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本編

6-過去 付き合う

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「俺たちが付き合ってることは秘密にしたい」
「あ、うん。俺も」

俺だって周りには気づかれたくなかった。男同士で付き合ってるとか、絶対にバレたくない。その上、いつも1人でいるような暗いやつとつるんでるなんて思われなくなかった。そのはずだったのに。蓮から周りには内緒にしたいと言われて、なんだかモヤモヤした。

「俺、あんまり目立ちたくないからさ。ヒカルは人気者だから、バレると目立つ」
「うん。わかってる」
「ヒカルと付き合うのが恥ずかしいわけじゃないから」
「……うん」
「だから、そんな悲しそうな顔するなよ」
「してないよ」

俺は全然悲しくなんかない。だけど蓮に顔を見られるのが嫌でそっぽを向いた。けど、蓮の指が俺の顎をすくう。

「こっち見て」

従順にも俺は目線を合わせた。

「キス、していい?」
「……うん」

蓮の要望を受け入れた。

俺っておしゃべりな方だと思っていたのに、蓮の前ではなぜかコミュ障みたいに言葉がうまく出てこなくなっていた。
だけど蓮の声を聞くのが心地いいから別に無理に喋らなくたっていい。低い蓮の声はずっと聞いていたいほど安心する。

ゆっくりと蓮の顔が近づく。
近くで見ると、すごくきれいな顔をしていた。
瞳も、透き通った黒色で、宝石みたいだ。

唇と唇が合わさった。俺は緊張して唇が震えてた。
蓮も、ちょっとだけ震えてた。
よかった。俺だけじゃない。

初めて人とキスをした。
唇は思ったより柔らかいってことをこの時知った。



蓮と付き合い始めてからも普段通りに日常は過ぎていく。
学校に行って、友達とおしゃべりして、授業に出て。

ただ一つだけ変わったことがある。
ふとした瞬間に蓮と目が合うことだ。目が合うとチリチリとうなじのあたりが疼く。
周りにバレないくらいにお互いに見つめ合って、存在を確かめ合った。

授業が全て終わってチャイムが鳴る。
ガヤガヤとクラス全員が動き出し始めた。

「ヒカル~、みんなでカラオケ行こうぜ」

金髪の類が俺を誘ってきた。

「いや、俺はいい」
「なんでだよー。最近付き合いわりぃぞ?」
「俺、金ないんだよ」
「金なら貸すからこいよ」
「いや、いいよ」
「金ないならバイト紹介してやろうかー?」

銀髪で類よりも落ち着いた雰囲気の瑛二が、今度は俺に話しかけてくる。

「むしろ俺が奢ってやるからこいって」
「成績悪いから、親から勉強しろって言われてんだよ」
「ちぇー。ヒカルが来ないといまいち盛り上がらないんだよなぁ」

類は残念そうに鞄を持ち上げた。

「そうそう」
「2人とも悪いな」

俺を誘うのを諦めた2人は、教室から出ていつも遊んでる他のクラスのやつらと合流していた。
俺がいなくたって楽しそうだ。
ほっと安堵して小さく息を吐く。

ひとり、またひとりと教室から人が出ていく。そわそわとしながら最後の1人が鞄を持って立ち去るのを待った。
教室には俺と蓮だけが残る。
俺が、蓮の席の隣の椅子に座る。

放課後、誰もいない教室で俺たちは一緒に過ごす。これが俺たちのルーティーンになっていた。

蓮のそばにいるだけで、俺は満たされた。蓮の近くにいて、何か自分の中で足りないものを補っているような感覚になっていた。

「蓮ってさ、実は結構きれいな顔してるよな。それに、背も高いし、意外と筋肉ついてるし」

疑問に思っていたことを聞いてみた。
本当はきれいな顔をしていて、実は背も結構高い。背筋をちょっと伸ばすだけでかなり印象は変わるだろう。
なのに美形な素顔を前髪で隠し、猫背と体に合わない大きめの制服でスタイルの良さを隠している。

