14 / 19
第3話 上達に近道無し!
3-3
しおりを挟む 愛心学院女子自動車部一行は早朝の国道158号を西に向かっていた。岐阜県から福井県に抜け九頭竜湖沿いを走る『美濃街道』と呼ばれる風光明媚な道路だ。
先頭は響子のシビック【EK4】、続いてまどかのスイフト【ZC32S】、そしてひとみのRX-7、最後尾は睦美が運転するCR-Xとミラージュを乗せた2台積みの積載車だ。茉莉は積載車の助手席に、1年生は先輩の車にそれぞれ別れて乗っている。
「くぅー…くぅー……んぐがっ!」
「は!ごめん先輩!アタシ今思い切り寝てたっしょ!?」
「あぁ、もう一時間くらいぶっ通しで寝てたよ……」
ひとみのRX-7の助手席でいびきをたてていたのは江梨奈だ。
「あ、先輩見て見て!景色めっちゃ綺麗~!!地元を思い出しちゃうなぁ~」
「私はもう長いこと見続けてるけどな…」
江梨奈は話題を逸らそうとしたが完全に逆効果だ。
「いいって、気にしてないからよ。朝4時出発だししょうがねぇや。にしても意外だったなぁ、まさかお前が自動車部入ってくるなんてさ」
「え、あぁ…そう思っちゃいますやっぱり?アタシ名古屋出てきたばっかでまだ慣れてないんですよねー。で、語学で同じクラスの美優っちが自動車部興味あるって言うから付いてって、そしたら先輩の運転にハマっちゃったってワケ!」
「ふーん、お前ひょっとして友達少ない?」
「な…!ほ、ほだなごどないべ!」
「はは、こっちの喋りのほうがよっぽど可愛いじゃん!あの喋り方、無理してるの丸わかりだから回りも引いてるんじゃない?」
「ま、丸わがり…!?う、でも気ぃ抜ぐどすぐ方言さ出んだ…」
「だからってあの喋り方はねぇ…普通にしゃべればいいじゃん」
「頑張って…みます…」
そうは言ったが気恥ずかしさからしばらく口も開けず時が過ぎる。気が付けばワインディングロードは終わり辺りの景色もだいぶ開けてきた。
「先輩…アタシ、本当は東京の大学に行きたかったんだよね。でも東京はお金がかかるって親に反対されて。名古屋なら親戚がアパート持ってるからそこに下宿するならいいって。名古屋だって山形に比べたら大都会だろうと思って来てみたら、思ったほどでも無かったって言うか…正直仙台の方が都会でちょっとテンション下がってて……」
「ふーん、そんなもんかね?ま、言ってもお前の住んでるトコ名古屋じゃないしな」
「!?、え、ほんてんだの!?名古屋じゃねぇって!?」
「あー、もうすぐ着くぞー」
「ちょ、先輩、詳しく~!」
「今日は夜もたっぷり時間があるからな、そん時にでも説明してやるよ!」
—雁乃原スキー場—
愛知県からほど近い…と言っても遠征慣れした車馬鹿基準であるが。高速道路を使えば2時間半、経費節約で下道移動した彼女達は3時間半ほどをかけてやってきたのは、恐竜で有名な福井県勝山市にあるスキー場だ。
上下2面からなるスキー場の駐車場を、オフシーズン中はスポーツ走行用に低料金で開放している。土日ともなればスポーツ走行愛好家が何人も訪れるが、平日であればほぼ貸し切りで使用できる、懐事情が厳しい学生にとって大変ありがたい施設なのだ。
「やったー!一番乗り~!」
茉莉が積載車から降り、まだ誰も到着していないことを確かめ勝ち名乗りを上げる。
雁乃原暗黙のルールに1番乗りの人間がコースを作成する権利が得られるというものがある。貸し切りになっていなければ誰でもコースを走る事はできるがコース設定は早い者勝ちなのだ。
「へー、上と下2か所にコースが有るんですね。上の方が広そうですけど下を使うんですか?」
シビックから降りた亜里沙が全体を見渡して響子に尋ねる。
「上は正方形、下は長方形で一見上の方が広く見えるけど面積は同じらしいわ。それより上は路面の荒れがひどくてコースの外側はゴミだらけなの。それで上はドリフト、下はジムカーナと自然と使い方も分けられてるのよ。大昔は上と下をつないで使ったりもしたみたいだけど」
「よし、それじゃあ茉莉と1年生は車降ろすの手伝って。響子と他の2年はコース設営だ。一休みするのはそれからだよ!」
昨日の晩、実家の工場から借りてきた積載車へ部車の積み込みをまでして人一倍働いている睦美だが、疲れている素振りは全く見せない。
『ブロロロロロロロ……』
その時、1台の車がコースに上がってくる音が聞こえた。
「あら、意外と早く着いたみたいね」
「どうせ九頭竜かっ飛ばしてきたんだろうな……」
上がってきたのは真っ赤なシルビア【S14】だ。野太いマフラー、異常についたキャンバー、ところどころひび割れの有るフロントスポイラー。どこからどう見てもドリフト車両である。
「やっほー!みんなー、ひっさしぶりーー!!」
異様にテンションの高い女性が駐車場に止まるなり運転席から飛び出した。
登場車両紹介
ホンダ シビックSiR【型式 EK4】
神沢響子 所有車両
1995年に登場した6代目シビックのスポーツグレード。97年に同型をベースにしたタイプR【EK9】が登場したため影が薄いが、1.6Lながら170psを発揮するB16Aエンジンを搭載し、モータースポーツベース車としてタイプR同様長く前線で活躍している。
先頭は響子のシビック【EK4】、続いてまどかのスイフト【ZC32S】、そしてひとみのRX-7、最後尾は睦美が運転するCR-Xとミラージュを乗せた2台積みの積載車だ。茉莉は積載車の助手席に、1年生は先輩の車にそれぞれ別れて乗っている。
「くぅー…くぅー……んぐがっ!」
「は!ごめん先輩!アタシ今思い切り寝てたっしょ!?」
「あぁ、もう一時間くらいぶっ通しで寝てたよ……」
ひとみのRX-7の助手席でいびきをたてていたのは江梨奈だ。
「あ、先輩見て見て!景色めっちゃ綺麗~!!地元を思い出しちゃうなぁ~」
「私はもう長いこと見続けてるけどな…」
江梨奈は話題を逸らそうとしたが完全に逆効果だ。
「いいって、気にしてないからよ。朝4時出発だししょうがねぇや。にしても意外だったなぁ、まさかお前が自動車部入ってくるなんてさ」
「え、あぁ…そう思っちゃいますやっぱり?アタシ名古屋出てきたばっかでまだ慣れてないんですよねー。で、語学で同じクラスの美優っちが自動車部興味あるって言うから付いてって、そしたら先輩の運転にハマっちゃったってワケ!」
「ふーん、お前ひょっとして友達少ない?」
「な…!ほ、ほだなごどないべ!」
「はは、こっちの喋りのほうがよっぽど可愛いじゃん!あの喋り方、無理してるの丸わかりだから回りも引いてるんじゃない?」
「ま、丸わがり…!?う、でも気ぃ抜ぐどすぐ方言さ出んだ…」
「だからってあの喋り方はねぇ…普通にしゃべればいいじゃん」
「頑張って…みます…」
そうは言ったが気恥ずかしさからしばらく口も開けず時が過ぎる。気が付けばワインディングロードは終わり辺りの景色もだいぶ開けてきた。
「先輩…アタシ、本当は東京の大学に行きたかったんだよね。でも東京はお金がかかるって親に反対されて。名古屋なら親戚がアパート持ってるからそこに下宿するならいいって。名古屋だって山形に比べたら大都会だろうと思って来てみたら、思ったほどでも無かったって言うか…正直仙台の方が都会でちょっとテンション下がってて……」
「ふーん、そんなもんかね?ま、言ってもお前の住んでるトコ名古屋じゃないしな」
「!?、え、ほんてんだの!?名古屋じゃねぇって!?」
「あー、もうすぐ着くぞー」
「ちょ、先輩、詳しく~!」
「今日は夜もたっぷり時間があるからな、そん時にでも説明してやるよ!」
—雁乃原スキー場—
愛知県からほど近い…と言っても遠征慣れした車馬鹿基準であるが。高速道路を使えば2時間半、経費節約で下道移動した彼女達は3時間半ほどをかけてやってきたのは、恐竜で有名な福井県勝山市にあるスキー場だ。
上下2面からなるスキー場の駐車場を、オフシーズン中はスポーツ走行用に低料金で開放している。土日ともなればスポーツ走行愛好家が何人も訪れるが、平日であればほぼ貸し切りで使用できる、懐事情が厳しい学生にとって大変ありがたい施設なのだ。
「やったー!一番乗り~!」
茉莉が積載車から降り、まだ誰も到着していないことを確かめ勝ち名乗りを上げる。
雁乃原暗黙のルールに1番乗りの人間がコースを作成する権利が得られるというものがある。貸し切りになっていなければ誰でもコースを走る事はできるがコース設定は早い者勝ちなのだ。
「へー、上と下2か所にコースが有るんですね。上の方が広そうですけど下を使うんですか?」
シビックから降りた亜里沙が全体を見渡して響子に尋ねる。
「上は正方形、下は長方形で一見上の方が広く見えるけど面積は同じらしいわ。それより上は路面の荒れがひどくてコースの外側はゴミだらけなの。それで上はドリフト、下はジムカーナと自然と使い方も分けられてるのよ。大昔は上と下をつないで使ったりもしたみたいだけど」
「よし、それじゃあ茉莉と1年生は車降ろすの手伝って。響子と他の2年はコース設営だ。一休みするのはそれからだよ!」
昨日の晩、実家の工場から借りてきた積載車へ部車の積み込みをまでして人一倍働いている睦美だが、疲れている素振りは全く見せない。
『ブロロロロロロロ……』
その時、1台の車がコースに上がってくる音が聞こえた。
「あら、意外と早く着いたみたいね」
「どうせ九頭竜かっ飛ばしてきたんだろうな……」
上がってきたのは真っ赤なシルビア【S14】だ。野太いマフラー、異常についたキャンバー、ところどころひび割れの有るフロントスポイラー。どこからどう見てもドリフト車両である。
「やっほー!みんなー、ひっさしぶりーー!!」
異様にテンションの高い女性が駐車場に止まるなり運転席から飛び出した。
登場車両紹介
ホンダ シビックSiR【型式 EK4】
神沢響子 所有車両
1995年に登場した6代目シビックのスポーツグレード。97年に同型をベースにしたタイプR【EK9】が登場したため影が薄いが、1.6Lながら170psを発揮するB16Aエンジンを搭載し、モータースポーツベース車としてタイプR同様長く前線で活躍している。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/light_novel.png?id=7e51c3283133586a6f12)
優等生の裏の顔クラスの優等生がヤンデレオタク女子だった件
石原唯人
ライト文芸
「秘密にしてくれるならいい思い、させてあげるよ?」
隣の席の優等生・出宮紗英が“オタク女子”だと偶然知ってしまった岡田康平は、彼女に口封じをされる形で推し活に付き合うことになる。
紗英と過ごす秘密の放課後。初めは推し活に付き合うだけだったのに、気づけば二人は一緒に帰るようになり、休日も一緒に出掛けるようになっていた。
「ねえ、もっと凄いことしようよ」
そうして積み重ねた時間が徐々に紗英の裏側を知るきっかけとなり、不純な秘密を守るための関係が、いつしか淡く甘い恋へと発展する。
表と裏。二つのカオを持つ彼女との刺激的な秘密のラブコメディ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
女神と共に、相談を!
沢谷 暖日
青春
九月の初め頃。
私──古賀伊奈は、所属している部活動である『相談部』を廃部にすると担任から言い渡された。
部員は私一人、恋愛事の相談ばっかりをする部活、だからだそうだ。
まぁ。四月頃からそのことについて結構、担任とかから触れられていて(ry
重い足取りで部室へ向かうと、部室の前に人影を見つけた私は、その正体に驚愕する。
そこにいたのは、学校中で女神と謳われている少女──天崎心音だった。
『相談部』に何の用かと思えば、彼女は恋愛相談をしに来ていたのだった。
部活の危機と聞いた彼女は、相談部に入部してくれて、様々な恋愛についてのお悩み相談を共にしていくこととなる──
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる