上 下
49 / 51
番外編

25-1 ロヴィスside

しおりを挟む


 ドカッ!
 
 分厚いブーツでロヴィスは乗っていた馬車のドア枠を蹴り上げた。
 
「なんで俺が! 隣国の! しかもクソ田舎の男爵領なんぞ行かなければならない!」
 
「閣下、仕方ありませんよ。他でもない国王からの命ですからねぇ」
 
「あぁ、クソっ……あんな辺鄙な領地なんて潰してしまえばいいじゃないか!」
 
「あそこの領地がなくなるとすると、うちの国にも悪影響が及びかねませんから」

 潰すのは無理ですよ、なんてリヒャルトが言う。
 そんなことはわかっているが、いらいらはおさまらない。

「うちの領地が強いといっても流石に魔の森の魔物をすべて相手にするのはいささか骨が折れます」

 リヒャルトが無理だと言わないところをみると、その提案は現実的ではないにせよ可能らしい。

「毎年こんなクソ田舎に来ることになるならまだそっちの方がマシだ」
 
「クソクソと……あなた、仮にも王弟で貴族で、うちの領主なんですから、その汚い言葉遣いは男爵領内では控えてくださいね」
 
「はいはい、わかったわかった」

 リヒャルトはまったく口うるさいことこの上ない。
 ロヴィスとリヒャルトは領主とその下に属する騎士団長という立場ではあるが、公式の場でなければ、こういう軽口ばかりを叩き合う仲だ。

「デューラー男爵もあんな辺鄙な領地に追いやられて大変でしょうね……」
 
「なんだ? リヒャルト、知らないのか? デューラー男爵は自ら志願してあの領地をおさめているんだぞ」
 
「ええ? なんでまた? デューラー男爵は何かやらかして、あの領地に追いやられたわけではないのですか?」

 びっくりした声で驚きを隠せないリヒャルト。
 
「いや、なんでも、子どもが出来たから落ち着いて子育てしたい、という理由で引退したらしいぞ。そして選んだのが」
 
「あの領地ですか……」
 
「宰相補佐役とはいっても裏で実権を握っていたのはデューラー男爵だったからな。彼が望めば引退先なんて選び放題だったのに」
 
「確かに……デューラー男爵の手腕は相当だったと聞いていましたが。彼の腕があれば、魔の森に囲まれた領地だったとしても、もっと栄えていてもいいような気もします……」
 
「跡継ぎの息子に課題を残すやり方なのかもな」
 
「課題を残す?」

 不思議そうな顔でリヒャルトはロヴィスに聞き返した。

「前当主のやり方を引き継ぐのは誰にでもできるが、新しい政策を行うのは次期領主の力を試される」
 
「なるほど、跡継ぎのエミール様に課題を残して取り組ませる、ということですか……」
 
「ま、大方そんなことだろうな。じゃなきゃ説明がつかんだろう。それと、今回の遠征討伐、うちの国王にデューラー男爵がお願い・・・をしたことが原因だしな」

 デューラー男爵とすこし雑談するだけで、いつの間にか約束ごとやら契約やらを結んでしまう……というのは有名な話。
 デューラー男爵は宰相補佐だった頃から変わっていないようだ。
 
「閣下も気をつけてくださいよ。口約束でも安易にしないでくださいね。交渉の際は私を同席させてください。どんなお願いごとをされるかわかりませんから」
 
「わかってる!」

 また口うるさいリヒャルトが現れた。
 
「本当ですかねぇ。あなた、いつも適当ですから」
 
「耳にクラーケンがひっつきそうなくらいに何度も言われれば、いやでも覚えるだろうが」
 
「覚えていても、ちゃんと実行してくれないと意味ないんですよ?」

 嫌味も言うのも忘れない。
 さらにうんざりした気持ちになったロヴィスだった。
 

 そうして仰々しい馬車でいやいや連れてこられたデューラー男爵領地。

 周りは魔の森にかこまれ、辺鄙な領地。
 特に特別なところなどもなにもない。

 シュタルクに乗って一人でくればこんなところ、ひとっ飛びで来られるのに。
 騎士団を引き連れて大人数での移動だったので、馬車でのろのろと時間がかかるっといったらなかった。
 

