上 下
24 / 31

自覚 —いたずら—

しおりを挟む
 日が登った頃に起きて、朝の浜辺を走り、卵やハムやサラダみたいな洋食な朝ごはんを食べながら、メニューに合っていない出汁なしの味噌汁をすすった。

「よし、釣りに行こう」

 唐突にそう切り出した俺に、グレイとジェイスが目を丸くするようにこっちを見た。

「俺見ちゃったんだけど、コテージの裏に釣り竿置いてあったよな! あら汁が飲みたいんだよ!」
 出汁のきいていない味噌汁は味気なさすぎる。今この状況で一番簡単に出汁をとる方法は、魚介! これだけ海に囲まれてるんだから、魚や貝は手に入れられるはずだ。

「僕は遠慮しておくよ……」
「なんで?」
 グレイはドン引きしている様子で完全拒否のジェスチャーをしている。意外な反応に、思わず興味が湧いた。
「グレイは生きた魚が触れないんだ」
 ジェイスがニヤニヤと笑いながらグレイを見ていて、グレイの弱点を知った俺も思わず同じような顔になる。

「やんなくていいから行こうぜ」
 グレイがビビってるところが見たい! そんな悪戯心がうずかないわけがなかった。
「No way! ぜったい行かない!」
「えー……俺と一緒に居たくねーの?」
 わざとらしく寂しそうな声で言えば、グレイが揺らぐような表情を見せた。
「グレイが一緒じゃないと楽しくないじゃん、俺は三人一緒がいいんだけどなー……」
「わかったよ」
 抵抗を諦めたグレイがしぶしぶ頷いて、俺は盛大に心の中でガッツポーズをした。

 朝走る時には折り返す岩場まで来て、ジェイスが持ってきてくれていた道具で準備を進めた。
 釣りは好きだ、晩御飯の調達ができるからな!
 ずっと昔に買ってもらった釣竿を、後生大事にずっと使ってたんだよな……懐かしいな、まだ実家にあるだろうか。
 なんにせよ、ジェイスが持ってきてくれてるのが、実用的なもので良かった。

 グレイは日陰に折りたたみイスを置いて、肘をついて楽しくなさそうに俺たちを見ていた。
 暇を持て余している様子に申し訳なさを少し感じるが、俺は俺の楽しみを優先したい。

「そういえば、グレイが魚嫌いなのになんで釣り道具なんかあるんだ?」
「万が一食料が尽きたら怖いだろ?」
 そりゃ、実用的なものを選ぶわけだ……って、ガチで無人島なんだな。この島がどの国のどこにあるのか知らないけど、台風や嵐でずっと帰れないとか、コテージ吹っ飛ぶとか……そういうことが起きないように祈るばかりだ。

 ジェイスと一緒に糸を垂らしていると、早速アタリがある! 結構引くから大きいかもしれない、なんてワクワクしながらリールを巻き上げる。
「さすがコーヤ! 早いな!」
 ジェイスが嬉しそうに声をかけてくれるが……その反応は、俺が学生時代に晩飯の調達をしてたのを知ってるな。当然か、9年間ストーキングされてるんだからな。

 ジェイスが網ですくってくれて、中を覗き込んで確認する。南国だからカラフルな魚かと思ってたけど、銀色だ! すごく見覚えあるフォルムだな、っていうか……。

 これ鯵だな。

「アジ……」
 しかもマアジ……え、マアジって世界的に分布してるんだっけ?
「なかなか大きいな!」
 ジェイスが網を覗き込んでから、嬉しそうに俺と目線を合わせた。確かに刺身に出来そうなくらいの大きさだけど……。
 こういう時スマホがあれば、生息地なんて簡単に調べられるけど、俺には今その手段がない。

 人が混乱している間にジェイスの竿も引きはじめて、今度は俺がすくう。

 次の魚は……鯖だ。マサバだ。

「おい……ジェイス、俺の気のせいじゃなければ、ここ日本だろ」
「ハッハッハッハッ! バレたか!」
「えっ、日本じゃないと思ってたの?」
 終始つまらなさそうにしていたグレイが、はじめて身を乗り出すようにしてきた。

「な……んで早く教えて……」
 くれなかったんだ! って言う前に、恥ずかしすぎて声が出なかった。
 俺、ずっと国外だと思ってたのに……! 外が暑く感じていたけど、言われてみれば夏なんだからあたりまえに暑かった。

「まさか国外だと思ってるなんて知らなかったよ! ジェイス! なんでそんな面白いこと教えてくれなかったんだ?」
 グレイはひたすら可笑しそうに笑っていて、それがかなり腹が立つ。
「悪い悪い! 勘違いしたままなの忘れてたんだよ!」
 ジェイスが俺の肩を叩いて謝ってきた。わざとじゃないなら……まぁ、いいけど。
「洸也はまずパスポート作らなくちゃでしょ?」
 グレイにハンッと鼻で笑われた気がして、恥ずかしさでカッとなった。

 絶対バカにしてるだろ! ムッとしたのと悪戯心から、網の中の魚の口を持ってグレイに向けた。
「!!」
 ビックリしてイスから立ち上がったグレイに、少し気分が晴れた気がした。なかなか可愛い反応するじゃないか!
 そこで満足していれば良かったのに、俺はもっと珍しいグレイの顔が見たくて、魚を持ったまま迫った。
「洸也っ!」
 少し怒った声で俺を呼びながら、グレイは静かに、しかし慌てて逃げ出す。

 普段あれだけ気が強そうなグレイが、慌てふためく様子は少し楽しくなってくる。
「ハハッ、本当に苦手なんだな」
 あまりしつこいと怒るよな……この辺にしておこうと、魚をクーラーに入れた。
「コーヤ……お前」
 ジェイスが憐れむような目で俺を見ていた。
 嫌な予感がして振り返ると、グレイの手が伸びてきたところだった。
「グレッ……」
 胸ぐらを掴まれて、引き上げられて、立ったまま無理矢理日陰の方に引っ張られる。
 ヤバい! 既に怒ってた!!!

 取り敢えず胸ぐらを掴むのをやめて欲しくて、その手に触れようとしたら。
「触るな!」
 ものすごく嫌悪感を出した顔で睨まれた……怖いし、なんか汚物を見るような目で見られると辛い!

「そんなに怒らなくても……ちょっと反応が見たかっただけ」
「僕はイヤだって言ったよね?」
 お前だって散々俺がイヤだって言ったのに、やめてくんなかったじゃん!!!! 本当コイツ理不尽!

「そこに手ついて」
 岩の壁まで連れて行かれて、壁に押し付けられそうになった。焦って手を付けば、すぐさま海パンがずり下ろされた。
「なっ!?」
 壁に手を付けた状態で、下半身を晒される格好は……あまりにも情けなくて、惨めだ。

「絶対に僕に触らないで」
 そう念押ししてきたグレイが、俺の後ろに立った。そこから背中を下に向けて強めに押されて、これは尻を突き出せって言われてるんだと理解した。
「ここでヤんの!?」
 立ったまま!?
「早くして」
 低い声で言われたら、心が萎縮した。怒ったグレイには逆らえない。
 後ろでニチャニチャと音がした。グレイが自分のモノにローションを塗りつけていて、本気なんだと腹を括った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

処理中です...