「そうかな……自分ではあんまりわかんないけど、この格好だと楽だから」
「ふーん」

まぁ本人が好きで今の格好をしているならそれでいいか。
蓮には自然体でいてほしい。

けど、蓮のことをみんなに知ってほしい、という気持ちもある。
実はこんなにカッコいいんだぞって。最初、口調は冷たいように感じるけど、本当は結構おしゃべりで、相手のことをよく見ていて、めちゃくちゃ優しいんだって。

だけど知って欲しくないという気持ちもある。本当の蓮の姿を、俺だけが知ってるという優越感が感じられて気持ちがいいから。

こんな形でしか蓮を独占できない自分を浅ましく感じた。

「……一条財閥って知ってるか?」

少しだけ言いづらそうに蓮が口を開いた。

「んー、名前は聞いたことある。大きい企業とか所有してるんだろ?」
「まぁ、そんな感じ。実はさ、俺は、その財閥の息子なんだ」
「へぇ」

財閥の息子ってことはお金持ちか。
でも特に思うところはなかった。
お金に興味はないし、でも蓮のことをまた一つ知ることができて俺は嬉しかった。

「中学の時にエスカレーター式の学校に通ってたんだ。その時、寄ってくるやつはみんな俺の親の会社の社員の子とか、重役の子とかで」
「金持ちの通う学校か。こことは別世界だな」

うちの高校は普通の公立学校だ。金持ちなんていない。
いるかもしれないけど、いてもたかが知れてる。

「俺を通してみんな親の顔を伺ってるのが透けて見えた。俺自身をみてくれるやつはいなかった。だから、息苦しくてさ」
「そっか」
「高校に入って誰も俺を見なくなったのに、1人だけ俺を熱心に見つけてくるやつが現れた」
「……」
「最初はなんだか気味悪かった。財閥の息子だってバレたのかとも思ったし。けど、ずっと視線を感じるうちに、俺もいつしかそいつのことを見つめてて」
「うん」
「そいつの笑う顔とか、クラスの連中にいじられてるとことか、授業中アホづらして涎垂らしながら寝てるとことかが目に入ってきて」
「ヲイ、こら」

アホづら言うなや。

「可愛いって思うようになった。気がついたら好きになってた」

照れて、蓮のいつも涼しそうな顔が赤くなってる。
キュン、と心臓が甘く締め付けられて苦しくなった。

やばい。こんな気持ちになるの初めてで、どうしたらいい?
俺、蓮のこと、本当はどう思ってるんだろう?
いきなり、好きです、なんで告白したくせに、ずっと蓮への気持ちがよくわからないでいた。

蓮の顔がすぐ近くにある。
吐息が頬にあたる。

あ、キスされる。

そう思った瞬間、教室の扉が勢いよく開けられた。

「ヒカルー!俺の財布見なかったか? 教室に忘れてたっぽい~!」

カラオケに行ったはずの類が財布を探しに教室へと戻ってきた。

俺は、瞬間移動でもしたかのように蓮から遠く離れた机にダイブした。

「み、見てねぇよ!」
「あれ? ヒカル、そこお前の席じゃないじゃん? なんで座ってんの?」
「べっ、別にいいだろ! 誰もいないんだからどこ座ったって!」
「ヒカル、お前なんでそんな焦ってんだよ?」
「焦ってねぇ!」

嘘だ。蓮と2人のところを見られそうになって、俺の心臓はまだバクバクしてる。

「あやしー。何してたんだよ? もしかして1人でエロいことでもしてたのか?」
「んなわけねーだろ! ほら、お前財布探してたんだろ? ここに落ちてんじゃん」
「おー、あったあった」
「財布見つかったならカラオケ行くぞ」

ぐいっとそいつの腕を引っ張る。

「え、ヒカル? 金ないんじゃねーの? それに勉強は?」
「お小遣い前借りしてたの思い出したから金はある。勉強はまた今度にするから」
「あれ? あそこにいるの一条じゃん。ヒカル、そういえばこの前の罰ゲーム「いいからもう行くぞ!」

俺はそいつに最後まで喋らせず、背中をぐいぐい押して教室を出た。

最後に扉を閉める時に蓮を見た。
蓮はもう俺のことは見ていなかった。
机に置いていた本を開いて読み始めていた。

表情は髪に隠れて見えなかったけど、夕暮れに照らされた蓮は、俺の目には寂しく映った。




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