7 / 35
本編
6-過去 付き合う
しおりを挟む「俺たちが付き合ってることは秘密にしたい」
「あ、うん。俺も」
俺だって周りには気づかれたくなかった。男同士で付き合ってるとか、絶対にバレたくない。その上、いつも1人でいるような暗いやつとつるんでるなんて思われなくなかった。そのはずだったのに。蓮から周りには内緒にしたいと言われて、なんだかモヤモヤした。
「俺、あんまり目立ちたくないからさ。ヒカルは人気者だから、バレると目立つ」
「うん。わかってる」
「ヒカルと付き合うのが恥ずかしいわけじゃないから」
「……うん」
「だから、そんな悲しそうな顔するなよ」
「してないよ」
俺は全然悲しくなんかない。だけど蓮に顔を見られるのが嫌でそっぽを向いた。けど、蓮の指が俺の顎をすくう。
「こっち見て」
従順にも俺は目線を合わせた。
「キス、していい?」
「……うん」
蓮の要望を受け入れた。
俺っておしゃべりな方だと思っていたのに、蓮の前ではなぜかコミュ障みたいに言葉がうまく出てこなくなっていた。
だけど蓮の声を聞くのが心地いいから別に無理に喋らなくたっていい。低い蓮の声はずっと聞いていたいほど安心する。
ゆっくりと蓮の顔が近づく。
近くで見ると、すごくきれいな顔をしていた。
瞳も、透き通った黒色で、宝石みたいだ。
唇と唇が合わさった。俺は緊張して唇が震えてた。
蓮も、ちょっとだけ震えてた。
よかった。俺だけじゃない。
初めて人とキスをした。
唇は思ったより柔らかいってことをこの時知った。
蓮と付き合い始めてからも普段通りに日常は過ぎていく。
学校に行って、友達とおしゃべりして、授業に出て。
ただ一つだけ変わったことがある。
ふとした瞬間に蓮と目が合うことだ。目が合うとチリチリとうなじのあたりが疼く。
周りにバレないくらいにお互いに見つめ合って、存在を確かめ合った。
授業が全て終わってチャイムが鳴る。
ガヤガヤとクラス全員が動き出し始めた。
「ヒカル~、みんなでカラオケ行こうぜ」
金髪の類が俺を誘ってきた。
「いや、俺はいい」
「なんでだよー。最近付き合いわりぃぞ?」
「俺、金ないんだよ」
「金なら貸すからこいよ」
「いや、いいよ」
「金ないならバイト紹介してやろうかー?」
銀髪で類よりも落ち着いた雰囲気の瑛二が、今度は俺に話しかけてくる。
「むしろ俺が奢ってやるからこいって」
「成績悪いから、親から勉強しろって言われてんだよ」
「ちぇー。ヒカルが来ないといまいち盛り上がらないんだよなぁ」
類は残念そうに鞄を持ち上げた。
「そうそう」
「2人とも悪いな」
俺を誘うのを諦めた2人は、教室から出ていつも遊んでる他のクラスのやつらと合流していた。
俺がいなくたって楽しそうだ。
ほっと安堵して小さく息を吐く。
ひとり、またひとりと教室から人が出ていく。そわそわとしながら最後の1人が鞄を持って立ち去るのを待った。
教室には俺と蓮だけが残る。
俺が、蓮の席の隣の椅子に座る。
放課後、誰もいない教室で俺たちは一緒に過ごす。これが俺たちのルーティーンになっていた。
蓮のそばにいるだけで、俺は満たされた。蓮の近くにいて、何か自分の中で足りないものを補っているような感覚になっていた。
「蓮ってさ、実は結構きれいな顔してるよな。それに、背も高いし、意外と筋肉ついてるし」
疑問に思っていたことを聞いてみた。
本当はきれいな顔をしていて、実は背も結構高い。背筋をちょっと伸ばすだけでかなり印象は変わるだろう。
なのに美形な素顔を前髪で隠し、猫背と体に合わない大きめの制服でスタイルの良さを隠している。
「そうかな……自分ではあんまりわかんないけど、この格好だと楽だから」
「ふーん」
まぁ本人が好きで今の格好をしているならそれでいいか。
蓮には自然体でいてほしい。
けど、蓮のことをみんなに知ってほしい、という気持ちもある。
実はこんなにカッコいいんだぞって。最初、口調は冷たいように感じるけど、本当は結構おしゃべりで、相手のことをよく見ていて、めちゃくちゃ優しいんだって。
だけど知って欲しくないという気持ちもある。本当の蓮の姿を、俺だけが知ってるという優越感が感じられて気持ちがいいから。
こんな形でしか蓮を独占できない自分を浅ましく感じた。
「……一条財閥って知ってるか?」
少しだけ言いづらそうに蓮が口を開いた。
「んー、名前は聞いたことある。大きい企業とか所有してるんだろ?」
「まぁ、そんな感じ。実はさ、俺は、その財閥の息子なんだ」
「へぇ」
財閥の息子ってことはお金持ちか。
でも特に思うところはなかった。
お金に興味はないし、でも蓮のことをまた一つ知ることができて俺は嬉しかった。
「中学の時にエスカレーター式の学校に通ってたんだ。その時、寄ってくるやつはみんな俺の親の会社の社員の子とか、重役の子とかで」
「金持ちの通う学校か。こことは別世界だな」
うちの高校は普通の公立学校だ。金持ちなんていない。
いるかもしれないけど、いてもたかが知れてる。
「俺を通してみんな親の顔を伺ってるのが透けて見えた。俺自身をみてくれるやつはいなかった。だから、息苦しくてさ」
「そっか」
「高校に入って誰も俺を見なくなったのに、1人だけ俺を熱心に見つけてくるやつが現れた」
「……」
「最初はなんだか気味悪かった。財閥の息子だってバレたのかとも思ったし。けど、ずっと視線を感じるうちに、俺もいつしかそいつのことを見つめてて」
「うん」
「そいつの笑う顔とか、クラスの連中にいじられてるとことか、授業中アホづらして涎垂らしながら寝てるとことかが目に入ってきて」
「ヲイ、こら」
アホづら言うなや。
「可愛いって思うようになった。気がついたら好きになってた」
照れて、蓮のいつも涼しそうな顔が赤くなってる。
キュン、と心臓が甘く締め付けられて苦しくなった。
やばい。こんな気持ちになるの初めてで、どうしたらいい?
