上 下
7 / 7

伯爵邸での華やかなアフタヌーンティー

しおりを挟む
「アッシュフォード伯爵?聞いたことがあるような。。。」とエマが考えながら言うと、

「普段はめったに公の場に姿を見せないんだ。まさかこのイベントに参加するなんて思わなかったよ。イベントの宣伝効果を考えると、俺たちにとってはすごくありがたいことだけどね」とアルベールが教えてくれた。

「そうなのね。」

「伯爵家令嬢の名前は、シャルロット。子息は次男のルカだ。姉弟そろってあの美貌だから、モデルのようなこともやっていると聞いたこともある。天は二物を与えずって言葉が霞んでくるよな。美男美女を一目見ようとみんな必死なんだよ」とアルベールは苦笑しながら話した。

「ルカ?夕日の海辺で出会った青年と同じ名前だわ。まさかね。。。」

エマがあれこれ考えを巡らせていると、多くの貴族たちに囲まれたアッシュフォード伯爵家の姉弟が近くを通り過ぎた。

シャルロットは長い金髪が美しい、知的な正統派美人。そしてルカは、あ、間違いない。あの日、夕日の海辺で出会った青年だわ。その外見から貴族なのでは、と思ったけどやっぱりそうだったのね、とエマはルカの正体を知って納得した。

「どの時代でも、どこの世界でも外見が持つ力は絶大なのね」とエマはためいき混じりににつぶやくと、接客に戻った。

エマが、テーブルの上のスイーツや食器が不足していないかを入念にチェックをしていると、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。

「また会えたね、エマ。」

驚いて振り返ると、そこにはルカが立っていた。

「ごきげんよう、ルカ様。本日はお越し下さり、ありがとうございます」とエマが丁寧に挨拶をすると、「こんなところでまた会えるなんて、俺たちは運命の糸で結ばれているのかもな」とルカは、いたずらっぽく笑いながら返してきた。

「さあ、どうでしょうね。。。」

エマは困惑しつつも、周りの貴婦人たちからの痛い視線が気になり、その場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。

そんなエマの反応を屈託のない笑みで楽しんでいるルカに「おっ、ルカ! 本当に来てくれたんだ。ありがとう」とノアが割り入ってきて、ルカと握手を交わした。

そのやりとりから、ルカとノアは親しい間柄のようだった。

「ルカは僕の幼なじみなんだ」とノアが言った瞬間、屋敷の中で見た写真の二人の女の子が、エマの目に浮かんできた。

あの愛くるしい美少女たちが、目の前の男性二人だったのかと思うと、エマは思わず笑ってしまった。

   そんなエマを、ノアは不思議そうに思いながら、「ルカはめったに公の場に出ないのだけど、今回はなぜか快く参加してくれたんだ」と感心したように言った。

「ちょっと会いたかった人がいてね」とルカは意味深な視線をエマに向けた。

エマはその視線を感じつつも、あえて目をそらして、

「では私は接客に戻ります。どうぞごゆっくりお楽しみください」と一礼すると、足早にその場を離れた。

「なんかそっけないな、エマ」とルカは少しすねたように言った。

自分にまるで興味を示さないエマの態度が、逆にルカの心をくすぐり、それ以来エマのことがなぜか気になってしまうのだった。

貴族の歓談が続く中、主催者のノアが一言、お礼のあいさつをした。

「本日は、イベントの趣旨に賛同し、ご参加いただきありがとうございます。この社会はまだ多くの問題を抱えており、助けを必要としている人たちがたくさんがいます。皆さんの慈悲の心で共により良い社会を作っていきましょう!」

