死が二人を分かたない世界

ASK.R

文字の大きさ
上 下
6 / 191
真里編:第1章 出会い

魂の光

しおりを挟む
 くち? 口開けるって何!?
僕はただただ混乱していた、キスって唇と唇が触れ合うだけじゃ無いの!?
 嫌な予感がして、僕は元々への字に結んでいた口を、更に内側に巻き込むようにブス顔になった、相変わらず目はぎゅっと瞑ったままだ。

「——フフっ、ひでぇ顔」

 ユキが笑いを堪えるような声がした、そんな酷い顔にもお構いなく、更に僕の口元にキスしてくる……かと思ったら、今度は冷たくてぬるっとした感触が口元を! なっ、舐められてる!?

 僕の頭の中はパンク寸前だ! なんで舐めっ!? んんんんんんん——っ!! 舌が口の中に、無理やり入ってきたかと思ったら、あっという間に口を暴かれていた。

 あとはもうされるがままだった、うっかり開いた口の中を好きなだけ蹂躙された、おそらくユキは既に僕自身より、僕の口内に詳しくなったに違いない。
 息はあがってしまって、脈も速い、実はものすごく気持ちよかった……はじめてだったのに、こんなにされるなんて酷い。

「気持ちよかっただろ?」
「っ! 全然!」
 思わずプイッと横を向いた、すると目元からツゥーと涙が流れてきた、口元もべちゃべちゃだ、顔は酷いことになっているだろう。

「身体は嘘をつかないぞ」

 そう言ってユキは僕の胸から下にツーと指を這わせて、止まったところは僕の男たる部分で、そこはしっかりと反応してしまっていた。
「うそっ!?」
「ヌいてやろうか?」
 ニヤリと意地悪な笑顔が視界に入る、これ以上はダメだ! 絶対にダメだ! 戻れなくなる。
 ブンブンと首を横に振り、拒否を示したけれども……やっぱり止まってくれる気は無いらしい。
 ズボンのホックが手際よく外され、下着の中に冷たい指先が入って、僕がぎゅっと目を瞑ったその時に。

真里まさと——っ! 大変なの! 見てよこれ!」
 と、母さんの随分楽しそうな声と共に、階段を上がってくる足音が聞こえた。

「ちょ! ちょっと待って! あとで下に見に行くから!」
 母さん……ありがとう、僕の大事なものを守ってくれて。
 チッと舌打ちが聞こえた、あのまま流されてたら、どうなってたんだろう……。

ーーーーー

「ジャジャーン、見て見てこれ! 母さんついに当てちゃったのよ!」
 母さんの嬉しそうなこの笑顔、息子のファーストキスとの引き換えなんだよなぁ……と思うととても複雑な気持ちになった。

「あら? どうしたの? 顔が赤いわよ」
「あー……、大丈夫ちょっと風邪っぽいだけ」
 最近母さんに嘘ばかりついてる気がするけど、さすがに今日の出来事は話せない。

「そうなの、じゃあこのバス旅行は次の機会にしましょうか」
「それってペア招待券でしょ? 母さんと父さんで行って来なよ」
「さっき旅行会社に電話したら、1人分の料金払えば3人で行けるらしいのよ、真里と一緒に行きたいの」
 あ、だめだこれ、嬉しくて泣く……!

 涙腺にきてるのをグッと堪えた、父さんは忙しい人だから、土日両方休みが取れるのは今週末が半年ぶりだ、次を待ってたらいつになるか分からない。
 僕は正直、色々な問題を抱えたまま旅行はちょっと気分が乗らなかった、ユキも絶対ついてくるだろうし……正直旅行は不安要素しかない。

「父さんの次の機会がいつになるか分からないし、旅行券は期限付きだよね、2人で楽しんできてよ! 3人で旅行ならいつでもいけるし」
「……じゃあ明日までに風邪治してね、そしたら3人で行けるでしょう! 今日は温かくして、早く寝なくちゃね」
 母さんごめん……僕の風邪は治らない。
 色々片付いたらバイトしよう、そして二人を旅行に誘おう! 両親はバイトするのをOKしてくれるだろうか? 何かと過保護に育ててもらった自覚があるので、今から両親を説得する材料を探さなければいけないなぁ……。

 母に豚肉の生姜焼きと葛湯を供給され、お風呂であったまってすぐ寝るように二階に追いやられた、そして今、自室の扉を開けるのに躊躇している。

 ユキはまだ居るかな……居るよね多分。あんなことされた後ってどういう顔してたらいいんだろう、さっぱり分からない。かつてこれ程までに自分の部屋に入りにくい事があっただろうか……。

 ふぅー……よし! 普通に! 普通に!
僕は気合をいれて、ガチャリと部屋の扉を開けるとそこには……そこには僕のベッドでゴロゴロしている、犬耳野郎が居た。

「人のベッドで何してるの?」
「ここ真里の匂いがしていいなぁ、匂いだけで2回はヌけたぞ」
「最低だ! ベッドクリーニングに出したい!」
「ははは! 冗談だよ」
 本当に冗談!? 本当に!? この最低淫魔!

 もう完全に相手のペースだ、僕が主導権を握って動かすなんて出来るんだろうか? いやいや、やらないと! やらないとこのまま色々なものを失いそうだ!
「なんで僕を選んだの?」
「なんだ、また口説いて欲しいのか?」

 ユキはまたニヤニヤしながら軽口を叩いていたけど、僕の真剣な顔を見て、その顔が引き締まった。
「おいで真里」

 すごく優しい声だった、懐かしいような、切ないような……吸い寄せられるように差し出されたその手を取って、ユキの横に座った。

「この薄い髪色、ふわふわの癖っ毛、お前は嫌いかもしれないが、俺は可愛いと思う」
 すごく真面目な顔したから近くに来たのに……本当に口説きたかっただけかと少し呆れた、それでもユキは気にせず続ける。
「柔らかい見た目とは裏腹に、芯が強いところと頑固なところも好きだな、一度決めたことはなかなか曲げないしな」
 ユキは思い出すように、遠くを見ながら喋っていた……思い出すように、目の前にいる僕の事を語る。

「それにここだ」
 そう言ってユキは僕の胸に、手の甲をトンと当てた。

「憎悪に包まれながらも、中心がキラキラ光ってる、この強い魂が好きだ」
「魂が……見えるの?」
「見えるよ、この光がずっと好きだった」
 なんでそんな泣きそうな顔して僕を見るんだ、なんだかこっちまで泣きたくなってくる。

「実はさっき緊急会議の連絡が入ってしまった、残念だが今夜は熱い夜を過ごせそうにない」
「君は口を開けば下ネタしか言わないのか」
 僕の感動を返せ馬鹿野郎。

 呆れ顔の僕に大喜びしながら、今日の夜もユキは魔界へと帰っていった。

 僕の中に熱だけを残して。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...