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思い出
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秋口の部活帰りで日もだいぶ暮れはじめた時間帯。
家までの道中コンビニで買ったアイスを貪りながら、途中の公園で黄昏ている少年の後ろ姿を見つけた。
その背中はどこか寂しそうで、それなのに構って欲しくないといった雰囲気を漂わせていた。
わかるぜ……一人になりたい時もあるよな。なんて、一匹狼を気取っているようなその少年に勝手に感情移入した。
手を伸ばせばギリギリ届くくらいの高さの滑り台、近づいて袋の中から2つ買ったうちの未開封のアイスを開けた。
「やるよ」
とだけ言って、パ○コを割った片割れを差し出した。2つ買ったうちの1つの片割れだ……つまり買った量の1/4だ、我ながらセコい。
「これは、なんですか?」
と、心底不思議そうに聞いてきたその少年は黒髪で、俺が小、中学生の時に着ていたヨレヨレのTシャツとは違う、小綺麗な格好をしていたような気がする。
聞き返してきた口調は独特な訛りがあって、どこか遠い地方から引っ越してきたのかな? なんて、勝手に想像を巡らせた。
「お前パ○コ知らねーのかよ! アイスだよ! アイスクリーム!」
これを知らないなんて、とんだど田舎から出てきたんだな……なんて、見るからに年下なのもあって上から目線で見ていた。
俺には弟、妹合わせて三人いるから、遅い時間になってきていたのが少し心配だったくらいで、別に悩みを聞いてやろうなんて思ってなかった。
この年頃で構って欲しくない時期だなってのも分かってたし、ちょっと遅く帰って親を心配させたり、悪ぶってみたい時期だよなーなんて。経験者の俺はわかってるぜみたいな雰囲気で、滑り台の階段に座り込んだ。
「あなたなら正解がない答えは、どう解決しますか?」
突然滑り台の上から背中越しに話しかけられてビックリした、コレ食ったら帰れよって言って立ち去るつもりだったから。
「……正解がないって事は、間違えじゃなきゃ好きにしていいって事じゃねーの?」
その問題は夏休みの読書感想文とか、啓発ポスターみたいな……そういうものの事を言っているんだろうと思っていた。
「好きに……」
「お前の中の正解でいいんだよ」
「でも、父がそれを認めなかったら?」
「は? 親は関係ないだろ? 認めてもらうためにやってんのかよ、それってお前の意思じゃなくて親の意思じゃん」
たぶんすごいドヤ顔で語った。
俺、めっちゃいい事言ったみたいな顔で。
「認めてもらえなかったら、存在してる意味がない」
「なんで認められないと意味がないんだよ! 親の顔色なんてどーでもいいだろ、大袈裟なやつだな」
階段の途中から飛び降りて、滑り台の上を見上げてみたが、夕暮れの逆光のせいで顔は見えなかった。
小中学生くらいの年齢の子供が、親に見限られれば生活なんて出来ない。そんなこと考えればわかる事だが、まだ中二病を引きずっているような頃合いの俺は、カッコいい自分を演じるのに必死だった。
「好きに生きろよ、お前の人生だろ」
年下のそいつに向かって、最高のキメ顔で言った。
自分は周りの人間の目とか気にするくせに、よくもまぁ他人事だと思って好き勝手に。相手がわからない事をいい事に、かっこいい自分を演じられる相手なのをいい事に。
「もう遅いから帰れよ、親のためじゃなくて自分のためにな」
そのまま公園を出ようと歩みを進めた。
「あなた、名前は!」
名乗るほどのものでもないぜ……なんて言ってみたかったけど、さすがにそれは恥ずかしすぎた。
近所の公園だし、何かの拍子で再会も十分にあり得る。
「こーやだよ、汐見洸也! アイスの恩返しに来てもいいぜ」
なんて、カッコつけて公園を去ったっていう……。
以上がグレイから話を聞いて、俺が思い出せるだけ思い出せた記憶だ。
三人でシャワーを浴びて、バスローブ姿で少し遅い昼ごはんを食べた。その後に、グレイに思い出したことを伝えて、相互確認をする事になったわけだが……。
「洸也が思い出してくれて嬉しいよ!」
心から嬉しそうな声でグレイは俺を抱きしめたんだが、俺には全く理解できない。
思い出しても、ただただ自分の黒歴史が恥ずかしいだけの話だ!
