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しばらくひとりで泣いていると、後ろの方から何か音がするのが聞こえていた。
なんだろうとは思ったが、後ろは崖だったからあまり気にしなかった。
それにここにはアルブレヒトと小麦畑しかない。こんな朝早くから働く領民はいない。
アルブレヒトを追いかけてくる人だって、いないのだ。
コロコロと石が落ちていくような音。
その音が次第に大きくなる。
その時にやっと、土砂崩れでも起きたのかもしれないと、もたれていた岩陰から後ろを振り向いた。
ズドン!
大きな音を出して崖の下から鋭い爪を持つ腕が這い上がってくるのが見えた。
――リンドヴルム……?! まさか、うそ、……どうして……!
崖の下は深い魔の森が広がっている。
だがリンドヴルムは翼はあるが飛べないし、崖もかなりの角度があり、昇ってくる個体など今までいなかった。
リンドヴルムの全身が顕になる。
這い上がってきたリンドヴルムから長い首を持つ三つの頭が生えていた。
――こんな個体……今まで見たことない……!
「っ…………っ!」
サッとアルブレヒトは岩陰に隠れた。
身を小さくしてひっそりと、口と鼻を両手でしっかりと塞いだ。
呼吸の音を知られたくなかったからだ。
どしん、どしん!と地面を歩く振動で砂利が動き、その振動はどんどんと近づいてくるようだった。
――くるなくるなくるな!
気づかれたくないのに、自分の心臓の音がドクドクとうるさく聞こえた。
不意に、振動も音も、ピタリと止まった。
――いなくなった……?
止めていた息をホッと吐き出した。
ぺちゃ
何か粘着力のあるものが、頭から頬にかけて落ちてきた。
手でそれを拭って感触を確かめたが、これは一体なんだろうか。
何かが荒い息遣いをする音が嫌に鮮明に聞こえる。
アルブレヒトは上を、ゆっくりと見上げた。
涎を垂らした三つの頭が半開きの口を開けてその鋭くも凶悪な牙を見せつける。
「ぁ……あ、…………ぁあ、……っ………………」
声になっていたかわからない。
『グォォオオオォーーーン!!!』
三つの頭が同時に強烈な咆哮を上げた。
森全体に響くような大きな唸り声を出し、あたりに涎を撒き散らしながらその大きな巨体を揺らす。
頭が三つあるだけじゃなく、通常のリンドヴルムよりも体が大きい。
キーンと耳鳴りがして、逃げなきゃと思うのに体が全く動かなかった。
腰は抜けているし、完全に威圧されて、ひるんでしまった。
ギョロリとした目がこちらを睨む。
「ひっ……」
それでも動けない。
恐怖に涙も声も出なくて、助けも呼べない。
誰もいない小麦畑の真ん前で、鼻先にリンドヴルムがいる状況で助けを呼んだとしても助かる訳がないのに。
喉の奥まで出てきた彼の名前も、呼べなかった。
三つの魔物の大きな口が開く。
スローモーションのように牙が己に向かってくるのが見えた。
――ああ、喰われる……。
三つのうち、真ん中の頭の大きな口が目の前に迫り来る。
中は真っ黒で、ブラックホールのようだ。
ギザギザと尖った牙が体に刺さったら、ものすごく痛いのだろうか。
他の二つの頭にも肢体を引きちぎられて、飲み込まれて、苦しみの中で絶命するのか。
ゆっくりと進む時間の中で、人は死ぬ前はそんなことを考える余裕があるんだな、なんて自分で自分に感心した。
そして諦めて目を閉じた。
最後に浮かんできたのは金色の瞳のロヴィスだった。
――ロヴィス……
なんだろうとは思ったが、後ろは崖だったからあまり気にしなかった。
それにここにはアルブレヒトと小麦畑しかない。こんな朝早くから働く領民はいない。
アルブレヒトを追いかけてくる人だって、いないのだ。
コロコロと石が落ちていくような音。
その音が次第に大きくなる。
その時にやっと、土砂崩れでも起きたのかもしれないと、もたれていた岩陰から後ろを振り向いた。
ズドン!
大きな音を出して崖の下から鋭い爪を持つ腕が這い上がってくるのが見えた。
――リンドヴルム……?! まさか、うそ、……どうして……!
崖の下は深い魔の森が広がっている。
だがリンドヴルムは翼はあるが飛べないし、崖もかなりの角度があり、昇ってくる個体など今までいなかった。
リンドヴルムの全身が顕になる。
這い上がってきたリンドヴルムから長い首を持つ三つの頭が生えていた。
――こんな個体……今まで見たことない……!
「っ…………っ!」
サッとアルブレヒトは岩陰に隠れた。
身を小さくしてひっそりと、口と鼻を両手でしっかりと塞いだ。
呼吸の音を知られたくなかったからだ。
どしん、どしん!と地面を歩く振動で砂利が動き、その振動はどんどんと近づいてくるようだった。
――くるなくるなくるな!
気づかれたくないのに、自分の心臓の音がドクドクとうるさく聞こえた。
不意に、振動も音も、ピタリと止まった。
――いなくなった……?
止めていた息をホッと吐き出した。
ぺちゃ
何か粘着力のあるものが、頭から頬にかけて落ちてきた。
手でそれを拭って感触を確かめたが、これは一体なんだろうか。
何かが荒い息遣いをする音が嫌に鮮明に聞こえる。
アルブレヒトは上を、ゆっくりと見上げた。
涎を垂らした三つの頭が半開きの口を開けてその鋭くも凶悪な牙を見せつける。
「ぁ……あ、…………ぁあ、……っ………………」
声になっていたかわからない。
『グォォオオオォーーーン!!!』
三つの頭が同時に強烈な咆哮を上げた。
森全体に響くような大きな唸り声を出し、あたりに涎を撒き散らしながらその大きな巨体を揺らす。
頭が三つあるだけじゃなく、通常のリンドヴルムよりも体が大きい。
キーンと耳鳴りがして、逃げなきゃと思うのに体が全く動かなかった。
腰は抜けているし、完全に威圧されて、ひるんでしまった。
ギョロリとした目がこちらを睨む。
「ひっ……」
それでも動けない。
恐怖に涙も声も出なくて、助けも呼べない。
誰もいない小麦畑の真ん前で、鼻先にリンドヴルムがいる状況で助けを呼んだとしても助かる訳がないのに。
喉の奥まで出てきた彼の名前も、呼べなかった。
三つの魔物の大きな口が開く。
スローモーションのように牙が己に向かってくるのが見えた。
――ああ、喰われる……。
三つのうち、真ん中の頭の大きな口が目の前に迫り来る。
中は真っ黒で、ブラックホールのようだ。
ギザギザと尖った牙が体に刺さったら、ものすごく痛いのだろうか。
他の二つの頭にも肢体を引きちぎられて、飲み込まれて、苦しみの中で絶命するのか。
ゆっくりと進む時間の中で、人は死ぬ前はそんなことを考える余裕があるんだな、なんて自分で自分に感心した。
そして諦めて目を閉じた。
最後に浮かんできたのは金色の瞳のロヴィスだった。
――ロヴィス……
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