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本編
32-走って
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思い切り走ると、汗が噴き出てきた。
スーツがよれよれになって足がもつれても前に進んだ。
目の前の2人はカラーのお店から出て、ホテルへ向かっている。
俺と蓮がプレイで利用していた、蓮のホテルだ。
もうホテルへ2人で入っていく直前だった。
「蓮っ……!!」
俺は力の限り叫んだ。
すると後ろ姿が俺の方に振り返る。
「ヒカル……?」
そこには蓮の驚きと戸惑いの感情が顔に映っていた。
「ヒカル、どうしてここにいるんだ」
俺は汗を拭いながら、はあ、はあ、っと息を吐いた。
「蓮……っ行くな……」
息が乱れながらも、2人の目の前まで大股で歩み寄り、蓮の腕をぐいっと引っ張る。
蓮を俺の後ろに引っ張って、蓮の隣にいた美女と距離を取らせる。
女性は驚いた顔も美しくて、俺の心臓はズキリと痛い。
こんな美女と俺じゃ、比べるまでもなく俺なんかがかないっこない。
だけど、それで諦めがつくほど俺の中の蓮への気持ちは軽いものじゃない。
いまさらそのことに気がついたんだ。
相手の女性を睨みつけたくて、顔の眉間に力を入れたのに、うまくいかなかった。
変な顔になって、涙をこらえることしかできない。
「こいつは、……蓮は俺のだ……っ。俺のだから、あんたには渡せない」
だから取らないでくれ。
もう遅いかもしれない。
だけど、俺には蓮しかいないんだ。
美女は驚いた顔をしていた。
だが、しだいににっこりと素敵な笑顔になる。
「え?」
俺は、予想もしていなかった彼女の反応に、びっくりして、ぽけっとした顔をしてしまった。
間抜けにも疑問符しか口に出すことはできなかった。
「蓮、この子はあなたのSubかしら?」
声も高貴な感じで、ぷっくりと真っ赤な口からは穏やかで滑らかな音色を奏でた。
「いや、……ヒカルは……」
俺の後ろにいた蓮の口からはそれだけが聞き取れた。
「また昔みたいにいらないって捨てられてしまうかも、なんて泣き言を言っていたくせに。この子はあなたを取られたくないみたいだけれど?」
「え……? 捨てられ……?」
ってどういうことだ?
捨てられるのは俺の方じゃ……?
俺は困惑して背後にいる蓮を振り返って見上げた。
俺は目を見張る。
蓮の顔が、尋常じゃないくらい真っ赤に染め上がっていたからだ。
何に対してもあまり興味がなさそうで、表情があまり顔にでない普段の蓮とは、全く違っていた。
蓮は顔に手を当てて、うつむきながら顔中を真っ赤にしていた。湯気が吹き出しそうなくらい。
恥ずかしそうに俺から目線をそらす。
「は……? れ、ん……?」
女性の反応と同じくらい、蓮の反応も俺には全く予想外だった。
「ヒカル……俺を見るなよ」
「見るなって、お前……」
だんだん蓮の赤いのが俺にもうつって、俺も赤面してしまった。
しばらくの間、2人して固まったままだった。
そこに、美女のため息が聞こえてきた。
「はぁ、まったく。2人して顔真っ赤にして黙っちゃって。……ちゃんと話し合いなさいね」
「……」
蓮は無言で、まだ手で口を覆っていた。
少しだけ赤らんだ顔は落ち着いてきていたが、まだまだ赤い。余裕のない表情だった。
「蓮のSubの、ヒカルくん……だったかしら?」
「は、……い」
俺は、美女が俺の名を知ってるとは思わなくてドギマギとしたのと、まだ状況が掴めずに困惑したままだった。
美女を近くでよく見ると、どこかで見たことのある顔立ちだ。
「ふふ、かわいいわねぇ。蓮なんかやめて、私のSubになる?」
ふふふ、と不思議な雰囲気を醸し出しながら笑う目尻が誰かにそっくりだ。
私のSubに、ってことはこの美人はDom……?
「姉さん! やめてください、ヒカルは俺のなんですから」
背後からぐいっとお腹に蓮の腕が回ってきて、片腕を取られた。蓮の体が俺の背中に密着する。
蓮の言ってくれたことの意味がわかった瞬間、ぶわっと俺の顔に熱が集まった。
そして同時に、衝撃の事実にも仰天した。
「お、お姉さん……!?」
どこかで見たことあると思ったら!
