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宴と脱獄
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夕景。茜色の空。ユウシオン・アセレラとテツジン・ヒーローは馬に乗り森を駆け抜ける。街道沿いに櫛比する家屋。或る1軒家の戸を叩き、出てきた住人に宿泊の交渉。宿屋の存在を教えられるも食い下がる2人に住人の目が据わる。「旅人さん。悪いことは言わないからこの村でそういうことしないほうがいいよ。ここは善意の村だから」
呆然とするテツジン。呆然としながら相方の方を向く。「何言っちゃってんのこのババアは?」
婆さんは溜め息を吐く。「アンタねぇ・・・・・・。はあ・・・・・・。分かった。確かに私の言い方が悪かった。イキッた。イキりました実際のところ。でも本当のことなの。だから教えといてあげる。辺境にあるこのゾワゾワ村を統治するのは大山賊スピュグモス様。頭領は殺人や略奪を行うも平和主義な面もあり統治するこの村で犯罪を許さない。村に作った8つの規則の内どれか1つでも破る者はあの山の麓から少し登ったところに建設された監獄に入れられる。目視出来るわ。見えるでしょ。たしか初犯で1年くらい入所することになるんだったかしら。軽罪でね」
「ふん。俺も助言しとく。他人をビビらせたいならこの村を出るんだな。ココは悪人に厳しい」
「ふん。バレたか。そうです盛りました。1年は盛った。でも長ーい期間閉じ込められるのは本当よ」
婆は2人を泊める。その夜と翌日の朝昼に雑穀を頂き婆に礼を言い家を出た。
「あちぃ」テツジンは手で自分を扇ぐ。
「昔、トレジャーハンターとして大陸全土を移動してたときに別の大陸から来た行人と出会ったことがある。その時聞いた話じゃ他の大陸は今いる村と次に到着する村で気候が違う、なんてことないらしいぞ」「え・・・・・・てことは前の村が春だったら次の村も春なの?」「そういうこと」「めちゃくちゃラッキーじゃん」
暑い。太陽が煌めく。数分歩けば耳周りが蒸す。家族で行水しているのを見かける。子供が小さな桶に溜めた水を2人にぶちまけてケラケラ笑う。その親に裸で土下座されて許す2人。また馬を引いて歩いていると村民2人が言い争う姿を見る。犬が小屋から逃げ出し相手の家畜を食べたという。犬を逃がした側の民も怒っている。治安を守る山賊が犬を逃がした村民に縄手錠をして連行。2人は刹那の緊張。また歩く。程なくして2人の歩行ルートを横切ろうとする村民とかち合う。譲り合いが長々と続いた。
村の規則。《人を攻撃してはいけない。人を裏切ってはいけない。物を盗んではいけない。物を破壊してはいけない。》
昨日、婆から教えられた原則の1部。規則破りは軽罪と重罪に区別される。重罪となる者は『規則を破る中でもそれが世道から極端に逸脱した行いであること』『その行いが故意であること』『スピュグモスと親交の無い村民』の中で局限される。公言された条件以外にスピュグモスが根城にする城から距離が離れる村民ほど条件を満たせば重罪になりやすいという事実が存在する故。
譲り合いが長々と続いたことでユウシは軽く恐怖する。「張り詰めた村だ。昨日言ってた監獄っていうのも山賊が囚人を監視し統率してる建物なんだからなんつーかさ、どういうことでどんな階級が形成されてるんだろうな」
村を抜けて山を抜け次の山の山道を行く。途中で野良犬の集団に追い掛けられるも振り切り猪を見つけ狩猟し空が薄暗くなった頃。森を駆け抜けている最中に小屋を発見。
「今晩はあそこに泊まろう」「こんなところにポツンと建つ小屋が1つ。怪しい。危険な香りがする」「近くに海があるのか。波と濤声が聞こえる」「そんなん聞こえないぞ」「する。小屋の奥は崖かな。いいねえ。コレはコレで風情があって。きっと小屋の住人は風変わりな人で中では日々仏像を彫って生きてる。その実態は過去に大罪を犯して捕まり脱獄して閑寂に暮らす犯罪者」「入所してた所は山賊が運営してるってか。それは凄いがあり得る」「あそこで波枕と洒落込もうじゃないか」「本当だったら寝てる間に身ぐるみ剥がして自分の足しにするんじゃないか」「ないない。あるいは愛する人が死に悲しみのどん底から独りで生きることを選んだ芯の強い人物」「フィクションですな。俺だったら周りとの繋がりを強めることはあっても独りにはならない」
小屋の扉をノック。女性が出てくる。「ダレデスカ」
「旅の者です。今晩ここに泊めていただけませんか」
「この山にモンスターはいませんが野生の動物は多く生息していますからね。野宿は避けて家屋または下屋でもいいから泊まらせてもらい隔壁で外との視覚的な断絶を計りたい、と」
「御意」
「しかしこちらは女が1人。変態とは居たくありませんが中に入れてしまえばどうすることも出来ない。故に今あなた方の心事を疑わざるを得ません。」
「御意にござります。であればこの屋敷に来る途中に狩った猪の肉を献上いたします」
「しかし・・・・・・・・・・・・。分かりました。泊まることを許可しましょう。断っておきますが私は獣の肉に負けたのではない。貴方のその熱意に負けたのです」
近くの木に馬の綱をくくりつけて中へ入る。小屋の中は部屋3つ。玄関を開けて土間と居室。奥に扉がありそこは物置。左に扉が在りそちらは寝室。居室の真ん中に火縄銃や将棋盤、盤上に駒が無造作に置いてある。隅に荷物を置き外でシシ肉を焼いて食う。ラヴィが小屋から樽に入ったビールを持ってくる。3人はビールと獣肉で無限に飲み食いする。辺り真っ暗。松の枝に焚き火の火を移し崖の先まで移動。空が明るければ海と波頭、波の音は酔いの感覚と組合わさり情調を伴わせるだろう、とユウシは予測。
ビールを一口飲んでラヴィはポケットからミニチュアのタンスを取り出しユウシに渡す。「これ、私が製作したの」
「へぇ~~~。タンスの模型か。本物のタンスと見分けつかないね。可愛らしい」
「今度近くの村へ日用品を買いに行くとき露店を開いて売ろうと思ってるの。初めに子供達が集まってきて次に大人達も寄ってきてきっと人気になるわ」
「へー。いくらで売るの」
「製作期間に私の精魂込めました料を加えて、1つ50万イェンから」
「・・・・・・・・・・・・」
胡座をかいて掌に乗せたミニチュアタンス。突風が吹きタンスが手からこぼれる。掬おうとわちゃわちゃして模型は崖に落ちて暗闇へ吸い込まれた。
「うああああああああっ!!! わわわたしのもけぇぇぇぇぇ!!」
「ふふふ」
「なに笑っとんじゃあ!」
ユウシは善意の村の山賊が席巻した村の自治組織『守帝団』の詰所に連行される。規則を破ったとして監獄へ入獄する手筈となる。坊主にされ縄手錠をかけられたユウシが牛車に乗せられる。10数人の人だかりの中からテツジンに声をかけられ手を振り返す。牛車に揺られ続けて降ろされる。正面に石造りの高い障壁が在る。山の窪地にある監獄。