 さっさと討伐を終わらせよう。
 うわべだけにこやに接して、やる事をやれば、それで終わりだ。そう思っていた。

 ほやほやとしたデューラー男爵と挨拶を交わす。軽く談笑していたのが、いつの間にやら秋の討伐は毎年の行事になってしまったし、緊急時にも応援に駆けつける、との口約束をしてしまった。
 
 ――後でリヒャルトにどやされるな……。

『あれほど言ったのに……何してくれやがるんです閣下?』と笑顔なのに怒るという器用なことをリヒャルトはやってのけるのだ。
 そんなに怖くはないのだが、ねちねち、ねちねちとことあるこどに言ってくるのが非常に面倒くさい。

 領主補佐のコンラートはきっと『なんで毎年なんですかあぁあ! 今回だけと言ったのにぃい!』と泣きついてくるだろうな、ということは容易に想像がついた。
 きっと今も、うぐうぐと泣きながら執務室で高く積まれた決済書類に追われているだろう。

 面倒臭い、まいったな、なんて一人で頭を抱えている時にアルブレヒトが声をかけてきた。

 それがアルブレヒトとの初めての出会いだった。
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

魔王の溺愛

あおい 千隼
BL
銀の髪が美しい青い瞳の少年。彼が成人の儀を迎えた日の朝すべてが変わった。 喜びと悲しみを分かち合い最後に選ぶのは愛する者の笑顔と幸せ─── 漆黒の王が心を許したのは人の子。大切な者と心つなぐ恋のお話。 …*☆*………………………………………………… 他サイトにて公開しました合同アンソロジー企画の作品です 表紙・作画/作品設定:水城 るりさん http://twitter.com/ruri_mizuki29 水城 るりさんのイラストは、著作権を放棄しておりません。 無断転載、無断加工はご免なさい、ご勘弁のほどを。 No reproduction or republication without written permission. …*☆*………………………………………………… 【公開日2018年11月2日】

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

寂しい竜の懐かせ方

兎騎かなで
BL
ジルは貴重な宝石眼持ちのため、森に隠れて一人寂しく暮らしていた。ある秋の日、頭上を通りがかった竜と目があった瞬間、竜はジルを鋭い爪で抱えて巣に持ち帰ってしまう。 「いきなり何をするんだ!」 「美しい宝石眼だ。お前を私のものにする」 巣に閉じ込めて家に帰さないと言う竜にジルは反発するが、実は竜も自分と同じように、一人の生活を寂しがっていると気づく。 名前などいらないという竜に名づけると、彼の姿が人に変わった。 「絆契約が成ったのか」 心に傷を負った竜×究極の世間知らずぴゅあぴゅあ受け 四万字程度の短編です。

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

ぼくは男なのにイケメンの獣人から愛されてヤバい!!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

【完結】凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕

みやこ嬢
BL
2023/01/27 完結!全117話 【強面の凄腕冒険者×心に傷を抱えた支援役】 孤児院出身のライルは田舎町オクトの冒険者ギルドで下働きをしている20歳の青年。過去に冒険者から騙されたり酷い目に遭わされた経験があり、本来の仕事である支援役[サポーター]業から遠退いていた。 しかし、とある理由から支援を必要とする冒険者を紹介され、久々にパーティーを組むことに。 その冒険者ゼルドは顔に目立つ傷があり、大柄で無口なため周りから恐れられていた。ライルも最初のうちは怯えていたが、強面の外見に似合わず優しくて礼儀正しい彼に次第に打ち解けていった。 組んで何度目かのダンジョン探索中、身を呈してライルを守った際にゼルドの鎧が破損。代わりに発見した鎧を装備したら脱げなくなってしまう。責任を感じたライルは、彼が少しでも快適に過ごせるよう今まで以上に世話を焼くように。 失敗続きにも関わらず対等な仲間として扱われていくうちに、ライルの心の傷が癒やされていく。 鎧を外すためのアイテムを探しながら、少しずつ距離を縮めていく冒険者二人の物語。 ★・★・★・★・★・★・★・★ 無自覚&両片想い状態でイチャイチャしている様子をお楽しみください。 感想ありましたら是非お寄せください。作者が喜びます♡

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

処理中です...