所々、顔のパーツは蓮に似ているけど、少しずつ違うから、すぐには気づかなかった。
蓮のお姉さんは、蓮よりはキツめの、きりっとした眉毛にくっきりとした輪郭、凛とした佇まいで品格を見せていた。
「あら、残念」
「それに、姉さんにはもう、そのカラーを渡すパートナーがいるでしょう」
さっきカラーのお店に2人で入っていたのは、蓮のsubに買うためじゃなかったんだ。
俺は肩の力が抜けた。
「うふふ。冗談も通じないんだから。もう少し余裕のあるところを見せないと、本当に逃げられちゃうわよ」
「っ……!」
図星をつかれたように蓮は黙ってしまった。
そしてぎゅ、とお腹に回った腕に力が込められる。
俺は、蓮の腕に自分の手を添えた。
どこにも逃げない、という意味を込めて。
「今日は帰ることにするわ。ヒカルくん、また会いましょう。今度は一条家の本宅でお会いできるかしらね」
蓮のお姉さんは、ヒールの高いパンプスをコツコツさせて、モデルのように颯爽と行ってしまった。
残された俺たちには、少し気まずい空気が流れた。
「ここじゃ落ち着いて話もできない。とりあえず、いつもの部屋に行こう」
蓮が俺を誘ってくれた。
「嫌だ」
ビクリ、と蓮の肩が止まる。
動揺で瞳も揺れていた。
拒否されたことの戸惑いが見て取れる。
「蓮の家に行きたい」
「ヒカル、それは……」
断られそうになって、俺は蓮の腕にすがった。
「連れてって」
「それは、まずいだろ」
「なんで」
「……連れて行ったら、もう手放せなくなる」
「手放すなよ」
手放して欲しくなんかない。
ずっと抱きしめて、離さないで欲しい。
「……意味、わかっていってるのか?」
「わかってる……」
「本当に?」
蓮は心配なのか、何度も確認してくる。
蓮の不安を解消してやりたい。
「蓮、俺は……お前が好きなんだ」
高校の時の告白とは違う。
今度は、ちゃんとわかってる。
俺は蓮のことが好きなんだって。
「蓮と、パートナーになりたい」
「ほんとにか?」
「ほんとだってば」
「っ、……家に連れ帰ったらもう、帰せないからな」
「うん……連れて行って」
蓮は俺の体を真正面にぐいっと引き込んで、熱いキスをした。
俺も夢中で蓮のキスに答えた。
スーツがよれよれになって足がもつれても前に進んだ。
目の前の2人はカラーのお店から出て、ホテルへ向かっている。
俺と蓮がプレイで利用していた、蓮のホテルだ。
もうホテルへ2人で入っていく直前だった。
「蓮っ……!!」
俺は力の限り叫んだ。
すると後ろ姿が俺の方に振り返る。
「ヒカル……?」
そこには蓮の驚きと戸惑いの感情が顔に映っていた。
「ヒカル、どうしてここにいるんだ」
俺は汗を拭いながら、はあ、はあ、っと息を吐いた。
「蓮……っ行くな……」
息が乱れながらも、2人の目の前まで大股で歩み寄り、蓮の腕をぐいっと引っ張る。
蓮を俺の後ろに引っ張って、蓮の隣にいた美女と距離を取らせる。
女性は驚いた顔も美しくて、俺の心臓はズキリと痛い。
こんな美女と俺じゃ、比べるまでもなく俺なんかがかないっこない。
だけど、それで諦めがつくほど俺の中の蓮への気持ちは軽いものじゃない。
いまさらそのことに気がついたんだ。
相手の女性を睨みつけたくて、顔の眉間に力を入れたのに、うまくいかなかった。
変な顔になって、涙をこらえることしかできない。
「こいつは、……蓮は俺のだ……っ。俺のだから、あんたには渡せない」
だから取らないでくれ。
もう遅いかもしれない。
だけど、俺には蓮しかいないんだ。
美女は驚いた顔をしていた。
だが、しだいににっこりと素敵な笑顔になる。
「え?」
俺は、予想もしていなかった彼女の反応に、びっくりして、ぽけっとした顔をしてしまった。
間抜けにも疑問符しか口に出すことはできなかった。
「蓮、この子はあなたのSubかしら?」
声も高貴な感じで、ぷっくりと真っ赤な口からは穏やかで滑らかな音色を奏でた。
「いや、……ヒカルは……」
俺の後ろにいた蓮の口からはそれだけが聞き取れた。
「また昔みたいにいらないって捨てられてしまうかも、なんて泣き言を言っていたくせに。この子はあなたを取られたくないみたいだけれど?」
「え……? 捨てられ……?」
ってどういうことだ?
