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本編
10-★ 過去 視線
しおりを挟む「だめだ」
夕飯の席で、父に高校では外部受験をしたいと願い出た。
家から遠くて、それでもここから通える国立の高校だ。
一言目で却下されてしまった。
「なんでですか」
「その学校でやりたいことをはなんだ?」
「……」
俺は答えに詰まった。
特にやりたいことなんてなかった。とりあえず、今の状況から抜け出したかった。
父には、俺が逃げているだけにしか見えなかったのかもしれない。
「やりたいこともないのに、今より学力もカリキュラムも下がる学校に行かせる気にはならないな」
「あなたったら、やっと蓮が自分から受験したいと言ってきているのに。それだけで十分じゃない」
母が俺に味方してくれた。
「それじゃあ足りんな」
「今の環境を変えたいんです。俺も、変わりたい」
俺は父に懸命に訴えた。
「今の学校で、いくらでも変わればいい」
「将来的には父さんの跡を継ぎたいと考えています。そのためにも、俺は外部の学校に行きたいんです」
誰も俺をを知らない世界で、息をしたい。この息苦しい空間から解放されたら、俺もなにかに意欲的になれるかもしれない。
「だめだと言っているだろう」
「父さんの会社の社員のほとんどは、外部の学校に通っている人たちでしょう。その人たちと将来一緒に仕事をするためにも、外部の学校に通うことはいい経験になると思うんです」
「……学園で将来の幹部クラスや他企業の取締役と人脈を作っていく方が大事だろう」
「あなたたったら……」
母は父の頑なまでの頑固さに呆れ始めた。
外部受験の利点を無理矢理に捻り出したが
やはり父には響かなかった。
父がだめだと言うのなら諦めるしかないのかもしれない。
「いいじゃない。外部受験させてあげれば」
姉の百合の華やかな声が食卓の端に座っていた俺にまで届いた。
一人暮らしし始めた姉は、週末になって実家に帰ってきていた。
1人でご飯を食べるのは寂しいとかなんとか言って。
「百合、お前は適当なことをいうんじゃない」
「適当なんかじゃないわ。環境を変えることは大事だと思うの。社会人になって一人暮らしを始めた私が言うんだから説得力あるでしょ」
「だがな……」
「ずっと顔ぶれが変わらない学園に通っているのも、蓮は退屈でしょう」
「百合の言う通りよ。お母さんもそう思うわ」
「おい! 俺は認めんぞ!」
父はそう言っていたが、最後には折れた。
俺は外部の高校に通えることになった。
結局父は、うちの女性たちに弱いのだ。
国立の高校に通い始めた。
俺はずっと黙って人を寄せつけない暗いオーラを放つ。そうしたら、みんな俺をいないものと扱ってくれる。
けど、周りの視線から解放された代わりに、俺自身には何の価値もないことを証明してしまった。
俺にあるのは、一条財閥としての肩書きだけ。
それしか誇れるものがない。
なんの力もない。
こんな俺のことを認知してくれる人はいなかった。
ヒカル以外は。
クラスの窓際の端っこ。俺の席はそこだった。授業中も気配を消し、休み時間も放課後も、1人で過ごしていた。
将来、父の会社を継ぐか、もしくはその方面で就職するために、ビジネス書を読み漁っていた。
平凡な毎日で、俺にはそれしかやることが見つからなかった。
七瀬ヒカル。
明るくてクラスでも人気がある。
男女問わずに友達も多いし、クラスを飛び越えて交友関係が広い。
そんな七瀬が、ただクラスの端っこで一人過ごす俺を、じっと見つめてくる。
最初は財閥の息子だということが知られてしまったのかと思った。
だけど、ただ熱心に見つめてくるだけで、なんのアクションも起こしてはこない。
授業中、七瀬は机の上に突っ伏して腕の隙間から俺を見る。
「おーい! こら七瀬~、寝るな~」
授業中先生が七瀬に注意する。
「ねてませーん」
先生から名指しされ、みんなの注目が七瀬に集まった。七瀬はサッと顔を上げて、元気よく返事をした。
ワハハ、とクラスが笑う。
彼はムードメーカー的存在だった。
本人はこそっと俺を見つめてると思っているようだったけど、バレバレだった。
七瀬が友人たちと話している時も、顎を片手にのせて、だらっとした姿勢で俺の方に顔を向けてくる。
その視線は熱かった。
隠す気があるのかと思うほどだ。
俺が本を閉じて、七瀬の方に視線をずらすと、ぷいっと変な姿勢で顔を背けた。
首がグキっと音がしそうなほどだ。
思わず、ぷっ、と笑いが漏れた。
前の席にいた女子に俺の笑い声を聞かれて、「まじキモ」と聞こえる声で言われた。
突然後ろの根暗なやつが笑い出したらそういう反応になるのは普通だろう。
別にキモイと思われても、傷つきはしなかった。
今まで当てられてきた妬みや嫉妬の感情、崇拝の目なんかよりも、マシだった。
体育の授業で、クラス内の男女別でサッカーをした。
ヒカルはもちろん、クラスの男子からパスを貰って元気よく走り回っていた。
「ヒカル、パス!」
「よっしゃ! ゴール決めてやんよ」
ゴールに向かって走り出す後ろ姿を目で追いかける。
俺は、背中を丸めて存在感を消して、グラウンドに突っ立っているだけ。
楽しそうに汗をきらめかせて走る七瀬。
七瀬の目線に追われていたのは俺の方なのに、なぜ俺の方が七瀬を追いかけているのか。
(俺を見ろよ)
ボールを追いかけて友人たちと笑い合う七瀬にそう言いたくなる。
バシッ!
ゴールの網にサッカーボールが入った。
七瀬がゴールを決めたのだ。
「いぇーい! 俺のミラクルシュートみてたかー?」
七瀬がにかっと笑いかけているその相手は俺じゃない。
「よく決めたなー!」
「すげーじゃん」
肩を抱き合っているのはクラスの男たちだ。
どうして、そこにいるのが俺じゃないのか。
もやもやとした気持ちになる。
気づくと、いつの間にか俺の方が目で追っている。
やきもきして、早く話しかけてこい、なんて思うようになってしまった。
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