御曹司な元カレの甘ったるいコマンドなんて受けたくないっ!

ノルジャン

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本編

20-職場

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次の日、出勤したらみんなに声かけられた。

「七瀬くん、もう大丈夫なの?」

普段声をかけてこない同期の女子にも話しかけられる。

「ああ、大丈夫」
「無理しないようにね」
「ありがとう」

心配させないようになるべく明るく声を出したけど、苦笑いになって失敗した。

「七瀬、仕事を抱えすぎるなよ。周りに頼ることも大切だぞ」

パワハラ上司からはあまり役に立たないアドバイスをもらった。
そんな風に言うんだったらあんたが肩代わりしてくれんのか?
その周りはあんたと違ってみんな仕事を抱えてんだよ、と言い返したかった。

「すみません、次からはそうします。ご迷惑をおかけしました」

無難な返答をして、昨日迷惑をかけた謝罪をした。

「無理せず、体調が悪くなったら遠慮なく帰るんだぞ。体調管理もしっかりできるのが社会人だ」
「はい」
「お前の仕事は同期の佐々木に任せておいたからな」
「わかりました。後で謝っておきます」

こうしてあまり仲良くもない同僚たちから声をかけてもらったりして、一日が始まった。

俺、こういうの本当に苦手だ。

倒れたことを認知されているのも嫌だし、無理しているって思われるのも嫌だ。
実際、無理してるから倒れてるんだけどな。

同期の佐々木みたいに、もっとスマートにこなしてかわせれたらよかったんだけど。

自分の席に座る前にさかのデスクに向かう。

「佐々木、昨日は迷惑かけて悪かったな。俺の分の仕事もやってもらっちゃって」
「いや、そもそも俺が仕事を回しすぎたせいだよな。俺の方こそ悪かった。けど、お前もう出勤して大丈夫なのかよ?」
「ああ、もう……大丈夫」
「てか、七瀬って、Subだったんだな。体調悪いのに、ほんとごめん。倒れるまで気づかなくて悪かったよ」
「いや……俺がちゃんと管理できてなかったのが悪いから」

ダイナミクスは会社に公表していなかった。
倒れたことで、みんなにバレてしまった。
こうやって周りから気を遣われると、自分が頼りない人間だと言われてるみたいでやりきれない。

頑張りを認めてもらいたかったのに、逆に心配されてしまうなんて。

「ま、昨日より顔色は良さそうで安心した」

蓮のおかげで、溜まっていた欲望が満たされたおかげだ。
Sub性は、やっぱりプレイすることでしか満たされないんだ、と自覚させられる。
今まで薬を飲んで頑張ってきた俺はなんだったんだろう、って思うくらい簡単に体は回復した。

「しかもさ、お前のパートナーってめっちゃ怖いな」
「え、……なんか言われた?」

怖いと言われて、蓮が同期の佐々木になにかしたのかと心配になった。
佐々木には、倒れて介抱までしてもらった上に、仕事まで全部肩代わりしてもらったのだ。
これ以上、なにか迷惑をかけてはいけないと思った。

「いや、電話越しに話しただけだけど、タイミングが悪かったのか、イライラしてたみたいだったからさ。でも事情を説明したらすごく丁寧になったけど」

蓮は昔から口調は冷たい感じではあったし、電話越しだとさらにそう聞こえたのかもしれない。

「それに、お前のことがすっごい大事なんだろうな。いいなぁ、あんなに大切にしてくれるパートナーがいて」
「別に、そんなんじゃ……」

俺は俯いた。

蓮とはパートナーですらない。

「DomとSubの関係ってなんかいいよなぁ。お互いを大切に扱っててさ。俺、Normalだから憧れる」

良いわけないだろ。
よく知りもしないからそんなことが言えるんだ。
Domはただ、Subを支配できればそれで満足なんだ。
大切にされているわけじゃない。

「ま、無理せずにな。体調悪かったら言えよ」
「あ、ああ。ありがとう」

蓮と俺の間には関係性なんてない。
ただの利害関係の一致でプレイをするだけ。
それだけだ。

俺は自分のデスクに戻った。荷物を置いて、パソコンを立ち上げて、椅子に座る。
デスクに積み上げられた、昨日よりもかなり減った書類の山を見つめた。
そして佐々木の方を見ると、そいつのデスクには俺の分の仕事と思われる書類の山が積まれていた。
俺は仕事を押し付けてしまった罪悪感に襲われた。

今日は自分の仕事を全部終わらせて同期を手伝わないとな。

そうして仕事にとりかかり始めたんだけど……。

え、待って、めちゃくちゃはかどるのだが……?!

