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真里編:第2章 別れ
誘い(いざない)
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正直僕はユキにかなり惹かれている自覚がある、それが悪魔の魅了のせいなのか、ユキ自身になのかわからない。
思えばはじめて会った時から、僕はユキの事は嫌いじゃない……むしろ好印象だった。
死んだ後に第二の人生? として彼と一緒に行くのは、そんなに悪くないことの様な気もする。その先があるとわかれば、死ぬのもそんなに怖いものではないし。
ただ、僕が死ねば身近な人達とはお別れだ、母さんがどんなに悲しむだろう……それと引き換えにする程、僕はあの女を恨む気持ちは、もう残っていない。
「ごめんね、僕は命を懸ける事はできないよ」
ユキはただ、何も言わずに両手で握った僕の手を見ていた。
「あの女を殺してしまいたいほどの気持ちは、もう無くなってしまったけど……このまま野放しには出来ないから、"あの女を捕まえたい"って願いを……」
ユキの手を握っていた僕の両手に、冷たい雫が降ってきた、ユキの両目からポタポタと涙が溢れていたんだ。
正直かなり驚いた、悪魔って泣くのかとか、そんなに僕と一緒に行きたかったのかとか、なんて綺麗な泣き顔なんだとか、色々思ったけど何より泣かせてしまった事がショックだった。
ユキがハッとしたように、僕の手を振り払って顔を両手で覆った、本人も意図していなかったのだろう。
「そうか……わかった、真里を連れて行きたいのは、俺のわがままだから……こうなることも予想してた。最初から無理だったんだ、お前の魂は綺麗すぎる」
嫌だとか、ダメだとか駄々をこねたり、無理矢理にでも連れて行こうとするかと思った……顔を覆って隠しても分かるくらい泣きながら、聞き分けのいいことを言うユキを、僕は思わず抱きしめていた。
「それ、君の悪い癖だよ」
「……真里?」
「君はなにかを諦めようとするとき、必ずそうやって泣くだろ、本当は諦めたく無いくせに! なに聞き分けのいい事……ってあれ?」
僕なに言ってるんだろう、なんか口からスラスラ出てきたけど、マジでなに言ってるんだろう、ユキの涙に動揺しすぎた!?
「真里……お前……」ピリリリリリリリ!
今時のスマホではなかなか聞かない、古風な着信音が鳴り響いた、さっきまで泣いていたユキは瞬間真顔になって、さっきまでの事が嘘の様にインカム的な何かで誰かと話し始めた。
「なんで俺が居ないとダメなんだよ! 何とかしろ! え!? ショーはどこ行ったんだよ! ——っ! あのアホ!」
うーん……なんか上司なんだなって感じだ、しかもパワハラ系上司じゃないか? ブラック企業なの? 悪魔界。
「すまないな、ちょっと野暮用が出来た」
「そうみたいだね……なんか大変なんだね」
ユキが二階の窓からすり抜けようとして振り向いた。
「すぐ終わらせて戻ってくるからな、あの女捕まえるぞ」
「待ってるよ」
そうしてユキは僕の部屋から去って行った。
もうすぐこうして話すことも無くなるのだろうか、僕の願いを叶えたら、ユキはもう来てくれないんだろうか……僕のユキとの記憶は、やっぱり消されてしまったりするんだろうか……。
それはなぜか、とても悲しい。
なんだかんだで願いを先延ばしにして、ユキをここに留められないかとか、ましてや悪魔と恋人になって繋ぎ止めようなんて、とんでもない考えだなって自嘲気味に笑ってしまった。
自分で一緒に行けないって言ったくせに……。
ユキの出て行った窓から外を見た。
もう夕暮れ前だ、もうすぐ母さんが帰ってくる。
ーーーーー
母さんは僕を一度も夜一人にしたことがない、小さい子供相手なら当たり前かもしれないが、高校生になった今もだ。
