異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン

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3 これって勝ち組人生? ※

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頭が真っ白になっていつ終わったのかもわからなかった。気がついたらルークに抱えられて風呂場に連れて行かれた。この豪邸だ、風呂場も想像以上に広かった。
 シャワーでかいた汗を流してくれて、湯船に一緒に浸かった。後ろから抱きしめられる形でルークの上に乗せられる。
 
「あ、ん、ふぅ……んん」

 優しく唇を啄ばまれて声が風呂場に反響する。立ち上がった両乳首を指で弾かれるとまた声が出た。

 うなじや背中にキスをされて甘噛みされ、肌に痛甘さを感じて跡を付けられているのがわかった。その間ずっと両方の乳首はルークの指で遊ばれていた。ぎゅ、と摘まれて軽くイってしまった。

「ふゃあ……ぁあ、っ」
 
 背中にいるルークにくったりした身体を預けた。

 乳首だけでイくなんて漫画か小説だけの世界かと思ってた。

「のぼせる前に上がるか」
「うん」

 まだふわんとした頭で、これ以上お湯に浸かっているとのぼせることは確実だ。

 ルークに支えられて湯船から出る。広々とした脱衣所に行くとふわふわの柔らかいタオルで身体を拭いてくれた。
 至れり尽くせりだ。じっとルークのされるがままになっていたが、ルークの髪も濡れているのにルークは俺ばかり構う。だから俺はルークの頭にかかっているタオルに手を伸ばして、濡れて滴る彼の髪を拭いてやった。
 ルークは少し驚いたような顔をしたが、すぐに俺の手に自分の手を重ねてきた。
 俺の手を取り、優しく唇を這わす。そのしぐさはとても色っぽくて、俺は思わず頬が赤くなって胸がドキドキとした。

「ラック……俺のAmos最愛の人

 その言葉は俺の奥深くに入り込んできた。ぐっと心臓を鷲掴みされた気がした。悪役のような鋭い目元は冷たい印象を与えているのに、こんなキザなセリフをこんな穏やかで特別な声色で言われたら、この男に堕ちない者はいないだろう。
 
 それは俺も例外じゃない。
 
 誰にでもそんなことを言っているだろうこの男に、俺の気持ちを気づかれたくなくてぷいっと背を向けた。
 
 男が好きとかそういう次元じゃない。この男の、ルークの抗い難い魅力にまんまと魅了されてしまったのだ。恋愛の経験値もないこの俺が、この百戦錬磨のような極上の男に堕ちるのはさっきの一瞬で十分だった。愛してしまったんだ、この男を。手に入れられないだろう、このたちの悪い男を。
 
 自分の気持ちに気づいた瞬間に恋に敗れた。背後からは大きな身体が俺を包み込んで離さない。
 これ以上優しくしないで欲しい。勘違いするから。切なくて苦しくて、鷲掴みされたままの心臓がどうにかなりそうだった。
 湧き出てきた涙を押し戻したくても、戻ってはくれない。
 ほろほろと涙が出る。

 俺の涙に気づいたルークが俺の顔を覗き込む。そんなに顔を近づけないでくれ。傷ついた顔を晒したくない。

「一体どうしたんだ、俺のAnima。何で泣いてる?」

 涙を拭ってくれる手を振り解いてそっぽを向く。

「なんだ、あれだけじゃ足りなかったか?お前が初めてだと言うから加減したんだが。だったらもっと愛し合おう。俺の愛がお前に届くまで」

 ルークにとって俺は、ただ単に人生ですれ違う男の中の一人にすぎない。バーで偶然出会って口説き落とせた相手の一人なんだ。
 勘違いするんじゃない。ルークは俺のことなんて愛してないんだ。

 そう自分に言い聞かせていたら、さらにぶわっと涙が出てきてしまった。

『愛し合おう』と言ったのにルークは無理に抱こうとはせず、俺が泣き止むまで抱きしめていてくれた。ルークと目を合わせる。彼の唇が降ってきた。甘く切ないキス。
 ようやくルークは俺の後孔に自身の陰茎を入れ込んだ。俺の後ろはもう簡単にルークを受け入れられるようになってしまった。

 ルークは俺の中に入ったままの状態で俺を抱き抱えた。急な浮遊感に驚いて全身でルークにしがみついた。

「ンッ、ん、ぁ、……ひぃ!」
 
 結合部がぐぐっと密着してしまい、自ら身体をルークに押し付けるような形になった。

「やぁ、るーくぅ……」

 しがみついたルークの身体は分厚くてどっしりとしてる。のしかかられた時のルークの身体の重みを思い出してしまい、身体が熱くなってきた。

「あ、……ぁう、あぁ……っ」
 
 俺の身体だってそんな軽いはずはないのに、ルークは軽々と俺を抱えている。ルークはゆっくりと歩き出して脱衣所から廊下へと出た。
 お互いに裸で、繋がり合ったまま。

「ふ……そんなにぎゅうぎゅうしがみつくな。俺がお前を落とすはずがないだろ?」

 嬉しそうにルークが笑う。
 
 しがみつかせてんのはどっちだよ?!

