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真里編:第1章 出会い
君に会いたい
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少し前まで満開だった梅の花がハラハラと散って、池の水面の上にたくさん浮かんでいた……また君に悲しいことがあったんだね。
この夢の世界はあの子の心象風景だ、特に梅の花は明確に心理状態を表している様だった。
嬉しい事、楽しい事があれば狂い咲き、悲しい事があれば散る、そのギャップが大きいほど、深く悲しむほどより多く梅の花は散った。
「こんなにたくさん散っているのは久しぶりだね、何があったの?」
「また死んでしまった……また巻き込んでしまった、全部私のせいだ」
あの子は僕に背を向けて顔を見せてくれなかった、かける言葉なんて見つかるはずもなかったけど、側で支えてあげたかった。
「そっちに行ってもいい?」
問いかけに答えは返ってこなかったけど、拒否はされなかった。そっと横までいくと、白い着物の袖が濡れて腕に張り付いているのが見て取れた、両手で顔を覆って心を落ち着かせようとしてくれているみたいだ。
「もう死にたい……こんなこと終わりにしたい」
「死んじゃダメだよ、今すぐ君に会いに行けたらいいのに」
震える肩を抱いて顔を覆っている腕を外すと、あの子の瞳から、たがが外れたように涙が溢れて来た。僕にしがみつきながら泣いたその背中に、腕を回して慰める事しかできなかった。
「また目の前で首を刎ねられたんだ、私が想いを寄せた人は一族の為の道具にされて殺される、私は呪われているんだ……私が死ねば全て終わるのに」
「呪われてなんかない、現に僕はこうして無事じゃないか! お願い、死にたいなんて言わないで」
この弱くて死にたがりの想い人は、どうしたら自分自身を好きになってくれるのだろうか……共に生きて欲しいという気持ちは、どうしたら伝わるのだろうか。
僕は現実で君に会いたい、会って触れ合いたい。死んでしまったらそれで終わりだ、僕達はもう二度と会えなくなる。君はそれでいいのか……僕は嫌だ、だから君に生きる事を諦めてほしくないと思う。
それは僕の我儘だとわかっているけれど、それでも生きることへの少しの希望にはならないだろうか。
「僕達は絶対に会える、そう確信してる! 何年かかっても君を見つけ出してみせるよ」
抱いた背中を更に強く抱きしめて誓った、抱きしめられる腕の力も強くなった、首元に埋められていた顔が近づいて、唇が触れ合った。
嬉しさより切なさが込み上げてきた……。
「私を探してはいけない、お前が殺されるなんて耐えられない……夢の中だけなら絶対に気づかれない、このままでいい」
そんなこと言わないで欲しい、僕は君に会いたい、会いに行けるなら今すぐにでも飛んで行くのに……君はどこに居るんだ、どうすれば君を救えるんだ。
「夢の中だけでいいから、また会いに来て……側にいて」
祈るように、涙を目元にいっぱいに溜め、そう最後に囁いたあの子に、君の前から居なくなるなんて絶対にありえないと言おうとした。
それと同時に、今のがファーストキスだったら良かったのに……と、邪な現実が夢に介入してきて、僕はハッと目が覚めた。
さっきまで鮮明に見えていた夢の内容が、起きた途端におぼろげになる……ただあの子に"生きて欲しい"と願う感情だけが強く僕の中に残った。
今日は平日最終日だ、僕は学校を休んで家で寝ていた、ズル休みだ。母さんに風邪だと嘘をついたので、そのカモフラージュもあったけど、今日はどうしても学校に行く気にならなかった。
そうしてお昼から惰眠を貪っていたら、なんだか重い夢を見ていたようだ。
ユキは昨日の夜から来ていない、懸念の第一要因のくせに、急に現れなくなるとはどういう事だろう。
そういえば、悪魔は他の人には視認されるのだろうか? 見えないなら旅行について来ても問題ないかな? 本人に聞いてみるか。
……って、何アイツがまた来る前提で考えてるんだろう。
大体まだ半日しか経っていない! これじゃあまるでユキに会いたがってるみたいじゃないか。
そうだ、アイツに会いたいのは"あの子"の為だ。
ユキに"夢で会ったあの子に会いたい"と願えば叶うのだろうか? 顔も名前も声すらも思い出せないけれど……。
夢の中で大切な約束をした気がする、なのに思い出せない。記憶が磨りガラスで覆われているみたいに中身が見えない……せめて"あの子"が存在していると、確信できる何かが欲しいのに。
夢の中の顔も知らないあの子と、ユキの存在が僕の中で交互にチラつく。
「会いたいな」
口に出して、誰に? という疑問が浮かんだ、僕は一体誰に会いたいんだろう。
スマホのニュースを開いた、あの女は未だ逃走中だった。
