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番外編
25-1 ロヴィスside
しおりを挟むドカッ!
分厚いブーツでロヴィスは乗っていた馬車のドア枠を蹴り上げた。
「なんで俺が! 隣国の! しかもクソ田舎の男爵領なんぞ行かなければならない!」
「閣下、仕方ありませんよ。他でもない国王からの命ですからねぇ」
「あぁ、クソっ……あんな辺鄙な領地なんて潰してしまえばいいじゃないか!」
「あそこの領地がなくなるとすると、うちの国にも悪影響が及びかねませんから」
潰すのは無理ですよ、なんてリヒャルトが言う。
そんなことはわかっているが、いらいらはおさまらない。
「うちの領地が強いといっても流石に魔の森の魔物をすべて相手にするのはいささか骨が折れます」
リヒャルトが無理だと言わないところをみると、その提案は現実的ではないにせよ可能らしい。
「毎年こんなクソ田舎に来ることになるならまだそっちの方がマシだ」
「クソクソと……あなた、仮にも王弟で貴族で、うちの領主なんですから、その汚い言葉遣いは男爵領内では控えてくださいね」
「はいはい、わかったわかった」
リヒャルトはまったく口うるさいことこの上ない。
ロヴィスとリヒャルトは領主とその下に属する騎士団長という立場ではあるが、公式の場でなければ、こういう軽口ばかりを叩き合う仲だ。
「デューラー男爵もあんな辺鄙な領地に追いやられて大変でしょうね……」
「なんだ? リヒャルト、知らないのか? デューラー男爵は自ら志願してあの領地をおさめているんだぞ」
「ええ? なんでまた? デューラー男爵は何かやらかして、あの領地に追いやられたわけではないのですか?」
びっくりした声で驚きを隠せないリヒャルト。
「いや、なんでも、子どもが出来たから落ち着いて子育てしたい、という理由で引退したらしいぞ。そして選んだのが」
「あの領地ですか……」
「宰相補佐役とはいっても裏で実権を握っていたのはデューラー男爵だったからな。彼が望めば引退先なんて選び放題だったのに」
「確かに……デューラー男爵の手腕は相当だったと聞いていましたが。彼の腕があれば、魔の森に囲まれた領地だったとしても、もっと栄えていてもいいような気もします……」
「跡継ぎの息子に課題を残すやり方なのかもな」
「課題を残す?」
不思議そうな顔でリヒャルトはロヴィスに聞き返した。
「前当主のやり方を引き継ぐのは誰にでもできるが、新しい政策を行うのは次期領主の力を試される」
「なるほど、跡継ぎのエミール様に課題を残して取り組ませる、ということですか……」
「ま、大方そんなことだろうな。じゃなきゃ説明がつかんだろう。それと、今回の遠征討伐、うちの国王にデューラー男爵がお願いをしたことが原因だしな」
デューラー男爵とすこし雑談するだけで、いつの間にか約束ごとやら契約やらを結んでしまう……というのは有名な話。
デューラー男爵は宰相補佐だった頃から変わっていないようだ。
「閣下も気をつけてくださいよ。口約束でも安易にしないでくださいね。交渉の際は私を同席させてください。どんなお願いごとをされるかわかりませんから」
「わかってる!」
また口うるさいリヒャルトが現れた。
「本当ですかねぇ。あなた、いつも適当ですから」
「耳にクラーケンがひっつきそうなくらいに何度も言われれば、いやでも覚えるだろうが」
「覚えていても、ちゃんと実行してくれないと意味ないんですよ?」
嫌味も言うのも忘れない。
さらにうんざりした気持ちになったロヴィスだった。
そうして仰々しい馬車でいやいや連れてこられたデューラー男爵領地。
周りは魔の森にかこまれ、辺鄙な領地。
特に特別なところなどもなにもない。
シュタルクに乗って一人でくればこんなところ、ひとっ飛びで来られるのに。
騎士団を引き連れて大人数での移動だったので、馬車でのろのろと時間がかかるっといったらなかった。
さっさと討伐を終わらせよう。
うわべだけにこやに接して、やる事をやれば、それで終わりだ。そう思っていた。
ほやほやとしたデューラー男爵と挨拶を交わす。軽く談笑していたのが、いつの間にやら秋の討伐は毎年の行事になってしまったし、緊急時にも応援に駆けつける、との口約束をしてしまった。
――後でリヒャルトにどやされるな……。
『あれほど言ったのに……何してくれやがるんです閣下?』と笑顔なのに怒るという器用なことをリヒャルトはやってのけるのだ。
そんなに怖くはないのだが、ねちねち、ねちねちとことあるこどに言ってくるのが非常に面倒くさい。
領主補佐のコンラートはきっと『なんで毎年なんですかあぁあ! 今回だけと言ったのにぃい!』と泣きついてくるだろうな、ということは容易に想像がついた。
きっと今も、うぐうぐと泣きながら執務室で高く積まれた決済書類に追われているだろう。
面倒臭い、まいったな、なんて一人で頭を抱えている時にアルブレヒトが声をかけてきた。
それがアルブレヒトとの初めての出会いだった。
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