社畜が男二人に拉致されて無人島性活

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 背中が温かくて少し目が覚めた、むしろ暑いと言っても過言ではなかった。
 上等そうなベッドに、海の見える景色、そして自分の首の下には他人の腕まくら……あぁ、やっぱり現実だったんだな。

 スゥスゥと後ろから寝息が聞こえて、振り返るとそこには、長い茶色いまつ毛のなんとも愛らしい寝顔があった。
 寝ていると無害そうなのにな……。

 俺、言わされたとはいえコイツの恋人になっちゃったんだよな……。

 そんな事を思い出しながら、二度寝を貪るためにもう一度目を瞑った。そういえば、起きる時間を気にせず眠るのって、ずいぶん久しぶりな気がする。

----

 次に目が覚めた時の状況は最悪だった。
 自分の両腕は頭のうえに上がった状態で、ベッドボードに手錠で拘束されていた。
 口には布で猿ぐつわをされていて、文句を言おうにも唸ることしか出来ない。

 オイッ、恋人に対する所業じゃないだろコレ!!!

 ガチャガチャと動かしてみるが、もちろん外れるはずもなかった。単純に手首が痛くなるだけだと判断したので、大人しく誰か来るのを待つことにした。
 布に唾液が染み込んで気持ち悪い、早くとって欲しい。

 ……これ、二人のどっちか来るよな? このまま放置なんてないよな!? 俺、このまま動けなかったら餓死すんの!? 絶対イヤだ! そんな苦しい死に方するくらいなら、一思いに殺してくれよ!

 時間が経てば経つほど、悲観的な考えが頭に浮かぶ。時間としては多分、目覚めて五分くらいしか経っていない。
 しかし、苦痛な時間は長く感じるもので、もう泣きたくなるくらいの精神になってくる。

 もうこんな場所イヤだ、帰りたい……!

 へにゃへにゃにしおれた心で、無駄な水分を失わないように必死に泣くのを堪えた。すると、キィと扉の開く音がして、思わずバッと勢いよくそっちに顔を向けた。

 入ってきたのはジェイスだった、朝とは服が変わっている。ワイシャツからアロハシャツに……くそッ、お前人を拘束したまま南国満喫してんじゃねーよ!!

「起きてたか! 悪いなそんなことして、今外すからな」
 俺のベッドに片膝を乗せて、真っ先に猿ぐつわを取ってくれた。不快な方から外してくれるのはありがたい、文句も言ってやりたいし。

「なんでこんなことするんだよ、どうせ逃げられないんだろ?」
 本当に逃げられないような状況なのか、他に人はいないのか、できることから探っていきたい。
 本当に俺に打つ手がないのであれば、こんな拘束必要ないはずだ。

「あぁ、自殺防止だ」
 サラッと言われてゾッとした……俺が自殺したくなるようなことしてるって、分かっててやってるって事だよな!?
「俺の目が離れる事になったから、少しの間だけ付けさせてもらった」
 ガチャっと手首の手錠が外れて、腕も自由になった。

「自殺なんて誰がするか! だから、そういうのやめろよ!」
 手首をさすりながらキッとジェイスを睨むと、琥珀色が綺麗な瞳で、ジェイスは俺をジッ……と見てきた。

「腹、減ったか?」
「え、そりゃぁ……減ってるけど」
 そういえば、昨日食べたものって、お昼に飲んだゼリー状の栄養補助食品だけだな。

「だよな、昨日のコーヤはまともに食ってなかったもんな」
「……まてよ、いつから俺のこと監視してたんだ!」
「いやー食ってないから助かったぜ、尻洗ってないからいつ事故が起こるかと」
 ハッハッハッ! とまた膝を叩いて笑うこの金髪野郎、人の言う事を無視するんじゃねぇ!

「まぁ、洸也のウ○コならグレイは気にしなさそうだけどな」
「ウ……ッ!?」
 事故って!!! 事故って!!! そう言うことか!!!!

「そんなことより飯食おうぜ」
 ジェイスが俺の腕を持って起き上がらせようとしてきたが、腰が痛すぎて正直歩きたくない。
 一瞬立ち上がるのを渋ったら、ジェイスはなんの躊躇もなく俺をお姫様抱っこした。

「なっ! 降ろせ!」
「腰痛いんだろ? 甘えとけよ」
 大人の男をお姫様抱っこ出来るって、お前の筋肉ヤバいだろ!! 恥ずかしくて顔が直視できないので、顔を両手で覆った。
 指の隙間からチラッと覗き見れば、思ったより高い! 怖い!
 改めて見たけど、ジェイスの身長は二メートルは無さそうだ。なさそうだが、それでもデカイ!

