天下無双の遊戯

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町と平和

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街道を進むユウシオンとテツジン。道は先も後も砂利。両側共に樹林が広がる。
テツジンはハッとしてポーチを探る。「な……ない」
 「何が?」
 「主に貰った城への行き先を示すネックレスがない!」
 「……え!」
 「多分あの時だ。刑務所にお前が入れられた時。あのとき、俺は宿屋の風呂に浸かっていた。そのときいつもネックレスを外す。風呂から上がって自室に戻ってコーヒーを嗜んでいたときに天剣がお前の所は吹っ飛んで行って俺はその責任を宿屋の主人に押し付けられネックレスをハメないまま山賊に連行されていた」
 「そんなこと今気付く?」
 「事前に先の道を把握してたから今更気付いちゃった」
 「あーあ。まあこっちは先にメイドが家で働いてくれてるしいいんだけど」
 「……チッ。仕方ねえ。今から来た道を戻るぞ」
 「えー……」
 「戻って取り返す」
 テツジンが引き返そうと後ろを向いたときに樹林から矢が飛んできた。首に当たる矢を当たる前に掴み飛んで来た方を睨む。そこら一帯を勢力範囲とする野党の一味が4人。ユウシオンは天剣を抜き4人を戦闘不能にすると敵は命乞いをしてきた。テツジンが一応目的地があってそこに辿り着けないことを伝えると占いのペンを渡された。地面に紙を置きそこにペン先を置くとペンがひとりでに文字を書き始める。書かれた文章曰く「1週間以内に目的地の手掛かりとなる人物も出会う」とのこと。
 戻るか近くの港町まで行くか。占いが当たっていれば何処に居ても手掛かりを掴めることになる。
 テツジンは港町に行く事を選択した。ユウシオンとテツジンは港町に到着した。宿屋を探して表通りを歩く。道の両側を露店が櫛比する。或る武器屋で止まる。刀身がクネクネした剣が敷物に置かれている。価格は120万。店主に値段をまけさせようとした。笑われた。店主の目が笑っていなかった。次の武器屋へ。店主はデモンストレーションに品物にかけられた魔法の魔力を測る機械を用いて刀身が衝撃を受ける毎に熱で赤くなっていくという魔法がかけられた剣を計測。魔力は2万。価格は100倍の200万。
 店主曰く「これでCクラスのモンスターを倒すことが出来る」らしい。
 アクビをするユウシオン。「つまんね。かえろ」
 3軒目。同様のデモンストレーションを受けた後に店主がユウシオンの剣を測ろうという。剣の見た目が柄も鞘も鉄色で地味ゆえに所持する剣にかけられる魔力の弱さを教え購買意欲を高めさせようという狙いを店主に思い付かせる。計測。測定不能。呆気にとられる3人と周囲の人達。裕福そうな男性が「売って欲しい」とせがむ。ユウシオンは天剣を胸に抱き往来の激しい通りを後にする。皆が天剣を強奪しようとしているという錯覚に陥る。果物屋で盗人がリンゴを盗む。ユウシオンは天剣を抜く。剣にかけられた魔法の影響で全身に力が漲る。地面を2回蹴って先に走っていた盗人を捕らえる。周りから拍手喝采。治衛官に連行される盗人を見送った後に茶色の髭の男に話しかけられる。名をラギリ。
 「先程の身のこなし、素晴らしいですな。壮絶な修行の末に身についた自身の膂力に加えて余程高価な剣を所持していると見受けられる。私はこの町のギルドのメンバーとしてクエストをこなす者ですが、どうでしょう? 私が今現在任されているクエストの助っ人として任務に着いてもらえないでしょうか?」
 「…………」
