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よく知りもしない俺なんかを自分の家に住まわせて、仕事までくれるっていうんだ。しかもこんな上等な部屋まで用意してくれている。案内してくれた使ってない他の部屋は、少し埃が被っていて掃除が行き届いていなかった。
俺の部屋は掃除がしっかりとされていて、新しいシーツや布団が用意されて、セットもされていた。ラッセルがわざわざ買って、シーツなどを敷いてくれたのだろう。
タイセーは常にニカニカと笑いながら、ラッセルを先頭に家の中を案内され、「すっげー!」と目をきらめかせて笑っていた。無邪気なこいつが羨ましい。
先祖返りでヘビ獣人だから何だって言うんだ。めちゃくちゃいい奴じゃないか。そんな外側だけ見て怖がってちゃいけない。タイセーともすごく親しそうだったし、あいつがいい奴だって言うんだからもっと信用してもいいはずだ。
そうは思っても、心が落ち着いてくれない。ラッセルを見ていると、その存在を感じるだけで、何だか今までに感じたことのない気持ちにさせられる。心が乱されるというのだろうか。最初感じた恐怖心かと思いきやそうでもない。この湧き上がる感情は一体何なのだろう。
俺は今まで見たこともない素晴らしい設備やなんやらを案内してくれてるにも関わらず、一番目の前を歩く大蛇……ラッセルの動きが気になって仕方がなかった。
しかも先祖返りの獣人ってことはつまり……。
――そうだよな……?
先祖返りであれば、ほぼ99.99%の確率でアルファだ。先祖返りとはまさに強い獣人の遺伝子を持つ者。強い遺伝子ということは、必然的にアルファの遺伝子をも持つということに他ならない。
もしかしたら、タイセーがこんなに気楽にいられるのもベータであるからかもしれない。オメガである自分が、アルファの威圧感みたいなのを感じ取っているのかも。
いやでも、それを踏まえたとしても、今までアルファにも肉食系獣人にも会ったことはあるが、こんなにも長く怯えを感じたことはない。
初対面で圧倒されても、すぐに慣れていたし。
やっぱ先祖返りってことで普通のアルファとは違うのかもしれないな。
でも俺ってオメガとしては不完全だし、他のオメガやベータでも普通に感じることのできるアルファのフェロモンなんかはあまり感じることが出来ないよな。
うんうん唸りながらそんなことを考えていた。
「おい、イチロ!ここがリビングだってよ。ひっろいしきれいだなー」
「はぇ?」
ラッセルの威圧感にも慣れてきて俺は自分の思考にどっぷりとハマり始めていたみたいだ。声をかけられても気づかず、バシッと背中を叩かれてやっと気づいた。
ふと視線を感じて見上げるとラッセルの猫目がじっとこちらを見ていた。
「っひぃ!」
「!……すまない。怖がらせる気はなかったんだ」
いきなりのことで心の準備が出来ていなかった俺は、我慢できずに小さくもない悲鳴をあげてしまった。ラッセルはすぐに俺から視線を外した。表情は変わらないが、存在感のある大きな巨体は今はしゅんと縮こまったようだし、尻尾も元気なくしおしおとしてとぐろを巻いている。
そんな姿を垣間見て先ほどの自分のしでかした行動がとんでもなく無礼なものだったと実感した。ラッセルに対する罪悪感が湧き出てくる。
なんて失礼な奴なんだろうか俺は。親切にも仕事だけでなく住む場所も提供してくれるタイセーの仕事仲間であり友達なのに。
中々いない先祖返りのその姿。きっと今まで必要以上に怖がられたり、忌避されたりもあっただろう。
「ご、ごめんなさい、俺……そんなつもりじゃ……っ」
「もし、住み込みのこの仕事が嫌だったら断ってくれて構わない。次の仕事と住む所が決まるまでしばらくいてくれていいから」
そう言い残してくるりと踵を返してしまった。
「えっ、ラッセル!どこに……」
「自分の部屋に戻るよ、2人はゆっくりしていってくれ」
「ラッセル!」
ずりずりと尻尾を引きずりながら、肩を落としたように歩いていく後ろ姿に大きく声をかけてももう振り返ってはくれなかった。
「あーあー、あれは完全に傷つけたな」
