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 兄の手前、冷静に見えるように振る舞ったが、アルブレヒトはもう限界だった。

「ロヴィス、これは一体どういうことなのですか……。こんな、こんなこと……本当に?」

 今までのエミールとのやりとりと書類から、カスパー王子の新しいお相手を手配したのがロヴィスだと分かった。
 しかも、平民を養子縁組して貴族に仕立て上げてまでだ!

「ああ、俺があのカスのお相手を手配してやった」
 
「な、なんで……ひどい!」

 ロヴィスは以前から、カスパー王子の名前をもじって呼ぶ。
 それもアルブレヒトは嫌だった。
 
「俺がひどい?ひどいのはお前の方だろう。あれだけ気を持たせるようなことをしておいて。あの王子と婚約だなんて、寝耳に水だった。成人後に口説いていこうと思って我慢していたのに」
 
「気を持たせるなんて、僕はそんなつもり……っ」
 
「俺を本気にさせた責任をとってもらった。それだけのことだ、悪く思うな。悪いのは、俺を惚れさせたお前の方さ」

 悪びれもせずにロヴィスは当然だろうという態度を翻さない。
 そんなロヴィスがひどく傲慢に思えてきた。

「それに、ヴァンデルを貴族の養子にしたのは、なにもカスパー王子のためだけじゃない。優秀な者はそれなりの地位にいてもらった方がいいからな。俺はカスパー王子とヴァンデルを引き合わせただけだ。それ以上のことはしていない。あいつが浮気をしたのはあいつの意思だ。俺は関係ない」

「それに、お前はもう俺のことが好きだろう?だったら、そんな瑣末なことは関係ないはずだ」
 
「……さ、瑣末だって?ふざけるなっ!」
 
「それとも何か? まだ王子のことが好きなのか? そうなのか?」
 
「そんなわけ……っ! それとこれとは話が違います!」
 
「一体何が違うんだ? 教えてくれ」

 王子なんてもう好きじゃない。
 だけどそれとこれとは全くの別問題だ。
 それがなぜわからないのか?

 全く話が通じなくて、何を言ってもこの人には響かないし、伝わらないのだとアルブレヒトは感じた。
 それでも、自分の気持ちを伝えなければ気が済まない。
 
「あなたは………自分がよければそれでいいのですか? そうやって自分の思い通りに操って……ことを運んで……人の心を踏みにじる……。そうやって手に入れたものであなたは幸せになれますか?」
 
「綺麗事だな、アルブレヒト。高位貴族というのはもっと汚い有象無象の集まりだ。自分のやりたいように物事を進めるためには、しっかりとした根回しが必要だ。俺のやり方は、有象無象たちに比べたらむしろ綺麗な方だ」
 
「僕はそんなことを平気でする人と幸せになんて、なれない……結婚なんてできない!」

 何を言ってもわかってくれない。
 そんなロヴィスに嫌気がさして、もう無理だ、そう思った瞬間に口から出てしまっていた。

 長いこと無言が続いた。
 お互いに睨み合っていたがさらにロヴィスの眉間に深い皺ができた。

「それは俺との婚約を破棄する、ということか?」
 
「そう思っていただいて構いません……!」

 この場の勢いもあったが、もう話し合いどころではなかった。
 こんな相手と一生一緒にやっていくのは無理だ。そう強く思った。

 ロヴィスはゆっくりと太い腕を組んだままアルブレヒトを睨みつける。
 
「……いいのか? 俺は今、デューラー伯爵領地の新事業の一番の支援者だ。その俺が手を引いたらどうなるか……」
 
「な……なんて卑怯な……!」
 
「今後の秋の討伐依頼を受けるかどうかだって考えねばならなくなる」
 
「っ、……最低……! あなたはそんな人じゃないと思っていたのに……。ロヴィス、……見損ないましたよ!」
 
「ふん、好きにしろ。期待を裏切るのは慣れている」

 そう吐き捨てられた。
 感情がお互いに昂りすぎて、もう冷静ではいられなかった。
 アルブレヒトは下唇を噛み締めて、両拳を握りしめた。
 爪が食い込んで血が滲むほどの力をこめていた。

 もう顔も見たくない、声も聞きたくない。
 そう思って強い瞳から思い切り目を逸らした。

 出て行こうとドアへと足を進めたが、手首を強い力で引かれて無理矢理に目線を合わさせられた。

「いっ……っ!」
 
「だが、いいのか? お前の体はもう、俺以外に満足できる体ではないぞ」
 
「なにをいって……」


 
 
「わからせてやるよ……」


 

 吸い込まれるような粒子の光の中に目線を奪われた。
 呑み込まれる、と思った時にはもう遅かった。

「や…………っんう……!」

 強引に口を開かれて口内を蹂躙された。
 逃れようと強く体を押しても、硬い筋肉に阻まれて無駄に終わる。
 久しぶりのロヴィスのキスは、強引だかアルブレヒトが待ち望んでいたものだった。
 舌でアルブレヒトの舌をすくいあげ、ぢゅくぢゅくと音をたてて啜られた。

「ん、……はンッ……んん……つ!」
 
 それだけでアルブレヒトは気持ち良くなってしまう。
 上顎を舌先でなぞられてぞくぞくと悪寒が走る。口いっぱいの唾液を送られて、飲み込めず溺れそうになる。
 息継ぎもままならないまま角度を変えて口を合わせられて、頭がほわほわとしてくる。
 いつも最初のキスだけでぐずぐずになってしまうのだ。

 寝間着の簡単な装いで来てしまって、簡単にロヴィスの手が中に差し込まれる。

「あ……やあ……ッ……んちゅ……むぅ」

 くにゅくにゅと陰嚢も合わせて揉み上げられながら、容赦なく唇を喰まれる。

 熱を持て余していた体はすぐに火照りきってしまった。

「んぁああ!……や、ふ……っあんん」

 勃ち上がったペニスを握り込まれて一定のリズムで上下に動かされる。
 足に力が入らなくて崩れ落ちそうになるのを、股の間に太いロヴィスの足が入り込んで体を支えた。

 アルブレヒトのペニスは勃ち上がり、ぴったりと薄い下衣にはりついていて形がよくわかる。

 薄い衣服が、かいた汗でベタついて肌にくっついて気持ち悪い。
 
 その上からロヴィスの手で先っぽを親指でぐりぐりとおさえつけられると、先走りが溢れかえってあたっている服の部分が濃く色づいた。

「……っ、――~ッ……ん、ん、んむぅ~!」

 尻を揉んでいた手は窄まりに指を食い込ませ始める。
 カリカリと指で刺激されるとそこからだんだんと熱を持って奥まで伝わっていく。

 それが悔しくて、悲しかった。
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