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151章 米津玄師の、子どもの頃の自分に向けての手紙
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151章 米津玄師の、子どもの頃の自分に向けての手紙
5月5日の日曜日、午後4時を過ぎたころ。よく晴れた夏の日差しのような一
日だった。
高田充希(みつき)がオーナーの≪カフェ・ゆず≫には、川口信也と新井竜太
郎と森川純と
松下陽斗(はると)、そのほかは女性で、信也の彼女の大沢詩織(しおり)、
竜太郎の彼女の野中奈緒美(なおみ)、森川純の彼女の菊山香織(かおり)、
陽斗の彼女の清原美樹(みき) 、川口信也の二人の妹の美結(みゆ)と利奈
(りな)、
今も信也に心を寄せるピアニストの落合裕子とマンガ家の青木心菜(ここな)、
心菜の親友のマンガ制作アシスタントをしている水沢由紀(ゆき)という、
華(はな)やかな、13人が集まっている。
信也が、ロッキングオンの『Cut』の2017年9月号を買った。
今ではなかなか入手できない雑誌ため、アマゾンの中古品で、11.700円で
買った。
定価は710円だった。
その特集が『米津玄師(よねづけんし)』で、アマゾンのカスタマーレビューに
は、
『米津さんの子どもの頃の自分に宛てた手紙も感動しました。』と書いてあっ
て、
信也は、どうしてもその記事を読みたくなったのだった。
そして、信也は、「その記事のコピーだけど、欲しい人!」って、みんなに呼び
かけてみた。
そしたら、このメンバーが≪カフェ・ゆず≫に集まったというわけだ。
店のキャパシティーは40席。下北沢駅の西口から歩いて2分の一軒家ダイ
ニング。
店の前にはクルマ6台の駐車場があり、全面喫煙。フローリングの床ゆか。
16席のカウンター、4人用の四角いテーブルが6つ。
ミニライブ用のステージと、黒塗りのYAMAHAのアップライトピアノがある。
「コンビニのコピー機でコピーしたんだけど、それがけっこうむずかしい作業
だったりしてね。
あっははは。『Cut』って雑誌がA4サイズより大きくって、A4の倍のA3には、
わずかにおさまりきらないだよね。そこをなんとかA3におさめました。あっはは
は
これと綴(と)じたホッチキスの針(しん)だって、
普通針足5ミリだけど、6ミリを使ってんですよ。あっははは。」
そう言いながら、信也はみんなに、『Cut』のコピーが入った白無地の紙の手
さげ袋を配(くば)る。
「しんちゃん、お疲れ様でした。ありがとうございます!」
清原美樹がそう言って微笑(ほほえ)む。
みんなも笑顔で、「疲れ様!」とか「ありがとう」とか、信也に言う。
「米津玄師が子どものころの自分に手紙を書くっていう気持ちはわかりますよ
ね、
子どものころって、感受性も豊かで、やっぱり誰もが詩人なんだろうね。
詩なんかを書かないとしても」
竜太郎がそう言った。みんなも「そうよね」「そうだ、そうだ」とか言った。
「そんな子どもの心をオトナになると忘れたりするから、おかしな世の中になっ
ていくんだよね」
松下陽斗(はると)がそう言って、彼女の清原美樹と目を合わせる。
「愛を感じられなくなったりするんでしょうね。感受性も衰退すると、
子どものころの瑞々(みずみず)しい感じやすい心も無くなってしまったりね」
落合裕子はそう言った。
「そうですよね、裕子さん。愛って、それを感じるセンサーそのものが弱って働
かないと、
愛って、感じ取れないものだと思うんです」
青木心菜(ここな)がそう言った。
女性バーテンダーの沢井悠花(ゆうか)は、手際てぎわも良くシェーカーを振
い、
ジンがベースのいま人気のネグローニを作って、
カウンターの席でくつろぐ、大沢詩織と信也の姉妹の美結と利奈に差し出し