来客者は皆一同に賛同の拍手をした。

そしてエマは、心ある貴族有志たちの存在を心強く思った。

貴族や富裕層といった特権階級の人間たちをいくら批判しても、社会は何も変わらない。なぜなら、上下関係や階級は人間の哀しい性として、決してなくならないものだから。

人は常に、自分より下の存在を求め、そこに優越感を抱く。そんな構造が、歴史を通じて繰り返されてきたのだ。

それでも、エマは信じていた。幸運にもお金や地位、権力に恵まれた人が、恵まれない人々を支援し、手を差し伸べることで、社会は少しずつでも良い方向に進むはずだと。

エマはその橋渡しの道具となろうと思っていた。それが彼女が慈善活動を続ける信念だった。

イベントも終わりに近づくと、来客者たちが少しずつ帰り始めた。カフェメンバーたちは見送りに立ち、丁寧に対応していた。

エマとアルベールには、このイベントでどうしても果たしておきたいことがあった。

シャルロットとの顔合わせだ。彼女もルカ同様、公の場にはあまり姿を見せないため、今回が絶好の機会だったのだ。

「ノア様、シャルロット様を紹介していただけますか?」とエマがお願いすると、ノアは快く応じた。

「シャルロット、こちらが今日のイベントで接待を担当してくれたカフェの二人だよ。」

「初めまして、シャルロット様。本日はお越し下さり、ありがとうございました。私たちの慈善活動の趣旨にご賛同いただき、心から感謝しております。カフェのオーナーをしておりますエマと申します」とエマは丁寧に一礼をしながら、感謝の意を述べた。

シャルロットは微笑みながら、「以前からあなた方の活動には興味を持っていました。今回はルカが強く勧めたので参加しましたが、これからはもっと積極的に協力させていただきますわね」と応じた。

その言葉をエマもアルベールもとても心強く思った。

伯爵令嬢であるシャルロットは、その地位、知性、学識、美貌、人柄、すべてにおいて貴族の間で一目置かれる存在であることは周知の事実だった。

シャルロットの力添えは、慈善活動だけでなく、アジールの活動においても重要な意味を持つとエマたちは見込んでいたのだった。

 

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

彼女がいなくなった6年後の話

こん
恋愛
今日は、彼女が死んでから6年目である。 彼女は、しがない男爵令嬢だった。薄い桃色でサラサラの髪、端正な顔にある2つのアーモンド色のキラキラと光る瞳には誰もが惹かれ、それは私も例外では無かった。 彼女の墓の前で、一通り遺書を読んで立ち上がる。 「今日で貴方が死んでから6年が経ったの。遺書に何を書いたか忘れたのかもしれないから、読み上げるわ。悪く思わないで」 何回も読んで覚えてしまった遺書の最後を一息で言う。 「「必ず、貴方に会いに帰るから。1人にしないって約束、私は破らない。」」 突然、私の声と共に知らない誰かの声がした。驚いて声の方を振り向く。そこには、見たことのない男性が立っていた。 ※ガールズラブの要素は殆どありませんが、念の為入れています。最終的には男女です! ※なろう様にも掲載

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

「王妃を愛しているから、君を愛することは出来ない」?大歓迎ですとも!国王陛下のため、王妃殿下のため、後継を産むのはお任せください!

下菊みこと
恋愛
夫婦にも色々な形があるようです。 アンドレは国王の側妃として嫁ぐ。国王からは「愛することは出来ない」と謝られるが、もとよりそのつもりで嫁いだアンドレはノーダメージだった。そんなこの夫婦の関係は、一体どうなっていくのだろうか。 小説家になろう様でも投稿しています。

3年も帰ってこなかったのに今更「愛してる」なんて言われても

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢ハンナには婚約者がいる。 その婚約者レーノルドは伯爵令息で、身分も家柄も釣り合っている。 ところがレーノルドは旅が趣味で、もう3年も会えていない。手紙すらない。 そんな男が急に帰ってきて「さあ結婚しよう」と言った。 ハンナは気付いた。 もう気持ちが冷めている。 結婚してもずっと待ちぼうけの妻でいろと?

陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました

夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、 そなたとサミュエルは離縁をし サミュエルは新しい妃を迎えて 世継ぎを作ることとする。」 陛下が夫に出すという条件を 事前に聞かされた事により わたくしの心は粉々に砕けました。 わたくしを愛していないあなたに対して わたくしが出来ることは〇〇だけです…

【完結】今更告白されても困ります!

夜船 紡
恋愛
少女は生まれてまもなく王子の婚約者として選ばれた。 いつかはこの国の王妃として生きるはずだった。 しかし、王子はとある伯爵令嬢に一目惚れ。 婚約を白紙に戻したいと申し出る。 少女は「わかりました」と受け入れた。 しかし、家に帰ると父は激怒して彼女を殺してしまったのだ。 そんな中で彼女は願う。 ーーもし、生まれ変われるのならば、柵のない平民に生まれたい。もし叶うのならば、今度は自由に・・・ その願いは聞き届けられ、少女は平民の娘ジェンヌとなった。 しかし、貴族に生まれ変わった王子に見つかり求愛される。 「君を失って、ようやく自分の本当の気持ちがわかった。それで、追いかけてきたんだ」

処理中です...