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第3話 上達に近道無し!
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「46秒51!まどかちゃん、今日はノリノリだねぇ~!」
自分の走行もそこそこに裏方作業に徹している茉莉が、ストップウォッチ片手に自分の事のように嬉しそうに言った。
響子、ひとみ、まどかの3人は午後から本番車であるCR-Xのステアリングを握っている。
「まどか、気合入ってるなぁ。タイム差が殆ど無くなってきたよ」
「コースが短いのと難しいターンが無いことを考慮しても、基本部分で私たちとの差は小さくなってるって事かしらね」
ひとみと響子はここ最近、急成長しているまどかの走りに感心していた。
「最後に2本、全員でタイムアタックするわよ。コースは同じだけど最後のパイロンだけ360度ターンにするわ」
「はいよ!でも1年坊主たち、まともに走れるかな?」
「ふふ、あの練習の後だと厳しいかもしれないわね」
亜里沙、江梨奈、美優の3人は八千代と沙織の指導の下、交替しつつとは言えかれこれ2時間近くステアリングを回し続けている。
「はぁ~、ダメ!……もう腕上がんない!!」
江梨奈はシルビアから降りてくるなりその場にへたれこんだ。
「八千代、そろそろ最後のタイムアタックに入るみたいよ」
「そうか。よし、お前たち、今日の特訓はここまで!」
『お、終わったー……』
1年生3人はそろって安堵の声を上げる。
「確かにこの回し方はそれぞれの手を動かす量は少ないし、左手の位置も一定でシフト操作も安定しそう」
さしもの亜里沙も今までこんなにステアリングを回したのは初めてだ。その証拠に二の腕には強い張りを感じていた。
「亜里沙っちは冷静ねぇ……」
江梨奈と美優は、全く弱音も吐かず2時間ステアリングを回しきった亜里沙に少々あきれた様子だ。
「最後のタイムアタック、お前らのハンドル捌きをチェックしてるからな。しっかり意識して走るように!」
『はい!』
特訓を終え1年生3人にとって4年生=鬼教官という図式がすっかり出来上がっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
まどかが駆るCR-Xが最後の360度ターンをクリアしてゴールする。
「48秒73、最後ターンが少し大きくなったな」
睦美がストップウォッチ片手にタイムをノートに記入する。
「最後のターンはゴール側が下りになってるから、進入スピードをしっかり落とさないと車が流れてターンが大きくなるわ。今のまどかならそれでも回せるから気を付けて」
「はい!」
響子は車を降りて戻ってきたまどかに即座にアドバイスを送る。
「さてさて、問題の1年生達はどうかな?って、あーあー……」
先陣を切ってスタートしたのは寒河江江梨奈だ。が、最初のパイロンで大きくラインを外している。
送りハンドルを意識してスタートしたものの、走り出すと慣れない動作に腕が全くついてこない。ステアリングの舵角が全く足りずコーナーへ突っ込んでしまったのだ。
その後のコーナーも何とか送りハンドルで挑むがリズムは全く取れず、スラロームを走る頃には完全に元のクロスステアに戻っていた。
「はぁー…、鬼先輩に怒られる……」
「誰が鬼だって?」
車から降りるなりぼやいた江梨奈だったが、背後から八千代に声をかけられ思わずすっくと立ち尽くす。
「おいおい、そんなに驚かなくてもいいだろう。そう簡単にいかないのは私も承知の上だ。私も沙織も神沢も篠原も、何日もかけて矯正してきたんだ」
てっきり怒鳴られると覚悟していた江梨奈は少しほっとした表情を浮かべた。
「そうなんですね。ひとみ先輩もそうだったんですか?」
それでも緊張感から自然と敬語になる。
「いや、あいつだけは別だ。入部してきた時には既に基本を叩き込まれていたからな」
「へぇ~、やっぱりひとみ先輩って凄いんだ……」
「お、植田は頑張って送りハンドルを続けてるな」
とは言え明らかにのっそりとした運転で、スポーツ走行と言うよりはちょっと飛ばした市街地走行という印象だ。
「あれもこれも一気にやろうとするのが一番良くない。最初はステアリング操作に集中できるスピードで、徐々にペースアップしていくことだな」
「はい、ありがとうございます!」
『ヴアァァーーーーーーーーーーーン!!』