 ユウシオンは占いのことを思い出す。テツジンを見て頷かれたのでラギリの提案に乗った。
 場所を酒場に移す。テーブル席に座る3人。
 ラギリは手を組む。「先程の続きですが私は今或る要人の移動中の警護の任務についています。私以外にも9名いますがこれだけでは少々荷が重いんじゃないかと踏んでおりまして」
 「それで俺をスカウトしたと」
 「ええ。それで任務達成時にギルドから頂く報酬の分け前ですが」
 「11分の1でいいです。ただ俺たちも目的地があって放浪する身ゆえその目的地が何処にあるか情報が欲しい」
 「……そうですか。それならむしろギルドは良い情報提供の場となるでしょう。人が普通行かない厳固な場所から町のブラックな所まで縁のあるメンバーは多い。クエストとして依頼してみてはどうでしょう?」
 「あ、それいいかも」
 「えーと、このクエストを受けてもらえるんでしょうか?」
 「(面倒くさいな……)もちろんです」
 「……前述の要人というのは10歳になる子供です。移動は東門を出て広大な草原を進み海の見える崖近くの村。通称お菓子の村までモンスターや賊から護衛するというものです」
 「10歳の子供……」
 「一般家庭に生まれた特異体質の子供です。皮膚から垢と一緒に宝石の粒が取れるのです。お陰で一家は裕福になった」
 両サイドの話が終わり3人の間に沈黙が生まれる。
 「他の9人とは任務当日に会う予定ですが事前に会っておきたいですか?」
 「いや、いいです。ラギリさんは仙封城のことを知らないか?」
 「仙封城? 知りませんな」
 2人は宿屋に戻る。テーブルと椅子。カーテン。鏡とベッドがある部屋。床は板敷き。
 ユウシオンは椅子に座り途中で購入した酒と刺身を食べる。
 テツジンはベッドに横たわる。「あー、あと何日かかるかなぁ」
 「過去に指輪を失くした経験は?」
 「ない。今回が初めて。トラブルらしいトラブルは財布をこの俺がスられたことくらい。あと道中に同僚が死ぬこともよくある」
 「仲間が死ぬことはよくあるのかよ……。ていうかお前って凄いんだな」
 「まあな」
 「それなら大丈夫だろうけどテツジンは明日仮に戦闘があるとして戦うことが出来るのか?」
 「え? 俺も助っ人を頼まれてたの?」
 「そういや俺しかスカウトされてないな」
 「酒場に向かう道中で旅の者であると名乗っただけで後はスルーされてたしな」
 「ていうか戦力になるなら来てくれよ」
 「ああ。それは参戦させてもらうよ。俺の任務はお前を城まで連れて行くことだからな。お前が死んじゃ俺がおしまいよ」
 「テツジンって何者なんだ? この機会に教えろ」
 「白兵戦が強いことで有名な武国という国の戦士とエルフのハーフ」テツジンは上から目線な相手を見る。彼は青と翠が混ざった瞳の色をしている。「ふっふ。城では警備を除く城内の者全員と一緒に夕食を取る。主の機嫌が良い時に主が俺の親を魔法で透視してくれたから本当だ。武国とエルフ国の世評は対極に位置しているから俺は捨てられたんだと」
 「  」
 「この町に来る前矢を受け止めたろ? 武国の戦士の血がある証拠よ。ちなみにエルフの血で出来ることは秘密だ」
 「ドヤ顔は止めてくれる?」
 「あとさぁ、宝石の少年は城の在処を知っているかもしれない。主は好事家だから少年を城に呼んだことがあるかもしれない。隙を狙って訊いてみよう」
 任務当日。豪華な馬車に要人が乗る。その前後を馬に乗ったギルドメンバーが護衛する。ユウシオンとテツジンは馬車の後方を警護する。
 見晴らしの良い草原を移動する。右側は崖と海。太陽が大地を照らす。