た。
笑顔もかわいい24歳の女性バーテンダーの沢井悠花は、白の開襟ブラウ
ス、
黒のベスト風エプロンもよく似合う。
「美結さん、利奈ちゃんとは、すっかり、お酒を楽しむ仲間になっちゃいましたよ
ね!」
そう言って笑顔で、詩織は両隣に座(すわ)る美結と利奈とグラスを合わせ
る。
1997年3月21日生まれ、22歳の川口利奈は、今年、管理栄養学科を卒業
して、
兄の信也の会社の外食産業大手のモリカワ本社に就職したばかりだ。
川口美結は1993年4月16日生まれ、26歳。信也の飲み仲間の新井竜太
郎が副社長の、
外食産業最大手・タナールの傘下の芸能事務所・クリエーションで、
タレントや女優やミュージシャンの仕事をしている。
大沢詩織は1994年6月3日生まれ、24歳。詩織は、モリカワで仕事をして
いる。
「ねえ、詩織ちゃん、うちのお兄ちゃんがね、あそこで、落合裕子さんと青木心
菜(ここな)さんと、
楽しそうに話しているけれど、詩織ちゃんはいつも平気んあんだもん。
心が広いなあって、いつも感心しちゃうのよね、わたし・・・」
微笑みながら美結は、詩織にそう言った。
「初めのころは、ちょっと嫉妬(しっと)することもあったんです。あっはは。
だけど、それじゃ、お互いに、うまくいかないことがすぐにわかったから・・・。
しんちゃんも、わたしも、自由を尊重する芸術的な生き方を大切にしているから。
クリエイティブな創造的なことをしたいと思ったら、既成的な価値観とかからも
自由でないとダメだったりするでしょう。そんな自由や、
自然な形で続けられるお互いの愛とかが大切だと思っているんです。
お互いを、嫉妬とかで縛(しば)りあったりしても、愛は続かないとわかっている
んです。
米津玄師(よねづげんし)もこの手紙の最後には、子どものころの自分に向け
て
『あなたの思想、理念、美意識に今も共感します。
どうかこれからもぼくを遠くの方へと導いてください。よろしくお願いします。』っ
て書いてますけど、
芸術をやっていくにして、普通に生きるにしても。
やっぱり子どものころの、まっすぐな気持ちや清らかな感性や大きな夢とかっ
て、
大切なんだなあって、米津さんみたいに私も思うんです。
ねえ、美結さん、利奈ちゃん、そうですよね。あっははは」
詩織は美結と利奈にそう言うと、明るく笑った。
下記は、米津玄師(よねづげんし)の、
『子どもの頃の自分』という『もうひとりの自分』に向けての手紙、800字ほど
の全文。
お元気ですか?最近あなたのことをよく思い出します。
あなたに比べてぼくはいくつか大きくなって、色々とできることが増えました。
さらにいい曲が作れるようになったし、他人の言っていることも理解できるよう
になりました。
そう言われるとあなたはどう思うんだろう?誇らしく思うのか、それとも悔しいと
思うのか。
今ぼくは概ねあなたの予想した通りの未来にいると思います。
バンドという形ではないものの、
あなたがこうでありたいと願ったことはなかなか叶えられているんじゃないか
な。
まだ途中段階ではあるものの、ぼくとあなたならきっと全部上手くいくでしょう。
あなたは「誰かの思い通りに動いてなんかやるものか」という怒りで日々生き
ていたので、
ぼくがこう言えばまた少し違う角度に歩いて行ってしまうかもしれませんね。
「いつか大人になって過去を振り返ったとき、
今の子供の頃の自分を馬鹿にするようなやつになってませんように」
と願っていたのをよく憶えています。
今まさに大人になったぼくは、あなたの望み通り、やっぱりあなたを誇らしく
思っています。
自分の能力を疑わず、日々怒りと不安に身を委ね、ヘラヘラと笑みを顔に張り
付けていた
あなたをとても美しいと思います。
あなたの思想、理念、美意識に今も共感します。
どうかこれからもぼくを遠くの方へと導いてください。よろしくお願いします。