周囲は開拓されておりユウシは遠方に村を視認する。「でっかいとこだ」
「ワクワクする?」
「しないよ」
山賊兼治衛兵は憫笑する。入獄前に外で取り調べが行われる。身体検査を受けた後監獄内の生活規定や慣例等の説明と指導を受ける。
塀の前に監獄出入口となる隧道がある。出入口は鉄格子で封鎖されており格子の一部が扉になっている。そこから入獄。下って登って再び鉄格子が開かれ隧道を抜けると塀の中。地均しされたグラウンド。左側に畑。手拭いで目隠しされ、グラウンド中央に縦抗が在り梯子で降りる。縄手錠を引っ張られグルグル歩き回り再度梯子を降りて目隠しを外し直ぐにもう一度梯子を降りる。幅広い通路の両側に雑居房が並ぶ。通路の先は行き止まり。行き止まりと反対の通路端に落とし格子で封鎖された空間がありモンスターが閉じ込められている。通路中央に3脚つき燭台の火が揺れる。土牢と土牢の間の壁に張り出し燭台が設けられ獣脂で燃えている。縄手錠を外され手前の牢屋に拘禁される。
色黒の男『アップルパイン』が声をかけてきた。「兄ちゃん、名前なんて言うんだ」「ユウシオン・アセレラ。ユウシとかシオンて呼ばれてる」「じゃあ、お前のことはユウシと呼ぼう。オレはアップルパイン。身長180センチ。右利き。甘いものが好きでぜんざいに目がない。趣味はストレッチ。毎朝開房点検前に入念に行う」「オレは行人。趣味は読書だ」「入獄初日から嘘は良くない。先ずは心を開き合わないと」「すまん。盛った。初対面だからナメられないようにイキッた。趣味はエロ本の熟読だ」「しかし山賊の支配域で犯罪を犯すとはな。一応言っとくと累犯者は終身刑か死刑だ。刑期を全うしたら直ぐに離れることだ」「情状酌量の余地皆無の刑罰を科すところから山賊頭領の独善的で気性荒い性格が窺えて村民から指導者と仰がれることに違和感を覚える」「それくらい前の治安が悪かったのさ。今は全然平和。略奪も殺されもしねえから」
3日が過ぎる。
朝方。早朝。床に均された藁の上で眠る囚人達が起床。牢屋の隅に置かれるおまるに囚人達が順に大・小便をしていく。列になり正座して待機。山賊兼刑務官がやって来て点呼を取られ朝食のパンと水を。
のち出房。工場へ行く者とグラウンドへ行く者に分けられる。ユウシは後者のグループ。目隠しと縄手錠をされ縦列をなして梯子を2回登った空間で刑務官の指示を聞き『行進を止めて右か左に曲がる』を繰り返して歩き回り梯子を登り目隠しを外すとグラウンド。初めに見た畑で耕作(刑務作業)に従事する。昼休憩に入り工場作業の囚人もグラウンドに上がってくる。蹴鞠をする集団。地面に座り雑談に興じる者。うろうろする囚人。監獄に風呂や服の洗濯はない。昼休憩中に雨が降れば囚人達はそれを利用して服と身体を洗う。監獄内の規約に関して文句を言えばストレス解消の標的とされ拷問を受けやすくなる。
3日間の経験から囚人は犯罪を犯したならず者というより捕虜であり山賊刑務官とは捕虜と敵兵のような関係であるとユウシは感じた。
「これでもやつらからしたら長期間の服役生活に配慮してるのさ。なんせ昼休憩があってそれもグラウンドに出られるんだからな。これで拘禁反応なんて出ようもんなら殴打されシメられて終わりさ」
『この生活が後どれくらい続くのか』思うと頭が重くなるユウシ。
アップルパインとユウシはグラウンドの隅で安坐し喋る。他に2人が混ざり輪になり喋る。同房の4人だった。
読書しながら男はユウシを見る。「ユウシ、お前外で何を生業にしてた」
「オレはトレジャーハンター。一攫千金を狙ってお宝探し」
「安定しないが人気の職だな。まだまだ探索されてない未知の土地がこの世には山ほどあるからな」
「そういうアンタは。首筋に切り傷があるけど」
「オレか。オレはコレを自分でつけたんだ。出血で頭がスーッと楽になれてな。イクビ、お前なら俺の気持ち分かるよな」
「知るか。知りたくない。ていうかお前の考えを押し付けんな。前々から言いたかったんだけどオレがお前の癖に共感出来る前提で俺と話そうとするのは止めろ」
アップルパインも頷く。「ポエーマンさん。アンタの言動は確かに哲学してる。だが哲学するっていうなら他者と自分の精神的な境界くらい明確にしておきなさいよ」
「偉くなったもんだなアップルパイン」
「その台詞を吐けるポエーマンさんは殿様かな」
「アップルパインの言う通りだぜ。お前は哲学者を自称するなら自らの非を認めて変わりやがれ」
団結したイクビとアップルパインの批判に
「うおおおおおおお!」で返すポエーマン。
ポエーマンがパワーでごり押しする事態は終息し彼は差し当たり自己の変容を課題とするか否かを有耶無耶な所に帰着させる。
「痛いとこ突かれると直ぐ声と雰囲気で押し切ろうとする」
「コイツ、ワガママなんだよ」イクビを見ながら相手を親指で指すアップルパイン。
休題。数分後。
ユウシはイクビ・ナ・ガの作品を見る。「スゴい絵だ」
イクビは地面を下敷きにしてパピルスに絵を描いてる。ドクロの耳と鼻の穴から薔薇が伸びている絵。
ポエーマンは得意気になる。「こいつにとって現実とは時間。永続する変化。物質世界。物質の変化はコーヒーにミルクを入れてスプーンでかき混ぜる時やその前後も原則としてその枠内に在る。今描いている絵も彼の現実に則り『変化中』の現実。事実なんだ」
「でも実際には起きないでしょう。こんなこと」
「全ての物質は目に見えない粒になる。粒をかき混ぜれば混ざるだろう。イクビはその事実を他者の眼にも見えるように物質間の境界を明確にしながらもその意味で抽象化した絵で表現する優しい奴なのさ」
「なるほど。お金儲けを目的にしてないのか。なんという大義」
「いやフツーにお金儲けしたくて描いてるぞ。俺、出所したらこの絵を売って大金持ちになるんだ」
イクビの言葉にユウシは固まる。「・・・・・・それでポエーマンは何の職業についてたんだっけ」
「オレは哲学者。又は詩人。肉体労働が嫌で引きこもってたら腹が減って八百屋で茄子パクったら捕まったニートだ」
ユウシとアップルパインは監獄の備品である板を用いたボードゲームを始める。互いに間断なく駒を進め終盤に差し掛かりアップルパインが戦況を把握。板を傾け駒を流す。
「汚ねえっ」
「強い奴ってのはどんなに負けてる状況からでも盤をひっくり返す」
「反則だから」
「戦場でも同じこと言うのかよ」
「オレの勝ちだろ」
「引き分けだ。不慮の事故。オレも勝敗がハッキリしなくて悲しい。・・・・・・・・・・・・分かった。じゃあ仲直りの印に特技を見せてやる。180°開脚。次に膝を90°に曲げてから足裏を空に向ける。ほら、出来た」
「すげぇ。いいもん見た」
「アップルパインは何して捕まったんだ」
「オレは窃盗」
