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しおりを挟むしばらく閉じていたロヴィスの瞼は、開けにくそうだったがゆっくりと開いていった。
「ロヴィス! よかった、目が覚めて……」
「アルブレヒト……俺は……」
あの後、ロヴィスはすぐさま屋敷へと運ばれて高次の治療が行われると、一命を取りとめた。
しかし、深い傷を負った影響で高熱にうなされ、ロヴィスは一週間、目を覚さなかった。
医者は後は本人の回復力頼みだというので、アルブレヒトはひとときも離れずに看病に徹したのだった。
アルブレヒトはぎゅっとロヴィスの手を握って、やっと意識が戻ってきたことに安堵した。
アルブレヒトの手を、ロヴィスも握力が戻らないながらもしっかりと握り返す。
二人見つめ合っていると、お互いの顔が自然と近づいていった。
吸い寄せられるかのようだった。
「なかなか目を覚めなくて心配しましたよ。あなたにしては大怪我をしましたねぇ」
そんな第三者の声は二人の動きをとめた。
アルブレヒトは、ハッと気がついて姿勢を正した。
そうだった。
ここには今アルブレヒトとロヴィスだけではなかった。
先ほどアルブレヒトと顔を合わせていた表情とは打って変わって、ロヴィスは嫌そうな顔を隠そうともせずにその第三者に声をかけた。
「……リヒャルト。なんでお前がここにいる」
「そんな嫌そうな顔をしなくてもいいではないですか」
リヒャルト・ゾルゲ騎士団長。
ルートヴィヒ領の騎士団員たちをまとめ上げているロヴィスの部下であった。
くすくすと笑う右目の下には泣きぼくろがある。
「さっさと要件を済ませて出ていけよ」
「数日間寝込んでいた者の言い草とは思えませんねぇ」
「……うるさい、用がないなら出て行け」
「はぁ、せっかくこちらの魔物の森が心配だと言っていた閣下のために様子を見に来てみたというのに……」
わざとらしくため息を吐いて、よよよ、とそう主張するリヒャルト。
二人のやり取りをみていると、ロヴィスとリヒャルトは上司と部下なのにも関わらず、なんだかとても仲が良さそうだ。
アルブレヒトは、嫉妬とまではいかないが、二人の関係性が少し羨ましくなった。
「コンラートに領地のことすべて押し付けて来た、の間違いだろうが」
「ふふ、それはまぁ間違いではありませんけれど……。ご報告ですが、森の様子を見たところ、閣下とアルブレヒト様を襲ったのはリンドヴルムの変異種でした」
リヒャルトは口調と姿勢を正してロヴィスへの報告に切り替えた。
「リンドヴルムの、変異種……」
アルブレヒトが思わず呟いた。
自分が見たあの恐ろしい三つの頭を持つ魔物は、やはりリンドヴルムで間違いなかったのか。
「はい、アルブレヒト様。ここしばらく魔物の森が落ち着いていたのは強い変異種が現れたことが原因だったようです」
「変異種が他の魔物を捕食していたから森が静かだったみたいですねぇ」とリヒャルト騎士団長はアルブレヒトにも優しく微笑んで答えてくれる。
「それで他に変異種はいたのか?」
「いえ、あの個体一体だけだったようです。変異種はシュタルクがあらかた食い尽くしてしまいましたのでほぼ残骸となってしまいましたが、領地に持ち帰り詳しく調べたいのですがよろしいでしょうか?」
「ああ、うちの研究所で調べるのがいいだろう。デューラー男爵との交渉はお前に任せる。俺はこの通りまだ回復中の身だからな」
ロヴィスはぐっと後ろにもたれて枕に上半身を沈めた。
「……承知いたしました」
少しの間が気になるところだったが、リヒャルトは優しそうな微笑みはくずさなかった。
「もういいか? 俺は意識を取り戻したばかりなんだ。ゆっくりしたい」
「はいはい、邪魔者はすぐにでも退散いたしますよ」
仕事の話しは終わったのか、軽い口調が戻ってきた。
リヒャルトは一礼をして部屋をすぐさま出ていく。
アルブレヒトもそれにならって部屋を出て行こうとした。
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