「っ……、お、俺追いかけて謝ってくるっ」
「おー。いってこい。俺はリビングでテレビでも見てるからさー」
俺の部屋は掃除がしっかりとされていて、新しいシーツや布団が用意されて、セットもされていた。ラッセルがわざわざ買って、シーツなどを敷いてくれたのだろう。
タイセーは常にニカニカと笑いながら、ラッセルを先頭に家の中を案内され、「すっげー!」と目をきらめかせて笑っていた。無邪気なこいつが羨ましい。
先祖返りでヘビ獣人だから何だって言うんだ。めちゃくちゃいい奴じゃないか。そんな外側だけ見て怖がってちゃいけない。タイセーともすごく親しそうだったし、あいつがいい奴だって言うんだからもっと信用してもいいはずだ。
そうは思っても、心が落ち着いてくれない。ラッセルを見ていると、その存在を感じるだけで、何だか今までに感じたことのない気持ちにさせられる。心が乱されるというのだろうか。最初感じた恐怖心かと思いきやそうでもない。この湧き上がる感情は一体何なのだろう。
俺は今まで見たこともない素晴らしい設備やなんやらを案内してくれてるにも関わらず、一番目の前を歩く大蛇……ラッセルの動きが気になって仕方がなかった。
しかも先祖返りの獣人ってことはつまり……。
――そうだよな……?
先祖返りであれば、ほぼ99.99%の確率でアルファだ。先祖返りとはまさに強い獣人の遺伝子を持つ者。強い遺伝子ということは、必然的にアルファの遺伝子をも持つということに他ならない。
もしかしたら、タイセーがこんなに気楽にいられるのもベータであるからかもしれない。オメガである自分が、アルファの威圧感みたいなのを感じ取っているのかも。
いやでも、それを踏まえたとしても、今までアルファにも肉食系獣人にも会ったことはあるが、こんなにも長く怯えを感じたことはない。
初対面で圧倒されても、すぐに慣れていたし。
やっぱ先祖返りってことで普通のアルファとは違うのかもしれないな。
でも俺ってオメガとしては不完全だし、他のオメガやベータでも普通に感じることのできるアルファのフェロモンなんかはあまり感じることが出来ないよな。
うんうん唸りながらそんなことを考えていた。
「おい、イチロ!ここがリビングだってよ。ひっろいしきれいだなー」
「はぇ?」
ラッセルの威圧感にも慣れてきて俺は自分の思考にどっぷりとハマり始めていたみたいだ。声をかけられても気づかず、バシッと背中を叩かれてやっと気づいた。
ふと視線を感じて見上げるとラッセルの猫目がじっとこちらを見ていた。
「っひぃ!」
「!……すまない。怖がらせる気はなかったんだ」
いきなりのことで心の準備が出来ていなかった俺は、我慢できずに小さくもない悲鳴をあげてしまった。ラッセルはすぐに俺から視線を外した。表情は変わらないが、存在感のある大きな巨体は今はしゅんと縮こまったようだし、尻尾も元気なくしおしおとしてとぐろを巻いている。
そんな姿を垣間見て先ほどの自分のしでかした行動がとんでもなく無礼なものだったと実感した。ラッセルに対する罪悪感が湧き出てくる。
なんて失礼な奴なんだろうか俺は。親切にも仕事だけでなく住む場所も提供してくれるタイセーの仕事仲間であり友達なのに。
中々いない先祖返りのその姿。きっと今まで必要以上に怖がられたり、忌避されたりもあっただろう。
「ご、ごめんなさい、俺……そんなつもりじゃ……っ」
「もし、住み込みのこの仕事が嫌だったら断ってくれて構わない。次の仕事と住む所が決まるまでしばらくいてくれていいから」
そう言い残してくるりと踵を返してしまった。
「えっ、ラッセル!どこに……」
「自分の部屋に戻るよ、2人はゆっくりしていってくれ」
「ラッセル!」
ずりずりと尻尾を引きずりながら、肩を落としたように歩いていく後ろ姿に大きく声をかけてももう振り返ってはくれなかった。
「あーあー、あれは完全に傷つけたな」
「っ……、お、俺追いかけて謝ってくるっ」
「おー。いってこい。俺はリビングでテレビでも見てるからさー」
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