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本編

18-★ アフターケア

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「れ、ん……」

俺の祈りが通じたのか、ヒカルが俺の名を呼ぶ。
ヒカルが力のない腕で、ぎゅうっと俺にしがみついてきた。

「そばにいさせてくれ、ヒカルのそばにいたいんだ」
「うん……っ」

懸命に俺にしがみつくヒカル。
やっと、戻ってきてくれた。
俺の腕の中に、ヒカルがいる。

「戻ってきてくれて、嬉しい」
「おれも……」

俺は、ヒカルの乾ききった唇にキスを落とす。
ヒカルはちゃんとここにいる。

「触れてもいいか?」
「うん、いっぱいさわって」

俺のそばでヒカルが笑っていてくれる。
ずっと触れたかった。

ヒカルがここにいると実感したくて、体の隅々まで触れた。
最後に別れる前に「触るな」と言われていたから、むやみに撫でることもできなかった。
手が勝手にヒカルの頭に伸びそうになるから、ずっとポケットに手を入れていた。

やっとヒカルに触れられて、満たされる。触れることを許してくれて、体を預けてくれる。
ああ、やっと、ヒカルに受け入れてもらえた。
許してくれた。

そばにいられるんだ。

嬉しくて、目が潤む。

ヒカルの体中にキスをした。
嫌がらずにヒカルは俺を抱きしめ返してくれる。俺のキスに、反応してくれる。
こんなに素直に体を明け渡してくれるなんて、夢みたいだ。

別れた後も、ずっとヒカルのことが好きだった。
欲を解消するためのプレイは定期的にしていたが、パートナーだけは一生作らないと決めていた。

自分がdomとわかった時、もしパートナーになるならばヒカルだけと決めていたから。

でもヒカルは、俺をいらないと言った。
だから、諦めたんだ。
ヒカルのために。

ヒカルへのこの想いは、ヒカルにとって「いらない」ものだから。
俺のこの想いがヒカルに通じなくてもいいんだ。

ヒカルの指に、自分の指を絡めた。少し力を入れると、ヒカルも同じだけ返してくれる。
それだけで幸せだ。

ヒカル以外に大切なものなんて、この世に存在しないだろう。

金も地位も、支配的権力もいらない。

ヒカルに全てを許される存在であれば、俺は心の底から満たされる。

「れん」
「なんだ?」

名前を呼ばれるだけで、こんなにも心が浮き立つ。

ヒカルがいるから、俺はただの蓮でいられる。ただ、周りの期待を受けるだけ、やり過ごすだけだった行動が、すべてはヒカルのために変わる。
自分の存在意義は、ヒカルがいるから生まれる。

「な……で、て……」
「もう一回、大きい声で『say言って』」
「ぅ、……頭、撫でて、ほし………っ」

恋い焦がれる相手から求められるとこんなにも嬉しい。

「いいよ、撫でてあげる」
「ん……っ」

なでてやると、とろん、とした表情を見せる。

「もっと褒めてほしい?」
「っ、うんっ……」
「じゃあ、俺のコマンドちゃんときけるか?」
「きく、から」

顔をほてらせて、俺に縋り付く。

「ちゃんときけたら、うんと褒めて、撫でてあげるよ」
「ぅ、……ん」
「『いい子』だ」
「は、……ぅ、ッ」

頬をすりすりと手で撫でる。ヒカルも俺の手に頬を寄せてきた。

じゅわっと、幸福が溢れ出して止まらなくなった。

「俺に『kissキスして』」
「ん……」

恥ずかしがりながらも唇を這わせてくる。俺は何度もヒカルの唇をついばみ、舌を絡めた。
ヒカルの乾いていた唇は、もうじっとりと濡れて艶めいていた。

「れん、……す、き……」

泣き出しそうになった。
本当かと、問いただしたいくらい、嬉しかった。

俺は、ヒカルが眠るまでずっとその細い体を抱きしめた。



次に目覚めた時、ヒカルは、俺がケアをした時のことを覚えていなかった。
俺を受け入れて、許してくれたことも全て忘れてしまった。

けれど、その後なんとかヒカルと擬似パートナーになることができて、安心した。
もう二度とサブドロップしないよう、俺が管理できる。


「きえたい」 


そんな風にヒカルに思わせてしまったことに、俺は自分の無力さを感じた。
ヒカルを守ってやることができなくて、苦しくて歯痒かった。

これからは、何としてでもヒカルを守りたい。

だから、ドロップした時のことなんか思い出さないほうがいい。
一生思い出さないでくれ。
消えたいなんて一瞬でも思ってしまった現実を。

たとえ、俺のことを「すき」と言ってくれたことも、全て忘れてしまっても。



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