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真里編:第2章 別れ
ご機嫌の対価
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「今日はズル休みしたようだな」
「うわぁっ!」
思考がイマイチまとまらずにいたので、目を瞑っていると、今度はウトウトしてきた……そんなタイミングで急に目の前に顔が現れた。
誰の顔って、もちろん僕の前に突然現れるのは悪魔の"ユキ"だ、だいたい肌以外は全身黒づくめじゃないか! なんだユキって! 肌は確かに雪のような白さだけど。
「ズル休みじゃないよ、考えることが多過ぎて一度頭の中を整理したかったんだよ」
「お昼寝しながら?」
そうだけど! なんか文句ある!? とは口に出しては言わなかった、大体お前のせいなんだぞ! っていう感情は顔に出ていて、ユキはまた楽しそうに笑っている。
いちいち僕の表情を読み取って楽しまないでほしい、僕が姿勢を起こすとユキは部屋の椅子に腰掛けた。
「気になってたんだけどユキは他の人間には見えたり、声が聞こえたりするの?」
「今は余程死期が近いとか、すごい感度の持ち主くらいにしか見えないな、人間に擬態すれば普通の人間にも見えるぞ! 声も同じだ」
「え、人間に擬態出来るの?」
じゃあ一緒に出歩いたりも出来るのか……って、出歩かないから! いくら擬態してても悪魔連れて出歩かないから!
「一緒に行きたいところでもあるのか?」
「ないよっ!」
「そんな即答しなくても……」
一瞬心の中を見透かされた気がして、ムキになって答えると、瞬時に残念顔な垂れ耳に早変わりした、だからそれ可愛いから! 絆されない! 絆されないぞ!
やっぱ旅行は無理だな、絶対ボロが出るし、何より旅行について来るかなんて聞いたら、どんな捉え方されるか分かったもんじゃない。
「そういえば会議って言ってたけど、他にも悪魔がいるってことだよね? 今の僕なら見えたりするのかな?」
「見えるだろうなぁ……この辺には俺しか居ないけどな」
そうなのか、少し残念……せっかくだから他の悪魔も見てみたかった。
「みんなユキみたいな耳が生えてるの? それなら一目見ただけでわかりそうだけど……」
「いや……これは俺だけだな」
あ、この表情はあまり聞かれたくない話か。
「じゃあみんなユキみたいに美人なの?」
「……え?」
……え? 僕なんか変なこと言ったかな?
「そうか、俺の顔は真里の好みなのか!」
「え? え? 違うよ! 僕は客観的に見てそう思っただけで! 好みとかそんなんじゃ!」
しまった! 完全に失言だった!
「どうしよう、真里が俺を誘って来る……我慢できる自信がない」
「全然我慢してなかったじゃん!」
立ち上がって両手で顔を塞いで、オーバーに嘆く仕草をするユキ、黙ってたら美人なのに……と呆れながら見ていると既視感があって、思わずユキの腕を掴んで顔を覗き込んでいた。
「どうした?」
「いや……今なんか、ユキの顔を見たら思い出せそうな気がした」
「何を?」
「大事な……約束を?」
「なんで疑問形なんだ」
わかる事は、多分夢の"あの子"との約束って事だ、どうしてこんなにも夢の内容を思い出せないのだろうか……まるで意図的に隠されているようだ。
ユキが僕の額をコツンとしてきた。
「大事な事ならそのうち思い出すだろ」
「そう、だね……ねぇユキは僕の思考や、見ている夢の内容がわかったりする?」
「さすがに無理だな、思考に関してはある程度予想を立てる事は出来るが……夢っていうのは大体脈絡もないものが多いからな」
つまりユキは今まで、僕の思考を予想していたというわけか。夢の内容を思い出させてもらうとか、"あの子"を現実で探してもらうとか、そういった類は無理そうだな……。
心が読める訳ではないなら、僕の事を"理解し過ぎている"節があるように感じるのだけど……。
「もしかしてユキは、僕の資料か何かを持ってるの?」
「なんだ、今日はやけに興味津々だな! 魔界には悪魔候補の資料がある、もちろんスカウト対象は調べてから来るからな」
「対象に"命を対価にする程の出来事"が起きた時、チャンスとばかりにスカウトしに現れるわけだ」
「なんか言葉にトゲがあるな、全部正直に話してるだけなのに、悲しくなってきた」
ハッとした、たしかに今の言い方は悪かったかもしれない、垂れた耳が更に罪悪感を煽ってくる……そんな泣きそうな顔しないで欲しい。
「ごめん! 別にユキを責めてるわけじゃないんだ! 色々聞いてみたかっただけで……」
「興味を示してくれるのは嬉しい」
まだしょんぼりしてる、顔には出てないけど、耳が全力でしょんぼりしてる……なんて分かりやすいんだ。
「本当にごめん、お願いそんな顔しないで」
正しくは耳だけど。
「よし、その願い聞き届けよう」
「……え?」
さっきまでのしおらしさは一転し、僕はまた性懲りも無くベッドの隅に追いこまれていた。
「俺が機嫌を直す対価はそうだなぁ、"好き勝手に触られるのに耐えろ"」
「なんで僕がむぐぅ」
口を右手で押さえられた、喋れない! 両手で離そうとするけどビクともしない、こんなに細い腕なのに強い! なんで僕はこう、すぐ油断してしまうんだろう。
ユキってこういう悪魔だった! 僕のバカ!
