女子自動車部こんぺてぃちおーね!

多井矢成世

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第2話 私、ジムカーナなんてやりません!

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「ちょっとひとみ!どういうつもりよ!!」
 まどかが柄にもなく大声を上げ、自分史上最大級に怒ってるんだぞアピールで部室のドアを思い切り開ける。

「て、あれ?」
 ひとみが響子にこってり説教されているだろう光景を想定していたが、予想外にも全員がパソコンの前に集まって真剣に画面を眺めていた。

「いや、その、さっきは悪ぃ…」

「ひとみったら彼女をちょっと焚きつけたかったみたいなのよね。なのに逆に自分が焚きつけられるなんて……もう少しやり方考えなさいよね」
 響子がほとほとあきれ果てた様子で答えた。

「本当に申し訳ない!でもほら、やっぱり私の予想通りだ」

「いったい何がどうなってるの?何よ、予想通りって?」
 まどかはさっぱり事態が呑み込めていない。

「あいつ、部活は何もやって無いって言ってたろ。一見細身に見えるけど腕は結構太いしふくらはぎなんかパンパンだ。なんかやって無けりゃああはならないと思って調べてたんだ」

「調べてたって何を?」

「カートだよ、守山亜里沙のカート成績」

「!」

「はい、これが7年前のリザルト。亜里沙ちゃんが小学6年生の頃かな」
 茉莉がパソコンの画面をまどかに見せる。

「第1戦 優勝 守山亜里沙、第2戦 優勝 守山亜里沙、第3戦・・・え、何これ?殆ど優勝してるじゃない!?」
「FP-Jr Cadetsっていう一番小さい子向けのクラスだけどね。もちろん男女混合だよ。ちなみに次の年にはFP-Jrクラスにステップアップしてて、それがこれ」
 優勝こそしていないが、それでも何度か表彰台に乗っている。

「中学1年生の時だからこれでも十分凄いよ。そんでこっちが翌年」
 まどかは一瞬亜里沙の名前を見つけられなかった。なぜならこの年は下位に低迷していたからだ。

「え、なんで!?」
「んー、これだけじゃ分からないけど、たぶん回りのレベルアップに付いていけなかったのかなー。出場選手の年齢見ると亜里沙ちゃんより上の世代は少なかったけど同級生世代が多くて、そこら辺が一気に速くなってきた感じなんだよねー。で、この年以降公式戦に出た形跡は無いみたい」

「体力差……?」
 まどかは亜里沙の『女の子だけ集まってジムカーナとか、そんなお遊戯会みたいな事して楽しいんですか!?』という言葉を思い出し、胸が張り裂けそうな気持ちになった。

「いや、さすがにこれ程とは思ってなかったけどな。何としてもウチに入ってもらいたいもんだ」

「まったく、それだけの洞察力が有って何で行動は猪並なのかね……」
 ずっと黙っていた睦美が呆れたように口を開く。
「あの子に土曜のデモ走行の事も伝えてなかったよな。まぁ伝えたところで今のままじゃ来るとは思えないが……」

「私、なんとしても守山さんに来て貰えるよう頑張ります!」
 まどかは自ら守山亜里沙スカウト部長に就任した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「はぁ~、でも電話番号も何もまだ聞けてなかったよー。警戒されてバイク以外で通学されたら探すの大変そう……」
「まぁ学部は聞いてるし、そん時ゃ校舎の張り込みでも何でも手伝うよ」

 まどかとひとみが帰ろうとガレージのドアを開ける。

「あ、あわわ、あわああ……」

「守山さん!?」
 そこにはとうの前に送り出したはずの守山亜里沙がぼうぜんと立ち尽くしていた。

「あ、あの、すみません…駐輪場の場所が分からなくて…」


「もう、それなら部室に入ってきてくれればよかったのに」
 とは言ってもあの出来事の後だ、そうそう中に入れる訳もない。
 ひとみが先頭を歩き、少し離れてまどかの後ろを隠れるように亜里沙がついてくる。

「さっきは本当に悪かったって。お前やっぱ凄い奴だったんだな」

「調べたんですか?私のこと…」
 亜里沙の警戒心が一層強まる。

「ああ、私なんか足元に及ばないくらい凄いよな。その年で何年も競技経験があるなんてほんと羨ましいよ」
 ひとみは振り返ってまっすぐ亜里沙の目を見つめる。

「そんな、私なんか全然凄いことなんか無いです……」
 亜里沙の警戒心が少し弱まったように見えた。

「でもお遊戯会ってのはちょっと聞き捨てならないかな」

「あの、いや、すみません。あれは勢いで……」

「今度の土曜日、昼1時から西駐車場を封鎖してウチの部のデモンストレーション走行をやる。そいつを見に来れないか?」

 いつの間にかひとみは亜里沙の目の前まで来ていた。

「私の競技歴はたったの1年だ。それでもこの1年は誰よりも努力してきた自負はある。お遊戯かどうかお前の目で確かめて欲しいんだ」

 ひとみの真っ直ぐで力強い視線が亜里沙には余りにも眩しく思わず目をそらす。

「はい…見に行くだけなら……」
 気圧された訳ではなく、亜里沙は無意識にそう答えていた。


「何でそんな臭いセリフ平然と言えるのよ。ちょっとカッコいいけど…それにしても私、完全に要らない子……」

 まどかは複雑な心境で2人のやり取りを眺めていた。
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