1本目、最後にスタートしたのは亜里沙だ。
1コーナー、2コーナーと中速区間は無難にクリアしていく。
「お、さすがに上手いもんだな」
「問題はこの後のスラロームね」
ひとみと響子は亜里沙がどこまでやれるか興味津々だ。
亜里沙はスラロームの進入でステアリングの10時の位置に右手の掌を押し付ける。右に180度ほどステアリングを回し軽くサイドを引いてスラロームに侵入する。車速をしっかり落としたロスの無いターンだ。
1本目のスラロームをクリアし、2本目のパイロンを右に入ろうとした時に異変が起きた。
―ステアリングが回せない!?―
そう思った時には2本目のパイロンを完全に行き過ぎてしまった。止む無く亜里沙はバックに入れコースに戻る。
「あーあーあー……」
ひとみが思わず声を上げる。
「守山はステアリング操作を右手にかなり依存しているな。今も左手でステアリングを押すところだが、今までなら右手でステアリングを引いてたんだろう。苦手のスラロームに意識が行った瞬間、頭がついて行けず手が混乱したか。こればっかりは慣れてもらうしか無いがな」
そう解説を付けたのは八千代だ。
「なるほど、さすが良く見てますね……」
八千代の走りを見る目の鋭さはひとみも良く知っている。
「もう一つ言っておこうか。今池、お前今日遅いな。神沢に負けてるし」
「!!」
『キュルルルルルルルルルルーーー!!』
コース上では沙織のシルビアが遂に呪縛から解き放たれたと言わんばかりにドリフトで滑走している。
部員達はそれぞれの課題を胸に2本目のタイムアタックに挑む。
ひとみは八千代の一言で発奮し、紙一重で響子をかわす。亜里沙は何とか走り切るも少し精彩を欠いた走りで合宿初日を終えた。
【タイムアタック結果】
ドライバー ベストタイム 車両 ベスト本目
今池ひとみ 47秒84 (CR-X) 2本目
神沢響子 47秒89 (CR-X) 1本目
篠原まどか 48秒41 (CR-X) 2本目
本郷睦美 49秒47(ミラージュ) 1本目
八草茉莉 50秒04(ミラージュ) 2本目
守山亜里沙 50秒12(ミラージュ) 2本目
寒河江江梨奈 55秒88(ミラージュ) 2本目
植田美優 59秒25(ミラージュ) 2本目
川名沙織 1分01秒13(シルビア)※全面ドリフト走行
自分の走行もそこそこに裏方作業に徹している茉莉が、ストップウォッチ片手に自分の事のように嬉しそうに言った。
響子、ひとみ、まどかの3人は午後から本番車であるCR-Xのステアリングを握っている。
「まどか、気合入ってるなぁ。タイム差が殆ど無くなってきたよ」
「コースが短いのと難しいターンが無いことを考慮しても、基本部分で私たちとの差は小さくなってるって事かしらね」
ひとみと響子はここ最近、急成長しているまどかの走りに感心していた。
「最後に2本、全員でタイムアタックするわよ。コースは同じだけど最後のパイロンだけ360度ターンにするわ」
「はいよ!でも1年坊主たち、まともに走れるかな?」
「ふふ、あの練習の後だと厳しいかもしれないわね」
亜里沙、江梨奈、美優の3人は八千代と沙織の指導の下、交替しつつとは言えかれこれ2時間近くステアリングを回し続けている。
「はぁ~、ダメ!……もう腕上がんない!!」
江梨奈はシルビアから降りてくるなりその場にへたれこんだ。
「八千代、そろそろ最後のタイムアタックに入るみたいよ」
「そうか。よし、お前たち、今日の特訓はここまで!」
『お、終わったー……』
1年生3人はそろって安堵の声を上げる。
「確かにこの回し方はそれぞれの手を動かす量は少ないし、左手の位置も一定でシフト操作も安定しそう」
さしもの亜里沙も今までこんなにステアリングを回したのは初めてだ。その証拠に二の腕には強い張りを感じていた。
「亜里沙っちは冷静ねぇ……」
江梨奈と美優は、全く弱音も吐かず2時間ステアリングを回しきった亜里沙に少々あきれた様子だ。
「最後のタイムアタック、お前らのハンドル捌きをチェックしてるからな。しっかり意識して走るように!」
『はい!』
特訓を終え1年生3人にとって4年生=鬼教官という図式がすっかり出来上がっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
まどかが駆るCR-Xが最後の360度ターンをクリアしてゴールする。
「48秒73、最後ターンが少し大きくなったな」
