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 本当にこの男は強引なのだ。
 アルブレヒトが自分の気持ちを押し込んで、押し潰して、ふたをして見ないふりをしても無駄なのだ。
 遠慮なくアルブレヒトのふたをこじ開けて入り込んでくる。
 無理矢理開いたふたの隙間からどんどん抑えの効かない気持ちが溢れ出てきてとまらない。
 到底敵わない。

「今、ひとつ食べてもいいですか?」
 
「ああ、好きにしろ」

 不貞腐れたようにぞんざいな口調で喋るロヴィス。
 本当に可愛いとしか思えない。

 ロヴィスが腕いっぱいに抱えた一番上のブルネを手に取って、服の袖で汚れを拭いてがぶりとかぶりついた。
 こんな風に食べるのはいつぶりなのか、アルブレヒトは思い出していた。

 多分、ロヴィスとシュタルクの3人横になって座りながらあの小高い山の上で食べたぶりだろう。
 金色に染まった小麦畑を眺めながら。

 その時アルブレヒトはまだまだ子どもで、慕っていたロヴィスの後ろをずっとついて回っていたころだった。

 デューラー伯爵家領地には、魔の森の山を切り拓いて開拓した小麦畑がある。
 山々は小さく急な斜面であったため、段々にその畑を作ったのだった。
 他の同じような地形の領地が米で棚田を作り、ライステラスという名の観光地として有名になった。
 小麦畑はそれをデューラー伯爵家も真似てできたという訳だ。
 しかし、気象や土壌などに影響されて米がうまく育たなかった。
 それなら小麦はどうだということで試したところうまく行ったのだった。
 
 きっと、小麦畑もこれからデューラー伯爵家領地の観光名所として売り出していくのだろう。
 向かいの小高い山から棚田のように段に連なる小麦畑を見るのは圧巻の光景だ。
 緑色でみずみずしい麦を見るのもいいが、収穫間近の黄金に染まった小麦畑をみるのがアルブレヒトは好きだった。

 アルブレヒトはブルネの実を咀嚼しながらその時食べたブルネの味を思い出していた。
 甘くて、懐かしくて、英雄ロヴィスが自分のために取ってきてくれたブルネと思うとなんだかくすぐったい気持ちにさせられた。
 それと同時に誇らしくもあった。
 みんなから慕われる英雄が、自分にブルネを取ってきてくれて、そして肩を並べて一緒に食べるだなんでこんなに嬉しいことはなかったからだ。
 

「ふふ……おいひいれす」

 そして今。

 ロヴィスは自分のためだけに、これだけのブルネを取ってきてくれた。
 飛竜のシュタルクがブルネを取ると言って聞かなかったというのもあるかもしれないが、着飾ったロヴィスが汚れるのも構わずに取ってきてくれたのだと思うと、アルブレヒトにとってこのブルネは特別な味となった。

 今まで食べた中で一番、幸せで甘い味がした。



「アルブレヒト……お前、今どんな顔してるかわかっているのか?」
 
「え……?顔……、ですか?」

 はぁ、と大きなため息を吐き出して、ロヴィスが長い足で一歩を踏み出してこちらに向かってくる。
 足が長いので一歩踏み出してくるだけで思った以上に距離が近づく。
 一瞬でロヴィスはきょとりと小首をかしげたアルブレヒトの目の前に迫ってきた。
 長身のロヴィスを見上げたアルブレヒトだったが、ブルネが床にぼろぼろと落ちて転がっていくのに気を取られた。

 あ、とアルブレヒトは小さな声を上げて、目が落ちていくブルネを追いかける。
 その視線を掬い上げてロヴィスの端正で堀が深い顔が目の前に現れた。

「ぁ……っ」
 
 熱い熱い唇が重なり合う。
 ぬるついた舌が入ってきてアルブレヒトの舌を絡めとる。

「あ、……っ、ちゅ、ふっ……ぁん……っ」

 卑猥な水音を立てながら吸いつかれて耳まで侵され口の中が甘く痺れて動けない。
 踏ん張ろうと身体に力を入れようとしても、甘い痺れが腰を伝って力が入らなくなった。

「や……ッ、んんぅ……ッ!」

 後頭部に手が回されて固定され、仰け反る上半身がふらついても身動きが取れない。
 崩れ落ちそうになって、びくつく腰を太い腕に支えられた。
 それでも捕えられた唇が離れることはない。

「……俺に食べられたいって顔だ……」
 
「そ、……んな顔してな……んぅ……ッ!ん、ん……っ」

 アルブレヒトの抗議の声も次のキスで塞がれてしまった。
 ただ切なげな声しか出せないでいるアルブレヒト
 角度を変えて口を合わせてきて、執拗に何度も何度も吸い上げられる。身体中がびくついて仕方がなかった。

 キスをされたまま縦抱きにされて部屋の中に連れて行かれる。
 ロヴィスの大股ですぐにベッドへとたどり着いてしまった。ベッドに乗せられながらもまだキスが終わらない。

 (しかもキスがうますぎる……!)

 ロヴィスの深く執拗なまでのキスに翻弄されながらもそんなことを思った。
 英雄とまで言われたロヴィスだ。
 そっちの経験も豊富なのだろう。
 それを考えてしまったらとまらなくなり、アルブレヒトはモヤモヤとした気持ちになった。
 だが、ロヴィスはどんどんと先を進める。

 ふかふかのベッドにぐっと体重をかけてロヴィスの体がアルブレヒトにのしかかる。
 服の上から胸の突起を弄られた。

「んん……ッ!は、んッ……~~っ!」

 二本の指でつままれてこねられて、指の腹で押しつぶされた。
 と思ったら、間から大きな手が侵入してアルブレヒトの薄い腹を撫でていく。
 
 
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