御曹司な元カレの甘ったるいコマンドなんて受けたくないっ!

ノルジャン

文字の大きさ
上 下
2 / 35
本編

1-このままだと死ぬ?

しおりを挟む

俺のカルテを見ながら、白衣の男性が口を開く。
 
「七瀬さんねぇ、このままだと君、死ぬよ」

俺は七瀬ななせヒカル。いつもの病院で定期検査を受けただけなのに、かかりつけ医に開口一番に言われた言葉だった。

この診察室には俺と先生と、先生のパソコン一台のみ。

俺は、丸椅子に腰掛けたまま、声をあげた。

「え?」

『死ぬ』という言葉に呆気をとられて、間抜けな面を先生に見せつけてしまった。

「Sub不安症が原因で死ぬよ」
「え、嘘……冗談、ですよね?」

もう一度言われた。胸がざわついて不安になってくる。

「医者はこういう嘘つかないよー」

俺はSub性だ。
男女の性別の他に、ダイナミクスと呼ばれる第二次性がある。そのうちの一つ。
Sub性の欲求を満たすため、もう片方のdom性と定期的にプレイして欲求を満たす必要がある。
欲求が満たされないままいると、不安症と言って体調が悪くなったりする。

「で、でも抑制剤飲んでいれば大丈夫ですよね?」

そう説明を受けたはずだ。Subの欲求を抑え込む抑制剤を飲んでいれば生活していけるって。

俺はSub性が嫌いだ。支配されたい、甘やかされたいなんて欲求、弱くて子どもっぽく思えた。

「普通はね。でも七瀬さんは日々の残業で体を酷使してるでしょ」
「ううっ」

そうだけども。だって仕方ないじゃないか。仕事が次から次へと積み上げられていくんだから。
夜遅くまで残業しなきゃ終わらない。
ブラック企業で働いている自覚はある。
けど、そこしか俺にはないから、必死にしがみつくしかない。
他に俺なんかを雇ってくれるところなんてないから。

「そんな状態で何年も過ごしていれば死ぬよ普通に」
「普通にって、そんなこと言われても……」
「このまま順調に行けば、倒れてポックリいって墓石の下に直行だよ」
「ポックリ……墓石って」

普通だったら笑っていた。冗談めいた言葉なのに、冗談を言っている風ではない。

「でも俺、仕事が」
「仕事辞められないなら、Subの欲求不満を解消するしかないよー」

間延びした語尾はこの先生の口癖だ。

「それって、つまり」
「そ、パートナーのDomを見つけてプレイしなさいってこと」

『パートナー』『Dom』『プレイ』
3つとも俺の大嫌いな言葉たち。
嫌悪感がさらに俺の中にぞわぞわと走る。

「いやだ! 先生が前みたいにプレイしてください! 俺がサブドロップする前にしてくれたじゃないですか!」

先生はDom性だが、他のDomの先生たちとは違って威圧感がない。だから俺はこうやって長年見てもらっている。

「あんな子どもだましのプレイなんて、応急処置にしか過ぎないの」

過去に何度か限界を迎え、血反吐を吐きそうになりながらも受診した。その時に先生が簡単なコマンドを言ってくれたのだ。
Come来い』『Sit座れ』『Lie down横になれ』『Sleep眠れ』の流れでしばらくベッドで休眠させてもらって、少しばかり寝不足を解消していた。

「俺はそれで大丈夫です」
「それじゃあもう無理なところまできてるんだよ。わかんないかなぁ」

そんなのわかってるよ。体も心も悲鳴をあげてる。

「でも俺は……っ」

ギリギリと奥歯がきしむ。ドクドクと胸が嫌な音を立て始めて、冷や汗も出てきた気がする。

それでもDomとプレイなんて嫌だ。
Domは自分以外の他人を支配したいという欲求を抱いている。

俺は誰にも支配なんてされたくない。死んでも嫌だ。でも死にたくはない。

「病院から紹介したプログラムやプレイ専門の施設、どうせ君一度も行ってないでしょ」

(ギクリ、バレてる)

俺の頑固さはもう先生にはバレバレだ。もうかれこれ、10年くらいはお世話になっている先生だ。俺のSub性が判明きたころからずっと診てもらっているから。

「この病院のDom/Subプレイ内科にも行ってないよねー? あれだけ行ってねって言ってるのに」
「……えっと、だって……」

(だって行きたくなかったし)

俺は気まずくなって先生から顔を背けた。

「だから、今日君に紹介するつもりでDom性の人に来てもらってるから」
「は!?」

下を向いていた顔をパッと上げた。

「僕の知り合いだから、変なことにはなんないよー。……たぶん」
「多分て!」

適当かよ!

「ほら入ってきてー」

先生の声に、診察室のドアががチャリと音を立てる。
 
(え、うそっ、心の準備も何もできないのにっ)

俺は焦り、緊張した面持ちで扉の向こう側を見つめた。
スラリと足の長い、紺色のスーツを着た男性が入ってくる。
背が高い。スタイルもめちゃくちゃいい。高級なスーツの下にはがっちりとした筋肉が詰まっているのだろうこともわかった。そして、鍛えられた体に芸能人かと思うほど美しい顔があった。整ったパーツがすべてその大きな体にくっついてる小さな顔に揃っていた。

その顔に、俺は見覚えがあった。

「れ、れん……?!」

ガタリ、と座っていたイスから立ち上がる。

「久しぶりだな、ヒカル」

見覚えがあった、なんてもんじゃない。

そいつは、10年ぶりに会った俺の高校の時の元カレ、一条蓮だった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

今日も一緒に

みづき
BL
高校三年間、聡祐に片想いをしていた湊は、卒業式に告白したが、「知らない奴とは付き合えない」とふられてしまう。 叶わない恋には見切りをつけて、大学では新しい恋をすると決めて一人暮らしを始めた湊だったが、隣に引っ越していたのは聡祐だった。 隣に自分に好きだと言ったやつがいるのは気持ち悪いだろうと思い、気を遣い距離を取る湊だったが、聡祐は『友達』として接するようになり、毎日一緒に夕飯を食べる仲になる。近すぎる距離に一度は諦めたのに湊の気持ちは揺れ動いて…… 聡祐とは友達になると決めて幸せになれる恋を始めるべきか、傍に居れるうちは諦めずに好きなままでいればいいのか――ドキドキの新生活、お隣さんラブ。

俺の親友のことが好きだったんじゃなかったのかよ

雨宮里玖
BL
《あらすじ》放課後、三倉は浅宮に呼び出された。浅宮は三倉の親友・有栖のことを訊ねてくる。三倉はまたこのパターンかとすぐに合点がいく。きっと浅宮も有栖のことが好きで、三倉から有栖の情報を聞き出そうとしているんだなと思い、浅宮の恋を応援すべく協力を申し出る。 浅宮は三倉に「協力して欲しい。だからデートの練習に付き合ってくれ」と言い——。 攻め:浅宮(16) 高校二年生。ビジュアル最強男。 どんな口実でもいいから三倉と一緒にいたいと思っている。 受け:三倉(16) 高校二年生。平凡。 自分じゃなくて俺の親友のことが好きなんだと勘違いしている。

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

からかわれていると思ってたら本気だった?!

雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生 《あらすじ》 ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。 ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。 葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。 弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。 葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!

処理中です...