女子自動車部こんぺてぃちおーね!

多井矢成世

文字の大きさ
上 下
11 / 19
第2話 私、ジムカーナなんてやりません!

2-5

しおりを挟む
「よう、お疲れ。大丈夫?ヒマしてない?」
 ひとみが亜里沙に声をかける。

「いえ、本郷先輩や篠原先輩と話をしていたのでそんなこと無いです」

『プシュアァァァー!』
 激しい吸排気音を鳴らして走っているのは睦美のランサーエボリューションⅥ【CP9A】だ。RX-7のリアタイヤがお釈迦になってしまったせいで急遽代役で走ることになったのだ。

「かぁ、相変わらず4輪駆動はべらぼうに速いねぇ…金も掛かるし女子ジムカーナが2駆限定になるのも納得だ。ま、それはさておき。率直に聞こうか、私たちの走り、どう思った?」

「正直皆さん、想像以上に運転が上手でびっくりしました。カート以外のことは詳しくないですが、それでも見ていればある程度分かります」

「ふふ、でも納得したって顔じゃないな。まぁここで見せているのはあくまで演技、競技じゃないからな。そりゃお遊戯会って言われるのも無理ないか」

「いや、あの、それはもう忘れてください!」

「はは、冗談だよ!」

「なぁ、最後に駐車場全体を使った模擬ジムカーナを1本だけ走る。もともと予定に無かったけど、昨日私が部長にお願いした」

 少しだけ間を置いてからひとみが続ける。
「その時横に乗ってくれないか?私も本番のつもりで走る。正直に感じたことを教えてほしい」
 先日の部室帰りの時と同じ、真っ直ぐで力強い視線でひとみが亜里沙をじっと見つめている。

「はい、楽しみにしてます」
 この前とは違い視線を逸らすことなく亜里沙は答えた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「はい、コース設置完了!」
 ひとみが模擬ジムカーナコースのパイロン設置から帰ってきた。

「四隅のパイロン、ちょっと外に置き過ぎじゃない?」
 さっきの今である、響子が少し不満そうに言った。

 隅のパイロンを外に置く。サーキットであればコースを広げるようなもので、その分速度は増す。しかし駐車場の端は縁石になっておりミスがあれば事故に直結するのだ。

「これくらい攻めたコースじゃないと気合いが入らないですからね」
 響子はひとみが本番さながらの緊張感にあるのを表情から読み取った。

「分かったわ、それじゃあ準備はいいわね?観客の皆さんがお待ちかねよ」

《どんなコースかは画像を見てね!》

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ひとみがステアリングを握るCR-Xが亜里沙を助手席に乗せスタートラインについた。

「それじゃあいっきまーす!3、2、1、スタート!!」

『ヴヴァン!ヴヴァン!ヴヴヴァァァーーーーーーーーア!』
 軽いレーシング(※空ぶかし)のあとCR-Xが絶妙なスタートを切る。そのままフル加速で2速に入れ、第1コーナーへアプローチしていく。

 亜里沙は外から見て想像していたのとは違う加速感に戸惑っていた。そしてその感覚のズレを修正する前に最初のコーナーへ進入する。
「!」
 実戦から長く離れていた亜里沙にとって、外側の縁石にぶつかるとしか思えない速度域で曲がっていく。

 2コーナーも外側一杯まで使い3コーナーに向かう。
「!!」
 亜里沙が助手席の窓から外をちらっと見るが縁石は全く見えない。それほど外ギリギリまで膨らんでいるのだ。

 3コーナーを抜け、ギャラリー前のストレートで3速に入れ本日の最高速度に達した。直後2速に落とし4コーナーに備える。

「あの馬鹿、こんなコースで3速まで入れやがった!」
 睦美が思わず口走る。ギア比にもよるが2速でも引っ張れば時速90kmは超える。おせじにも広いとは言えないこのコース、しかもデモンストレーションでわざわざ3速まで入れて目一杯まで踏むのはメカニックとしてはひやひやものだ。

 その後もたすき掛けのようにコース内をめぐるコーナーを華麗にクリアしていく。最後はギャラリー前に設けたテクニカルセクションだ。

 定常円に入る際、軽くサイドブレーキを引きリアを適度にスライドさせながら綺麗な円を描いてクリアする。その後パイロンを8の字に回り最後に450度ターンを決めてフィニッシュラインを通過した。

『おおーーーーーーー!!』
ギャラリーから惜しみない歓声と拍手が挙がった。


「どうだった?」
 2人は車に乗ったまま、ひとみがヘルメットを脱ぎ亜里沙に問いかける。まだ顔は少し紅潮し汗ばんでいる。本気で走り切って満足行ったという表情だ。

「えっと…あの速度で入っていけるなら…」
 亜里沙はひとみの声に気付いていないのかメットも取らずブツブツ独り言を言っている。

「はっ!すみません、今先輩の走りを思い出してて。あのターンって言うんですか?ただくるくる回ってるように見えて車はしっかり前に出てるんですね!びっくりしました!」

「あはは、初めてのジムカーナだからな。最初は誰でも驚くかな」

「いえ、初めてでも私には分かります。タイヤのグリップ、コーナリング速度、どれも限界ギリギリでした。というか先輩、ホントに走り始めて1年なんですか!?」
 亜里沙がようやくヘルメットを脱ぎながら問いかける。

「え、ええ、まぁ。私は師匠と言うか、車に興味を持つきっかけの人がジムカーナやっててな。その人のおかげかな…」

「私も1年で先輩と同じくらい、いや先輩より速く走れるようになれますか?」
「お、お前、じゃあ自動車部入る気になったのか!?」
 思わずひとみは狭い車の中で身を乗り出す。

「はい!その代わり一つお願いがあります。1年後でいいです、私が先輩より速くなってるかどうか勝負してください!」

「言うね~、そん時ゃ私はキャリア2年だ。そう簡単に抜けると思うなよ!」
「先輩こそ忘れてないですか?私は何年もカートのキャリアがあるんですからね!それに……」
 亜里沙の瞳が急に暗く冷たくなったように見え、一瞬ひとみは背筋に寒気を感じた。

「先輩は私が距離を取っていた走りの世界に呼び戻してしまったんですよ。その責任は取ってもらいますから……!」

 少女はほんの少し真顔になったかと思うとすぐに満面の笑みに戻っていた。



登場車両紹介
三菱 ランサーエボリューションⅥ RS【型式 CP9A】
本郷睦美 所有車両
 三菱自動車のラリーホモロゲーションモデルとして登場したランサーエボリューションシリーズ、第2世代車両の末期モデル。
 280psを優に発生する4G63エンジン、競技グレードであるRSでは1260kgという軽さも相まってジムカーナのみならず、ラリー、ダートトライアルといったスピード競技の4輪駆動車クラスを席捲した。
 女子ジムカーナでは4輪駆動車の参加ができないため完全に本人の趣味車両。詳細改造範囲は不明だがSA車両+ブーストアップ程度だと思われる。が、それでも恐ろしく速い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...