「お前、この話のどこに9年も俺に惚れてられる要素があるんだよ」
「僕は洸也の言葉で雷に撃たれたみたいだったんだ、それから全てが上手くいったんだよ、僕にとって洸也との出会いは人生で最高の出来事だよ!」
そう言ってくれるのは嬉しいが、自由すぎるグレイのこの性格が、俺のせいだと思うと責任を感じる……。
食器を片付け終わったジェイスが、抱きつくグレイを微笑ましげに見ていた。
「元々グレイはその時の礼がしたくて、コーヤを探してただけなんだけどな」
「そうなのか?」
じゃあその時に惚れられたってわけじゃないのか!? それだと逆にいつから? 接点ないだろ。
「僕の雇った人が優秀で、洸也の事すごく細かく報告してくれたんだよね」
「え……っ」
「洸也について定期報告貰ってたら、身近に洸也がいるみたいで、すごく好きになってて……もう僕のものにしないといけないかなって」
「待て、思考が完全にストーカーのそれだぞ」
ゾワッと鳥肌が立った。きっかけ関係なく、俺の事ストーキングして好きになったって事だろソレ!!
「いや、グレイも本当に手を出すつもりはなかったんだぞ!?」
焦ってジェイスがフォローしてきたが、実際俺は拉致られてるわけだから、そのフォローは無意味だ。
「だって洸也……僕にあんな事言ったのに、人に流されてばっかりだし」
「う゛っ……」
「恋人を見る目もないし」
「ぐっ……!」
「働きすぎで体を壊しそうで心配だった……」
あ、最後のちょっとキュンとした。
「いや、でも他にやり方があっただろ」
「……洸也、僕のこと気付いてくれなかったでしょ?」
「はぁ……? いつの話……」
そういえば、どえらい会社の次期社長が視察に来るって、2週間前くらいに上司が騒いでたな。
「……もしかしてウチの会社に来た?」
「すれ違ったのに! 洸也は僕を見てもくれなかった!」
多分仕事でくたくたで、歩くので精一杯だったんだろうな。しかし、こんな目立つやつとすれ違って見もしないなんてあるか?
「僕は洸也に再会できたら、頑張ったでしょって言おうと思ってたのに……」
「すれ違ったって言っても、30mくらい先でめちゃくちゃ遠かったけどな」
「んなもん気付けるか! そもそも初めて会った時が変装なんだから、気付くわけないだろ!」
ジェイスと俺からつっこまれて、グレイは不機嫌そうにムスッとしている。
「なんだよ、頑張ったなって褒めてほしいのか?」
昔の話を思い出したからってわけじゃないが、あの時みたいに少し上から目線で言ってみると、思いのほかグレイは目をキラッと輝かせた。
それは肯定なんだよな!? グレイはプライドが高くて、サディストで、俺から見れば雲の上の人のような……そんな世界で生きてる人間なのに、俺に褒めてほしいのか!?
自分で現状を変えることもできないような、俺みたいなヘタレになぜこんなに執着するのか……。
不思議に思いながらも、悪い気はしない。
「すごいよお前は、本当にな……尊敬する」
次期支社長って事は、自分の力で親や会社の人間を認めさせたって事だよな。大学だって飛び級で卒業しちゃってるし、きっと俺には想像もできないくらい努力してる。
ずっと俺にしがみついているグレイを抱き返したら、俺を抱く腕の力をさらに強めた。
痛い! 痛い!! 折れる!!
『この時間がずっと続けばいいのにな』
「ん? なんて言ったんだ?」
「実は洸也を連れてきた日は、僕の誕生日だったんだ」
「へ、へぇ……って二十一歳の誕生日か!?」
特別な日だろうに、なんでそんな日に拉致強姦なんて犯罪を犯しちゃうんだろうな、お前は。
「洸也に最高のプレゼントを貰っちゃったな」
「いや、ギフトじゃなくて強奪だっただろ」
俺の尻の処女……。しかもめちゃくちゃ平手食らったし、9年も想ってる相手への仕打ちとは思えねぇよ。
今思い返してもひどいと思う、それを既にどうでもいいと思いはじめている俺自身も大概だ。
「僕はしっかりとした稼ぎがあるちゃんとした大人になったよ、だから責任を取れるんだよ」
グレイが人差し指で俺の顎を押す。自然と口が開いたところを、覆うように唇で塞がれた。
舌を差し入れられてるんだが、俺の脳内は今そのキスに集中できない……。
なんだ、責任って! 今のまるでプロポーズみたいじゃないか!?