「真里、本当に大丈夫? 母さん心配で……」
「母さん、この歳の男の子に過剰な心配は良くないよ」
「だって風邪ひいてるのよ」
母さんと父さんは実はかなり仲が良い、家でも品良くイチャイチャしている。
「大丈夫、もう治りかけてるから心配しないで」
「できるだけ早く帰ってくるからね」
「真里、お土産は何がいいんだ?」
「ゆっくりしてきてよ、お土産は刀のキーホルダーじゃなければ何でもいいよ」
父は昔から出張の度、僕に刀のキーホルダーを買ってきた、お陰で僕の勉強デスクの一番上の引き出しは、色々な刀のキーホルダーでいっぱいだ、しかもかなりダブってる。
「心配だわ、寂しくなったらいつでも電話していいのよ! 母さん飛んで帰ってくるからね!」
「大丈夫だから! 早く出ないとバスに間に合わないよ」
なかなか家を出ない両親を押し出して、いってらっしゃいと扉を閉めた、母さんが"あの子笑ったわね! 元気が出てきたみたい"と言っているのが聞こえた。
多分風邪の事ではなく、あの女のせいで僕が最近暗かった事、ずっと気にしていたんだろう。
今日どうしても一緒に行きたいって言ったのは、僕を元気づけようとしてくれていたのかも……母さん嘘ついて断ってごめんね。
今回のバス旅行、夜行バスで出発して翌日朝から観光、現地で宿泊する旅行だった、という事で実はまだ夜だ。両親を送り出して、その足で二階への階段を上がる。
ユキはもう戻ってきているだろうか……。
期待半分、不安半分……。
カチャリと扉を開けたその先にいた……上から下まで黒ずくめ、尖った耳の根元から角が生えた悪魔と、薄い髪色で茶色いベストにネクタイの大男の悪魔が。
「誰っ!?」
ユキじゃない悪魔が二人!? なんで!?
「おやすみ」
子供のような声で黒い悪魔が手をかざすと、僕はその場で意識を失った。
"全て思い出せばそれで終わりだ"
意識が薄れる中、そんな声が最後に聞こえた。
思えばはじめて会った時から、僕はユキの事は嫌いじゃない……むしろ好印象だった。
死んだ後に第二の人生? として彼と一緒に行くのは、そんなに悪くないことの様な気もする。その先があるとわかれば、死ぬのもそんなに怖いものではないし。
ただ、僕が死ねば身近な人達とはお別れだ、母さんがどんなに悲しむだろう……それと引き換えにする程、僕はあの女を恨む気持ちは、もう残っていない。
「ごめんね、僕は命を懸ける事はできないよ」
ユキはただ、何も言わずに両手で握った僕の手を見ていた。
「あの女を殺してしまいたいほどの気持ちは、もう無くなってしまったけど……このまま野放しには出来ないから、"あの女を捕まえたい"って願いを……」
ユキの手を握っていた僕の両手に、冷たい雫が降ってきた、ユキの両目からポタポタと涙が溢れていたんだ。
正直かなり驚いた、悪魔って泣くのかとか、そんなに僕と一緒に行きたかったのかとか、なんて綺麗な泣き顔なんだとか、色々思ったけど何より泣かせてしまった事がショックだった。
ユキがハッとしたように、僕の手を振り払って顔を両手で覆った、本人も意図していなかったのだろう。
「そうか……わかった、真里を連れて行きたいのは、俺のわがままだから……こうなることも予想してた。最初から無理だったんだ、お前の魂は綺麗すぎる」
嫌だとか、ダメだとか駄々をこねたり、無理矢理にでも連れて行こうとするかと思った……顔を覆って隠しても分かるくらい泣きながら、聞き分けのいいことを言うユキを、僕は思わず抱きしめていた。
「それ、君の悪い癖だよ」
「……真里?」
「君はなにかを諦めようとするとき、必ずそうやって泣くだろ、本当は諦めたく無いくせに! なに聞き分けのいい事……ってあれ?」
僕なに言ってるんだろう、なんか口からスラスラ出てきたけど、マジでなに言ってるんだろう、ユキの涙に動揺しすぎた!?
