あなたを、愛したかった

やんどら

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第一章 Projective identification

ミサキ、私について

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 私は、暗い地下室で膝を抱いている。パイプベッドの上、白いマットレスが冷たい。この部屋に優しさはない。コンクリート打ち放しの、無機質で冷たい部屋。
 唇を指で触れてみる。
「桐生君の感じ……」
 ぼんやりと虚空を眺めながら、ひとり呟いた。誰も返事をしてくれないし、それを期待してもいない。
 ただ、私は彼にもう一度会いたいと思っていた。それは漠然としたもの。欲求ではない。ただ、そうすべきだしそうしたいと思った。当為ではないし義務でもない。ただ、そうあることが当たり前で、落ち着く。
「あ……」
 私はふと思い出した。口から洩れただけの音は対象の存在しない部屋で、虚しく消える。
 対象が存在しないというのは、私以外だれもいないという意味ではない。私さえもいないのだ。
 空虚とか、空っぽとか、そんなものではない。私は無いのだ。無いにもかかわらず、有ろうとしている。それがとてつもなく辛いんだ。

「私の名前って、ミサキ? 桐生君はミサキと呼んだ。呼んでいる……。でもミサキっていうのは……。あれ?」

 私はそれ以上考えられなくなった。なんとなく眠たくなってきたので、そのままベッドに横たわった。
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