家までの道中コンビニで買ったアイスを貪りながら、途中の公園で黄昏ている少年の後ろ姿を見つけた。
その背中はどこか寂しそうで、それなのに構って欲しくないといった雰囲気を漂わせていた。
わかるぜ……一人になりたい時もあるよな。なんて、一匹狼を気取っているようなその少年に勝手に感情移入した。
手を伸ばせばギリギリ届くくらいの高さの滑り台、近づいて袋の中から2つ買ったうちの未開封のアイスを開けた。
「やるよ」
とだけ言って、パ○コを割った片割れを差し出した。2つ買ったうちの1つの片割れだ……つまり買った量の1/4だ、我ながらセコい。
「これは、なんですか?」
と、心底不思議そうに聞いてきたその少年は黒髪で、俺が小、中学生の時に着ていたヨレヨレのTシャツとは違う、小綺麗な格好をしていたような気がする。
聞き返してきた口調は独特な訛りがあって、どこか遠い地方から引っ越してきたのかな? なんて、勝手に想像を巡らせた。
「お前パ○コ知らねーのかよ! アイスだよ! アイスクリーム!」
これを知らないなんて、とんだど田舎から出てきたんだな……なんて、見るからに年下なのもあって上から目線で見ていた。
俺には弟、妹合わせて三人いるから、遅い時間になってきていたのが少し心配だったくらいで、別に悩みを聞いてやろうなんて思ってなかった。
この年頃で構って欲しくない時期だなってのも分かってたし、ちょっと遅く帰って親を心配させたり、悪ぶってみたい時期だよなーなんて。経験者の俺はわかってるぜみたいな雰囲気で、滑り台の階段に座り込んだ。
「あなたなら正解がない答えは、どう解決しますか?」
突然滑り台の上から背中越しに話しかけられてビックリした、コレ食ったら帰れよって言って立ち去るつもりだったから。
「……正解がないって事は、間違えじゃなきゃ好きにしていいって事じゃねーの?」
その問題は夏休みの読書感想文とか、啓発ポスターみたいな……そういうものの事を言っているんだろうと思っていた。
「好きに……」
「お前の中の正解でいいんだよ」
「でも、父がそれを認めなかったら?」
「は? 親は関係ないだろ? 認めてもらうためにやってんのかよ、それってお前の意思じゃなくて親の意思じゃん」
たぶんすごいドヤ顔で語った。
俺、めっちゃいい事言ったみたいな顔で。
「認めてもらえなかったら、存在してる意味がない」
「なんで認められないと意味がないんだよ! 親の顔色なんてどーでもいいだろ、大袈裟なやつだな」
階段の途中から飛び降りて、滑り台の上を見上げてみたが、夕暮れの逆光のせいで顔は見えなかった。
小中学生くらいの年齢の子供が、親に見限られれば生活なんて出来ない。そんなこと考えればわかる事だが、まだ中二病を引きずっているような頃合いの俺は、カッコいい自分を演じるのに必死だった。
「好きに生きろよ、お前の人生だろ」
年下のそいつに向かって、最高のキメ顔で言った。
自分は周りの人間の目とか気にするくせに、よくもまぁ他人事だと思って好き勝手に。相手がわからない事をいい事に、かっこいい自分を演じられる相手なのをいい事に。
「もう遅いから帰れよ、親のためじゃなくて自分のためにな」
そのまま公園を出ようと歩みを進めた。
「あなた、名前は!」
名乗るほどのものでもないぜ……なんて言ってみたかったけど、さすがにそれは恥ずかしすぎた。
近所の公園だし、何かの拍子で再会も十分にあり得る。
「こーやだよ、汐見洸也! アイスの恩返しに来てもいいぜ」
なんて、カッコつけて公園を去ったっていう……。
以上がグレイから話を聞いて、俺が思い出せるだけ思い出せた記憶だ。
三人でシャワーを浴びて、バスローブ姿で少し遅い昼ごはんを食べた。その後に、グレイに思い出したことを伝えて、相互確認をする事になったわけだが……。
「洸也が思い出してくれて嬉しいよ!」
心から嬉しそうな声でグレイは俺を抱きしめたんだが、俺には全く理解できない。
思い出しても、ただただ自分の黒歴史が恥ずかしいだけの話だ!