頭がクリアになってて、体も軽いし、視界もぼやけない。
いつも以上に書類の減るペースが尋常じゃなく早い。
仕事効率が今まで一番いい。

Sub不安症って、こんなにも体に悪い影響を与えていたんだ。
今日は本気で帰れなくなるくらいの残業になるかと思っていたのに。
流石に定時には終わらなかったけど、思っていたより早くノルマが終わった。

「おい、書類手伝うよ」

佐々木に声をかけた。

「お前昨日倒れただろ、無理せず帰れよ」
「体調はもう大丈夫だって」
「いいから、今日は帰っておけって」

黙って書類を奪って行こうとしたのを止められて、手でしっしっと帰れと言われた。

俺は今日のところは諦めて帰ることにした。

「わかったよ。悪いな」
「いいってことよ」

佐々木は、こちらを見もせずにひらひらと頭の上で俺に手を振った。






帰り支度を済ませ、蓮の待つホテルの部屋に日が変わる前に到着できた。

部屋に入ると、蓮が1人バスローブのまま、ソファでワインを片手に持っていた。

ものすごく絵になる。
雑誌の広告に出ているモデルかと思うほどだ。

蓮の顔には哀愁が漂っていた。けど、俺の姿を見つけると、萎れていた花がぱっと咲き誇ったかのような錯覚を見せるほどの笑顔が咲いた。

「悪い、遅くなって。寝ててもよかったのに」

俺はちゃんと遅れることを事前に連絡していた。

「今ちょうど風呂からでたところだったんだ。気にするな」
「ちゃんと髪乾かせよな。お前こそ風邪引いて倒れるぞ」

俺はソファにかけてあったタオルで蓮の濡れた髪の毛を拭いた。

すると、触れた蓮の体はもうすでに冷え切っていた。

ーーちょうど風呂からでたなんて、蓮の嘘つき。

「ほら、こっちこいよ。髪、乾かしてやるから」
「なんだ、ヒカル。今日は優しいな」
「俺はいつもやさしーよ!」

皮肉を言ってくる蓮にそう返事して、俺は蓮の濡れて冷たくなった柔らかい黒髪を乾かしてやった。

「気持ちがいいな……」

ふにゃ、といつもじゃ考えられないくらいに蓮の口元が緩んでいた。

仕事が出来るいい男!の口元じゃなくなって、完全にオフモードだ。
こんな無防備な様子を見せているのは、俺に少なからず気を許してくれているのかな。
そう思うときゅ、と心が締め付けられる。

「ヒカル、お前もシャワー浴びてこい」
「え?」
「もうこんな時間だから、今日は一緒に泊まっていけ」
「いや、それは……」
「明日は職場の近くまで送っていく」

職場の近く、って言うところに蓮の配慮が見えた。俺のことを考えてくれていることが、よく伝わってきた。

蓮はバスタオルとバスローブを俺に渡してきた。

「あ、あり、……がと」

俺はそれしか言えずにそのままシャワーを浴びた。

シャワーから出てきた俺の髪を、今度は蓮が乾かしてくれた。

ドライヤーの音と、蓮の指先が髪の毛の間に入っていく感触を感じると、心地よくてとても落ち着く。

ぽわぽわとしてきて、一気に眠気がやってくる。

「もう眠いか?」
「うん……」
「じゃあベッドにいこうか。『Comeおいで』」

蓮に手を引かれてベッドに2人で入る。
ぎゅっと抱きしめられながら蓮の体に包まれた。
蓮が近くにいるとドキドキと胸は高鳴るのに、すごく安心できる。

同じシャンプーの匂いに抱かれて、トントンと背中を叩かれる。
この腕の中は、安全地帯だ。
俺を脅威から守ってくれる。

俺は丸くなって、蓮の服の裾を握りしめて眠りについた。







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