 ユウシオンは賊は攻めてこないだろうと感じた。何処を見ても遠方まで見える平地だから。奇襲は狙えない。助力を頼むのだから現れるのだろうか、と楽観的な思考になる。
 最前列で警固するラギリが隣の馬に乗る仲間の首を剣で斬った。少年を乗せた馬車一行を止めると同時に前列の仲間に向けて掌からファイアボールを放つ。次々とメンバーの身体が炎に包まれる。
 馬車の両側を警固するメンバーAとBが馬から降りる。
メンバーAが構える。「お……お前、なんてことを!」
 ラギリは剣を抜いているメンバーAに近づいて行く。互いの剣が交差しラギリの剣のみがメンバーの身体を斬って殺す。メンバーBをファイアボールで焼き殺した。
 AとBの後ろでラギリを見ていた6人の内の1人は飛んできた矢が側頭を貫いて死ぬ。5人は飛んできた矢の方向を見ると野党の集団が攻めてきていた。ユウシオンは剣を抜く前にラギリによる吹き矢の毒針が腹に刺さって倒れる。4人は剣を持った野党達と戦闘になる。テツジンは野党Aの振る剣を右手で受け止め左手の指で野党Aの眼を突いて倒す。木刀を振り回してくる野党Bの攻撃を全身の筋肉を硬直させて防御。攻撃を当てて手が痺れている野党Bの首を掴みへし折る。野党Cは木の盾と金属の剣でガードしながら攻める。テツジンのパンチで盾を穿たれキックで腕もろとも胴体の骨を破壊され死んだ。ラギリのファイアボールを喰らう。燃えながら裏切り者に近づくテツジンは平気のようだ。ラギリは毒針を放つ。火で皮膚が脆くさせようとは思っていない。しかしそうなったテツジンの身体に毒は効いた。精神的に追い詰められたラギリはありったけの針を飛ばした。テツジンは痺れて倒れる。
 ユウシオンとテツジンは金属製の檻の中に入れられる。檻の中に収まるサイズの魔法陣が地面に描かれている。
 後ろ手に頑丈な手錠をかけられたユウシオンが目を覚ます。「ここは!」
 「気がついたか」テツジンが隣で横たわっている。縄で身体をグルグル巻きにされている。
 ユウシオンはテツジンの真剣な声のトーンとその様に笑ってしまった。「ご、ごめん」
 「うるさい」音を聴く拘束された男。「……聴こえるか。波の音だ。おそらくここは崖の下。海辺の洞穴。ここが野党の根城」
 檻を監視する野党Aが怒る。「どうでもいいんだよそんなこたぁ! それよりこれから自分がどうなるか考えとけっ!」別室に行きラギリとフードを被る魔法使いを連れてくる。
 ユウシオンがラギリを見る。「アンタ、仲間を裏切ったのか」
 「そうだな。痛ましい出来事だった」
 「ここから出せ。腰抜け」
 「お前を生かしておいたことには理由がある。抜けないんだ。お前の持っていた魔力測定不能の剣が。お前が剣を抜いてくれれば生きて此処から出そう」
 「信じるわけねえだろ馬鹿」
 「あまり調子にのるなよ。言葉で従わせるのはコレが最初で最後だ」ラギリはテツジンを見る。「強いな。この日のために強力な痺れ薬を使ったんだが。どうだ俺たちの仲間にならないか?」
 「ふん、アホか」
 「そうだろうな。ユウシオン、そういうことだから剣を抜かないのであればお前を拷問する前に隣の仲間を殺そうと思う。どうだ、少しは心が揺らいだか?」
 「ユウシオン、従う必要はねえぞ。俺は天剣を所持するお前を城へ連れていかなきゃならない」
 ユウシオンはラギリの強要に応じる。天剣を檻の外から柄の部分のみ入れられる。口で柄を噛んで抜く前に地面に描かれる魔法陣は天剣を抜いた際に起きる身体能力向上魔法を無効にする働きがあると当たりをつける。口で剣を抜いていく。
 ラギリは厳しい眼で見る。「全部抜くなよ。そこまででいい」