 ジェイスに抱えられて部屋を出たら、身長178センチある俺を横抱きにするには、このコテージの廊下は少し狭かった。
 体を斜めにして進むジェイスに、少しでも歩きやすくなるようにと、出来るだけ体を小さくした。
 俺の体に当たる胸筋がモリッとしてて、厚みすごっ! 肩もすごい!

 ちょっと触ってみたいとか思っていると、向こうからグレイが現れた。
 グレイの格好は、昨日見たのと同じ黒いワイシャツな気がする……暗がりでよく分からなかったけど、多分そうだ。
「Good morning 洸也、二回目だね」
「ちょうどいい、グレイ扉を開けてくれ」
「いいよ」
 別の部屋に入るための扉をグレイが開ける。

 一応、俺はお前の恋人なんだよな? 他の男に抱かれてて何にも思わないのか? 俺は彼女が他の男に抱えられてたら、絶対イヤだけどな!

 少しムカつくような気持ちでいると、ジェイスには抱き抱えられる以上に、アレコレとされているのを思い出して……そうだよな! アレがオッケーなら抱えられてるくらい何も思わないよな! と、独り納得した。

 ジェイスから椅子の上に降ろされて、テーブルの上を見れば、豪勢な食事が並んでいた。
 グリルチキンがふんだんに乗ったサラダ、サラダにはアボカドやトマトが乗っていて色鮮やかだ。
 メインは野菜たっぷりの雑穀米カレー、野菜スープが胃に優しそうで……思わずグゥとお腹が鳴った。

 ずげぇ、めちゃくちゃ健康的な食事! しかも日本人好みじゃないかこれ!? お前らステーキとかマ○クの方が好きなんじゃねーの!?

「これ、食べて良いの……?」
「コーヤに合わせて準備したんだから食えよ!」
「えっ、これジェイスが作ったのか!?」
 思わぬ返事が来て驚いた。

「野菜切る以外は冷凍してたやつだけどな」
「ジェイスのご飯はおいしいよ」
 グレイが向かいの席に座って、フォークをピコピコと上下させている。

 いただきますと手を合わせてから、空っぽのお腹にめちゃくちゃそそられるカレーを食べた。
 あぁ、すっげぇうまい……こんな奥さん欲しい!

 さっそく胃袋を掴まれてしまった気がする。

 こんな立派なというか、ちゃんとしたというか、手作りというか……とにかくしっかりした食事は久しぶりで、軽く感動すら覚える。

 いつもコンビニ弁当、コンビニ惣菜、インスタント食品、お友達はゼリー状栄養補助食品と栄養ドリンクだ。
「美味すぎて泣きそう……」
 実際に味も美味しいんだけど、オーバーじゃなくて、人の手で作られた食べ物に感動してる。

「大袈裟だな」
 そう笑い飛ばしたジェイスは、馬鹿にするわけでもなく、少し照れ臭そうにしていた。
「僕と一緒にいれば、毎日食べれるよ」
 フォークにレタスをサクサクと刺しながら、グレイがご機嫌そうに言ってくる。
「それを言うなら、お前じゃなくてジェイスと一緒にいればいいんじゃないか?」
 まるで自分の功績のように振る舞うグレイに、少し突っ込んでやろうと茶化すように言った。

「ジェイスが食事を作るのは僕のためだよ、ジェイスの給料だって僕が払ってるし」
 坊ちゃん、ポケットマネーで人一人雇ってらっしゃるんですか……? しかも身の回りの世話だけじゃなく、下の世話もさせてるんだろ? 一体いくら払ってるんだ。

「今更だけど、お前らってどういう関係?」
「雇用主とボディガードだよ」
 首を傾げながら言ってのけたグレイに、色々ツッコミどころは満載だ。普通はボディガードに、自分の息子をしゃぶらせたりはしない。

「雇用主という割には、親密そうに見えるけど……」
「! 洸也、それはジェラシーかい!?」
 いや、興味本位だ。
 身を乗り出すように瞳を輝かせるグレイに、多少の罪悪感を感じる。