「不思議なんだけどさあ。森に行けば何処にでも果物が実ってるこの大陸で、なんでゾワゾワ村の民は盗賊どもに襲われるのを待ってたんだ」
「みんな誰かと一緒に居たいのさ。想像だけど食べ物がないとこなんかじゃ飢餓感が生じて孤独感は溶けてなくなるんだと思う。だからオレ達はそういう理由で動けないのさ。ちなみにオレは着物が欲しくて珍品屋から盗んだのさ。どっかの街には着物を着た町民が溢れかえってるらしいがオレは旅なんて出来るほど稼いじゃいないし。酒も好きでよ。それで盗んだ」「盗みはいかんよ」「その着物がまたカッコいいんだ。濡れてもないのにテカテカに光沢があってよ、ゴツゴツもデコボコもしてて。素材を尋ねたらバジリスクの皮で出来てるって言うじゃん。噛まれりゃ毒で即死。見つめられた者は吸い込む空気が毒に変わり刀でバジリスクを斬りゃ刀が腐る。その刀に染み込む毒の血は風に流され周囲の生物は生き絶える。その凶悪なモンスターに適切な処置を施して無毒化し作られたという経緯にオレは引き寄せられた」
「なるほど飯は欲しいが外に出るのもダルいから近所から飯を盗ろうなんて奴は流石にいないか。盗んだ服の値段はちなみにいくらだ」
「40万イェン。ポエーマン、なに口開けてんだ」
「1年で買えるが酒も好きだとそうはいかんか」
「煙草も酒も菓子も好きだった。毎日のように食い漁ってた。耕作もあんまりしなかったなあ」
「なんだその言い方。アップルパインは累犯者なのか」
「そうだな」
「じゃあ死刑か終身刑」
「死刑は直ぐに行われる。オレは後者」
「ちなみにさあ、脱獄って出来んの」
「それは出来ねえよ」
「なんだよ。脱獄したくないのかよ」
「それは、したいが」
「塀はすぐそこだぞ。監視役の山賊3人はベンチに寝転んで娯楽本を読んでるし急いで塀に移動しよじ登っていけるんじゃない。石造りの塀なんだし」
「山賊各々の脚らへんをよく見ろ。1人に1匹の猟犬がついてるじゃないか。あれに噛まれて死亡」
「行ける気がするんだけどな。例えば蹴鞠してる集団に混じって鞠を塀近くまで飛ばし取りに行き塀を越えて脱獄」
「監獄の構造を教えてやる。この拘置施設はスピュグモス様が監獄迷宮ソドムと名付けている。目隠しされてグラウンドまで来ただろ。アレは地下1階が迷路のように入り組んでいるからだと言われている。脱獄する囚人への事前の対策だ」
「終身刑になりやすい地域なら監獄の古参も多いだろ。視覚は遮断されていても方向転換なんかで迷路内部の構造を把握してる人はいるんじゃないか」
「把握してる奴はいないのが現状だ。理由は当然というべきか毎度明らかに道順が変わるから、らしい。道幅が広く刑務官の指示で横に曲がった気になってるだけで実際は同じ通路を行ったり来たりしてるとか碁盤の目ような構造になってるとか諸説あるがどれも確証はない」
「今はグラウンドに囚人全員がいるんだからこの時に集団で脱走すればいいんじゃないか」
「監獄の塀は2重になっている。今見えてるのは2つある塀の内側の方。塀と塀の間には森で捕まえたモンスター共が解き放たれている。武器を所持する人間が10人。1匹のモンスターと森で遭遇して全滅させられた、なんて話はたまに聞くだろ。そのモンスターがオレ達に見えてる塀の外にわんさかいるんだから監獄に居る囚人108名が一斉に塀を越えても全員死ぬ。それに見ろアレを」
刑務官の傍と塀の傍の2箇所に木製の檻。中に青い毛並みの熊が静かに佇む。モンスターには無音で行動する本能があり青クマは檻を破らない。
「アレは仮に囚人が暴動を起こしたときの処置として囚人を殺戮し制圧することに用いられるモンスターだ。山賊らしいだろ。暴動が起きたら木製の檻を刑務官が常備するダイナマイトで爆破しモンスターを暴れさせる算段」
「正規の出入りルートを破壊するのはどうだ。先ず全員で刑務官を鎮圧させその間に鉄格子を破壊し脱獄」
「鉄格子の破壊は出来るだろうがそもそも事前に打ち合わせのないまま集団脱走しようってのが現実的でない」
「なら1人で計画を実行する」
「1人で武器を色々持ってる山賊と犬を素手で制圧出来るならすればいい。というか制圧出来る出来ないは関係ない。塀の外に官舎が見えるだろ。あそこで暴動に備えて宿直する山賊刑務官が居る。そしてあそこの2階から朝も夜も誰かがグラウンドを監視している。仮に青クマが檻から出ずに監視役の山賊3人が押さえ込まれても暴動が起きれば官舎から武装した制圧部隊が監獄内に雪崩れ込んで来てオレ達は武力で行動不能にされる。それも今お前が脱獄ルートに選んだ鉄格子から入ってくる。あとアレだ。オレ達が牢屋で就寝する時には通路に灰色で四角いゼリーの質感に似たモンスターが格子で封鎖された穴から放たれる。本能による無音行動で牢屋にいる人間を攻撃しようとはしないが牢屋から出たらそれを倒さなければ上階に上がれんだろうし、その前に牢屋から出なくちゃならない。牢は鉄で出来てる。それとオレたちが拘禁されてる牢屋は地下3階。夜間に牢屋から出る場合は地下3階は吹き抜けの空間で地下2階の回廊から山賊2名が夜もオレ達を監視してるからそれを潜り抜けることもしなくちゃいけない。牢屋から脱出がバレれば制圧部隊に監視役のどちらか1名が知らせに向かう手筈。奴等はグラウンドに出て所持するダイナマイトを使い音で救援を呼ぶ」
「先ず、地下1階の迷路の作りはどうなってるのか。そうだ。イクビ、こんな自由な絵を描けるんなら迷路の形がどうなってるか予想して作ってみてよ」
「曲がってから次に曲がる間の時間は均一なのか」
「一緒じゃない」
パピルスに描かれた迷路を見るユウシ。迷宮は四角い空間。真ん中に空く通路。その通路の端から端まで行く途中に左右に8本の通路がある。四角い空間の縁も通路。
「この作りで同じ道を行ったり来たりしてるんじゃないか。やっぱり」とイクビ。「壁にぶつかったことはあるか」
「ない。号令をかけられるんだ。『止まれ』『先頭から右に曲がれ』俺達、縄手錠で数珠繋ぎにされてるから前の人間がどの位置で左右に曲がったか分かるから同じように曲がる。壁に身体ぶつけたりしたら号令役に痛めつけられるんじゃないか。知らんけど」
「お前も壁に当たったことがないとなると・・・・・・」パピルスに描くイクビ。「これだ。壁なし。何もない空間が広がってるのみ。コレかもうひとつの方のどちらか」
「アップルパインは牢屋と隧道端の鉄格子をその軟体で抜けられたりするのか」
「・・・・・・出来るよ。少し身体を慣らさなきゃならんけど。鈍ってるから」
「見えてきたな。脱獄へのサクセスストーリーが」
「いや、おれは脱獄しないぞ」
「えー。してみろよ。なあポエーマンからも何か言ってやってくれ」
