1 / 37
プロローグ
0
しおりを挟む
目の前に広がっていたのは炎だった。
燃える家々。倒れた木々に潰された家畜の鳴き声。空気を裂くような悲鳴と、轟音を立てる爆発。
硝煙と血の匂い、土埃に混じって漂う焼け焦げた肉と木材の臭い。
つい昨日までは、ここはのどかな村だった。
緑があふれ、風は穏やかにそよぎ、家々の煙突からは昼餉の煙が上がっていた。
どこかからパンの焼ける香ばしい匂いがし、犬が吠え、子どもたちの笑い声が響いていた。
争いとは無縁だった。永遠に続く日常が、疑いもなく明日も来ると信じていた。
だが、その"明日"は訪れなかった。
空が赤く染まり、家が焼け、あらゆるものが壊されていく。
どこからともなく現れた黒衣の影が、人々を襲い、火を放ち、魔術を用いて破壊の限りを尽くしていた。
「お母さん!お父さん!」
泣き叫ぶ声が響く。逃げ惑う村人。子を抱えて倒れる母親。助けを呼ぶ声が、次第に消えていく。
その中で、自分の手を強く引いたのは小さな手だった。
黒髪の少年。普段、村の中では見かけない、時折出会っては共に遊んだ少年が、自分を森へと連れていった。
何度も遊んだ、大きな木の根元にある隠し場所──太古の木の空洞。
「ここに隠れて」
そう言って、少年は自分を押し込み、小さな袋を手渡してきた。
中には、青い紐に通された緑色の宝石。
「これを持ってて。……ごめん。必ず助けるから」
その顔は、やけに哀しそうで、でも決意が宿っていた。
次の瞬間、爆音が響いた。少年の姿は、火の粉に紛れて消えていった。
袋を抱きしめるようにして、目を閉じた。
耳をふさいでも届いてくる悲鳴と怒号、獣の吠えるような唸り声。
時間の感覚はなく、ただ震えながら、必死に息を潜めていた。
──その日から、すべてが変わった。
記憶は朧げで、細部は思い出せない。
だが、あの少年の声と目だけは、今でもはっきりと残っている。
レイ・アルヴァの遠く、だが消えない記憶はここにあった。
燃える家々。倒れた木々に潰された家畜の鳴き声。空気を裂くような悲鳴と、轟音を立てる爆発。
硝煙と血の匂い、土埃に混じって漂う焼け焦げた肉と木材の臭い。
つい昨日までは、ここはのどかな村だった。
緑があふれ、風は穏やかにそよぎ、家々の煙突からは昼餉の煙が上がっていた。
どこかからパンの焼ける香ばしい匂いがし、犬が吠え、子どもたちの笑い声が響いていた。
争いとは無縁だった。永遠に続く日常が、疑いもなく明日も来ると信じていた。
だが、その"明日"は訪れなかった。
空が赤く染まり、家が焼け、あらゆるものが壊されていく。
どこからともなく現れた黒衣の影が、人々を襲い、火を放ち、魔術を用いて破壊の限りを尽くしていた。
「お母さん!お父さん!」
泣き叫ぶ声が響く。逃げ惑う村人。子を抱えて倒れる母親。助けを呼ぶ声が、次第に消えていく。
その中で、自分の手を強く引いたのは小さな手だった。
黒髪の少年。普段、村の中では見かけない、時折出会っては共に遊んだ少年が、自分を森へと連れていった。
何度も遊んだ、大きな木の根元にある隠し場所──太古の木の空洞。
「ここに隠れて」
そう言って、少年は自分を押し込み、小さな袋を手渡してきた。
中には、青い紐に通された緑色の宝石。
「これを持ってて。……ごめん。必ず助けるから」
その顔は、やけに哀しそうで、でも決意が宿っていた。
次の瞬間、爆音が響いた。少年の姿は、火の粉に紛れて消えていった。
袋を抱きしめるようにして、目を閉じた。
耳をふさいでも届いてくる悲鳴と怒号、獣の吠えるような唸り声。
時間の感覚はなく、ただ震えながら、必死に息を潜めていた。
──その日から、すべてが変わった。
記憶は朧げで、細部は思い出せない。
だが、あの少年の声と目だけは、今でもはっきりと残っている。
レイ・アルヴァの遠く、だが消えない記憶はここにあった。
10
あなたにおすすめの小説
happy dead end
瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」
シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。
異世界から戻ったら再会した幼馴染から溺愛される話〜君の想いが届くまで〜
一優璃 /Ninomae Yuuri
BL
異世界での記憶を胸に、元の世界へ戻った真白。
けれど、彼を待っていたのは
あの日とはまるで違う姿の幼馴染・朔(さく)だった。
「よかった。真白……ずっと待ってた」
――なんで僕をいじめていた奴が、こんなに泣いているんだ?
失われた時間。
言葉にできなかった想い。
不器用にすれ違ってきたふたりの心が、再び重なり始める。
「真白が生きてるなら、それだけでいい」
異世界で強くなった真白と、不器用に愛を抱えた朔の物語。
※第二章…異世界での成長編
※第三章…真白と朔、再会と恋の物語
王様の恋
うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」
突然王に言われた一言。
王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。
ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。
※エセ王国
※エセファンタジー
※惚れ薬
※異世界トリップ表現が少しあります
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
両片思いの幼馴染
kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。
くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。
めちゃくちゃハッピーエンドです。
【if/番外編】昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、夢の中で僕と結婚する
子犬一 はぁて
BL
※本作は「昔『結婚しよう』と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する」のif(番外編)です。
僕と幼馴染が結婚した「夢」を見た受けの話。
ずっと好きだった幼馴染が女性と結婚した夜に見た僕の夢──それは幼馴染と僕が結婚するもしもの世界。
想うだけなら許されるかな。
夢の中でだけでも救われたかった僕の話。
もしも願いが叶うなら、あの頃にかえりたい
マカリ
BL
幼馴染だった親友が、突然『サヨナラ』も言わずに、引っ越してしまった高校三年の夏。
しばらく、落ち込んでいたが、大学受験の忙しさが気を紛らわせ、いつの間にか『過去』の事になっていた。
社会人になり、そんなことがあったのも忘れていた、ある日の事。
新しい取引先の担当者が、偶然にもその幼馴染で……
あの夏の日々が蘇る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる