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第3話 上達に近道無し!
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「先輩、お疲れ様です」
シルビアから降りてきたのは愛心学院大学女子自動車部で昨年エースドライバーを務めていた4年生の川名沙織だ。
「響子~、久しぶり!就職活動で忙しくてぜんっぜん走れて無かったから良い息抜きになるわ!久しぶりの雁乃原だし気合入っちゃうかもー!?」
「こらこら、何で走る気満々になってるんだ?今日の目的はあくまで後輩のレクチャーなのを忘れてないだろうな……!」
そう言いながらシルビアの助手席からゆっくり降りてきたのは同じく4年生で昨年の部長だった砂田八千代である。しかしどうにも顔色が優れない。
「砂田先輩もお疲れっス、て大丈夫ですか?」
睦美が八千代に手を差し出す。
「ありがとう。そもそも沙織の運転で来たのが間違いだった……九頭竜を馬鹿みたいに飛ばすし、車酔いするし、走ってる間何度警察に通報してやろうと思ったか……」
「八千代ひどいー!隣に座ってるだけなんだからあんまり文句言わないでよね!」
「まぁまぁ、先輩たちは少し休んでて下さい。今準備してますから、終わったら新入部員を紹介しますね」
響子が八千代と沙織をなだめるように言った。
「すまん、気にせず準備を進めてくれ。それと今日のコース図だけ見せてもらおうかな」
そう言って響子からコース図を受け取ると、八千代と沙織はコース図とひとみ達が設置しているパイロンの位置を見比べながら話し始めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「みんな集まったわね。練習を始める前に今日手伝ってくれる4年生の先輩を紹するわ。こちらが去年部長だった砂田八千代先輩、そしてこちらは去年エースドライバーだった川名沙織先輩です」
「一年生のみんなはじめまして、砂田八千代だ。私は去年、部長とメカニックが主な仕事だったが、一番苦労したのはここにいる沙織とそこにいる今池の世話だ。みんなはくれぐれも神沢に迷惑を懸けないように頑張ってくれ」
「もう、いきなり私のネガティブキャンペーンは止めてよね。皆さんこんにちは!川名沙織です!車の運転は楽しんでナンボよ!あ、そちらの3人が新入部員ちゃんね。あ、貴方すごーい、メイクばっちりじゃない!」
そう言うなり沙織は江梨奈のもとに駆け寄った。
「私も結構気を使ってたけどこれから夏になるとホント大変なのよー、私はジェットフェイスのヘルメット使ってたけどあなたもうヘルメット買っちゃった?」
「え、あ、ヘルメットはまだ部にあったのを借りてて……」
江梨奈は問答無用でグイグイ迫ってくる沙織にこれが本物のギャルなのかと圧倒され、心が少し折れそうになっていた。
「あ、あの川名先輩。とりあえずこれから練習を始めますので密なコミュニケーションはのちほど……」
—今日の練習コース―
新入部員には初めてのコース練習ということで、コース全長は短くターンは控え目、コーナリング、スラロームを中心とした設定になっている。しかしスラロームの進入角度は深く、正確なターンで進入しないと秒差でタイムが表れる、現在の部員の力量を見定めつつ、基本動作をマスターさせるのが目的だ。
本番車両であるCR-Xは一旦待機させ、部員は各々の車、1年生はミラージュのステアリングを交代で握る形で練習を開始した。
練習走行が始まって2時間ほど、八千代と沙織は後輩たちの走りをじっくり観察している。ついさっきまではしゃいでいたのが嘘のように真剣なまなざしで視線の先にまどかのスイフトをとらえていた。
「篠原のやつ、随分と走りに勢いが出て来たな」
「そうねぇ、あの子性格も走りも引っ込み思案だったけど、今日は思い切って走れてるわ。少なくとも私たちが知ってるまどかとはもう別人ね」
「やっぱりあの1年の影響かな?」
八千代はスタートラインでストップウォッチを持ってタイム計測をしている亜里沙に目をやった。
「ふふ、それはありそうね。1年とは思えないほどちゃんと運転できてるし、まるで去年の響子とひとみの関係にそっくり」
「まぁ似てると言えば似てるが…ちょっと違うかな」
「あら、そう?」
「篠原があの1年を意識してるのは間違い無いだろうな、それは去年の神沢と一緒だ。一方今池は何も考えず速くなりたい一心でがむしゃらに走ってた。でもあの1年はどうだ?篠原の走りを食い入るように見てるだろ」
「それはそうじゃない?そんな事言ったら響子やひとみの走りも見てると思うけど?」
「まぁそうなんだが…お前、一番真剣に他人の走りをチェックするのはどんな時だ?」
「そんなの勿論競技の時よ。特に自分より速かった人、ライン取り、区間タイム、ブレーキングポイントとか」
「自分の眼中に無い奴の走りを真剣に見るか?」
「見ないわよ」
「篠原がいくら良くなったと言っても神沢や今池に比べたらまだまだだ。普通ならあの2人の走りを重点的に見る。でもさっきからあの1年、篠原の走りを一番真剣に観察してるように見えるんだよな。まるで何処が弱点なのか見定めてるみたいだ」
「あの子がまどかを喰いにかかってるってこと?」
「ああ、けっこう闘争心が強そうな今までのウチにはいないタイプだ」
「ふふ、じゃあ昼からCR-Xでドンパチ始めちゃう?」
「いや、その前にみっちりやらなきゃいけないことがあると思うけどな」
八千代はジムカーナを始めて1ヶ月とは思えない亜里沙のパフォーマンスを認めていたが、明確に足りていない部分に気付いていた。
「ええー、ひょっとしてあれやるのー!?私あれ退屈で嫌いなんだけど……」
沙織も即座に察したあたり同じ所が気にかかっていたようだ。
「そう言うな、その間に本郷や八草にもたっぷり走らせてやらなきゃ可哀そうだろ。そんな訳でお前のシルビア使わせてもらうからな」
「はいはい、前部長様のおおせのままに!」
登場車両紹介
スズキ スイフトスポーツ【型式 ZC32S】
篠原まどか 所有車両
2011年に登場した3代目スイフトのスポーツグレード。現在公認ジムカーナの主流クラスとなったPNクラスに該当する車両である。1050kgの車重を引っ張るのは136psを発揮するM16Aエンジン。90年代の車と比較すれば心もとない数値であるが、現代の車としては軽量な車重とあいまって比較的戦闘力は高い。軒並み20世紀の車両が占める愛心学院大学女子自動車部の中にあって最も現代的な車である。
シルビアから降りてきたのは愛心学院大学女子自動車部で昨年エースドライバーを務めていた4年生の川名沙織だ。
「響子~、久しぶり!就職活動で忙しくてぜんっぜん走れて無かったから良い息抜きになるわ!久しぶりの雁乃原だし気合入っちゃうかもー!?」
「こらこら、何で走る気満々になってるんだ?今日の目的はあくまで後輩のレクチャーなのを忘れてないだろうな……!」
そう言いながらシルビアの助手席からゆっくり降りてきたのは同じく4年生で昨年の部長だった砂田八千代である。しかしどうにも顔色が優れない。
「砂田先輩もお疲れっス、て大丈夫ですか?」
睦美が八千代に手を差し出す。
「ありがとう。そもそも沙織の運転で来たのが間違いだった……九頭竜を馬鹿みたいに飛ばすし、車酔いするし、走ってる間何度警察に通報してやろうと思ったか……」
「八千代ひどいー!隣に座ってるだけなんだからあんまり文句言わないでよね!」
「まぁまぁ、先輩たちは少し休んでて下さい。今準備してますから、終わったら新入部員を紹介しますね」
響子が八千代と沙織をなだめるように言った。
「すまん、気にせず準備を進めてくれ。それと今日のコース図だけ見せてもらおうかな」
そう言って響子からコース図を受け取ると、八千代と沙織はコース図とひとみ達が設置しているパイロンの位置を見比べながら話し始めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「みんな集まったわね。練習を始める前に今日手伝ってくれる4年生の先輩を紹するわ。こちらが去年部長だった砂田八千代先輩、そしてこちらは去年エースドライバーだった川名沙織先輩です」
「一年生のみんなはじめまして、砂田八千代だ。私は去年、部長とメカニックが主な仕事だったが、一番苦労したのはここにいる沙織とそこにいる今池の世話だ。みんなはくれぐれも神沢に迷惑を懸けないように頑張ってくれ」
「もう、いきなり私のネガティブキャンペーンは止めてよね。皆さんこんにちは!川名沙織です!車の運転は楽しんでナンボよ!あ、そちらの3人が新入部員ちゃんね。あ、貴方すごーい、メイクばっちりじゃない!」
そう言うなり沙織は江梨奈のもとに駆け寄った。
「私も結構気を使ってたけどこれから夏になるとホント大変なのよー、私はジェットフェイスのヘルメット使ってたけどあなたもうヘルメット買っちゃった?」
「え、あ、ヘルメットはまだ部にあったのを借りてて……」
江梨奈は問答無用でグイグイ迫ってくる沙織にこれが本物のギャルなのかと圧倒され、心が少し折れそうになっていた。
「あ、あの川名先輩。とりあえずこれから練習を始めますので密なコミュニケーションはのちほど……」
—今日の練習コース―
新入部員には初めてのコース練習ということで、コース全長は短くターンは控え目、コーナリング、スラロームを中心とした設定になっている。しかしスラロームの進入角度は深く、正確なターンで進入しないと秒差でタイムが表れる、現在の部員の力量を見定めつつ、基本動作をマスターさせるのが目的だ。
本番車両であるCR-Xは一旦待機させ、部員は各々の車、1年生はミラージュのステアリングを交代で握る形で練習を開始した。
練習走行が始まって2時間ほど、八千代と沙織は後輩たちの走りをじっくり観察している。ついさっきまではしゃいでいたのが嘘のように真剣なまなざしで視線の先にまどかのスイフトをとらえていた。
「篠原のやつ、随分と走りに勢いが出て来たな」
「そうねぇ、あの子性格も走りも引っ込み思案だったけど、今日は思い切って走れてるわ。少なくとも私たちが知ってるまどかとはもう別人ね」
「やっぱりあの1年の影響かな?」
八千代はスタートラインでストップウォッチを持ってタイム計測をしている亜里沙に目をやった。
「ふふ、それはありそうね。1年とは思えないほどちゃんと運転できてるし、まるで去年の響子とひとみの関係にそっくり」
「まぁ似てると言えば似てるが…ちょっと違うかな」
「あら、そう?」
「篠原があの1年を意識してるのは間違い無いだろうな、それは去年の神沢と一緒だ。一方今池は何も考えず速くなりたい一心でがむしゃらに走ってた。でもあの1年はどうだ?篠原の走りを食い入るように見てるだろ」
「それはそうじゃない?そんな事言ったら響子やひとみの走りも見てると思うけど?」
「まぁそうなんだが…お前、一番真剣に他人の走りをチェックするのはどんな時だ?」
「そんなの勿論競技の時よ。特に自分より速かった人、ライン取り、区間タイム、ブレーキングポイントとか」
「自分の眼中に無い奴の走りを真剣に見るか?」
「見ないわよ」
「篠原がいくら良くなったと言っても神沢や今池に比べたらまだまだだ。普通ならあの2人の走りを重点的に見る。でもさっきからあの1年、篠原の走りを一番真剣に観察してるように見えるんだよな。まるで何処が弱点なのか見定めてるみたいだ」
「あの子がまどかを喰いにかかってるってこと?」
「ああ、けっこう闘争心が強そうな今までのウチにはいないタイプだ」
「ふふ、じゃあ昼からCR-Xでドンパチ始めちゃう?」
「いや、その前にみっちりやらなきゃいけないことがあると思うけどな」
八千代はジムカーナを始めて1ヶ月とは思えない亜里沙のパフォーマンスを認めていたが、明確に足りていない部分に気付いていた。
「ええー、ひょっとしてあれやるのー!?私あれ退屈で嫌いなんだけど……」
沙織も即座に察したあたり同じ所が気にかかっていたようだ。
「そう言うな、その間に本郷や八草にもたっぷり走らせてやらなきゃ可哀そうだろ。そんな訳でお前のシルビア使わせてもらうからな」
「はいはい、前部長様のおおせのままに!」
登場車両紹介
スズキ スイフトスポーツ【型式 ZC32S】
篠原まどか 所有車両
2011年に登場した3代目スイフトのスポーツグレード。現在公認ジムカーナの主流クラスとなったPNクラスに該当する車両である。1050kgの車重を引っ張るのは136psを発揮するM16Aエンジン。90年代の車と比較すれば心もとない数値であるが、現代の車としては軽量な車重とあいまって比較的戦闘力は高い。軒並み20世紀の車両が占める愛心学院大学女子自動車部の中にあって最も現代的な車である。
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