上 下
2 / 51

1-2

しおりを挟む




 アルブレヒト・デューラーはしがない男爵家の次男だ。

 貴族の嫡男は、家を継ぎ、子孫を残すため女性と婚姻を結ぶが、嫡男以外の婚姻は同性同士の婚姻もありふれていた。
 みな二十歳までに婚約、婚姻をする。それを過ぎれば行き遅れとなり、その後の結婚は困難なものとなる。

 アルブレヒトも次男なので、結婚相手は自由だったし、アルブレヒトの容姿は美しい部類に入っていた。
 アルブレヒトの髪と目は、海がすき通り、底が見えるかのような水色で、天使のような白く柔らかい肌を持っていた。
 外を歩くたびに周りの目を引いた。
 
 けれどデューラー家は貧乏な男爵家。
 領地自体はどこの領地よりも広いのに、常に窮困していた。
 それは、魔物の出る森が領地の大半を占めているからだった。
 田畑や家畜は魔物によって荒らされ、領民が襲われることも少なくない。
 四方を広大な魔物の森に囲まれた小さな土地は、魔物たちのいい餌になっているかもしれなかった。
 
 だが、国境近い領地は、他国への牽制のため、放っておくことは王国としてはできなかった。
 なので、この旨味のない領地は、力及ばぬしがないデューラー男爵家が代々引き継いでいるのだった。
 
 こういった理由から、デューラー男爵家の次男として嫁や婿を迎えるには領地に魅力がなく、逆に嫁ごうとしても、持参金が用意できない。
 だから、いくら人目を引く美貌を持っていたとしても、アルブレヒトには婚約相手もなかなかできずにいた。
 宝の持ち腐れ、なんて声もあったりしたけれど本当にそうだと思った。
 
 対して、兄であり、嫡男のエミールは、お相手探しにアルブレヒトよりも難航するかと思ったのだが、実際はその反対だった。
 
 その王子顔負けの優しく美しい顔立ちで女性たちからの人気は高かったし、その細腕からは想像もできないほど狩猟の腕がよかったので、お相手には困らなかった。
 貴族の中では狩猟の腕というのがかなり重視されている。
 中でも、狩猟大会という貴族の中でも大きな行事で活躍することができると、その家柄や領地が振るわなくても、位も高くお金持ちのご令嬢の目にとまることができる。
 玉の輿も夢ではないのだ。

 秋ごろになると、貴族の間では狩猟大会が開かれた。
 側使えを雇うなけなしの金が残っていなかったが、持参金をたんまり用意できるお相手探しのため、狩猟大会にはどうしても出なくてはならなかった。
 兄のため、アルブレヒトは兄の側仕えとして参加した。

 そこで第二王子カスパー様に見初められたのだ。

 最初はカスパー様と本気で結婚なんて考えてもいなかった。
 むしろ、身分差がありすぎてありえない相手だと思っていた。
 だけれど、一目惚れだ、好きだと熱心に口説かれて、ほだされてしまったのだ。

「君の瞳は吸い込まれそうなほど深い水の色だね、とても美しい……」

 うっそりと近距離で見つめられて、ふわふわとした心地になった。
 優しい眼差しを向けられてドキドキとした。
 自分とは違う大きな手で頬をそっと撫でられる。あたたかい。
 そして目元に王子の指が伸びる。

「私の心はすっかり君の瞳に奪われてしまったようだよ、アルブレヒト」
 
「王子……」

 唇へと伝う熱く熱をもった指。
 触れられた部分が熱がうつったかのように熱く敏感に反応する。

 その指で顎を引かれて、ゆっくりとお互いの唇が近づいていく。
 拒否しようとしても、体が動かない。
 合わさった唇は柔らかくて、気持ちよかった。

 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

寂しい竜の懐かせ方

兎騎かなで
BL
ジルは貴重な宝石眼持ちのため、森に隠れて一人寂しく暮らしていた。ある秋の日、頭上を通りがかった竜と目があった瞬間、竜はジルを鋭い爪で抱えて巣に持ち帰ってしまう。 「いきなり何をするんだ!」 「美しい宝石眼だ。お前を私のものにする」 巣に閉じ込めて家に帰さないと言う竜にジルは反発するが、実は竜も自分と同じように、一人の生活を寂しがっていると気づく。 名前などいらないという竜に名づけると、彼の姿が人に変わった。 「絆契約が成ったのか」 心に傷を負った竜×究極の世間知らずぴゅあぴゅあ受け 四万字程度の短編です。

侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます

muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。 仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。 成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。 何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。 汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

【完結】凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕

みやこ嬢
BL
2023/01/27 完結!全117話 【強面の凄腕冒険者×心に傷を抱えた支援役】 孤児院出身のライルは田舎町オクトの冒険者ギルドで下働きをしている20歳の青年。過去に冒険者から騙されたり酷い目に遭わされた経験があり、本来の仕事である支援役[サポーター]業から遠退いていた。 しかし、とある理由から支援を必要とする冒険者を紹介され、久々にパーティーを組むことに。 その冒険者ゼルドは顔に目立つ傷があり、大柄で無口なため周りから恐れられていた。ライルも最初のうちは怯えていたが、強面の外見に似合わず優しくて礼儀正しい彼に次第に打ち解けていった。 組んで何度目かのダンジョン探索中、身を呈してライルを守った際にゼルドの鎧が破損。代わりに発見した鎧を装備したら脱げなくなってしまう。責任を感じたライルは、彼が少しでも快適に過ごせるよう今まで以上に世話を焼くように。 失敗続きにも関わらず対等な仲間として扱われていくうちに、ライルの心の傷が癒やされていく。 鎧を外すためのアイテムを探しながら、少しずつ距離を縮めていく冒険者二人の物語。 ★・★・★・★・★・★・★・★ 無自覚&両片想い状態でイチャイチャしている様子をお楽しみください。 感想ありましたら是非お寄せください。作者が喜びます♡

大魔法使いに生まれ変わったので森に引きこもります

かとらり。
BL
 前世でやっていたRPGの中ボスの大魔法使いに生まれ変わった僕。  勇者に倒されるのは嫌なので、大人しくアイテムを渡して帰ってもらい、塔に引きこもってセカンドライフを楽しむことにした。  風の噂で勇者が魔王を倒したことを聞いて安心していたら、森の中に小さな男の子が転がり込んでくる。  どうやらその子どもは勇者の子供らしく…

処理中です...