「うわぁっ!」
思考がイマイチまとまらずにいたので、目を瞑っていると、今度はウトウトしてきた……そんなタイミングで急に目の前に顔が現れた。
誰の顔って、もちろん僕の前に突然現れるのは悪魔の"ユキ"だ、だいたい肌以外は全身黒づくめじゃないか! なんだユキって! 肌は確かに雪のような白さだけど。
「ズル休みじゃないよ、考えることが多過ぎて一度頭の中を整理したかったんだよ」
「お昼寝しながら?」
そうだけど! なんか文句ある!? とは口に出しては言わなかった、大体お前のせいなんだぞ! っていう感情は顔に出ていて、ユキはまた楽しそうに笑っている。
いちいち僕の表情を読み取って楽しまないでほしい、僕が姿勢を起こすとユキは部屋の椅子に腰掛けた。
「気になってたんだけどユキは他の人間には見えたり、声が聞こえたりするの?」
「今は余程死期が近いとか、すごい感度の持ち主くらいにしか見えないな、人間に擬態すれば普通の人間にも見えるぞ! 声も同じだ」
「え、人間に擬態出来るの?」
じゃあ一緒に出歩いたりも出来るのか……って、出歩かないから! いくら擬態してても悪魔連れて出歩かないから!
「一緒に行きたいところでもあるのか?」
「ないよっ!」
「そんな即答しなくても……」
一瞬心の中を見透かされた気がして、ムキになって答えると、瞬時に残念顔な垂れ耳に早変わりした、だからそれ可愛いから! 絆されない! 絆されないぞ!
やっぱ旅行は無理だな、絶対ボロが出るし、何より旅行について来るかなんて聞いたら、どんな捉え方されるか分かったもんじゃない。
「そういえば会議って言ってたけど、他にも悪魔がいるってことだよね? 今の僕なら見えたりするのかな?」
「見えるだろうなぁ……この辺には俺しか居ないけどな」
そうなのか、少し残念……せっかくだから他の悪魔も見てみたかった。
「みんなユキみたいな耳が生えてるの? それなら一目見ただけでわかりそうだけど……」
「いや……これは俺だけだな」
あ、この表情はあまり聞かれたくない話か。
「じゃあみんなユキみたいに美人なの?」
「……え?」
……え? 僕なんか変なこと言ったかな?
「そうか、俺の顔は真里の好みなのか!」
「え? え? 違うよ! 僕は客観的に見てそう思っただけで! 好みとかそんなんじゃ!」
しまった! 完全に失言だった!
「どうしよう、真里が俺を誘って来る……我慢できる自信がない」
「全然我慢してなかったじゃん!」
立ち上がって両手で顔を塞いで、オーバーに嘆く仕草をするユキ、黙ってたら美人なのに……と呆れながら見ていると既視感があって、思わずユキの腕を掴んで顔を覗き込んでいた。
「どうした?」
「いや……今なんか、ユキの顔を見たら思い出せそうな気がした」
「何を?」
「大事な……約束を?」
「なんで疑問形なんだ」
わかる事は、多分夢の"あの子"との約束って事だ、どうしてこんなにも夢の内容を思い出せないのだろうか……まるで意図的に隠されているようだ。
ユキが僕の額をコツンとしてきた。
「大事な事ならそのうち思い出すだろ」
「そう、だね……ねぇユキは僕の思考や、見ている夢の内容がわかったりする?」
「さすがに無理だな、思考に関してはある程度予想を立てる事は出来るが……夢っていうのは大体脈絡もないものが多いからな」
つまりユキは今まで、僕の思考を予想していたというわけか。夢の内容を思い出させてもらうとか、"あの子"を現実で探してもらうとか、そういった類は無理そうだな……。
心が読める訳ではないなら、僕の事を"理解し過ぎている"節があるように感じるのだけど……。
「もしかしてユキは、僕の資料か何かを持ってるの?」
「なんだ、今日はやけに興味津々だな! 魔界には悪魔候補の資料がある、もちろんスカウト対象は調べてから来るからな」
「対象に"命を対価にする程の出来事"が起きた時、チャンスとばかりにスカウトしに現れるわけだ」
「なんか言葉にトゲがあるな、全部正直に話してるだけなのに、悲しくなってきた」
ハッとした、たしかに今の言い方は悪かったかもしれない、垂れた耳が更に罪悪感を煽ってくる……そんな泣きそうな顔しないで欲しい。
「ごめん! 別にユキを責めてるわけじゃないんだ! 色々聞いてみたかっただけで……」
「興味を示してくれるのは嬉しい」
まだしょんぼりしてる、顔には出てないけど、耳が全力でしょんぼりしてる……なんて分かりやすいんだ。
「本当にごめん、お願いそんな顔しないで」
正しくは耳だけど。
「よし、その願い聞き届けよう」
「……え?」
さっきまでのしおらしさは一転し、僕はまた性懲りも無くベッドの隅に追いこまれていた。
「俺が機嫌を直す対価はそうだなぁ、"好き勝手に触られるのに耐えろ"」
「なんで僕がむぐぅ」
口を右手で押さえられた、喋れない! 両手で離そうとするけどビクともしない、こんなに細い腕なのに強い! なんで僕はこう、すぐ油断してしまうんだろう。
ユキってこういう悪魔だった! 僕のバカ!
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