☆参考文献☆
Cut 2017年9月号 ロッキングオン
≪つづく≫ --- 151章 おわり ---
5月5日の日曜日、午後4時を過ぎたころ。よく晴れた夏の日差しのような一
日だった。
高田充希(みつき)がオーナーの≪カフェ・ゆず≫には、川口信也と新井竜太
郎と森川純と
松下陽斗(はると)、そのほかは女性で、信也の彼女の大沢詩織(しおり)、
竜太郎の彼女の野中奈緒美(なおみ)、森川純の彼女の菊山香織(かおり)、
陽斗の彼女の清原美樹(みき) 、川口信也の二人の妹の美結(みゆ)と利奈
(りな)、
今も信也に心を寄せるピアニストの落合裕子とマンガ家の青木心菜(ここな)、
心菜の親友のマンガ制作アシスタントをしている水沢由紀(ゆき)という、
華(はな)やかな、13人が集まっている。
信也が、ロッキングオンの『Cut』の2017年9月号を買った。
今ではなかなか入手できない雑誌ため、アマゾンの中古品で、11.700円で
買った。
定価は710円だった。
その特集が『米津玄師(よねづけんし)』で、アマゾンのカスタマーレビューに
は、
『米津さんの子どもの頃の自分に宛てた手紙も感動しました。』と書いてあっ
て、
信也は、どうしてもその記事を読みたくなったのだった。
そして、信也は、「その記事のコピーだけど、欲しい人!」って、みんなに呼び
かけてみた。
そしたら、このメンバーが≪カフェ・ゆず≫に集まったというわけだ。
店のキャパシティーは40席。下北沢駅の西口から歩いて2分の一軒家ダイ
ニング。
店の前にはクルマ6台の駐車場があり、全面喫煙。フローリングの床ゆか。
16席のカウンター、4人用の四角いテーブルが6つ。
ミニライブ用のステージと、黒塗りのYAMAHAのアップライトピアノがある。
「コンビニのコピー機でコピーしたんだけど、それがけっこうむずかしい作業
だったりしてね。
あっははは。『Cut』って雑誌がA4サイズより大きくって、A4の倍のA3には、
わずかにおさまりきらないだよね。そこをなんとかA3におさめました。あっはは
は
これと綴(と)じたホッチキスの針(しん)だって、
普通針足5ミリだけど、6ミリを使ってんですよ。あっははは。」
そう言いながら、信也はみんなに、『Cut』のコピーが入った白無地の紙の手
さげ袋を配(くば)る。
「しんちゃん、お疲れ様でした。ありがとうございます!」
清原美樹がそう言って微笑(ほほえ)む。
みんなも笑顔で、「疲れ様!」とか「ありがとう」とか、信也に言う。
「米津玄師が子どものころの自分に手紙を書くっていう気持ちはわかりますよ
ね、
子どものころって、感受性も豊かで、やっぱり誰もが詩人なんだろうね。
詩なんかを書かないとしても」
竜太郎がそう言った。みんなも「そうよね」「そうだ、そうだ」とか言った。
「そんな子どもの心をオトナになると忘れたりするから、おかしな世の中になっ
ていくんだよね」
松下陽斗(はると)がそう言って、彼女の清原美樹と目を合わせる。
「愛を感じられなくなったりするんでしょうね。感受性も衰退すると、
子どものころの瑞々(みずみず)しい感じやすい心も無くなってしまったりね」
落合裕子はそう言った。
「そうですよね、裕子さん。愛って、それを感じるセンサーそのものが弱って働
かないと、
愛って、感じ取れないものだと思うんです」
青木心菜(ここな)がそう言った。
女性バーテンダーの沢井悠花(ゆうか)は、手際てぎわも良くシェーカーを振
い、
ジンがベースのいま人気のネグローニを作って、
カウンターの席でくつろぐ、大沢詩織と信也の姉妹の美結と利奈に差し出し
た。
笑顔もかわいい24歳の女性バーテンダーの沢井悠花は、白の開襟ブラウ
ス、
黒のベスト風エプロンもよく似合う。
「美結さん、利奈ちゃんとは、すっかり、お酒を楽しむ仲間になっちゃいましたよ
ね!」
そう言って笑顔で、詩織は両隣に座(すわ)る美結と利奈とグラスを合わせ
る。
1997年3月21日生まれ、22歳の川口利奈は、今年、管理栄養学科を卒業
して、
兄の信也の会社の外食産業大手のモリカワ本社に就職したばかりだ。
川口美結は1993年4月16日生まれ、26歳。信也の飲み仲間の新井竜太
郎が副社長の、
外食産業最大手・タナールの傘下の芸能事務所・クリエーションで、
タレントや女優やミュージシャンの仕事をしている。
大沢詩織は1994年6月3日生まれ、24歳。詩織は、モリカワで仕事をして
いる。
「ねえ、詩織ちゃん、うちのお兄ちゃんがね、あそこで、落合裕子さんと青木心
菜(ここな)さんと、
楽しそうに話しているけれど、詩織ちゃんはいつも平気んあんだもん。
心が広いなあって、いつも感心しちゃうのよね、わたし・・・」
微笑みながら美結は、詩織にそう言った。
「初めのころは、ちょっと嫉妬(しっと)することもあったんです。あっはは。
だけど、それじゃ、お互いに、うまくいかないことがすぐにわかったから・・・。
しんちゃんも、わたしも、自由を尊重する芸術的な生き方を大切にしているから。
クリエイティブな創造的なことをしたいと思ったら、既成的な価値観とかからも
自由でないとダメだったりするでしょう。そんな自由や、
自然な形で続けられるお互いの愛とかが大切だと思っているんです。
お互いを、嫉妬とかで縛(しば)りあったりしても、愛は続かないとわかっている
んです。
米津玄師(よねづげんし)もこの手紙の最後には、子どものころの自分に向け
て
『あなたの思想、理念、美意識に今も共感します。
どうかこれからもぼくを遠くの方へと導いてください。よろしくお願いします。』っ
て書いてますけど、
芸術をやっていくにして、普通に生きるにしても。
やっぱり子どものころの、まっすぐな気持ちや清らかな感性や大きな夢とかっ
て、
大切なんだなあって、米津さんみたいに私も思うんです。
ねえ、美結さん、利奈ちゃん、そうですよね。あっははは」
詩織は美結と利奈にそう言うと、明るく笑った。
下記は、米津玄師(よねづげんし)の、
『子どもの頃の自分』という『もうひとりの自分』に向けての手紙、800字ほど
の全文。
お元気ですか?最近あなたのことをよく思い出します。
あなたに比べてぼくはいくつか大きくなって、色々とできることが増えました。
さらにいい曲が作れるようになったし、他人の言っていることも理解できるよう
になりました。
そう言われるとあなたはどう思うんだろう?誇らしく思うのか、それとも悔しいと
思うのか。
今ぼくは概ねあなたの予想した通りの未来にいると思います。
バンドという形ではないものの、
あなたがこうでありたいと願ったことはなかなか叶えられているんじゃないか
な。
まだ途中段階ではあるものの、ぼくとあなたならきっと全部上手くいくでしょう。
あなたは「誰かの思い通りに動いてなんかやるものか」という怒りで日々生き
ていたので、
ぼくがこう言えばまた少し違う角度に歩いて行ってしまうかもしれませんね。
「いつか大人になって過去を振り返ったとき、
今の子供の頃の自分を馬鹿にするようなやつになってませんように」
と願っていたのをよく憶えています。
今まさに大人になったぼくは、あなたの望み通り、やっぱりあなたを誇らしく
思っています。
自分の能力を疑わず、日々怒りと不安に身を委ね、ヘラヘラと笑みを顔に張り
付けていた
あなたをとても美しいと思います。
あなたの思想、理念、美意識に今も共感します。
どうかこれからもぼくを遠くの方へと導いてください。よろしくお願いします。
☆参考文献☆
Cut 2017年9月号 ロッキングオン
≪つづく≫ --- 151章 おわり ---
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