女子自動車部こんぺてぃちおーね!

多井矢成世

文字の大きさ
上 下
4 / 19
第1話 春です!モータースポーツシーズンです!

1-2

しおりを挟む
「愛心学院大学の皆さま~~!グッモーニンー!ですわ!!」

 睦美の背後から甲高い声が響き渡る。一瞬睦美の表情が強張り手が止まるが何事も無かったように車を地面に降ろした。
 
「グッモーニンー!ですわ!!」
 今度は睦美の耳元で声の主が叫んだ。
 
「あああ、うるさい!聞こえてるよ!てかもう昼前だぞ!」
 たまらず睦美は振り返り声の主に言い返す。
 
「こんにちは龍泉寺さん。まだそちらは走られてないんですね?」
 響子が二人のやり取りを少し楽しんでいたかのようなタイミングで声をかける。
 声の主は龍泉寺華蓮りゅうせんじかれん、名古屋きっての名門お嬢様大学である聖城女学院自動車部部長にして中京新聞社社主ご令嬢という絵に描いたようなお嬢様である。

「てか何の用だ?そっちの準備は大丈夫なのかよ?」
 睦美は手をとめてしぶしぶ華蓮に話しかける。
「何の用とはご挨拶ですわね。中学時代からの友人があまりにもはしたない恰好をしているのでご注意差し上げようと思っただけですのに。それともご自慢のお身体を衆目にさらす趣味がお有りですこと?」

 睦美ははっと自分の姿を見返す。
 4月とはいえ日差しが強い中で作業をしていた睦美は、部のガレージで作業している時同様無意識にツナギの上半分を脱いで腰巻にし、上半身はタンクトップ一枚になっていたのだ。その上体躯の良い睦美の胸は否が応でも人目を惹く。当然ここは部室では無い。パドック内の関係者や観客席には男性も多数いるのだ。
 顔を真っ赤にした睦美は慌ててツナギに袖を通しなおした。

「というのは冗談でして」
「なっ!」

「そちらのお車が元気に走っているのを見て嬉しくなって来てしまいましたの。だって昨年の全国大会の時はお車の調子が悪かったですものね。流石に寿命ではないかと。でも先ほど神沢さんと今池さんの走りを見てすっかり安心しましたわ。睦美さんが頑張って直されたのですわね」

「そりゃどうも」
 睦美がぶっきらぼうに返す。
 去年の全国大会での車の不調。メカニックを担当していた彼女にとって余り思い出したくない出来事だった。スーパーチャージャーを取り付けた初年度、中部地区予選では絶好調だった。が、全国大会ではブーストがかからないトラブルが頻発し、当時の3年生と手を尽くしたが結局解決をすることができなかったのだ。とは言え華蓮の言葉に悪気が無いのも分かっていた。華蓮とは聖城女学院中学、高校時代の同級生だったのだ。育ちはあまり良く見えないが名古屋で有数の自動車修理工場の令嬢なのである。

「ところで龍泉寺さん、聖城さんは今年から車を変えられたんですよね?」
 二人の夫婦漫才(?)が終わったのを見計らって再び響子が切り出した。

「そうですの!今年から私たちの部車はロータスエキシージS PPになりましたの!」

「現行のV6ではなく1つ前の直4モデル、S2エキシージなんですね」
 少し離れた聖城のパドックに止められた純白のエキシージに目をやりながら響子が言った。

「さすがに現行型の200キロ以上の重量増は看過できませんでしたので。2010年式ですが走行距離1000キロ未満の極上車をイギリスから取り寄せましたわ」

「取り寄せましたわ、って金持ちのやる事には敵わないね。前のお宅のNSXだってウチからしたら新車みたいなもんだってのに」
 睦美が自嘲気味に漏らす。

「あのNSXも最終型とは言え2003年式、もう15年以上経っていたのですよ。愛心さんの物持ちが良すぎるだけです」
 華蓮が少しプイっとした表情をみせたかと思うと少し俯きがちに続けた。

「確かにあの車は第1回大学女子ジムカーナの記念すべきチャンピオンカー、そして我が部の誇りでした。手放すことに私も周りも少なからず躊躇はありました。しかし第2回以降、毎年全国大会に進出するもチャンピオンを取れていなかったのも事実です」

「そして今年は記念すべき第10回大会、もう一度聖城にチャンピオンを取り戻すべく私たちはなりふり構わず突き進みます!今日これから私の走りを存分に御覧になって下さいまし!」



登場車両紹介
ロータス エキシージS PP【型式1117】
聖城女学院自動車部部車
2000年に登場したロータス・エキシージであるが、そのビッグマイナーチェンジモデル、通称シリーズ2をベースとしている。エンジンはトヨタ製2ZZ-GEにスーパーチャージャーを搭載、ミドシップ(運転席とリヤタイヤの間)に配置し最終型では243psを発揮する。車重は930㎏程度と近代スポーツカーに於いては圧倒的な軽さを活かして、ジムカーナ史上最速の2輪駆動車との呼び声が高い。ただし元のパフォーマンスの高さもあり、他校の車両とは異なり大きな改造を施していないのも聖城女学院の車両の特徴でる。その実はスピードSC車両よりはるかに改造度合が少ない、スピードN車両の範囲程度に収まっている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...