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 今日も父フランツと、ロヴィス、アルブレヒトの三人で晩餐の食卓を囲う。
 デューラー男爵家当主フランツにはもう妻はいない。
 そして、エミールも本邸からは出ていってしまっている。

 母親であるアンネは、男爵家の予備である第二子アルブレヒトを産んで早々に領地を出て行った。

 貴族社会では、第一子がその家を継ぐと決まってはいるが、予備の血族として第二子までもうける、というのが通常である。
 アンネは当時から愛人を囲っており、その人と一緒になるためにでていったのだった。
 政略結婚だったため、父のフランツはそんなことはよくあること、と気にもとめてはいなかった。
 愛のない貴族の結婚など、こんなものだとも言っていた。
 それでも血のつながった息子たちには愛情はたっぷりと注いでいたフランツだった。

 兄のエミールも、結婚後に本邸を出ていってた。
 
 エミールは、アルブレヒトが第二王子に口説かれた秋の狩猟大会でみごと玉の輿にのった。
 エミールの弓の腕に惚れ込んだ、ご令嬢からの猛烈アピールだった。
 妻となったマルガレーテの家は、商家としても有名な成り上がりの貴族であった。
 持参金はものすごい額であったし、マルガレーテ自身も商家としてのノウハウをしっかりと勉強していた。
 勤勉で、働くことが大好きな仕事人間であった。
 エミールは、妻マルガレーテと結婚後、別宅を建ててそちらに移り住んだ。
 持ってきた持参金で別邸を建て、そして新しい事業に残った持参金を投資した。
 エミールと二人で事業のあれこれにかかりきりのため、本邸にはめったにやってこない。
 夫婦仲は良好で、なかなかうまくやっているようだった。
 
 

「ロヴィス殿。先日のリンドヴルムの羽と尻尾!ありがとうございました。王都へ売ったら、かなりの金額になりましたよ。ロヴィス殿の言う通りオークションにかけたのですが、通常より何倍も高い額まで駆け上りましてね」

 ホクホクと、蒸したジャガイモのような顔をして浮かれている。
 こんな父フランツを見たことは今までなかったかもしれない。
 
「別に、あれはシュタルクのおやつだったのでね。残り物を手土産にするのもどうかと思ったのだが……。あんなものでも喜んでくれてよかったよ」
「いやいや、本当に助かります。手土産にあんな貴重な部位をポンと渡していただけるなんて、本当にお強いですなぁ」

 シュタルクの食べ残しにしては、一番貴重な羽と尻尾の部位だけをきれいに残すのはおかしい。
 わざわざロヴィスが手渡す分として分けてくれたのだ。
 
「それと、毎回来ていただいた時に落ちる、飛竜の鱗や爪もいただいておりますが、今回も本当にいただいて良いのですか?」
 
「ああ、あれはただの生え替わり時に落ちる不要のものだ。そちらでいいように処分してもらってかまわない。むしろ、ゴミを処理してもらってすまないな」

 通常であれば、そんな貴重で高価な素材を提供してくれているのだから、相当の見返りをデューラー男爵家は差し出さなければいけないわけだが。
『残り物』『不用品のゴミ』とロヴィスが、言っているように、なんの見返りも求めていない上に、恩を売る、という行為でもないと言っているのだ。
 本当にこういうところは大雑把だが太っ腹で、漢気おとこぎがあるところが、辺境伯の魅力の一つだろう。

「いえいえ、滅相もない。うちとしましては、本当に助かります。知っての通り、うちの領地の家計は火の車でしてね……。エミールとその妻のマルガレーテの新事業については、なかなかうまくいってはいるようなのですが、今は投資の時期で、時間と金を使って育てている最中。実になるのはまだまだ先のようです」
 
「ああ、その事業については、逐一報告が上がってきている」
 
「あ、そうでしたね。ロヴィス殿は投資者の筆頭でしたね」

 新事業についても知らなかったし、ロヴィスがそれに投資してるなんて知りもしなかった。
 デューラー家の領地運営がどうなっているか、アルブレヒトは把握していない。
 王室教育で勉強ばかりだったからだ。

「うちとデューラーがさらに強い結びつきで結ばれれば、家計簿の心配はなくなるだろうな」
 
「…………それは、つまり……?」
 
「…………」

 無言でロヴィスがアルブレヒトに熱い視線を送った。

 ドキリ、とアルブレヒトの心臓が震える。

 そして、それを見てフランツはアルブレヒトの顔を見た。
 アルブレヒトには父の表情から父が何を考えいるのか読み取ることはできなかった。

「今まで、十分過ぎるほど証明してきたはずだ。アルブレヒトにふさわしい男であると。貰い受けるのに、なんの障害があるのだろうか」
 
「ロヴィス殿も知っての通り、デューラー男爵家は下も下。国も違い、身分差もありますところ、親として心配になることはいたし方ないかと……」
 
「国籍や身分など、王都から離れた国境のルートヴィヒ辺境伯領には関係のないこと。他をねじ伏せる力が全てだ。そして俺は、その力を存分に持ち合わせている」
 
「そうなりますと、……すべては、アルブレヒトしだいということになりましょうか」
 
「なるほど。では、口説き落とすことができれば、俺が貰い受けるということでいいな」
 
「ええ、……私はかまいませんよ」
 
 結婚のけの一文字も出ていないというのに、二人が話していたことはロヴィスとアルブレヒトの婚姻の話なのか。
 さすがに、愛人にするのに、父親の了承を本人の目の前で得る不届者はいないだろう。

 口説き落とすって、貰い受けるって、どういうことなんだ。
 
 アルブレヒトが目の前にいるというのに、自分を抜きにして話が勝手に進んでいることに焦り、頭が混乱して、思考回路がパンクしてしまいそうだった。

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