感覚があった、本当に短かった。
 伝わってたらいいな……と思いながら、目尻を拭った。

「何も合図してないのによく分かったな……ピッタリだったぞ」
「なんとなくね……」
「すごいな、悪魔化もまだなのに……天性の感覚だな」
「母さんたちに伝わったかな?」
「そうだな、母親の方は今寝ていたみたいだから、伝わってる可能性が高いな」
 嘘でも嬉しいと思ってしまった、ユキは嘘が苦手みたいだけど。

「それと、これを真里に」
 ユキが手を開いて出てきたのは、高速道路のパーキングエリアなんかでよく売っている、煌びやかなキーホルダーだった……刀じゃない! 刀じゃないけどナイフだ!

「父親が土産として買った様だぞ」
「なんで行きにお土産買うかなー!」
 可笑しくて、嬉しくて、悲しくて笑うしかなかった、ユキが手渡してくれて、涙が止まらなかった。

 特に夢はなかった、行きたい大学があるわけでも、やりたい事があったわけでもなかった。漠然と学校に行って、どこかに就職して、誰かと結婚して……そうだな、両親に孫の顔を見せてあげたかったな。
 母さんは僕を赤ちゃんの時から育てたわけじゃないから、きっと孫が産まれたら大喜びしたんだろうな。もっと親孝行したかったな、二人を旅行に誘おうと思っていたんだけどな。
 今度生まれ変わる事があったら、2人の子供になりたい……本当の2人の子供に。

 父さんからのお土産を両手でぎゅっと握りしめると、ユキがその上から手を握ってくれた。

「真里を幸せにしますよ、2人が育んだ時間よりも長く、ずっと」
「ユキ……」

「来るか? 俺と一緒に」
「行きたい……連れていってくれるの?」
「当然だ、そのために来た」

 よかった、これからもユキと一緒に居れるんだ。

「本当はベッドの上に移動してやりたいんだが……」

 そういってユキは僕の"身体"の頭を撫でた。
 そうか……下手にベッドなんかで死んでたらおかしいもんね、こんなに早くに死んでしまってごめん、僕の身体……。

「さようなら、僕の身体! 成仏してください!」

 直視するには勇気がいるので、目をつぶって手を合わせた。自分に向けてだ、変な気分だ。

「成仏はしないがな、真里は悪魔になるんだから」

 ユキが僕を抱えて立ち上がると、"行くぞ"と言った瞬きの間に周りの景色が変わった。
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