「ジェラシーは感じてないな」
 グレイの視線を無視して、自分もサラダに手をつけた。皮がパリパリになるまで焼かれたグリルチキンが美味しそうで、早く食べたい。

「それはよかった、僕にとってジェイスは大切な人だからね」
「ブフッ」
 ジェイスが野菜スープを吹き出した。
 あぁ、もったいない。

『それ、母国語で答えるなら何になる?』
『所有物に決まってるだろ』
『だよな』
「え、なに? どうした?」
 急に英語で喋らないで欲しい。俺、英語の成績はマジで良くなかったんだ。

「俺は"所有物"なんだとよ」
 思わずチキンを口に入れようとした手を止めた。
「意味が全然違うだろ」
「グレイは日本語だとずいぶん愛らしい口調だが、プライベートの母国語は酷いもんだぞ」
 いや、分かる。
 何回もファ◯クって言ってるの聞いた。

「だからグレイに汚い日本語は教えるなよ」
「気をつける……」
「日本語はビジネス、汚い言葉は使わないよ、知っててもね」
 グレイは不満そうに、フォークをブンブン上下に振っている。それも行儀悪いからやめろよ……。

「洸也はすっかり馴染んだね、ぐっすり寝ていたみたいだし」
 そう言われて、一度起きた時にグレイに抱き締められていたのを思い出した。
 寝ている時に寄り添いたいなんて、正直俺はよほど本気の相手にしかしたくない。グレイが俺に恋人になって欲しいなんて、どのくらい本気で言っているのかは気になる。

 なんだか乙女チックな事を考えてしまった気がして、恥ずかしくてコップに入った冷え冷えの水を口に含んだ。
「あぁ、横でセックスしてても起きなかったな」
 ジェイスのとんでも発言に、ごぱっと口に含んだ水を吹き出した。
「ウェホッ! ゴホッ……待て、俺のベッドでセックスしてたのか」
 仮にも恋人になってくれと懇願した相手の横で、別の奴とセックスするって……どういう倫理観してんだ!

「ジェイスの声は大きいけど、洸也は起きなかったよ」
 ……危ない、また水を飲んでいたら吹き出すところだった。その言い草だと、どうにもジェイスが女役に聞こえるんだが!?

「グレイ……ジェイスとの肉体関係は浮気にならないのか?」
「洸也! それはジェラシー……」
「違う」
 俺としては、この南国を出る時には恋人関係を解消しておきたい。別れる理由は多い方がいい……なんなら今でも構わない。

「日本ではセックスドールも浮気になるの?」
「オイッ!」
 思わずツッコミを入れた。
 いや、さすがにオナホ扱いは不憫だ……。こんなに自分に尽くしてくれているボディガードを、グレイはもっと大切にするべきだ。
「コーヤも使うか? セックスドール」
 ジェイスがその称号を満更でもなさそうにして、舌を下品にレロレロさせてるのがめッッちゃくちゃ腹立つ! お前に同情した俺はバカなのか!?

「洸也、ジェイスはビッチだから不安かもしれないけど、僕もジェイスも検査はしてきたから安心して」
「なんの安心だよそれは!」
 いや、大事な事だけど……! 大事な事だけどさ!!!

「あのさ、二人でヤってりゃいいじゃん……なんで俺を巻き込むんだよ」
「洸也が欲しいから」
 グレイは一拍の間も空けずに言い切った。

 そのブルーグレーの大きな瞳にまっすぐに見つめられると、思わずたじろいでしまうものがある。
 そんなにストレートに求められたら、人間悪い気はしないものだ。

「洸也の恋人も、洸也の会社も、洸也じゃなくてもいい……でも、グレイル・ハリソンには洸也が必要だ」
「うぐっ……」
 どストレートに傷を抉る言葉が、その後の言葉で上書きされて嬉しい方に振り切れる。

「洸也の恋人は、恋人が三人いたよ」
「それは聞きたくなかった!!!」
「手配した男に口説かせたら、すぐに洸也の事フッたし」
「お前の仕業かよ!!!」
 思わずテーブルを叩きつけたくなったが、その手は抑えた。ジェイスの料理の前で、テーブルを殴りつけるなんて真似はできない……これは敬わなければならない代物だ。

「もういいよ、終わった事だし」
 気分を立て直すために、カレーを大きい匙にこんもり盛った。口いっぱいに頬張ったら、きっと怒りもどっかに行く。
「今の洸也は僕の恋人だから、ね?」
 首を傾げながら、ね? なんて言ってくるあざとい男に、可愛いと思った感情をカレーと一緒に飲み込んだ。
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