「真里……お前……」ピリリリリリリリ!
今時のスマホではなかなか聞かない、古風な着信音が鳴り響いた、さっきまで泣いていたユキは瞬間真顔になって、さっきまでの事が嘘の様にインカム的な何かで誰かと話し始めた。
「なんで俺が居ないとダメなんだよ! 何とかしろ! え!? ショーはどこ行ったんだよ! ——っ! あのアホ!」
うーん……なんか上司なんだなって感じだ、しかもパワハラ系上司じゃないか? ブラック企業なの? 悪魔界。
「すまないな、ちょっと野暮用が出来た」
「そうみたいだね……なんか大変なんだね」
ユキが二階の窓からすり抜けようとして振り向いた。
「すぐ終わらせて戻ってくるからな、あの女捕まえるぞ」
「待ってるよ」
そうしてユキは僕の部屋から去って行った。
もうすぐこうして話すことも無くなるのだろうか、僕の願いを叶えたら、ユキはもう来てくれないんだろうか……僕のユキとの記憶は、やっぱり消されてしまったりするんだろうか……。
それはなぜか、とても悲しい。
なんだかんだで願いを先延ばしにして、ユキをここに留められないかとか、ましてや悪魔と恋人になって繋ぎ止めようなんて、とんでもない考えだなって自嘲気味に笑ってしまった。
自分で一緒に行けないって言ったくせに……。
ユキの出て行った窓から外を見た。
もう夕暮れ前だ、もうすぐ母さんが帰ってくる。
ーーーーー
母さんは僕を一度も夜一人にしたことがない、小さい子供相手なら当たり前かもしれないが、高校生になった今もだ。
「真里、本当に大丈夫? 母さん心配で……」
「母さん、この歳の男の子に過剰な心配は良くないよ」
「だって風邪ひいてるのよ」
母さんと父さんは実はかなり仲が良い、家でも品良くイチャイチャしている。
「大丈夫、もう治りかけてるから心配しないで」
「できるだけ早く帰ってくるからね」
「真里、お土産は何がいいんだ?」
「ゆっくりしてきてよ、お土産は刀のキーホルダーじゃなければ何でもいいよ」
父は昔から出張の度、僕に刀のキーホルダーを買ってきた、お陰で僕の勉強デスクの一番上の引き出しは、色々な刀のキーホルダーでいっぱいだ、しかもかなりダブってる。
「心配だわ、寂しくなったらいつでも電話していいのよ! 母さん飛んで帰ってくるからね!」
「大丈夫だから! 早く出ないとバスに間に合わないよ」
なかなか家を出ない両親を押し出して、いってらっしゃいと扉を閉めた、母さんが"あの子笑ったわね! 元気が出てきたみたい"と言っているのが聞こえた。
多分風邪の事ではなく、あの女のせいで僕が最近暗かった事、ずっと気にしていたんだろう。
今日どうしても一緒に行きたいって言ったのは、僕を元気づけようとしてくれていたのかも……母さん嘘ついて断ってごめんね。
今回のバス旅行、夜行バスで出発して翌日朝から観光、現地で宿泊する旅行だった、という事で実はまだ夜だ。両親を送り出して、その足で二階への階段を上がる。
ユキはもう戻ってきているだろうか……。
期待半分、不安半分……。
カチャリと扉を開けたその先にいた……上から下まで黒ずくめ、尖った耳の根元から角が生えた悪魔と、薄い髪色で茶色いベストにネクタイの大男の悪魔が。
「誰っ!?」
ユキじゃない悪魔が二人!? なんで!?
「おやすみ」
子供のような声で黒い悪魔が手をかざすと、僕はその場で意識を失った。
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