「というか、ユウシは何で脱獄したいのか? 欲とは願望。エサを前に起きる感情の動き。『欲』という言葉ではオレに内在するコントロール可能な範囲を把握できない非物質世界とオレが認識する空間に現象が生じないのでより剴切な言葉でこの感情を表現すると造語になる。定義というものは個人により言語と想像に差違が生まれる故事前に言うとユウシに造語の理解は望まない。オレは『満足する手前と思う感』と名付ける」「その造語、理解できます」「ホントに?」「ホントに」「おかしいな。哲学者引退するかな」「続けて」「それでお前は何故脱獄したいという感情が起きた?」
「いや、もしもの話。一応、この監獄は脱獄出来る所なのか知っておきたいじゃん」ユウシは本気で脱獄を企んでいる。
「もしもの話。仮の話。つまり空想。楽しい。実証しない理論をコネくりまわして楽しむ。娯楽のない閉鎖空間で見られやすい精神状態。分かった。共感。納得。・・・・・・アップルパイン、脱獄に加担するんだ」
「いや、空想物語で楽しんでるんならオレに『脱獄する』なんて言わせなくていいだろ」
「真実味が大切なんだ。心から、ユウシの脱獄に加担するんだ」
「この世には『諸行無常』と『常世』という2つの言葉がある。オレはどちらも現象として存在するからどちらの言葉も在るんだと信じてる。ここにサイコロがあるとする。転がす。2の目が出る。転がす。3の目だ。2から3に変わった、と言う者がいる。オレたちは上を向いている数字を『目が出た』と言っているが今2のある面を『目が出た』というルールに変更すれば今回も出た目は2になる。ルールを変更すれば不変。ルールを変えなければ無常。オレのさじ加減でどちらにも出来る。塀の外に出なくていいということはアップルパインには外にお前が満足する手前と思う感を与えてくる存在が無いのだろう。無い理由があり、これからも『それがない』という理由があるんだろう。理由の部分の物質の変化は起こせずとも『それが有る』に変えることは出来る。変えてみないか」
アップルパインは泣いた。男泣き。「・・・・・・・・・・・・くうぅ。短い。山賊に親を殺められ、独り寂しく集落周辺の木から果物を取って食う人生だった。あまりにも短い。あまりに空虚。うっ、うっ、オレは自分の人生を実りのあるものにしたい。だから、変えてみせます」
「だったら脱獄しかねえだろ」
刑務作業再開。15時半に作業終了。地下へ移動。閉房点検。入房。自由時間。就寝時刻。3脚付き燭台の火が消される。壁の張り出し燭台の火は灯っている。落とし格子が上がり四角いゼリー質モンスター『デブポチャ』が通路に出てくる。
「あとは今監視してる山賊とこのデブポチャを解決すれば脱獄出来るのか」ユウシは手のひらを自分の拳で叩く。「鬼切丸があれば解決出来るんだけどな。来てくれ鬼切丸~」
その頃村の一角の宿泊先でカマンベールチーズをチビチビ食べながら水を飲むテツジン。傍に置かれた鬼切丸が動く。ユウシの方へ。壁に当たり張り付く。
ユウシは刀無しでデブポチャを斬る素振りをする。「なんでないかな。来いよ鬼切丸っ」
壁に張り付いていた鬼切丸が宿泊先の壁を破壊して空中を進み村の一角を抜け山に突っ込み樹林をなぎ倒し地面を貫いて進み監獄内の壁を穿ち地下の牢屋を壊してユウシの手元に届く。物理的な衝撃と他複数の要因により驚きで放心。次に緊迫。ユウシは刀を抜き牢屋を斬り刻み脱獄。デブポチャが殺しに来るが軽くあしらいジャンプして回廊に飛び乗る。監視役の山賊2名にファルシオンを抜かれるが2人を一瞬で気絶させ梯子まで移動して跳躍し上階へ。
「予想通りだ」
地下1階の迷路は迷路でなく隔壁のない開けた空間だった。
「『地下1階は迷路になってる』と囚人や村民に風聞を蒔いて信じ込ませたわけか」
登ってきた梯子は地下1階の隅に設けられており地上へ通じる梯子はそこから対角線上の部屋の角にあった。速攻で地上へ出る。
監獄の門番を勤めていた山賊が鬼切丸の猛進を確認していて鉄格子から制圧部隊が入ってきている。レザーアーマーと兜をしてウォーハンマーとラウンドシールドを握る者。ショートボウを持つ者の2組。
互いに猪突猛進。ユウシは鬼切丸の峰で武装した山賊を打ち倒していく。ハンマーで叩かれるが弾いて無傷。山賊が矢を射ち命中するも刺さらず。ボカボカ攻撃するユウシにより制圧部隊は全滅。残り1名となる戦闘可能山賊はダイナマイトを取り出し塀側の木製の檻に投げて爆破。爆発により酷い外傷を受けるも突進してくる青クマの左足を斬り飛ばすユウシ。左足は無いが攻撃してくる青クマを斬りまくる。縦に両断。四肢も切断。青クマの脊髄から肌色の寄生モンスターが這い出てくる。『にょきにょき』という生物学的に宿主が死んでもマリオネットのように動かし人を殺すモンスター。
にょきにょきを刺殺。
戦闘可能山賊は仲間のダイナマイトを投げて塀を破壊。現れるブラックドッグはレーザーのような攻撃性能で射程の長い舌を用いて戦闘可能山賊の首を撥ねる。同じく別のブラックドッグからレーザービームのような舌斬を首に受けて表皮が剥けるユウシ。犬モンスターをぶちのめす。
塀の外からヤフーが現れる。2足歩行の人型モンスター。魚のような目の形。髭がもっさり。筋肉がゴリッゴリ。怪力。身長150センチの野蛮人。髭の長さは個体差が大きい。
ヤフーは気絶する山賊の首を掴みへし折る。山賊の頭を噛みちぎり味見して吐き捨てる。殺しにくるヤフーを返り討ちにしてユウシは鉄格子へ向かう。足を止めて方向転換。塀へ。
牢は破壊されデブポチャは全て始末したゆえアップルパイン達は脱獄しているだろうしグラウンドのモンスターを始末しておかなければならない、という理由から。
ブラックドッグ12体。ヤフー15体。アジ・ダハーカ5体を斬り殺めた後に隧道の鉄格子から外に出る。スピュグモスと部下80名が制圧をしに待ち構える。村から見えるところに建造された監獄は村民に支配者と被支配者の区別を正当化する暴力に訴え服従させると共にスピュグモス一派による村支配の象徴でもあるから囚人を過酷で悪辣な労役や拘置する所の衛生管理の懈怠により死なせることはあっても脱走させることは避けなければならない。ゆえに村を支配するスピュグモスも事態を知り駆けつけている。
山賊頭領の彼は魔法使い。「捕らえろ」
部下達が殺しにくる。
全員峰打ちで気絶させた時にユウシの身体が重くなる。足元が沈んでいく。重力魔法。相手に普段受けている重力の何十倍もの重力を与える。
「イスキア・チェーン!!」対象の四方の地面から鎖が出現しユウシの身体に絡み付くのを見てスピュグモスはファルシオンを抜く。「その身体で立ち続けるとはな。正直驚く。お前も什物豊富なこの世界に選ばれた存在だったか。この世は支配する者とされる者に分かれる。お前にはその資格があったというのに惜しいことをしたな」
スピュグモスはユウシの投げた鬼切丸が胸に刺さり死んだ。