 ユウシオンは剣を離す前に手錠をかけられた腕に力を入れてみた。手錠が壊れたので剣を抜き檻を斬る。慌てたラギリが毒針を飛ばす。針は身体に当たり弾かれる。ラギリの頭部は強靭な手により掴まれ大型竜並のパワーで身体を持ち上げられる。
 「泣き叫べ」ユウシオンはラギリの頭を握り潰す。次いで野党Aを始末し2人は別の場所に居た要人を野党達から救い出した。
 テツジンは洞穴の出口を見つけ外に出る前に少年に身体を向ける。「仙封城を知ってるか?」
 「仙封城? 聞いた事がありません」
 町に戻り少年が事の顛末を証言し事態は収束した。後日、2人は要人救出の功績を称えられ港町のギルドメンバーとして認められた。
 ギルドの受付所。茶店兼メンバー間の情報交流の場でもある。そこで2人は椅子に座る男に仙封城の場所を尋ねる。
 「悪いが知らねえな。そっちのこの町のギルドのエースならなんか知ってるだろ」
 「ん? なんだよ」コーヒーを飲んでいた銀髪の戦士が2人を見る。
 「エースってことは凄いってことか?」
 「まあ、A級クエスト達成数は最多だ」
 「そりゃいい。俺はテツジン、こっちはユウシオンって言うんだよろしく」
 「俺はハドー。聞きたいことがあるなら聞いてくれ。知っていることなら概ね答える」
 「仙封城って知ってるか?」
 「……知らねえな」
 「はあ……」
 「……そうだ思い出した。東門から出て森の深淵にある夢暗館って所にピーコって奴が居る。ソイツに聞いてみろ。大昔、仙封城がどうとかって話をしてた」
 2人は露店で地図を購入し東門から森の奥へ進む。
 ユウシオンは顎に手を当てる。ハドーがピーコの危険性を語っていたことを思い出す。「ハドーの言ってたピーコの不思議な力ってなんなんだろうな」
 「確かに。魔法なら魔法って言えばいいし」
 ハドーはこう危機感を促している。「ここ数年でアイツから黒い噂が流れている。ピーコと出会ったら絶対に怖がってはダメだ。アイツには不思議な力があってピーコが怖がらせようとして怖がらせることが成功したとき怖がった相手は死ぬらしい。目撃者が今まで1名しかいないから詳しいことは分からないがとにかくピーコの前で怖がるな。あと遊びで負けることもダメ。あとピーコを攻撃するのも無し。攻撃したら殺されるらしい。昔は気の良い奴だったんだ」
 「遊びってのは?」
 「鬼ごっこ」
 背の高い木々の密集地を抜けると整地された円状の土地が現れる。土地の真ん中に大きな館がある。2人はノックする。扉が勝手に開いたので入る。扉が勝手に閉まる。開かない。奥へ進む。碁盤状の通路であることが確認出来た。両側の壁には2人の頭より高い所に燭台が等間隔で設けられている。ウロウロしていると部屋に着く。通路と部屋の間に扉はなく部屋の四方に通路がある。部屋の中心に置いてある像が大音量で同じ動きを繰り返す。踊っているように見える。右の通路からピエロが綺麗なフォームで走ってきた。2人は驚いて逃げようとしたがハドーの言葉を思い出して止まろうともしてユウシオンは北側、テツジンは南側の通路へ分かれて走る。
 ある程度走ったテツジンは四方の通路を警戒する。無音。静かに移動する。三方の分かれ道に着いた瞬間に右から待ち伏せていたピエロと出会す。
 「ヒッ……」
 テツジンは恐怖で喋ってしまう。
 「ぎぃやああああぁ」
 声が響き相棒に何かあったことを知るユウシオン。「ヒッ、ヒィ、フゥ」息を整えて考える。「(一体コレに終わりはあるのか? 無いなら死ぬしか無い)」通路を進む。分かれ道で左を向くとピエロが顔を傾けて遠くから獲物を見ている。
 互いに相手を視認する。ピエロは顔を傾けて突っ立っている。ユウシオンは息を潜める。静寂の後にピエロが走ってきた。爆走。
