『やさしい光の中へ』


 ……助けを求める声。頼りない響き。
 胸元には、正義のあげた真っ赤なペットボトル。少女は、それをとても大事そうに抱えている。
 華奢な肩が小刻みに震えている。
 漆黒の双眸が儚げに揺れていた。
 我知らず、身体が勝手に動いていた。
 正義は少女の許へと引き返していた。
 着ていたブルゾンを脱ぎ、震える小さな肩に掛けてやる。
 その時、少女と目が合った。
「名前は?」
 またもや、勝手に口が訊ねていた。
 少女の顔に笑みが広がる。
「……麻理亜」
 ──ま・り・あ。
 およそ、吸血鬼には似つかわしくない。
 けれど、目の前の少女には似合うと思った。
 真っ赤な唇から零れ三つの音は、合わせると聖母様と同じ響きを持っていた。

(──以上、本文より抜粋)

(現在、本作品は「アルファポリス」と「小説家になろう」にて掲載しています。)
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