魔法は解かれてユウシは下山。テツジンは部屋を破壊された宿屋の主人に通報され山賊に連行されている。下りてきた彼と出くわしたので治衛兵を倒し野宿に用いる道具を放置して一緒に逃走。ユウシオン・アセレラが後で聞いた所では、脱獄の翌日に監獄から出所する予定で泊めてくれた婆の言葉はウソだった。
呆然とするテツジン。呆然としながら相方の方を向く。「何言っちゃってんのこのババアは?」
婆さんは溜め息を吐く。「アンタねぇ・・・・・・。はあ・・・・・・。分かった。確かに私の言い方が悪かった。イキッた。イキりました実際のところ。でも本当のことなの。だから教えといてあげる。辺境にあるこのゾワゾワ村を統治するのは大山賊スピュグモス様。頭領は殺人や略奪を行うも平和主義な面もあり統治するこの村で犯罪を許さない。村に作った8つの規則の内どれか1つでも破る者はあの山の麓から少し登ったところに建設された監獄に入れられる。目視出来るわ。見えるでしょ。たしか初犯で1年くらい入所することになるんだったかしら。軽罪でね」
「ふん。俺も助言しとく。他人をビビらせたいならこの村を出るんだな。ココは悪人に厳しい」
「ふん。バレたか。そうです盛りました。1年は盛った。でも長ーい期間閉じ込められるのは本当よ」
婆は2人を泊める。その夜と翌日の朝昼に雑穀を頂き婆に礼を言い家を出た。
「あちぃ」テツジンは手で自分を扇ぐ。
「昔、トレジャーハンターとして大陸全土を移動してたときに別の大陸から来た行人と出会ったことがある。その時聞いた話じゃ他の大陸は今いる村と次に到着する村で気候が違う、なんてことないらしいぞ」「え・・・・・・てことは前の村が春だったら次の村も春なの?」「そういうこと」「めちゃくちゃラッキーじゃん」
暑い。太陽が煌めく。数分歩けば耳周りが蒸す。家族で行水しているのを見かける。子供が小さな桶に溜めた水を2人にぶちまけてケラケラ笑う。その親に裸で土下座されて許す2人。また馬を引いて歩いていると村民2人が言い争う姿を見る。犬が小屋から逃げ出し相手の家畜を食べたという。犬を逃がした側の民も怒っている。治安を守る山賊が犬を逃がした村民に縄手錠をして連行。2人は刹那の緊張。また歩く。程なくして2人の歩行ルートを横切ろうとする村民とかち合う。譲り合いが長々と続いた。
村の規則。《人を攻撃してはいけない。人を裏切ってはいけない。物を盗んではいけない。物を破壊してはいけない。》
昨日、婆から教えられた原則の1部。規則破りは軽罪と重罪に区別される。重罪となる者は『規則を破る中でもそれが世道から極端に逸脱した行いであること』『その行いが故意であること』『スピュグモスと親交の無い村民』の中で局限される。公言された条件以外にスピュグモスが根城にする城から距離が離れる村民ほど条件を満たせば重罪になりやすいという事実が存在する故。
譲り合いが長々と続いたことでユウシは軽く恐怖する。「張り詰めた村だ。昨日言ってた監獄っていうのも山賊が囚人を監視し統率してる建物なんだからなんつーかさ、どういうことでどんな階級が形成されてるんだろうな」
村を抜けて山を抜け次の山の山道を行く。途中で野良犬の集団に追い掛けられるも振り切り猪を見つけ狩猟し空が薄暗くなった頃。森を駆け抜けている最中に小屋を発見。
「今晩はあそこに泊まろう」「こんなところにポツンと建つ小屋が1つ。怪しい。危険な香りがする」「近くに海があるのか。波と濤声が聞こえる」「そんなん聞こえないぞ」「する。小屋の奥は崖かな。いいねえ。コレはコレで風情があって。きっと小屋の住人は風変わりな人で中では日々仏像を彫って生きてる。その実態は過去に大罪を犯して捕まり脱獄して閑寂に暮らす犯罪者」「入所してた所は山賊が運営してるってか。それは凄いがあり得る」「あそこで波枕と洒落込もうじゃないか」「本当だったら寝てる間に身ぐるみ剥がして自分の足しにするんじゃないか」「ないない。あるいは愛する人が死に悲しみのどん底から独りで生きることを選んだ芯の強い人物」「フィクションですな。俺だったら周りとの繋がりを強めることはあっても独りにはならない」
小屋の扉をノック。女性が出てくる。「ダレデスカ」
「旅の者です。今晩ここに泊めていただけませんか」
「この山にモンスターはいませんが野生の動物は多く生息していますからね。野宿は避けて家屋または下屋でもいいから泊まらせてもらい隔壁で外との視覚的な断絶を計りたい、と」
「御意」
「しかしこちらは女が1人。変態とは居たくありませんが中に入れてしまえばどうすることも出来ない。故に今あなた方の心事を疑わざるを得ません。」
「御意にござります。であればこの屋敷に来る途中に狩った猪の肉を献上いたします」
「しかし・・・・・・・・・・・・。分かりました。泊まることを許可しましょう。断っておきますが私は獣の肉に負けたのではない。貴方のその熱意に負けたのです」
近くの木に馬の綱をくくりつけて中へ入る。小屋の中は部屋3つ。玄関を開けて土間と居室。奥に扉がありそこは物置。左に扉が在りそちらは寝室。居室の真ん中に火縄銃や将棋盤、盤上に駒が無造作に置いてある。隅に荷物を置き外でシシ肉を焼いて食う。ラヴィが小屋から樽に入ったビールを持ってくる。3人はビールと獣肉で無限に飲み食いする。辺り真っ暗。松の枝に焚き火の火を移し崖の先まで移動。空が明るければ海と波頭、波の音は酔いの感覚と組合わさり情調を伴わせるだろう、とユウシは予測。
ビールを一口飲んでラヴィはポケットからミニチュアのタンスを取り出しユウシに渡す。「これ、私が製作したの」
「へぇ~~~。タンスの模型か。本物のタンスと見分けつかないね。可愛らしい」
「今度近くの村へ日用品を買いに行くとき露店を開いて売ろうと思ってるの。初めに子供達が集まってきて次に大人達も寄ってきてきっと人気になるわ」
「へー。いくらで売るの」
「製作期間に私の精魂込めました料を加えて、1つ50万イェンから」
「・・・・・・・・・・・・」
胡座をかいて掌に乗せたミニチュアタンス。突風が吹きタンスが手からこぼれる。掬おうとわちゃわちゃして模型は崖に落ちて暗闇へ吸い込まれた。
「うああああああああっ!!! わわわたしのもけぇぇぇぇぇ!!」
「ふふふ」
「なに笑っとんじゃあ!」
ユウシは善意の村の山賊が席巻した村の自治組織『守帝団』の詰所に連行される。規則を破ったとして監獄へ入獄する手筈となる。坊主にされ縄手錠をかけられたユウシが牛車に乗せられる。10数人の人だかりの中からテツジンに声をかけられ手を振り返す。牛車に揺られ続けて降ろされる。正面に石造りの高い障壁が在る。山の窪地にある監獄。
周囲は開拓されておりユウシは遠方に村を視認する。「でっかいとこだ」
「ワクワクする?」
「しないよ」
山賊兼治衛兵は憫笑する。入獄前に外で取り調べが行われる。身体検査を受けた後監獄内の生活規定や慣例等の説明と指導を受ける。