あの朝ニュースを目にした時程の憎しみが、自分の中に残っていないことが分かる。
……僕の一番叶えたい願いとは何なのか。
この夢の世界はあの子の心象風景だ、特に梅の花は明確に心理状態を表している様だった。
嬉しい事、楽しい事があれば狂い咲き、悲しい事があれば散る、そのギャップが大きいほど、深く悲しむほどより多く梅の花は散った。
「こんなにたくさん散っているのは久しぶりだね、何があったの?」
「また死んでしまった……また巻き込んでしまった、全部私のせいだ」
あの子は僕に背を向けて顔を見せてくれなかった、かける言葉なんて見つかるはずもなかったけど、側で支えてあげたかった。
「そっちに行ってもいい?」
問いかけに答えは返ってこなかったけど、拒否はされなかった。そっと横までいくと、白い着物の袖が濡れて腕に張り付いているのが見て取れた、両手で顔を覆って心を落ち着かせようとしてくれているみたいだ。
「もう死にたい……こんなこと終わりにしたい」
「死んじゃダメだよ、今すぐ君に会いに行けたらいいのに」
震える肩を抱いて顔を覆っている腕を外すと、あの子の瞳から、たがが外れたように涙が溢れて来た。僕にしがみつきながら泣いたその背中に、腕を回して慰める事しかできなかった。
「また目の前で首を刎ねられたんだ、私が想いを寄せた人は一族の為の道具にされて殺される、私は呪われているんだ……私が死ねば全て終わるのに」
「呪われてなんかない、現に僕はこうして無事じゃないか! お願い、死にたいなんて言わないで」
この弱くて死にたがりの想い人は、どうしたら自分自身を好きになってくれるのだろうか……共に生きて欲しいという気持ちは、どうしたら伝わるのだろうか。
僕は現実で君に会いたい、会って触れ合いたい。死んでしまったらそれで終わりだ、僕達はもう二度と会えなくなる。君はそれでいいのか……僕は嫌だ、だから君に生きる事を諦めてほしくないと思う。
それは僕の我儘だとわかっているけれど、それでも生きることへの少しの希望にはならないだろうか。
「僕達は絶対に会える、そう確信してる! 何年かかっても君を見つけ出してみせるよ」
抱いた背中を更に強く抱きしめて誓った、抱きしめられる腕の力も強くなった、首元に埋められていた顔が近づいて、唇が触れ合った。
嬉しさより切なさが込み上げてきた……。
「私を探してはいけない、お前が殺されるなんて耐えられない……夢の中だけなら絶対に気づかれない、このままでいい」
そんなこと言わないで欲しい、僕は君に会いたい、会いに行けるなら今すぐにでも飛んで行くのに……君はどこに居るんだ、どうすれば君を救えるんだ。
「夢の中だけでいいから、また会いに来て……側にいて」
祈るように、涙を目元にいっぱいに溜め、そう最後に囁いたあの子に、君の前から居なくなるなんて絶対にありえないと言おうとした。
それと同時に、今のがファーストキスだったら良かったのに……と、邪な現実が夢に介入してきて、僕はハッと目が覚めた。
さっきまで鮮明に見えていた夢の内容が、起きた途端におぼろげになる……ただあの子に"生きて欲しい"と願う感情だけが強く僕の中に残った。
今日は平日最終日だ、僕は学校を休んで家で寝ていた、ズル休みだ。母さんに風邪だと嘘をついたので、そのカモフラージュもあったけど、今日はどうしても学校に行く気にならなかった。
そうしてお昼から惰眠を貪っていたら、なんだか重い夢を見ていたようだ。
ユキは昨日の夜から来ていない、懸念の第一要因のくせに、急に現れなくなるとはどういう事だろう。
そういえば、悪魔は他の人には視認されるのだろうか? 見えないなら旅行について来ても問題ないかな? 本人に聞いてみるか。
……って、何アイツがまた来る前提で考えてるんだろう。
大体まだ半日しか経っていない! これじゃあまるでユキに会いたがってるみたいじゃないか。
そうだ、アイツに会いたいのは"あの子"の為だ。
ユキに"夢で会ったあの子に会いたい"と願えば叶うのだろうか? 顔も名前も声すらも思い出せないけれど……。
夢の中で大切な約束をした気がする、なのに思い出せない。記憶が磨りガラスで覆われているみたいに中身が見えない……せめて"あの子"が存在していると、確信できる何かが欲しいのに。
夢の中の顔も知らないあの子と、ユキの存在が僕の中で交互にチラつく。
「会いたいな」
口に出して、誰に? という疑問が浮かんだ、僕は一体誰に会いたいんだろう。
スマホのニュースを開いた、あの女は未だ逃走中だった。
あの朝ニュースを目にした時程の憎しみが、自分の中に残っていないことが分かる。
……僕の一番叶えたい願いとは何なのか。
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