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本編
5-過去 好きです
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高校2年。午前の授業が終わった昼休み。
みんな机をくっつけたりして弁当を広げ、わいわいと賑やかだ。
そのクラスの端っこで1人座って弁当を食べる一条蓮。
なんでかあいつのことが目に入るようになった。
「なぁヒカル、最近さ、一条のことばっか見てね?」
クラスでいつもつるんでる、銀髪の瑛二が突然そんなことを言い出した。
「は?! んなことねーし!」
「あー、それ俺も思った。気づくといっつもみてるよなー」
金髪の類が大きな声で瑛二に同意した。
「俺は窓の外の景色みてんのっ!」
からかってくる友達の類と瑛二の2人とも、髪を染めていて明るい。
俺の髪も明るめの茶髪に染めている。
3人揃ってちょっと騒ぐだけで目立つ。
だから静かにしていてほしかったのに、俺の方が大きな声を出して反論してしまった。
でも俺たちだけじゃなくて、周りもみんなそれぞれのグループで集まって話に夢中だ。
俺たちに注目する人はいなかった。
一条の方も、こちらを見ている様子は見受けられない。
けど俺の心臓はバクバクと脈打っていた。
俺が一条を見ていたことは事実だったから。
俺があんな暗いやつを見つめてるなんて、仲のいいこいつらにもクラスのみんなにも知られたくなんてなかった。
だから俺は話題を変えようとした。
「つーかさ! 午後イチの授業の小テスト、2人は勉強した?」
「げ! 小テストあるんだったっけ? やばい」
「俺もやってねー」
「だよなー。俺も」
「ヒカル、お前も勉強してないのかよ」
「話題ふっといてやってないとかウケる」
よかった、ちゃんと話題を変えられた。
もう一条のことなんてこいつらは忘れてる。
「じゃあさー、小テストで1番点数低かったやつが罰ゲームしようぜ」
類が提案してきた。
「お、いいねー。やろー! ヒカルもやるだろ?」
まさか、面倒くさがりの瑛二がそれにのってくるとは思わなかった。
けど2人がやる気になってしまったので、やらないわけにいかないだろう。
「お、おぉ」
なんだか変な方向に話が進んでしまった。
罰ゲームとかだるい。
しかも次は俺の苦手な古典の授業だ。いにしえの日本語なんて、いまさら学んでも意味ないだろって思う。
しかも、読めそうで読めないのがさらに俺には難解な言語に思えてならない。
腹一杯になった午後の授業は特に眠いし。
難解な古文を読んでいるだけで睡魔が襲ってくる。
ああ、嫌な予感しかしない。
そして古文の小テスト。
授業終わりにせーので見せあった答案用紙。3人の中で見事に俺が最低点を叩き出した。
「ヒカル、罰ゲームけってーい!」
「まじかよ……」
「罰ゲームなにがいっかなー」
2人はニヒヒ、と笑いながら俺の罰ゲームを決めている。
「じゃあさ、一条に話しかけろよ」
「え」
「いいねー。俺と友達になってくださーいってお願いしてこい」
「な、なんで」
「だってあんなに熱心に一条のこと見てたんだから、ヒカル、相当あいつのこと気になってんだろ」
「き、気になってねーし!」
「ま、なんでもいいけど、罰ゲームはそれな」
いやらしい笑みを浮かべる2人。
敗者の俺はただ2人をキッと睨みつけるしかできなかった。
俺は全ての授業が終わった放課後、クラスに1人残る一条を見つけた。クラスには他に誰もいない。俺はこそっと後ろから一条が座る席に近づいていく。
話しかけるって、どうやるんだっけ。
友達の作り方って改めて考えるとわからない。クラスで仲のいいあいつら2人との最初の会話だって思い出せない。
俺はいつまでも話しかけられないでいた。俺に気づいていた一条が、読んでいた本を閉じて振り向いた。
「なんかようか?」
「っ」
一条から話しかけてくれたのに、俺の口からはやっぱり言葉が出てこない。
長い前髪からキラッと光る鋭い眼光。
それと思い切り目が合ってしまったら、俺はもっと余裕がなくなった。
「なぁ、なんかようかって聞いてるんだが」
こいつって、喋るとこんな冷たい感じなんだ。ますます喋る言葉が見つからなくて俺は焦ってくる。
「えっ、……と、俺」
「なに」
声変わりはもうとっくに終わった低い声。喉仏がくっきりと出ている。
「俺……あ、その……す、好きですっ!」
あ、あれ? 俺今なんて言った?
「……」
一条は呆気にとられて口がポカンとあいていた。前髪に隠れていなかったら、目もびっくりして大きく開いているかもしれない。
焦ってなんか言わなきゃと思ってたら、変なことを口走ってしまった。
ど、どどどうしよう……!
「俺のこと、好きなんだ?」
「う、うん……」
ちがう、と言いたかったのに。俺は一条の問いかけに肯定していた。
あれ? 俺ほんとに何いってんの?
自分でも訳がわからない。
「お、俺……一条のこと」
「蓮だよ」
「え?」
「下の名前、蓮って呼んで」
「あ、うん……れ、蓮……」
「なに」
短い返答だけど、さっきとは違って柔らかい口調に聞こえる。なんだか蓮の雰囲気も違って見えてくる。
「呼んでみただけ」
「俺も、ヒカルって呼んでいい?」
蓮に名前を呼ばれてみたい。
「うん、呼んでほしい」
勝手に口が動いた。
「ヒカルさ、俺のことずっと見てたろ」
俺が見てたことバレてたんだ。恥ずかしくて、そして申し訳なくなって謝った。
「ごめん」
「それに、俺に話しかけてきたのって罰ゲームなんだろ? お前たち声がデカいから話し声全部聞こえてた」
「う、ごめんなさい」
俺は泣きそうになった。
どうしよう、蓮に嫌われたかもしれない。
罰ゲームで蓮に好きって言ったと思われたら、どうしよう。
もうやだ。死にたい。
「いいよ。それに、俺もずっとヒカルのこと見てたから」
「えっ」
俺は隙さえあればずっと蓮を見つめてた。蓮と目が合ったことなんて一度もなかった。だから蓮が俺を見ていたなんて驚いたし、信じられなかった。
「なんで俺のこと見てたの……」
「ヒカルのこと、気になってたから」
「なんで?」
俺のことが?
なんで?
「さぁ、なんでだろうな?」
そうやってはぐらかされてしまった。
「ヒカルさ、俺と、付き合ってみる?」
「蓮と、つ、つきあう……?」
頭がぽわぽわして、よくわからなくなってきた。ただ蓮の全てに従いたいという気持ちになってくる。
「俺たち、恋人同士になろう」
「蓮と恋人に……」
それってすごく幸せかもしれない。
「な? いいだろう?」
「うん……なる」
気づいたら俺はそう答えていた。
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