塀の前に監獄出入口となる隧道がある。出入口は鉄格子で封鎖されており格子の一部が扉になっている。そこから入獄。下って登って再び鉄格子が開かれ隧道を抜けると塀の中。地均しされたグラウンド。左側に畑。手拭いで目隠しされ、グラウンド中央に縦抗が在り梯子で降りる。縄手錠を引っ張られグルグル歩き回り再度梯子を降りて目隠しを外し直ぐにもう一度梯子を降りる。幅広い通路の両側に雑居房が並ぶ。通路の先は行き止まり。行き止まりと反対の通路端に落とし格子で封鎖された空間がありモンスターが閉じ込められている。通路中央に3脚つき燭台の火が揺れる。土牢と土牢の間の壁に張り出し燭台が設けられ獣脂で燃えている。縄手錠を外され手前の牢屋に拘禁される。
色黒の男『アップルパイン』が声をかけてきた。「兄ちゃん、名前なんて言うんだ」「ユウシオン・アセレラ。ユウシとかシオンて呼ばれてる」「じゃあ、お前のことはユウシと呼ぼう。オレはアップルパイン。身長180センチ。右利き。甘いものが好きでぜんざいに目がない。趣味はストレッチ。毎朝開房点検前に入念に行う」「オレは行人。趣味は読書だ」「入獄初日から嘘は良くない。先ずは心を開き合わないと」「すまん。盛った。初対面だからナメられないようにイキッた。趣味はエロ本の熟読だ」「しかし山賊の支配域で犯罪を犯すとはな。一応言っとくと累犯者は終身刑か死刑だ。刑期を全うしたら直ぐに離れることだ」「情状酌量の余地皆無の刑罰を科すところから山賊頭領の独善的で気性荒い性格が窺えて村民から指導者と仰がれることに違和感を覚える」「それくらい前の治安が悪かったのさ。今は全然平和。略奪も殺されもしねえから」
3日が過ぎる。
朝方。早朝。床に均された藁の上で眠る囚人達が起床。牢屋の隅に置かれるおまるに囚人達が順に大・小便をしていく。列になり正座して待機。山賊兼刑務官がやって来て点呼を取られ朝食のパンと水を。
のち出房。工場へ行く者とグラウンドへ行く者に分けられる。ユウシは後者のグループ。目隠しと縄手錠をされ縦列をなして梯子を2回登った空間で刑務官の指示を聞き『行進を止めて右か左に曲がる』を繰り返して歩き回り梯子を登り目隠しを外すとグラウンド。初めに見た畑で耕作(刑務作業)に従事する。昼休憩に入り工場作業の囚人もグラウンドに上がってくる。蹴鞠をする集団。地面に座り雑談に興じる者。うろうろする囚人。監獄に風呂や服の洗濯はない。昼休憩中に雨が降れば囚人達はそれを利用して服と身体を洗う。監獄内の規約に関して文句を言えばストレス解消の標的とされ拷問を受けやすくなる。
3日間の経験から囚人は犯罪を犯したならず者というより捕虜であり山賊刑務官とは捕虜と敵兵のような関係であるとユウシは感じた。
「これでもやつらからしたら長期間の服役生活に配慮してるのさ。なんせ昼休憩があってそれもグラウンドに出られるんだからな。これで拘禁反応なんて出ようもんなら殴打されシメられて終わりさ」
『この生活が後どれくらい続くのか』思うと頭が重くなるユウシ。
アップルパインとユウシはグラウンドの隅で安坐し喋る。他に2人が混ざり輪になり喋る。同房の4人だった。
読書しながら男はユウシを見る。「ユウシ、お前外で何を生業にしてた」
「オレはトレジャーハンター。一攫千金を狙ってお宝探し」
「安定しないが人気の職だな。まだまだ探索されてない未知の土地がこの世には山ほどあるからな」
「そういうアンタは。首筋に切り傷があるけど」
「オレか。オレはコレを自分でつけたんだ。出血で頭がスーッと楽になれてな。イクビ、お前なら俺の気持ち分かるよな」
「知るか。知りたくない。ていうかお前の考えを押し付けんな。前々から言いたかったんだけどオレがお前の癖に共感出来る前提で俺と話そうとするのは止めろ」
アップルパインも頷く。「ポエーマンさん。アンタの言動は確かに哲学してる。だが哲学するっていうなら他者と自分の精神的な境界くらい明確にしておきなさいよ」
「偉くなったもんだなアップルパイン」
「その台詞を吐けるポエーマンさんは殿様かな」
「アップルパインの言う通りだぜ。お前は哲学者を自称するなら自らの非を認めて変わりやがれ」
団結したイクビとアップルパインの批判に
「うおおおおおおお!」で返すポエーマン。
ポエーマンがパワーでごり押しする事態は終息し彼は差し当たり自己の変容を課題とするか否かを有耶無耶な所に帰着させる。
「痛いとこ突かれると直ぐ声と雰囲気で押し切ろうとする」
「コイツ、ワガママなんだよ」イクビを見ながら相手を親指で指すアップルパイン。
休題。数分後。
ユウシはイクビ・ナ・ガの作品を見る。「スゴい絵だ」
イクビは地面を下敷きにしてパピルスに絵を描いてる。ドクロの耳と鼻の穴から薔薇が伸びている絵。
ポエーマンは得意気になる。「こいつにとって現実とは時間。永続する変化。物質世界。物質の変化はコーヒーにミルクを入れてスプーンでかき混ぜる時やその前後も原則としてその枠内に在る。今描いている絵も彼の現実に則り『変化中』の現実。事実なんだ」
「でも実際には起きないでしょう。こんなこと」
「全ての物質は目に見えない粒になる。粒をかき混ぜれば混ざるだろう。イクビはその事実を他者の眼にも見えるように物質間の境界を明確にしながらもその意味で抽象化した絵で表現する優しい奴なのさ」
「なるほど。お金儲けを目的にしてないのか。なんという大義」
「いやフツーにお金儲けしたくて描いてるぞ。俺、出所したらこの絵を売って大金持ちになるんだ」
イクビの言葉にユウシは固まる。「・・・・・・それでポエーマンは何の職業についてたんだっけ」
「オレは哲学者。又は詩人。肉体労働が嫌で引きこもってたら腹が減って八百屋で茄子パクったら捕まったニートだ」
ユウシとアップルパインは監獄の備品である板を用いたボードゲームを始める。互いに間断なく駒を進め終盤に差し掛かりアップルパインが戦況を把握。板を傾け駒を流す。
「汚ねえっ」
「強い奴ってのはどんなに負けてる状況からでも盤をひっくり返す」
「反則だから」
「戦場でも同じこと言うのかよ」
「オレの勝ちだろ」
「引き分けだ。不慮の事故。オレも勝敗がハッキリしなくて悲しい。・・・・・・・・・・・・分かった。じゃあ仲直りの印に特技を見せてやる。180°開脚。次に膝を90°に曲げてから足裏を空に向ける。ほら、出来た」
「すげぇ。いいもん見た」
「アップルパインは何して捕まったんだ」
「オレは窃盗」
「不思議なんだけどさあ。森に行けば何処にでも果物が実ってるこの大陸で、なんでゾワゾワ村の民は盗賊どもに襲われるのを待ってたんだ」
