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第2話 私、ジムカーナなんてやりません!
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「よう、お疲れ。大丈夫?ヒマしてない?」
ひとみが亜里沙に声をかける。
「いえ、本郷先輩や篠原先輩と話をしていたのでそんなこと無いです」
『プシュアァァァー!』
激しい吸排気音を鳴らして走っているのは睦美のランサーエボリューションⅥ【CP9A】だ。RX-7のリアタイヤがお釈迦になってしまったせいで急遽代役で走ることになったのだ。
「かぁ、相変わらず4輪駆動はべらぼうに速いねぇ…金も掛かるし女子ジムカーナが2駆限定になるのも納得だ。ま、それはさておき。率直に聞こうか、私たちの走り、どう思った?」
「正直皆さん、想像以上に運転が上手でびっくりしました。カート以外のことは詳しくないですが、それでも見ていればある程度分かります」
「ふふ、でも納得したって顔じゃないな。まぁここで見せているのはあくまで演技、競技じゃないからな。そりゃお遊戯会って言われるのも無理ないか」
「いや、あの、それはもう忘れてください!」
「はは、冗談だよ!」
「なぁ、最後に駐車場全体を使った模擬ジムカーナを1本だけ走る。もともと予定に無かったけど、昨日私が部長にお願いした」
少しだけ間を置いてからひとみが続ける。
「その時横に乗ってくれないか?私も本番のつもりで走る。正直に感じたことを教えてほしい」
先日の部室帰りの時と同じ、真っ直ぐで力強い視線でひとみが亜里沙をじっと見つめている。
「はい、楽しみにしてます」
この前とは違い視線を逸らすことなく亜里沙は答えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「はい、コース設置完了!」
ひとみが模擬ジムカーナコースのパイロン設置から帰ってきた。
「四隅のパイロン、ちょっと外に置き過ぎじゃない?」
さっきの今である、響子が少し不満そうに言った。
隅のパイロンを外に置く。サーキットであればコースを広げるようなもので、その分速度は増す。しかし駐車場の端は縁石になっておりミスがあれば事故に直結するのだ。
「これくらい攻めたコースじゃないと気合いが入らないですからね」
響子はひとみが本番さながらの緊張感にあるのを表情から読み取った。
「分かったわ、それじゃあ準備はいいわね?観客の皆さんがお待ちかねよ」
《どんなコースかは画像を見てね!》
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ひとみがステアリングを握るCR-Xが亜里沙を助手席に乗せスタートラインについた。
「それじゃあいっきまーす!3、2、1、スタート!!」
『ヴヴァン!ヴヴァン!ヴヴヴァァァーーーーーーーーア!』
軽いレーシング(※空ぶかし)のあとCR-Xが絶妙なスタートを切る。そのままフル加速で2速に入れ、第1コーナーへアプローチしていく。
亜里沙は外から見て想像していたのとは違う加速感に戸惑っていた。そしてその感覚のズレを修正する前に最初のコーナーへ進入する。
「!」
実戦から長く離れていた亜里沙にとって、外側の縁石にぶつかるとしか思えない速度域で曲がっていく。
2コーナーも外側一杯まで使い3コーナーに向かう。
「!!」
亜里沙が助手席の窓から外をちらっと見るが縁石は全く見えない。それほど外ギリギリまで膨らんでいるのだ。
3コーナーを抜け、ギャラリー前のストレートで3速に入れ本日の最高速度に達した。直後2速に落とし4コーナーに備える。
「あの馬鹿、こんなコースで3速まで入れやがった!」
睦美が思わず口走る。ギア比にもよるが2速でも引っ張れば時速90kmは超える。おせじにも広いとは言えないこのコース、しかもデモンストレーションでわざわざ3速まで入れて目一杯まで踏むのはメカニックとしてはひやひやものだ。
その後もたすき掛けのようにコース内をめぐるコーナーを華麗にクリアしていく。最後はギャラリー前に設けたテクニカルセクションだ。
定常円に入る際、軽くサイドブレーキを引きリアを適度にスライドさせながら綺麗な円を描いてクリアする。その後パイロンを8の字に回り最後に450度ターンを決めてフィニッシュラインを通過した。
『おおーーーーーーー!!』
ギャラリーから惜しみない歓声と拍手が挙がった。
「どうだった?」
2人は車に乗ったまま、ひとみがヘルメットを脱ぎ亜里沙に問いかける。まだ顔は少し紅潮し汗ばんでいる。本気で走り切って満足行ったという表情だ。
「えっと…あの速度で入っていけるなら…」
亜里沙はひとみの声に気付いていないのかメットも取らずブツブツ独り言を言っている。
「はっ!すみません、今先輩の走りを思い出してて。あのターンって言うんですか?ただくるくる回ってるように見えて車はしっかり前に出てるんですね!びっくりしました!」
「あはは、初めてのジムカーナだからな。最初は誰でも驚くかな」
「いえ、初めてでも私には分かります。タイヤのグリップ、コーナリング速度、どれも限界ギリギリでした。というか先輩、ホントに走り始めて1年なんですか!?」
亜里沙がようやくヘルメットを脱ぎながら問いかける。
「え、ええ、まぁ。私は師匠と言うか、車に興味を持つきっかけの人がジムカーナやっててな。その人のおかげかな…」
「私も1年で先輩と同じくらい、いや先輩より速く走れるようになれますか?」
「お、お前、じゃあ自動車部入る気になったのか!?」
思わずひとみは狭い車の中で身を乗り出す。
「はい!その代わり一つお願いがあります。1年後でいいです、私が先輩より速くなってるかどうか勝負してください!」
「言うね~、そん時ゃ私はキャリア2年だ。そう簡単に抜けると思うなよ!」
「先輩こそ忘れてないですか?私は何年もカートのキャリアがあるんですからね!それに……」
亜里沙の瞳が急に暗く冷たくなったように見え、一瞬ひとみは背筋に寒気を感じた。
「先輩は私が距離を取っていた走りの世界に呼び戻してしまったんですよ。その責任は取ってもらいますから……!」
少女はほんの少し真顔になったかと思うとすぐに満面の笑みに戻っていた。
登場車両紹介
三菱 ランサーエボリューションⅥ RS【型式 CP9A】
本郷睦美 所有車両
三菱自動車のラリーホモロゲーションモデルとして登場したランサーエボリューションシリーズ、第2世代車両の末期モデル。
280psを優に発生する4G63エンジン、競技グレードであるRSでは1260kgという軽さも相まってジムカーナのみならず、ラリー、ダートトライアルといったスピード競技の4輪駆動車クラスを席捲した。
女子ジムカーナでは4輪駆動車の参加ができないため完全に本人の趣味車両。詳細改造範囲は不明だがSA車両+ブーストアップ程度だと思われる。が、それでも恐ろしく速い。
ひとみが亜里沙に声をかける。
「いえ、本郷先輩や篠原先輩と話をしていたのでそんなこと無いです」
『プシュアァァァー!』
激しい吸排気音を鳴らして走っているのは睦美のランサーエボリューションⅥ【CP9A】だ。RX-7のリアタイヤがお釈迦になってしまったせいで急遽代役で走ることになったのだ。
「かぁ、相変わらず4輪駆動はべらぼうに速いねぇ…金も掛かるし女子ジムカーナが2駆限定になるのも納得だ。ま、それはさておき。率直に聞こうか、私たちの走り、どう思った?」
「正直皆さん、想像以上に運転が上手でびっくりしました。カート以外のことは詳しくないですが、それでも見ていればある程度分かります」
「ふふ、でも納得したって顔じゃないな。まぁここで見せているのはあくまで演技、競技じゃないからな。そりゃお遊戯会って言われるのも無理ないか」
「いや、あの、それはもう忘れてください!」
「はは、冗談だよ!」
「なぁ、最後に駐車場全体を使った模擬ジムカーナを1本だけ走る。もともと予定に無かったけど、昨日私が部長にお願いした」
少しだけ間を置いてからひとみが続ける。
「その時横に乗ってくれないか?私も本番のつもりで走る。正直に感じたことを教えてほしい」
先日の部室帰りの時と同じ、真っ直ぐで力強い視線でひとみが亜里沙をじっと見つめている。
「はい、楽しみにしてます」
この前とは違い視線を逸らすことなく亜里沙は答えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「はい、コース設置完了!」
ひとみが模擬ジムカーナコースのパイロン設置から帰ってきた。
「四隅のパイロン、ちょっと外に置き過ぎじゃない?」
さっきの今である、響子が少し不満そうに言った。
隅のパイロンを外に置く。サーキットであればコースを広げるようなもので、その分速度は増す。しかし駐車場の端は縁石になっておりミスがあれば事故に直結するのだ。
「これくらい攻めたコースじゃないと気合いが入らないですからね」
響子はひとみが本番さながらの緊張感にあるのを表情から読み取った。
「分かったわ、それじゃあ準備はいいわね?観客の皆さんがお待ちかねよ」
《どんなコースかは画像を見てね!》
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ひとみがステアリングを握るCR-Xが亜里沙を助手席に乗せスタートラインについた。
「それじゃあいっきまーす!3、2、1、スタート!!」
『ヴヴァン!ヴヴァン!ヴヴヴァァァーーーーーーーーア!』
軽いレーシング(※空ぶかし)のあとCR-Xが絶妙なスタートを切る。そのままフル加速で2速に入れ、第1コーナーへアプローチしていく。
亜里沙は外から見て想像していたのとは違う加速感に戸惑っていた。そしてその感覚のズレを修正する前に最初のコーナーへ進入する。
「!」
実戦から長く離れていた亜里沙にとって、外側の縁石にぶつかるとしか思えない速度域で曲がっていく。
2コーナーも外側一杯まで使い3コーナーに向かう。
「!!」
亜里沙が助手席の窓から外をちらっと見るが縁石は全く見えない。それほど外ギリギリまで膨らんでいるのだ。
3コーナーを抜け、ギャラリー前のストレートで3速に入れ本日の最高速度に達した。直後2速に落とし4コーナーに備える。
「あの馬鹿、こんなコースで3速まで入れやがった!」
睦美が思わず口走る。ギア比にもよるが2速でも引っ張れば時速90kmは超える。おせじにも広いとは言えないこのコース、しかもデモンストレーションでわざわざ3速まで入れて目一杯まで踏むのはメカニックとしてはひやひやものだ。
その後もたすき掛けのようにコース内をめぐるコーナーを華麗にクリアしていく。最後はギャラリー前に設けたテクニカルセクションだ。
定常円に入る際、軽くサイドブレーキを引きリアを適度にスライドさせながら綺麗な円を描いてクリアする。その後パイロンを8の字に回り最後に450度ターンを決めてフィニッシュラインを通過した。
『おおーーーーーーー!!』
ギャラリーから惜しみない歓声と拍手が挙がった。
「どうだった?」
2人は車に乗ったまま、ひとみがヘルメットを脱ぎ亜里沙に問いかける。まだ顔は少し紅潮し汗ばんでいる。本気で走り切って満足行ったという表情だ。
「えっと…あの速度で入っていけるなら…」
亜里沙はひとみの声に気付いていないのかメットも取らずブツブツ独り言を言っている。
「はっ!すみません、今先輩の走りを思い出してて。あのターンって言うんですか?ただくるくる回ってるように見えて車はしっかり前に出てるんですね!びっくりしました!」
「あはは、初めてのジムカーナだからな。最初は誰でも驚くかな」
「いえ、初めてでも私には分かります。タイヤのグリップ、コーナリング速度、どれも限界ギリギリでした。というか先輩、ホントに走り始めて1年なんですか!?」
亜里沙がようやくヘルメットを脱ぎながら問いかける。
「え、ええ、まぁ。私は師匠と言うか、車に興味を持つきっかけの人がジムカーナやっててな。その人のおかげかな…」
「私も1年で先輩と同じくらい、いや先輩より速く走れるようになれますか?」
「お、お前、じゃあ自動車部入る気になったのか!?」
思わずひとみは狭い車の中で身を乗り出す。
「はい!その代わり一つお願いがあります。1年後でいいです、私が先輩より速くなってるかどうか勝負してください!」
「言うね~、そん時ゃ私はキャリア2年だ。そう簡単に抜けると思うなよ!」
「先輩こそ忘れてないですか?私は何年もカートのキャリアがあるんですからね!それに……」
亜里沙の瞳が急に暗く冷たくなったように見え、一瞬ひとみは背筋に寒気を感じた。
「先輩は私が距離を取っていた走りの世界に呼び戻してしまったんですよ。その責任は取ってもらいますから……!」
少女はほんの少し真顔になったかと思うとすぐに満面の笑みに戻っていた。
登場車両紹介
三菱 ランサーエボリューションⅥ RS【型式 CP9A】
本郷睦美 所有車両
三菱自動車のラリーホモロゲーションモデルとして登場したランサーエボリューションシリーズ、第2世代車両の末期モデル。
280psを優に発生する4G63エンジン、競技グレードであるRSでは1260kgという軽さも相まってジムカーナのみならず、ラリー、ダートトライアルといったスピード競技の4輪駆動車クラスを席捲した。
女子ジムカーナでは4輪駆動車の参加ができないため完全に本人の趣味車両。詳細改造範囲は不明だがSA車両+ブーストアップ程度だと思われる。が、それでも恐ろしく速い。
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