捨てられるのは俺の方じゃ……?
俺は困惑して背後にいる蓮を振り返って見上げた。
俺は目を見張る。
蓮の顔が、尋常じゃないくらい真っ赤に染め上がっていたからだ。
何に対してもあまり興味がなさそうで、表情があまり顔にでない普段の蓮とは、全く違っていた。
蓮は顔に手を当てて、うつむきながら顔中を真っ赤にしていた。湯気が吹き出しそうなくらい。
恥ずかしそうに俺から目線をそらす。
「は……? れ、ん……?」
女性の反応と同じくらい、蓮の反応も俺には全く予想外だった。
「ヒカル……俺を見るなよ」
「見るなって、お前……」
だんだん蓮の赤いのが俺にもうつって、俺も赤面してしまった。
しばらくの間、2人して固まったままだった。
そこに、美女のため息が聞こえてきた。
「はぁ、まったく。2人して顔真っ赤にして黙っちゃって。……ちゃんと話し合いなさいね」
「……」
蓮は無言で、まだ手で口を覆っていた。
少しだけ赤らんだ顔は落ち着いてきていたが、まだまだ赤い。余裕のない表情だった。
「蓮のSubの、ヒカルくん……だったかしら?」
「は、……い」
俺は、美女が俺の名を知ってるとは思わなくてドギマギとしたのと、まだ状況が掴めずに困惑したままだった。
美女を近くでよく見ると、どこかで見たことのある顔立ちだ。
「ふふ、かわいいわねぇ。蓮なんかやめて、私のSubになる?」
ふふふ、と不思議な雰囲気を醸し出しながら笑う目尻が誰かにそっくりだ。
私のSubに、ってことはこの美人はDom……?
「姉さん! やめてください、ヒカルは俺のなんですから」
背後からぐいっとお腹に蓮の腕が回ってきて、片腕を取られた。蓮の体が俺の背中に密着する。
蓮の言ってくれたことの意味がわかった瞬間、ぶわっと俺の顔に熱が集まった。
そして同時に、衝撃の事実にも仰天した。
「お、お姉さん……!?」
どこかで見たことあると思ったら!
所々、顔のパーツは蓮に似ているけど、少しずつ違うから、すぐには気づかなかった。
蓮のお姉さんは、蓮よりはキツめの、きりっとした眉毛にくっきりとした輪郭、凛とした佇まいで品格を見せていた。
「あら、残念」
「それに、姉さんにはもう、そのカラーを渡すパートナーがいるでしょう」
さっきカラーのお店に2人で入っていたのは、蓮のsubに買うためじゃなかったんだ。
俺は肩の力が抜けた。
「うふふ。冗談も通じないんだから。もう少し余裕のあるところを見せないと、本当に逃げられちゃうわよ」
「っ……!」
図星をつかれたように蓮は黙ってしまった。
そしてぎゅ、とお腹に回った腕に力が込められる。
俺は、蓮の腕に自分の手を添えた。
どこにも逃げない、という意味を込めて。
「今日は帰ることにするわ。ヒカルくん、また会いましょう。今度は一条家の本宅でお会いできるかしらね」
蓮のお姉さんは、ヒールの高いパンプスをコツコツさせて、モデルのように颯爽と行ってしまった。
残された俺たちには、少し気まずい空気が流れた。
「ここじゃ落ち着いて話もできない。とりあえず、いつもの部屋に行こう」
蓮が俺を誘ってくれた。
「嫌だ」
ビクリ、と蓮の肩が止まる。
動揺で瞳も揺れていた。
拒否されたことの戸惑いが見て取れる。
「蓮の家に行きたい」
「ヒカル、それは……」
断られそうになって、俺は蓮の腕にすがった。
「連れてって」
「それは、まずいだろ」
「なんで」
「……連れて行ったら、もう手放せなくなる」
「手放すなよ」
手放して欲しくなんかない。
ずっと抱きしめて、離さないで欲しい。
「……意味、わかっていってるのか?」
「わかってる……」
「本当に?」
蓮は心配なのか、何度も確認してくる。
蓮の不安を解消してやりたい。
「蓮、俺は……お前が好きなんだ」
高校の時の告白とは違う。
今度は、ちゃんとわかってる。
俺は蓮のことが好きなんだって。
「蓮と、パートナーになりたい」
「ほんとにか?」
「ほんとだってば」
「っ、……家に連れ帰ったらもう、帰せないからな」
「うん……連れて行って」
蓮は俺の体を真正面にぐいっと引き込んで、熱いキスをした。
俺も夢中で蓮のキスに答えた。
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