「みんな誰かと一緒に居たいのさ。想像だけど食べ物がないとこなんかじゃ飢餓感が生じて孤独感は溶けてなくなるんだと思う。だからオレ達はそういう理由で動けないのさ。ちなみにオレは着物が欲しくて珍品屋から盗んだのさ。どっかの街には着物を着た町民が溢れかえってるらしいがオレは旅なんて出来るほど稼いじゃいないし。酒も好きでよ。それで盗んだ」「盗みはいかんよ」「その着物がまたカッコいいんだ。濡れてもないのにテカテカに光沢があってよ、ゴツゴツもデコボコもしてて。素材を尋ねたらバジリスクの皮で出来てるって言うじゃん。噛まれりゃ毒で即死。見つめられた者は吸い込む空気が毒に変わり刀でバジリスクを斬りゃ刀が腐る。その刀に染み込む毒の血は風に流され周囲の生物は生き絶える。その凶悪なモンスターに適切な処置を施して無毒化し作られたという経緯にオレは引き寄せられた」
「なるほど飯は欲しいが外に出るのもダルいから近所から飯を盗ろうなんて奴は流石にいないか。盗んだ服の値段はちなみにいくらだ」
「40万イェン。ポエーマン、なに口開けてんだ」
「1年で買えるが酒も好きだとそうはいかんか」
「煙草も酒も菓子も好きだった。毎日のように食い漁ってた。耕作もあんまりしなかったなあ」
「なんだその言い方。アップルパインは累犯者なのか」
「そうだな」
「じゃあ死刑か終身刑」
「死刑は直ぐに行われる。オレは後者」
「ちなみにさあ、脱獄って出来んの」
「それは出来ねえよ」
「なんだよ。脱獄したくないのかよ」
「それは、したいが」
「塀はすぐそこだぞ。監視役の山賊3人はベンチに寝転んで娯楽本を読んでるし急いで塀に移動しよじ登っていけるんじゃない。石造りの塀なんだし」
「山賊各々の脚らへんをよく見ろ。1人に1匹の猟犬がついてるじゃないか。あれに噛まれて死亡」
「行ける気がするんだけどな。例えば蹴鞠してる集団に混じって鞠を塀近くまで飛ばし取りに行き塀を越えて脱獄」
「監獄の構造を教えてやる。この拘置施設はスピュグモス様が監獄迷宮ソドムと名付けている。目隠しされてグラウンドまで来ただろ。アレは地下1階が迷路のように入り組んでいるからだと言われている。脱獄する囚人への事前の対策だ」
「終身刑になりやすい地域なら監獄の古参も多いだろ。視覚は遮断されていても方向転換なんかで迷路内部の構造を把握してる人はいるんじゃないか」
「把握してる奴はいないのが現状だ。理由は当然というべきか毎度明らかに道順が変わるから、らしい。道幅が広く刑務官の指示で横に曲がった気になってるだけで実際は同じ通路を行ったり来たりしてるとか碁盤の目ような構造になってるとか諸説あるがどれも確証はない」
「今はグラウンドに囚人全員がいるんだからこの時に集団で脱走すればいいんじゃないか」
「監獄の塀は2重になっている。今見えてるのは2つある塀の内側の方。塀と塀の間には森で捕まえたモンスター共が解き放たれている。武器を所持する人間が10人。1匹のモンスターと森で遭遇して全滅させられた、なんて話はたまに聞くだろ。そのモンスターがオレ達に見えてる塀の外にわんさかいるんだから監獄に居る囚人108名が一斉に塀を越えても全員死ぬ。それに見ろアレを」
刑務官の傍と塀の傍の2箇所に木製の檻。中に青い毛並みの熊が静かに佇む。モンスターには無音で行動する本能があり青クマは檻を破らない。
「アレは仮に囚人が暴動を起こしたときの処置として囚人を殺戮し制圧することに用いられるモンスターだ。山賊らしいだろ。暴動が起きたら木製の檻を刑務官が常備するダイナマイトで爆破しモンスターを暴れさせる算段」
「正規の出入りルートを破壊するのはどうだ。先ず全員で刑務官を鎮圧させその間に鉄格子を破壊し脱獄」
「鉄格子の破壊は出来るだろうがそもそも事前に打ち合わせのないまま集団脱走しようってのが現実的でない」
「なら1人で計画を実行する」
「1人で武器を色々持ってる山賊と犬を素手で制圧出来るならすればいい。というか制圧出来る出来ないは関係ない。塀の外に官舎が見えるだろ。あそこで暴動に備えて宿直する山賊刑務官が居る。そしてあそこの2階から朝も夜も誰かがグラウンドを監視している。仮に青クマが檻から出ずに監視役の山賊3人が押さえ込まれても暴動が起きれば官舎から武装した制圧部隊が監獄内に雪崩れ込んで来てオレ達は武力で行動不能にされる。それも今お前が脱獄ルートに選んだ鉄格子から入ってくる。あとアレだ。オレ達が牢屋で就寝する時には通路に灰色で四角いゼリーの質感に似たモンスターが格子で封鎖された穴から放たれる。本能による無音行動で牢屋にいる人間を攻撃しようとはしないが牢屋から出たらそれを倒さなければ上階に上がれんだろうし、その前に牢屋から出なくちゃならない。牢は鉄で出来てる。それとオレたちが拘禁されてる牢屋は地下3階。夜間に牢屋から出る場合は地下3階は吹き抜けの空間で地下2階の回廊から山賊2名が夜もオレ達を監視してるからそれを潜り抜けることもしなくちゃいけない。牢屋から脱出がバレれば制圧部隊に監視役のどちらか1名が知らせに向かう手筈。奴等はグラウンドに出て所持するダイナマイトを使い音で救援を呼ぶ」
「先ず、地下1階の迷路の作りはどうなってるのか。そうだ。イクビ、こんな自由な絵を描けるんなら迷路の形がどうなってるか予想して作ってみてよ」
「曲がってから次に曲がる間の時間は均一なのか」
「一緒じゃない」
パピルスに描かれた迷路を見るユウシ。迷宮は四角い空間。真ん中に空く通路。その通路の端から端まで行く途中に左右に8本の通路がある。四角い空間の縁も通路。
「この作りで同じ道を行ったり来たりしてるんじゃないか。やっぱり」とイクビ。「壁にぶつかったことはあるか」
「ない。号令をかけられるんだ。『止まれ』『先頭から右に曲がれ』俺達、縄手錠で数珠繋ぎにされてるから前の人間がどの位置で左右に曲がったか分かるから同じように曲がる。壁に身体ぶつけたりしたら号令役に痛めつけられるんじゃないか。知らんけど」
「お前も壁に当たったことがないとなると・・・・・・」パピルスに描くイクビ。「これだ。壁なし。何もない空間が広がってるのみ。コレかもうひとつの方のどちらか」
「アップルパインは牢屋と隧道端の鉄格子をその軟体で抜けられたりするのか」
「・・・・・・出来るよ。少し身体を慣らさなきゃならんけど。鈍ってるから」
「見えてきたな。脱獄へのサクセスストーリーが」
「いや、おれは脱獄しないぞ」
「えー。してみろよ。なあポエーマンからも何か言ってやってくれ」
「というか、ユウシは何で脱獄したいのか? 欲とは願望。エサを前に起きる感情の動き。『欲』という言葉ではオレに内在するコントロール可能な範囲を把握できない非物質世界とオレが認識する空間に現象が生じないのでより剴切な言葉でこの感情を表現すると造語になる。定義というものは個人により言語と想像に差違が生まれる故事前に言うとユウシに造語の理解は望まない。オレは『満足する手前と思う感』と名付ける」「その造語、理解できます」「ホントに?」「ホントに」「おかしいな。哲学者引退するかな」「続けて」「それでお前は何故脱獄したいという感情が起きた?」