 鬼ごっこというワードがユウシオンに天剣を抜かせる。ピエロの身体に巻きつくイモムシのようなONI。ONIは彼が剣を抜いた事を攻撃と判断して喚きながら喰おうとしてきた。躱してぶった斬る。イモムシの中からテツジンが出てきた。
 ピエロは巻きついていたONIが死んで拘束が解かれ倒れる。息絶え絶えのピエロに促され別室へ移る。テツジンをベッドに置き円卓に着く2人。
 「あ、ありがとうございます。ボクはピーコと言います。数年前にあの生物に取り憑かれて頭に直接語りかけて来るんです。言う通りにしないとボクを殺す、と。ボクを生かす条件は鬼ごっこで他人をあの生物に提供する事だったので仕方なく」
 「なるほどな。……ま、慰めになるかは知らんけど証拠は残らない訳だし自由になったんだったら今を楽しんだら?」
 「カウンセラーか何かで?」
 「そんなんじゃ、ないっすけど……」
 「…………」
 「…………」
 「で、要件は? 悪評がある上で来たんなら何かあるんだろ?」
 「あぁそうそう。仙封城って知ってる?」
 「仙封城か。昔行ったな」
 「ホントか! 行き方は覚えているか?」
 「悪いが行き方は知らない。その時は馬車に乗った直後に転移魔法で移動したから」
 「転移した場所に魔法陣跡が残ってるだろ。その場所を教えてくれ」
 「転移に用いたのは魔法石だから無いな」
 「ウソをつくな! 転移を魔法石で行えるわけねえだろ!」
 「出来るぞ、魔法石でも」ベッドで寝ていたテツジンが真顔で言った。
 「え? そうなん?」
 「うん」
 ユウシオンはピーコに謝る。
 3人の居る居室兼寝室を朱色に照らす照明は複数の壁龕に設置されたキャンドル。綺麗で可愛い。1人で住んでいるとモッタリしそう。
 起き上がるテツジン。「知らないならそれでいい。邪魔したな」
 2人は館を出る。
 ユウシオンは慌てる。「どーすんだよ。手掛かり無くなったぞ」
 「出会う出会う絶対に出会う。予言じゃ手掛かりを知る奴と出会うって書いてるんだから動いていれば出会う。予言に使われたペンは高価な物だったんだろ?」
 「う……うん。あれは竜の髭で作られた占いペンだ。一説には70%の確率で当たるって話」
 ギルドに戻ると受付嬢から指示があった。モンスターの軍団が町を襲撃しようとしている。その根城が分かったので殲滅のためギルドメンバーに招集がかけられている、というもの。
 翌日。モンスター殲滅作戦当日。兵士と傭兵(ギルドメンバー)が整列する。
 男が列の前で宣する。「えー今回はお日柄も良く」
 山の奥地。大木が櫛比する。落ち葉と石と枝と高低差の大きい段差と傾斜の強い道なき道を進む。
 目的地に到着。静寂な森の深淵で兵士が木に火をつける。
 「ギ、キィィ」大木が叫ぶ。
 木が動き出す。根っこが手のように動き出し火を消す。木付近の地面からゴブリンが這い出てくる。大木モンスターの無力化に成功した討伐軍はゴブリンを倒していく。ユウシオンはのんびりゴブリンを倒しながら周りに助けを求める者がいるか見る。どの兵士も傭兵も優勢。その中で1人。際立つ者を発見する。金のように光る長髪の兵士。自身の3倍は重そうな大剣を振り回す。刀身が透けていて綺麗。単独で複数のゴブリンを相手取り討伐して行く。戦いは討伐軍の圧勝に終わった。
 夜は祝勝会。酒場で兵士とギルドメンバーが仲良くしている。酔った戦士達に仙封城について知っていることがあるか聞いて回るテツジン。
 宴が終わると周りから戦いの様を褒めちぎられていた金髪の兵士にユウシオンは声をかける。「凄かったな。今日の戦い」
 互いに自己紹介する。金で長髪の兵士の名はサマナシ。