「お前、この話のどこに9年も俺に惚れてられる要素があるんだよ」
「僕は洸也の言葉で雷に撃たれたみたいだったんだ、それから全てが上手くいったんだよ、僕にとって洸也との出会いは人生で最高の出来事だよ!」
そう言ってくれるのは嬉しいが、自由すぎるグレイのこの性格が、俺のせいだと思うと責任を感じる……。
食器を片付け終わったジェイスが、抱きつくグレイを微笑ましげに見ていた。
「元々グレイはその時の礼がしたくて、コーヤを探してただけなんだけどな」
「そうなのか?」
じゃあその時に惚れられたってわけじゃないのか!? それだと逆にいつから? 接点ないだろ。
「僕の雇った人が優秀で、洸也の事すごく細かく報告してくれたんだよね」
「え……っ」
「洸也について定期報告貰ってたら、身近に洸也がいるみたいで、すごく好きになってて……もう僕のものにしないといけないかなって」
「待て、思考が完全にストーカーのそれだぞ」
ゾワッと鳥肌が立った。きっかけ関係なく、俺の事ストーキングして好きになったって事だろソレ!!
「いや、グレイも本当に手を出すつもりはなかったんだぞ!?」
焦ってジェイスがフォローしてきたが、実際俺は拉致られてるわけだから、そのフォローは無意味だ。
「だって洸也……僕にあんな事言ったのに、人に流されてばっかりだし」
「う゛っ……」
「恋人を見る目もないし」
「ぐっ……!」
「働きすぎで体を壊しそうで心配だった……」
あ、最後のちょっとキュンとした。
「いや、でも他にやり方があっただろ」
「……洸也、僕のこと気付いてくれなかったでしょ?」
「はぁ……? いつの話……」
そういえば、どえらい会社の次期社長が視察に来るって、2週間前くらいに上司が騒いでたな。
「……もしかしてウチの会社に来た?」
「すれ違ったのに! 洸也は僕を見てもくれなかった!」
多分仕事でくたくたで、歩くので精一杯だったんだろうな。しかし、こんな目立つやつとすれ違って見もしないなんてあるか?
「僕は洸也に再会できたら、頑張ったでしょって言おうと思ってたのに……」
「すれ違ったって言っても、30mくらい先でめちゃくちゃ遠かったけどな」
「んなもん気付けるか! そもそも初めて会った時が変装なんだから、気付くわけないだろ!」
ジェイスと俺からつっこまれて、グレイは不機嫌そうにムスッとしている。
「なんだよ、頑張ったなって褒めてほしいのか?」
昔の話を思い出したからってわけじゃないが、あの時みたいに少し上から目線で言ってみると、思いのほかグレイは目をキラッと輝かせた。
それは肯定なんだよな!? グレイはプライドが高くて、サディストで、俺から見れば雲の上の人のような……そんな世界で生きてる人間なのに、俺に褒めてほしいのか!?
自分で現状を変えることもできないような、俺みたいなヘタレになぜこんなに執着するのか……。
不思議に思いながらも、悪い気はしない。
「すごいよお前は、本当にな……尊敬する」
次期支社長って事は、自分の力で親や会社の人間を認めさせたって事だよな。大学だって飛び級で卒業しちゃってるし、きっと俺には想像もできないくらい努力してる。
ずっと俺にしがみついているグレイを抱き返したら、俺を抱く腕の力をさらに強めた。
痛い! 痛い!! 折れる!!
『この時間がずっと続けばいいのにな』
「ん? なんて言ったんだ?」
「実は洸也を連れてきた日は、僕の誕生日だったんだ」
「へ、へぇ……って二十一歳の誕生日か!?」
特別な日だろうに、なんでそんな日に拉致強姦なんて犯罪を犯しちゃうんだろうな、お前は。
「洸也に最高のプレゼントを貰っちゃったな」
「いや、ギフトじゃなくて強奪だっただろ」
俺の尻の処女……。しかもめちゃくちゃ平手食らったし、9年も想ってる相手への仕打ちとは思えねぇよ。
今思い返してもひどいと思う、それを既にどうでもいいと思いはじめている俺自身も大概だ。
「僕はしっかりとした稼ぎがあるちゃんとした大人になったよ、だから責任を取れるんだよ」
グレイが人差し指で俺の顎を押す。自然と口が開いたところを、覆うように唇で塞がれた。
舌を差し入れられてるんだが、俺の脳内は今そのキスに集中できない……。
なんだ、責任って! 今のまるでプロポーズみたいじゃないか!?
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