御曹司な元カレの甘ったるいコマンドなんて受けたくないっ!

ノルジャン

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本編

2-10年ぶり

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ふわりと笑う顔に、昔の面影を感じとった。

高校の時の蓮は猫背で、前髪でいつも顔は隠れ、オタクみたいな暗い印象だった。
今ではモデルかと思うくらいのイケメンへと風貌を変えてしまっている。そんな彼に10年ぶりに会ったのに、俺はすぐに蓮だと気がついた。

なぜなら、蓮とは昔、最悪な別れ方をしたから。だから俺は蓮のことを忘れることがどうしてもできなかった。

「お前……どうしてこんなこところに」

突然目の前に元カレが現れたことに、俺は動揺を隠しきれずに目が泳ぐ。

「あれあれー? 2人は知り合いなの? じゃあちょうどいい」
「ぜんっぜんちょうどよくない!」

間の抜けた先生の声に俺は勢いよく反論する。

蓮はそんな先生を無視して俺を見つめてくる。こちらを射抜くようなDomの目だ。獰猛な肉食動物のような覇者の目が、獲物を狙うようにこちらを見ている。瞳の奥に、微かにDomのグレアを感じる。俺を支配しようとするその目に俺はたじろいだ。

蓮はポケットに手を入れたまま、ドアの前に仁王立ちになっている。
足が長く見え、とても様になっててちょっと面白くない。
それに高圧的にも見えた。

「ヒカル……『Come来い』」

グレアを滲ませてコマンドが俺に放たれる。目の見えないなにかにぐいっと引き寄せられるように俺の体が一歩前に動く。俺はDomの支配力にあらがえなくて、圧倒的な力に支配される感覚に俺の胸はざわついた。

ぞくぞくと背筋に悪寒が走った。ふらふらと足が勝手に動いて蓮の前で立ち止まる。
心臓が早鐘のように鳴り、冷や汗が止まらない。俺はひたすら下を向いて、蓮の高そうな黒光りする靴を見つめた。

最後にひどい別れ方をした。きっと、蓮はその仕返しに来たんだ。そう思って目の前が真っ暗に染まった。嗚咽が湧き上がってくる。

ダメだ。吐きそう。
ただでさえ、Domのグレアは苦手なのに。
酸っぱいものが喉奥まで迫り上がってきていたのを、なんとか口に手を当てて我慢した。

蓮が一歩進んで俺の耳元に口をよせる。
ふ、と吐息が耳にかかる。それだけで俺の心臓はさらにうるさく鳴り始め、一瞬でうなじがぞわりと粟立つのを感じた。

「『いい子だな』」
「っ……!」

褒められた。
その一言だけで、さっきまでの恐怖は一瞬で消え去ってしまった。
寒いところから一気に暑いところに移動したみたいに、ぶわっと俺の体が熱くなった。

「ぁ……っ、ぅ」

きゅううっと心臓が苦しいのが心地いい。思考が蕩け出しそうになる。

「抱きしめてもいいか?」

甘い声でそう告げられた。けど、俺はそれに反応しなかった。恐怖の底から一気に天国まで這い上がったみたいになって、俺はその振り幅についていけず、いっぱいいっぱいだった。
だけど残っていた僅かな理性でふいっと顔を逸らす。今の俺にできる精一杯の拒否だった。

「やだ? じゃあヒカルから『Hugハグ』は? できるか?」

蓮のコマンドに体が動きそうになる。けど俺は左手で右手首を握りしめて耐えた。

「それもだめ? じゃあ『Lookこっち見て?』」

立て続けのコマンドを無視できず、耐える表情でギギギ、と機械の擦れる音が聞こえそうになりながら逸らした頭を動かす。蓮と目を合わせた。というか睨みつけたが正しい。

「ん、できたな。じょーず」

それでも甘ったるい笑顔で褒められた。褒められたことが嬉しくてどうにかなりそう。

「んぁ……っ」

俺の声って一瞬わからなかった。けど、信じられないくらい甘えた声が漏れでてしまった。

「はぁ……くそ」

俺は口元を手で覆い隠した。

こんなの俺じゃない。褒められて嬉しくなるなんて気持ち悪い。こんな風になりたくなんてなかったのに。
それでも幸福感と安心感で満たされる。体調もすこぶる良くなってきた。憎っくきsub性の欲求が満たされたからだ。

「ここでできるプレイはこれくらいが限界だ。ヒカル、移動しようか。『Comeついておいで』」
「ぇ……ちょ、どこに……蓮っ!」

頭はついて行きたくないと言っているのに、体は言うことを聞かない。
しかも、蓮がいってしまいそうになるとざわざわと胸が苦しくなる。

だから、行き先も告げずに先を歩いていってしまう蓮を、思わず俺は小走りで追いかけた。



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