「いや、もしもの話。一応、この監獄は脱獄出来る所なのか知っておきたいじゃん」ユウシは本気で脱獄を企んでいる。
「もしもの話。仮の話。つまり空想。楽しい。実証しない理論をコネくりまわして楽しむ。娯楽のない閉鎖空間で見られやすい精神状態。分かった。共感。納得。・・・・・・アップルパイン、脱獄に加担するんだ」
「いや、空想物語で楽しんでるんならオレに『脱獄する』なんて言わせなくていいだろ」
「真実味が大切なんだ。心から、ユウシの脱獄に加担するんだ」
「この世には『諸行無常』と『常世』という2つの言葉がある。オレはどちらも現象として存在するからどちらの言葉も在るんだと信じてる。ここにサイコロがあるとする。転がす。2の目が出る。転がす。3の目だ。2から3に変わった、と言う者がいる。オレたちは上を向いている数字を『目が出た』と言っているが今2のある面を『目が出た』というルールに変更すれば今回も出た目は2になる。ルールを変更すれば不変。ルールを変えなければ無常。オレのさじ加減でどちらにも出来る。塀の外に出なくていいということはアップルパインには外にお前が満足する手前と思う感を与えてくる存在が無いのだろう。無い理由があり、これからも『それがない』という理由があるんだろう。理由の部分の物質の変化は起こせずとも『それが有る』に変えることは出来る。変えてみないか」
アップルパインは泣いた。男泣き。「・・・・・・・・・・・・くうぅ。短い。山賊に親を殺められ、独り寂しく集落周辺の木から果物を取って食う人生だった。あまりにも短い。あまりに空虚。うっ、うっ、オレは自分の人生を実りのあるものにしたい。だから、変えてみせます」
「だったら脱獄しかねえだろ」
刑務作業再開。15時半に作業終了。地下へ移動。閉房点検。入房。自由時間。就寝時刻。3脚付き燭台の火が消される。壁の張り出し燭台の火は灯っている。落とし格子が上がり四角いゼリー質モンスター『デブポチャ』が通路に出てくる。
「あとは今監視してる山賊とこのデブポチャを解決すれば脱獄出来るのか」ユウシは手のひらを自分の拳で叩く。「鬼切丸があれば解決出来るんだけどな。来てくれ鬼切丸~」
その頃村の一角の宿泊先でカマンベールチーズをチビチビ食べながら水を飲むテツジン。傍に置かれた鬼切丸が動く。ユウシの方へ。壁に当たり張り付く。
ユウシは刀無しでデブポチャを斬る素振りをする。「なんでないかな。来いよ鬼切丸っ」
壁に張り付いていた鬼切丸が宿泊先の壁を破壊して空中を進み村の一角を抜け山に突っ込み樹林をなぎ倒し地面を貫いて進み監獄内の壁を穿ち地下の牢屋を壊してユウシの手元に届く。物理的な衝撃と他複数の要因により驚きで放心。次に緊迫。ユウシは刀を抜き牢屋を斬り刻み脱獄。デブポチャが殺しに来るが軽くあしらいジャンプして回廊に飛び乗る。監視役の山賊2名にファルシオンを抜かれるが2人を一瞬で気絶させ梯子まで移動して跳躍し上階へ。
「予想通りだ」
地下1階の迷路は迷路でなく隔壁のない開けた空間だった。
「『地下1階は迷路になってる』と囚人や村民に風聞を蒔いて信じ込ませたわけか」
登ってきた梯子は地下1階の隅に設けられており地上へ通じる梯子はそこから対角線上の部屋の角にあった。速攻で地上へ出る。
監獄の門番を勤めていた山賊が鬼切丸の猛進を確認していて鉄格子から制圧部隊が入ってきている。レザーアーマーと兜をしてウォーハンマーとラウンドシールドを握る者。ショートボウを持つ者の2組。
互いに猪突猛進。ユウシは鬼切丸の峰で武装した山賊を打ち倒していく。ハンマーで叩かれるが弾いて無傷。山賊が矢を射ち命中するも刺さらず。ボカボカ攻撃するユウシにより制圧部隊は全滅。残り1名となる戦闘可能山賊はダイナマイトを取り出し塀側の木製の檻に投げて爆破。爆発により酷い外傷を受けるも突進してくる青クマの左足を斬り飛ばすユウシ。左足は無いが攻撃してくる青クマを斬りまくる。縦に両断。四肢も切断。青クマの脊髄から肌色の寄生モンスターが這い出てくる。『にょきにょき』という生物学的に宿主が死んでもマリオネットのように動かし人を殺すモンスター。
にょきにょきを刺殺。
戦闘可能山賊は仲間のダイナマイトを投げて塀を破壊。現れるブラックドッグはレーザーのような攻撃性能で射程の長い舌を用いて戦闘可能山賊の首を撥ねる。同じく別のブラックドッグからレーザービームのような舌斬を首に受けて表皮が剥けるユウシ。犬モンスターをぶちのめす。
塀の外からヤフーが現れる。2足歩行の人型モンスター。魚のような目の形。髭がもっさり。筋肉がゴリッゴリ。怪力。身長150センチの野蛮人。髭の長さは個体差が大きい。
ヤフーは気絶する山賊の首を掴みへし折る。山賊の頭を噛みちぎり味見して吐き捨てる。殺しにくるヤフーを返り討ちにしてユウシは鉄格子へ向かう。足を止めて方向転換。塀へ。
牢は破壊されデブポチャは全て始末したゆえアップルパイン達は脱獄しているだろうしグラウンドのモンスターを始末しておかなければならない、という理由から。
ブラックドッグ12体。ヤフー15体。アジ・ダハーカ5体を斬り殺めた後に隧道の鉄格子から外に出る。スピュグモスと部下80名が制圧をしに待ち構える。村から見えるところに建造された監獄は村民に支配者と被支配者の区別を正当化する暴力に訴え服従させると共にスピュグモス一派による村支配の象徴でもあるから囚人を過酷で悪辣な労役や拘置する所の衛生管理の懈怠により死なせることはあっても脱走させることは避けなければならない。ゆえに村を支配するスピュグモスも事態を知り駆けつけている。
山賊頭領の彼は魔法使い。「捕らえろ」
部下達が殺しにくる。
全員峰打ちで気絶させた時にユウシの身体が重くなる。足元が沈んでいく。重力魔法。相手に普段受けている重力の何十倍もの重力を与える。
「イスキア・チェーン!!」対象の四方の地面から鎖が出現しユウシの身体に絡み付くのを見てスピュグモスはファルシオンを抜く。「その身体で立ち続けるとはな。正直驚く。お前も什物豊富なこの世界に選ばれた存在だったか。この世は支配する者とされる者に分かれる。お前にはその資格があったというのに惜しいことをしたな」
スピュグモスはユウシの投げた鬼切丸が胸に刺さり死んだ。
魔法は解かれてユウシは下山。テツジンは部屋を破壊された宿屋の主人に通報され山賊に連行されている。下りてきた彼と出くわしたので治衛兵を倒し野宿に用いる道具を放置して一緒に逃走。ユウシオン・アセレラが後で聞いた所では、脱獄の翌日に監獄から出所する予定で泊めてくれた婆の言葉はウソだった。
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