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本編
21-順調に
しおりを挟む蓮と擬似パートナーになって5日。
蓮とプレイすると、次の日の体調がすこぶるいい。
いままでなんだったんだってくらい違う。薬でなんとか欲求を抑え込んで、俺の体はいっぱいいっぱいだったということがわかってしまった。
残業も日に日に少なくなり、毎日、蓮の待つホテルへと通う日々。
遅くなりすぎる日は泊まったりもする。
俺なんかが歩いてもいいのか、ってくらいピカピカなフロアにびくびくしながら上を歩いていた頃が懐かしい。
慣れって怖いな。
お互い髪乾かすのはもう恒例となっていた。
健康的な体に近づいている証拠なのか、俺の髪に艶が出てきた気がする。
蓮が忙しい日は、パソコンを開いてオンラインミーティングなんかをやっていることもあった。
その間、俺は部屋で大人しくして待っていた。
仕事をしている時の蓮は、社長って雰囲気がもろに出ていた。部下に命令し慣れている感じ。そんな蓮もかっこいいことに違いはない。
けど、俺といる時にだけ見せる、柔らかな視線や満面の笑顔を見ると、それは俺だけに特別なんじゃないかって思ってしまう。
そんなのは俺の勘違いだけど。
「オンラインミーティングはもう終わり?」
パタリ、とパソコンを閉じていた蓮に話しかけた。
「ああ、すまないな」
「謝るなよ。俺だって残業続きで遅い日もあるし」
社長、なんて言ってどうせ座って決裁印を押してるだけの楽な仕事かと思っていた。
そうでないことは、この5日間一緒に過ごしていればすぐにわかった。
俺とのプレイ時間を取るために、どれだけ仕事を調整してくれているのかも。
蓮の顔はちょっとだけ疲れた顔をしていた。
俺も蓮のために何かしてやりたい。
でも何をすればいいのかわからない。
どうしたら、蓮は喜ぶのだろう。
このままプレイするながれになる前に、蓮に尋ねる。
「蓮、お前、俺にしてほしいこととかないのかよ」
「どうしたんだ急に」
「いや、だって、いつも仕事とか調整してもらってるだろ」
「別に大したことじゃない」
「大したことあるだろ。俺は感謝してるんだ。蓮のおかげで、不安症の症状も軽くなったし」
「俺はお前の体調が回復してくれればそれでいい」
「……そっか」
「けど、今のプレイに慣れてきたのなら、もしかしたら反動が来るもしれない」
「反動……? ってなんだよ?」
「sub不安症の症状が前よりひどくなることだ。欲求が強く出てしまい、体に異常がみられることらしい」
「そんな反動なんて特にないし、俺は今のままで十分に満たされてるけど……」
「それは今だけだ。今まで欲求を抑え込んでだ分、反動が来る時がある。ってあいつが言ってた」
あいつ、というのは蓮とは知り合いと言っていたあのヤブ医者だろう。俺のかかりつけ医。
「そういえば、2人はどう言う知り合いなわけ?」
「俺たちはいとこなんだ」
えっ、そうなんだ。全然似てないからわかんなかった。
いとこだがギブアンドテイクな関係らしい。
体の調子が悪い時に診てもらったり。ホテルの予約や医療機関の会議なんかがある時に会場を手配してやったり。お互いに必要な時に利用し合う関係だということだった。
「その反動、ってやつがもし来たらどうしたらいいんだよ」
「もう少し進んだプレイをすれば、欲求は解消される、今のプレイは初歩の初歩だからな」
「もう少し進んだプレイって……」
「知りたいか?」
「えっ」
「どんなプレイをするのか……」
ソファに座った蓮の足の間に俺は立ち、片手を蓮に握られた。蓮の指が俺の指に絡まってきて繋がれる。俺よりも長い指、大きな手。じんわりと温かさが伝わってきた。
「ヒカル、お前がいいなら、ちゃんとプレイをしてみるか?」
ドキドキと期待感に、胸が鳴り始めた。
どんなことをされるんだろう。
蓮を満足させることができるかもしれない。
もっと褒めてもらえるかも。
でも同時に不安もつのる。
蓮の期待に俺が応えられなかった時は……。
「俺……」
やっぱり怖い。
一歩が踏み出せそうもない。
「無理強いはしない。だから、もし、ヒカルの準備ができたら教えてくれ」
「う……ん、……わかった」
「それに、体調にも変化が出たら必ず隠さず言うんだぞ?」
こくり、と頷いた。
「『わかった』な?」
「うん……」
コマンドで念を押されて、やっと俺は返事をした。
「『いい子』だ」
よしよしと頭を撫でられると、くすぐったい。
蓮は、俺のこと気持ち悪いって思わないのかな。
こんな男が、頭よしよしされて気持ちよくなってるのを見て。
蓮の顔を盗み見た。……つもりだった。
ばっちり目が合って、ふっと笑われた。
「かわいいな」
蓮は俺の目を見たままぽつりと呟く。
思わず漏れてしまった、という感じの呟きだった。
「はあっ?!!」
こんなかわいげのカケラもない、もろ男を目の前に、「かわいい」ってなんだよ?!
意味がわかんない。
まだ目の隈だって残ってるし、貧弱だし、そんな見目がいいわけでもないのに。
どこをどう見てかわいいなんて言ってんだ?
俺は顔がカアァッと赤くなった。突然そんなことを言われたら誰でもびっくりするだろ。
俺は顔を手で隠してぷいっと横を見た。
けど、蓮はそれを許してくれない。
「なんで顔をそらすんだ?『Look』」
なんでここにきてLookなんだよっ。
恥ずかしいだろうがっ!
それでもコマンドを言われたから、俺は顔に手を当てながらも顔を蓮に戻した。
蓮の顔はによによしてて緩みっぱなしだ。
「かわいい」
またかわいいと言われて、胸がキュンキュンし出した。
俺はどうしちゃったんだろう。
Sub不安症の反動が今きてるのかも。
ドキドキが止まらなくなった。
「ヒカル、『Kiss』」
「っ!」
こんな状態でキスなんかできるか……っ!
それでも俺の体は動いた。
蓮の肩に手を置き、ゆっくりと唇をあてる。
いつも蓮からはいい匂いがする。
落ち着くし、ずっと嗅いでいたいいい匂いだ。
落ち着くと言っても胸の動悸はまだしてるけど。
「ヒカル、勃ってる」
「え……っ」
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