 「失礼だけど大剣を振り回せる体躯にはとても見えないな」
 「あれは召喚魔法だよ。聖界インドラゴラから戦士の剣を転移してもらった」
 「そりゃすごい」
 「重さは殆どない。魔法攻撃を反射する力が付与されている」
 ユウシオンは大剣がちょっと欲しいと思った。「ふん」と言うのが精一杯だった。
 「君も凄かった。ボクには君が余裕でゴブリンを倒していっているように見えたな」
 「うん、まあ、そうだけど」
 「町人の共通認識として襲撃を謀るモンスターの討伐が成功した次の日は木刀を用いた大会が開催されるから君もそれに出なよ」
 「いやー、ははは。どうしよっかな」
 「ボクは君と闘いたいな」
 「……分かった。出よう」
 「明日は観客が湧くような楽しい闘いをしよう」
 「ああ、約束する」
 宿に戻る。
 テツジンは有力な情報は得られなかったと嘆く。「明日で3日目か」
 「明日開催される剣の大会に出たい」
 「おー、出ろよ。何か手掛かりが得られるかもしれない」
 町の空閑地に丸太を立てて垣根を作り円形闘技場と外野を区別する。ユウシオンは2回戦に出場した。相手の兵士に完膚なきまでに叩きのめされた。あまりに一方的な闘いに観客は言葉を失っていた。サマナシも初戦で負けた。昨日の互いに闘うことを誓った2人は現実を思い知らされた。
 大会が終わった後の夕暮れ時にユウシオンはヤケ酒を飲みに酒場に入るとカウンターに座るサマナシと目が合う。
 「(恥っず)」ユウシオンはサマナシと離れた位置に座る。ビールを飲みまくる。酔いが回り店主にサマナシへの愚痴を言う。「俺はぁ素人だから本当は出たくなかったんだ。それをそこの金髪が出ろっていうから出ただけで。良い恥晒しだぜ」
 「ボクも驚いたよ。戦じゃとんでもなく強いと思ってた男が木刀握ったらタダのカスだったとは」
 「あ? そういうお前も初戦敗退のザコじゃねえか」
 「ボクは相手が前年のチャンピオンだったんだ! じゃなきゃ優勝候補と目されるボクが負けるか」
 ユウシオンはビールを飲み干してグラスをテーブルに叩きつける。「酒が不味くなっちまった。オーナー、釣りはいらねー。とっとけ!」代金ちょうどの硬貨をテーブルに叩きつけて酒場から出る。篝火で照らされる階段広場の階段に座り込み泣きべそをかく。
 「大丈夫ですか?」
 彼は顔を上げると庶民の服装をした女が覗いていた。
 「泣いてんの?」
 「な……泣いてねえよ!」
 「くすくす」
 「何が可笑しい!」
 「可愛いなぁーと思って。何があったかお姉さんに聞かせて。良いアドバイスをあげるから」
 ユウシオンは女の鼻に指を突っ込んで立ち上がる。
 女は「ぐあー」と言って差し込んでくる腕を抑える。
 「アドバイスはいらねえ! ラブコメ展開もな!」
 彼は指を鼻から引き抜く。ポケットからハンカチを取り出し指を拭く。「俺からアドバイスをやる。話し相手が俯いていたら鼻を隠しとけ」
 彼はギルドに移動する。ハドーの居るテーブルに着く。
 ハドーはお茶を飲んでいる。「お前、大会で初戦負けしたんだってな。お前ってその剣があるから強いだけだったんだな」
 「くっ」
 「今大会の見所はなんたってお前の初戦負けとサマナシVSマイトの二つであることは間違いない」
 「誰だよマイトって」
 「火炎の勇者マイト・ダイナ。ここのギルドメンバー。もっとも彼は幾つものギルドを掛け持ちしてるからココにくる頻度は低い。一箇所に専念していれば俺もA級クエスト達成数でマイトに抜かれていたろうな」
 「……ほう。凄い奴だな」
 「そりゃもう。アイツは20歳で既に火系統の魔法を2つ修得している」