俺、蓮のこと、本当はどう思ってるんだろう?
いきなり、好きです、なんで告白したくせに、ずっと蓮への気持ちがよくわからないでいた。
蓮の顔がすぐ近くにある。
吐息が頬にあたる。
あ、キスされる。
そう思った瞬間、教室の扉が勢いよく開けられた。
「ヒカルー!俺の財布見なかったか? 教室に忘れてたっぽい~!」
カラオケに行ったはずの類が財布を探しに教室へと戻ってきた。
俺は、瞬間移動でもしたかのように蓮から遠く離れた机にダイブした。
「み、見てねぇよ!」
「あれ? ヒカル、そこお前の席じゃないじゃん? なんで座ってんの?」
「べっ、別にいいだろ! 誰もいないんだからどこ座ったって!」
「ヒカル、お前なんでそんな焦ってんだよ?」
「焦ってねぇ!」
嘘だ。蓮と2人のところを見られそうになって、俺の心臓はまだバクバクしてる。
「あやしー。何してたんだよ? もしかして1人でエロいことでもしてたのか?」
「んなわけねーだろ! ほら、お前財布探してたんだろ? ここに落ちてんじゃん」
「おー、あったあった」
「財布見つかったならカラオケ行くぞ」
ぐいっとそいつの腕を引っ張る。
「え、ヒカル? 金ないんじゃねーの? それに勉強は?」
「お小遣い前借りしてたの思い出したから金はある。勉強はまた今度にするから」
「あれ? あそこにいるの一条じゃん。ヒカル、そういえばこの前の罰ゲーム「いいからもう行くぞ!」
俺はそいつに最後まで喋らせず、背中をぐいぐい押して教室を出た。
最後に扉を閉める時に蓮を見た。
蓮はもう俺のことは見ていなかった。
机に置いていた本を開いて読み始めていた。
表情は髪に隠れて見えなかったけど、夕暮れに照らされた蓮は、俺の目には寂しく映った。
98
お気に入りに追加
418
あなたにおすすめの小説
瞳の代償 〜片目を失ったらイケメンたちと同居生活が始まりました〜
Kei
BL
昨年の春から上京して都内の大学に通い一人暮らしを始めた大学2年生の黒崎水樹(男です)。無事試験が終わり夏休みに突入したばかりの頃、水樹は同じ大学に通う親友の斎藤大貴にバンドの地下ライブに誘われる。熱狂的なライブは無事に終了したかに思えたが、……
「え!?そんな物までファンサで投げるの!?」
この物語は何処にでもいる(いや、アイドル並みの可愛さの)男子大学生が流れに流されいつのまにかイケメンの男性たちと同居生活を送る話です。
流血表現がありますが苦手な人はご遠慮ください。また、男性同士の恋愛シーンも含まれます。こちらも苦手な方は今すぐにホームボタンを押して逃げてください。
もし、もしかしたらR18が入る、可能性がないこともないかもしれません。
誤字脱字の指摘ありがとうございます
この愛のすべて
高嗣水清太
BL
「妊娠しています」
そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。
俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。
※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。
両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。
可愛くない僕は愛されない…はず
おがこは
BL
Ωらしくない見た目がコンプレックスな自己肯定感低めなΩ。痴漢から助けた女子高生をきっかけにその子の兄(α)に絆され愛されていく話。
押しが強いスパダリα ✕ 逃げるツンツンデレΩ
ハッピーエンドです!
病んでる受けが好みです。
闇描写大好きです(*´`)
※まだアルファポリスに慣れてないため、同じ話を何回か更新するかもしれません。頑張って慣れていきます!感想もお待ちしております!
また、当方最近忙しく、投稿頻度が不安定です。気長に待って頂けると嬉しいです(*^^*)
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
クズ彼氏にサヨナラして一途な攻めに告白される話
雨宮里玖
BL
密かに好きだった一条と成り行きで恋人同士になった真下。恋人になったはいいが、一条の態度は冷ややかで、真下は耐えきれずにこのことを塔矢に相談する。真下の事を一途に想っていた塔矢は一条に腹を立て、復讐を開始する——。
塔矢(21)攻。大学生&俳優業。一途に真下が好き。
真下(21)受。大学生。一条と恋人同士になるが早くも後悔。
一条廉(21)大学生。モテる。イケメン。真下のクズ彼氏。
身の程なら死ぬ程弁えてますのでどうぞご心配なく
かかし
BL
イジメが原因で卑屈になり過ぎて逆に失礼な平凡顔男子が、そんな平凡顔男子を好き過ぎて溺愛している美形とイチャイチャしたり、幼馴染の執着美形にストーカー(見守り)されたりしながら前向きになっていく話
※イジメや暴力の描写があります
※主人公の性格が、人によっては不快に思われるかもしれません
※少しでも嫌だなと思われましたら直ぐに画面をもどり見なかったことにしてください
pixivにて連載し完結した作品です
2022/08/20よりBOOTHにて加筆修正したものをDL販売行います。
お気に入りや感想、本当にありがとうございます!
感謝してもし尽くせません………!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる