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しおりを挟むコンコン、とアルブレヒトの部屋のドアがノックされた。
部屋中を忙しなく歩き回っていた足がやっと止まった。
予告通りに彼が来てしまった。
ドキドキとうるさい心臓を抑えながら、ふぅ、と息を吐き、両頬に手を添えて気を引き締めてから扉の前に移動した。
ドアノブをカチャリと回し、ドアの前に立っている人物を招き入れた。
ずっと頭の中で想像していたロヴィスの姿がそこにあった。
「ルートヴィヒ閣下」
いつもと変わらない、自信満々の顔に佇まい。
「よぉ、ちゃんと待っていたんだな。もしかしたら、逃げられてしまうんじゃないかと心配した」
挨拶もそこそこに、そんな皮肉っぽい言葉を浴びせてくる。
アルブレヒトの横を通って勝手に部屋の中まで足を踏み入れてきた。横を通った時に鼻にくる、魅惑的な香りがアルブレヒトの緊張感をさらに高めた。
彼から香る、麝香のような甘くも力強くて濃厚な香り。
一気に吸いすぎるとくらくらとしてしまうほどの強い香りだ。
どうして自分は、こんなにもこの男のことが気になってしまうのか。
この男のはかり知れない、内に秘めた魅力は一体なんなのだろうか。
考えてもアルブレヒトにはわからなかった。
ただ、単純にそこに、自分の胸を熱くする感情が灯ってしまったのだけはわかった。
こんな意地が悪くて、粗暴な男は全然自分の好みではないはずなのに。
こんなにも惹かれてしまう。
こんなにも気になってしまう。
どこからこの感情が湧き上がってきているのか、自分でも知りたいくらいだった。
焼けそうなほどの熱い視線に身を焦がしてしまいそうなのに、火傷してしまいそうなのに、もっと見つめて欲しいと願ってしまう。
自分だけをその瞳に宿していて欲しいと。
「私は……僕は、逃げも隠れもしませんよ」
「そうか?でも昔はよく俺の後ろに隠れていたがな?」
くくっと思い出しながら笑いを抑えきれないと口角を上げて笑う顔もものすごく格好良くて、アルブレヒトの胸がドギマギとした。
「……そんな小さい頃のことなど覚えておりません」
苦し紛れに、こっちも可愛くない口調で言い返す。
確かに、討伐された魔物のリンドヴルムの雁首を目の前に、恐ろしくてロヴィスの服の裾を掴んで背中に引っ付いていたこともあった。
それにロヴィスの率いる辺境軍の騎士たちは、ロヴィスと似たような雰囲気であったが、いかんせん強面だった。
厳つい顔をした背の高い筋肉の塊たちが、眉根を寄せて血まみれで近寄ってくるのは本当に怖かった。
でもそれは昔の話だ。
「どうかな? 俺を目の前にすると、逃げたそうに視線が逃げるだろう?」
「……っ! そんなこと……っ」
そう言われてしまったらさらに意識してしまい、強い眼差しに耐えられずに視線を逸らしてしまった。
腰が引けて一歩後ろに足が下がる。
逃がさない、と腰を掴まれて分厚くて大きな体に引き寄せられた。
むわりと香る、強い男の刺激的な匂いをじかに吸い込んでしまう。
頭までその媚薬にも似た香りが浸透してくるかのようだ。
頭がぼうっとする。
広いふところに抱き止められて、安心感から体を許して、明け渡してしまいそうになる。
この男を前にすると、落ち着かせていた心がざわつく。
ペースを最も簡単に乱されるのだ。
手を男と自分の間に突き出してなんとか体の密着を阻んだ。
「閣下……!近すぎます、っ離れて……」
「そうか? 俺にとっては遠すぎるが?」
すりっと腰から下に手をなぞられて、大きく丸みを帯びた部分をくにゅっと揉まれた。
「ちょっ! どこ触って……!」
アルブレヒトは突き出していた手を緩めて自分のお尻を掴んでいる不埒な手を取り除こうとした。
すると、緩めた手をすぐさま取られて、指先にちゅ、とロヴィスの唇が触れてきた。
「そんなカッカするなよ」
手を思い切り引かれて体のバランスが崩れた。
倒れる、と思ったが、ロヴィスにしっかりと手と尻を掴まれているせいでそのままロヴィスに無防備にも体を寄せる形となってしまった。
ロヴィスの顔が首元の髪に埋まる。
鼻をすん、と動かしてうなじの匂いを嗅がれてロヴィスの吐息がかかる。熱い息にゾクゾクと背筋が震えた。
「やだ! なにして……」
「これくらいいいだろ。唇にキスしたいところを我慢してやってるんだ。……それ以上も、……な」
「ん、ぁ……ッ!」
寄せられた熱い唇がアルブレヒトの耳に触れる。
耳からアルブレヒトの脳へと響き渡るロヴィスの掠れた切ない声。
耳だけでなく、顔が赤面して湯気でもでているんじゃないかってくらい熱いのがわかる。
腰に響いて、支えられて立っているのがやっとの状況だ。
ちゅぷ、と耳たぶの柔らかいところを口に含まれて遊ばれる。
「ふぁ……ッ!」
「俺のものになれ、アルブレヒト」
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