 「それって凄いのか?」
 「はあ? 凄いなんてものじゃない。まず100万人に1人の確率で出現する体内でマナを生成出来る魔法使いとして生まれているし魔法は1つを修得するのに10年から10数年かかると言われている」
 「ほう」
 「だからC級クエストを主にこなすラギリが実力を隠していたことに周囲は愕然としていた」
 2人は談笑する。
 ハドーは腕を組む。「サマナシが赤っ恥をかいたのは間違いない。今回のモンスター討伐の功績から優勝を期待されていたんだから」
 「確かにアイツ、酒場でクスクス笑われてたな」
 「内心どうにかしたいと思ってるだろうな」
 「話してたらクエストを受ける気が無くなった。帰る」
 なんとなく町全体を眺めたいと思った。港町の南側が海で反対側が山になっている。山を登ろうと麓に徒歩で移動し登山道を歩いていると道の外れから声が聞こえる。近づいてみると松明を持ったサマナシと対峙するマイトが居た。
 サマナシは目を血走らせる。「魔法を使っていれば負けなかった。ここ数年は魔法の練習で忙しく剣術の練習に当てる時間が少なかったから今回負けたんだ!」
 「だからなんだ?」
 「せこいんだよ! あの実力差。自分だけ練習してきたのが見え見えじゃないか!」
 「仮にそうだったとしてもどうすることも出来んだろ」
 「謝れ! 土下座しろ! いや! ボクと闘え!」
 「言われなき罪を着せられるとはな。まあいい。土下座するのはいいがそこに居る男をどうにかしないとな。目撃者がいるとお前の評判が悪くなるぞ?」
 サマナシが木に半身を隠しているユウシオンを発見する。「ユウシオン、君は、それでバレないと……。いや、それはいい。君は何が欲しい? お金か? いや、もういいむしろ見ていてくれ。ボクが勝つところを」松明を地面に差して大剣を召喚する。
 「本気のようだな」マイトも構えて剣を召喚する。
 2人は近づく。サマナシが大剣を振る。マイトが片手であつかうクレイモアとぶつかる。火花が散り続ける。クレイモアが大剣により切れ始める。
 マイトは後退する。「それが噂の魔法を反射する剣か」
 「君の剣が切れたってことはその剣はなんでも切ってしまう剣ってことかな?」
 「ああ。市場に出回っている魔法が付加された剣とは一線画す。刀身に帯びる焔の熱が全てを焼き切る。火炎地獄の地に刺さる幾万本の剣の内の1つ」
 「残念だったね。ボクの剣には敵わないようだ」
 2人は円を描くように移動し始めて再度近づき互いに剣を振る。鍔迫り合いになり立ち位置が入れ替わる。
 「お前が反射出来るのは精々大剣の質量分だろ。ならこれならどうだ」マイトの手から火炎放射。フレイムシャワー。
 サマナシは普通に焼かれる。大剣が消滅し地面を転がり火は消える。金髪の男は動けない。
 「どうだ観客。俺の勝ちだろ?」マイトはユウシオンに聞く。彼は目撃者に火が当たらないように立ち位置を変えたのだった。
 「あ……ああ」
 「それじゃあ、あとの処理は頼んだぞ」
 「ちょ、ちょっと待った」
 「なんだ?」
 「俺と闘ってくれないか?」
 「ナニィ?」
 「見てたら勝てるかなって……」
 「いいだろう。ならこい」
 ユウシオンは天剣を抜く。マイトがクレイモアを振る。刀とクレイモアが衝突。火花が散り続ける。マイトは刀を切断出来ない事を不思議に思っていると顔を殴られて意識が無くなった。
 「加減したけど大丈夫かな?」倒れた男を覗き込む勝者。倒れた2人を担いで病院へ連れて行く。「予言成立まで多くてあと4日か」
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