睦美がストップウォッチ片手にタイムをノートに記入する。
「最後のターンはゴール側が下りになってるから、進入スピードをしっかり落とさないと車が流れてターンが大きくなるわ。今のまどかならそれでも回せるから気を付けて」
「はい!」
響子は車を降りて戻ってきたまどかに即座にアドバイスを送る。
「さてさて、問題の1年生達はどうかな?って、あーあー……」
先陣を切ってスタートしたのは寒河江江梨奈だ。が、最初のパイロンで大きくラインを外している。
送りハンドルを意識してスタートしたものの、走り出すと慣れない動作に腕が全くついてこない。ステアリングの舵角が全く足りずコーナーへ突っ込んでしまったのだ。
その後のコーナーも何とか送りハンドルで挑むがリズムは全く取れず、スラロームを走る頃には完全に元のクロスステアに戻っていた。
「はぁー…、鬼先輩に怒られる……」
「誰が鬼だって?」
車から降りるなりぼやいた江梨奈だったが、背後から八千代に声をかけられ思わずすっくと立ち尽くす。
「おいおい、そんなに驚かなくてもいいだろう。そう簡単にいかないのは私も承知の上だ。私も沙織も神沢も篠原も、何日もかけて矯正してきたんだ」
てっきり怒鳴られると覚悟していた江梨奈は少しほっとした表情を浮かべた。
「そうなんですね。ひとみ先輩もそうだったんですか?」
それでも緊張感から自然と敬語になる。
「いや、あいつだけは別だ。入部してきた時には既に基本を叩き込まれていたからな」
「へぇ~、やっぱりひとみ先輩って凄いんだ……」
「お、植田は頑張って送りハンドルを続けてるな」
とは言え明らかにのっそりとした運転で、スポーツ走行と言うよりはちょっと飛ばした市街地走行という印象だ。
「あれもこれも一気にやろうとするのが一番良くない。最初はステアリング操作に集中できるスピードで、徐々にペースアップしていくことだな」
「はい、ありがとうございます!」
『ヴアァァーーーーーーーーーーーン!!』
1本目、最後にスタートしたのは亜里沙だ。
1コーナー、2コーナーと中速区間は無難にクリアしていく。
「お、さすがに上手いもんだな」
「問題はこの後のスラロームね」
ひとみと響子は亜里沙がどこまでやれるか興味津々だ。
亜里沙はスラロームの進入でステアリングの10時の位置に右手の掌を押し付ける。右に180度ほどステアリングを回し軽くサイドを引いてスラロームに侵入する。車速をしっかり落としたロスの無いターンだ。
1本目のスラロームをクリアし、2本目のパイロンを右に入ろうとした時に異変が起きた。
―ステアリングが回せない!?―
そう思った時には2本目のパイロンを完全に行き過ぎてしまった。止む無く亜里沙はバックに入れコースに戻る。
「あーあーあー……」
ひとみが思わず声を上げる。
「守山はステアリング操作を右手にかなり依存しているな。今も左手でステアリングを押すところだが、今までなら右手でステアリングを引いてたんだろう。苦手のスラロームに意識が行った瞬間、頭がついて行けず手が混乱したか。こればっかりは慣れてもらうしか無いがな」
そう解説を付けたのは八千代だ。
「なるほど、さすが良く見てますね……」
八千代の走りを見る目の鋭さはひとみも良く知っている。
「もう一つ言っておこうか。今池、お前今日遅いな。神沢に負けてるし」
「!!」
『キュルルルルルルルルルルーーー!!』
コース上では沙織のシルビアが遂に呪縛から解き放たれたと言わんばかりにドリフトで滑走している。
部員達はそれぞれの課題を胸に2本目のタイムアタックに挑む。
ひとみは八千代の一言で発奮し、紙一重で響子をかわす。亜里沙は何とか走り切るも少し精彩を欠いた走りで合宿初日を終えた。
【タイムアタック結果】
ドライバー ベストタイム 車両 ベスト本目
今池ひとみ 47秒84 (CR-X) 2本目
神沢響子 47秒89 (CR-X) 1本目
篠原まどか 48秒41 (CR-X) 2本目
本郷睦美 49秒47(ミラージュ) 1本目
八草茉莉 50秒04(ミラージュ) 2本目
守山亜里沙 50秒12(ミラージュ) 2本目
寒河江江梨奈 55秒88(ミラージュ) 2本目
植田美優 59秒25(ミラージュ) 2本目
川名沙織 1分01秒13(シルビア)※全面ドリフト走行
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