女子自動車部こんぺてぃちおーね!

多井矢成世

文字の大きさ
上 下
5 / 19
第1話 春です!モータースポーツシーズンです!

1-3

しおりを挟む
 愛心学院自動車部員は一同、パドックを離れコース全体を見渡せる観戦エリアに移動していた。正確には愛心だけではない、出走を控えた車両と一部のサポートメンバーを除いて殆どの関係者が観戦エリアに集まっている。
 理由は他でもない、優勝候補筆頭である聖城女学院のエースドライバー、龍泉寺華蓮の走行順が迫っていたからだ。

「ふふ、皆様大勢観戦エリアにお集まりですわ。これはみっともない走りをする訳には参りませんね」
 スタートラインで出走合図を待っている間、華蓮は特に気負うでもなく一つ大きく息をついて心を落ち着ける。

「3!2!1!GO!」

 スタートフラッグが切られる。華蓮はアクセル開度を一定に保ちながらクラッチを徐々に繋ぎサイドブレーキを下ろす。エキシージのリアがグッと沈み、タイヤを空転させることなく滑らかに動き出した後、力強く加速を開始した。
 1速から2速へ、続いて右のカットインコーナーは軽くアクセルを戻しパイロンの設置された左コーナーへ2速のまま進入する。軽いテールスライドを伴いながらも全くカウンターステアを当てることなく美しいコーナリングを描きながら直進体勢へ移行する。

「速いな」睦美が呟く。
「でもまだ全然余裕有りそうよね」響子の問いかけに睦美は無言で頷く。

 しかしここまではまだほんの序の口、一同を驚嘆させたのは外周を抜けたあと、3速全開から一気に減速し進入するスラロームエリアだった。見た目は地味だが減速と進入を同時に行わなければならず、車体が不安定になりやすい非常に厄介なエリアだ。
 華蓮のエキシージは3速、2速、1速とストレスの無いヒールアンドトゥ(※つま先でブレーキを踏んだままかかとでアクセルをあおり、シフトダウンの際に生じるエンジンとミッションの回転差を無くし、クラッチミート時のエンジンの回転上昇やタイヤの空転、それに伴う振動を抑えるテクニック)を駆使し何事もなく減速を終え、パイロンの隙間を縫うようにクリアしていく。

「うわ、反則だぜ・・・あのスピードで抜けれるか?」
 思わずひとみが声を漏らしたが他の誰もが同じ心境だろう。
 CR-Xのような前輪駆動車では、減速時にかかる横Gでリアタイヤのグリップに気を付けなければならない箇所だ。
 しかしミドシップ車であるエキシージはリアに荷重が残るため安定しやすい。さらにCR-Xと比べてもさらに低い重心を活かし、明らかに少ないロール(※ステアリングを切った際に生じる車の左右の傾き)量で他の車では考えられない速度で駆け抜けて行ったのだ。

 とは言えエキシージにも弱点が無いわけでは無い。ジムカーナにおける最重要テクニックに『サイドターン』というものがある。
これはサイドブレーキを使い後輪をロックさせる事により、その車の最小回転半径より遥かに小さい半径で180°や360°、場合によってはその場で2回転など車を素早く回転させるテクニックである。
 実はエキシージ、このサイドブレーキの効きが悪いのだ。コースの設定によっては非常にターンが難しいケースも有る。
 そしてもう一つ、エキシージにはパワーステアリングが装備されていない。フロントが軽いミドシップ車であるため、通常走行時はさほどデメリットを感じないが、低速度域やブレーキング時などはフロントに荷重がかかりステアリングの重さが増す。サイドターンの時はステアリングを素早く回すことが多く、女性ともなれば腕にかかる負担は決して軽いものではないのだ。

 しかしそこは聖城女学院のエース龍泉寺華蓮である。今回のテクニカルエリアがそれほど難しい設定では無かったこともあり、無難にまとめてゴールした。

「ただいまのタイム、1分1秒593です」

計測タイムを知らせる場内アナウンスが響き渡る。本日の最速タイムであり、ひとみのレコードタイムが約1秒更新された。
 観客、いや主に他の参加選手達から驚きとため息の混じり合ったような微妙な声がもれる。それほど圧巻の走りとタイムだったのだ。

「しっかりビデオ撮ったからあとで比較解析しよっか?」
重苦しい空気を振り払うかのようにまどかが切り出した。

「ま、比較ったって向こうがまんべんなく速いって事しか分からないだろうけどな!あ、でも最後のテクニカルは絶対私の方が速いけどね!」
ひとみの負けん気に一同に思わず笑みがこぼれる。
「さて、私たちも戻って準備しますか!」

「待って、あれを見てからにしましょう」
響子の視線の先を確認すると全員が頷いて再び席についた。


【今回の補足】
<どんなコースを走っているの?>
ジムカーナはサーキットだけでなく大きな駐車場のようなフリースペースといった安全で広いスペースで行われます。現在メンバーが走っている『キョウエイドライバーランド』は自動車教習所のようなレイアウトを持った全国でも珍しいコースです。
今回は『コース図』と呼ばれる実際にジムカーナを行う時に配られるものを添付しました(雑ですみません!)。
これだけでどのように走っているか想像するのは経験者でなければ難しいと思いますが少しでも想像の手助けになればと思います。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...