 そんな文句を言いたかったが俺はそれどころじゃなかった。ゆっくりと歩くルークの身体の振動が俺の中まで伝わってくる。そのたびに内側が擦られて切ない疼きに変わる。どんどんそれは俺の腹の奥に溜まっていき、熱をもっていった。結合部は俺の中から出る蜜で溢れかえっており、下へ滴り落ちていった

「ほら、床を見てみろ。すごいことになっている。掃除する使用人は大変だな」

 後ろを見ると、ルークが歩いてきた床に俺の中から溢れ出て落ちた蜜がぬるぬると光っている。

「や、やだあっ……!」

 死ぬほど恥ずかしい!こんなことになってるなんて。思わずしがみついて顔を隠した。羞恥心で顔が熱くなって真っ赤になったのを見られたくなかった。しがみついた時に身体に力が入り、中のルークのものをぎゅっと締めつけてしまった。

「くっ、……そんなに締めるな。すぐイってしまうだろう」

 ふざけんな。俺ばっかり翻弄されているじゃないか。そっちも俺みたいに乱れてイってしまえ。

 ムカついた俺はお尻を締め上げるようにして力を込めた。

「っ……!……悪い子にはお仕置きだな」

 俺の中の締め上げに耐えたルークはものすごく悪い顔をした。身体を持ち上げられ、下に落とされる。ルークのものがずん、と俺の奥を抉る。そうやって大きく揺すられた。何度も。

「あ、や、ごめんなさっ……やァァっ!!」

 強い快感に身体が喜ぶ。気持ちが良くて、もうすぐ絶頂を迎える、というところまで登りつめた。声が抑えられない。

「そんなに声を出してちゃ屋敷中の人間に聞かれてしまうな」

 その言葉によって、他の人の目が気になり始めてしまった。けれど、廊下の端から端まで聞こえそうなほどの喘ぎ声が出てしまっても、全く抑えられそうもない。いつ使用人が来て見られてしまうかと思うとそれも興奮する一つの材料になってしまった。
 後一回大きく突き上げられたらイける、はずだったのに。ルークは俺のそんな様子を見て、ピタリと動きを止めた。

「あ、……なんでぇ、も……ルークぅ」

 媚びるような声で俺を持ち上げているルークにすり寄る。ルークの肩や胸板を艶かしく撫でて媚びた。けれどルークは少しも動いてくれない。

「お仕置きだといったはずだ」
「こんなの、……ひどい」

 熱が引いていったころに、またルークはゆっくりと歩き出す。引いていった熱はまた波となって俺の身体に次々に押し寄せてくる。けれど絶頂を迎えるほどの刺激がこない。
 切ないばかりの疼きに身体が辛くて苦しい。早くこの疼きから解放されたい。

「もうやだぁ、……これ、つらいよ……ぁ、んん」

「ルークぅ、ん……お願いだからっ……ぁ、ふ」

「あぁ……、ねぇルークっ、んん……くぅ……」

 こんなに懇願して甘えた声で名前を呼んでもルークの歩みは変わらない。欲しい刺激をくれない。俺をなだめかすように「あともう少しだ」と言って啄むようなキスをする。

 やっと部屋に戻ってきた。部屋の中に入る頃には俺の理性はとろとろにとけだしていた。

「はやくぅ、……ルーク、おねがいぃ……っ」
 
 はやる気持ちが抑えきれずにルークを急かす。ルークに急かすようなことを言うたびにルークの動きが逆にゆっくりとしたものになった。それがわかってても俺が急かすのをやめられなかったのは、身体の熱が奥で燻って辛かったからだ。切なくて辛いのに、甘い熱。

「こんなにとろけて、本当に可愛いなラックは」

 ベッドの端にルークが腰かける。繋がったままルークにまたがるように上になった。焦らすように口付けられてもう我慢できなかった。腰を浮かせて自分で動き始めた。それでもまだ疼きはおさまらない。むしろ酷くなるばかりだ。

「もう、おねがいっ……ルーク、ルークぅ」
「わかったわかった」

 俺が甘く強請る声に満足げな顔をしてやっと動き始めてくれた。
 思い切り下から突き上げられる。

「ああああ――っ……!」

 やっときた下からの強い衝撃にあっという間に絶頂の渦にのまれた。

 快感の渦の中心から戻って来れない。ずん!ずん!と突き上げられるたびにびくびくと身体が痺れる。

「んぁっ、……ひぃ、ぃ、ぁあ……」
「お前の中、すごいな」

 ぐいっと腰を引き上げられて、ルークの突き上げと同時に俺の身体をルークの方に引き寄せられた。うねって痙攣する内壁をさらに先端で擦られ、執拗にこねくり回されて、上手く息ができない。はくはくと口を開けて呼吸をする。

「一緒にいこうか」
 
 苦しそうに眉根を寄せて、ルークが最奥へと入り込み、奥を抉られた。

「………っっ――――!!!」
 
 喉奥までさしかかった声は声にならず、ルークが絶頂へと到達するより先に、俺は音もなく達した。後から追うようにルークのものがどくどくと激しく脈動したのを感じた。
 俺の意識は朦朧として、そのまま渦の中に身を任せて沈み込んでいった。

「Vi et animo」

 ルークが何か言っていたが、俺はすでに意識を手放した後だった。

 

 
 

 
―――――


 目を覚ましたのは次の日の日が上りきった昼頃だった。

 キングサイズの広いベッドには俺一人しかおらず、少し物寂しく感じた。隣にいたであろうベッドの空いたスペースを手で確かめる。ひんやりとつめたかった。
 ルークが起きてしばらく経っているみたいだ。
 
 立ち上がろうと思ったら膝が笑ってがぐがくとした。そのまま体勢を整えきれず、ベッドに崩れ落ちてしまった。

 強烈な初めてを経験した。ルークの見た目通りに危なく強引にされるかと思いきや、恋人同士のように甘いセックスだった。昨夜のことを思い出してまた冷めたはずの身体の熱が上がってきてしまう。どうにか落ち着けてベッドから這い上がる。

 早くここから出ていかなければ。
 これ以上ここにいるわけにはいかない。

 急激に、出ていかなければとの思いが俺を急がせた。
 いそいそと衣服を着て部屋の外へ出た。広すぎて出口がどこかわからない。やみくもに探っていると、広い庭にたどり着けた。ほぼ走っているような歩みで門まで行き、門前に立っている怖い顔の門番の横を通り過ぎた。来た時同様何も言われなかったことにホッとして中央の区画を歩き、郊外のレストランを目指して足を動かした。


 中央区画からいつもの見覚えのあるレストラン『カポネッサ』の街角に戻ってきて心底安心した。レストランの2階に住まわせてもらっており、与えられた自分の部屋にたどり着くと、また膝ががくがくとしてきた。どさっとソファベッドに身を投げる。
 
 レストランに戻ってくる間ずっと考えていた。あのおっさん神の『ユーの身体は青春しやすいように作り替えたかラー!青春するんだよーウ』という言葉。
 
 初めてでもあんなにすんなりと男根を受け入れられたのは俺の身体がそういう風に作り変えられたからじゃないのかと思う。きっとそうに違いない。じゃなきゃ初めてだったのにいきなりあんなものを受け入れることが出来るわけがない。男が男を受け入れるにはある程度前準備が必要だということは知識として知っていたから。
 
 でもそれだけじゃない気もしたのだ。ただ身体を作り変えられたから受け入れることができたとは思えない何かを感じた。あの男と俺には、何かもっと特別な……。いや、考えるのはよそう。どうせ一夜きりの関係だ。
 しかも、後先考えずに逃げ出すように出てきてしまった。冷静になれば、それはかなり相手に対して失礼な振る舞いであったに違いない。経験が全くないのでどうするべきだったのか、正解を知らないが。
 

「ラック、昨日はどうだったんだ?今日は朝帰りだったみたいじゃないか」

 オーナーもこのレストランの2階、俺の隣の部屋に住んでいるため外出はすぐにバレる。壁も薄いし。
 オーナーには昨日飲みに行くとは伝えていた。
 
「昨日は飲んだ後一人寂しく宿で寝ましたよ」

 わざわざ男と寝たなんて自己申告する必要はないだろう。
 
「なんだ、じゃあやっぱりガセだったのか」

 肩透かしを食らった、とオーナーは肩を下げる。

「どういうことですか?ガセって」
「昨日ルーカスさんの屋敷にラックが連れて行かれたって聞いて心配したんだが、やっぱただの噂だったか」

 屋敷って、絶対それ俺のことだろ。もう噂になってんのか!確かに目立ってたよな……。でもルーカス?
 
「ルーカスさん……?って誰のことです?」
「ルーカスさんってったら一人しかいねぇだろ。ルーカス・アバティーノのことだよ」

 ルーカス、るーかす……、待てよルーカスの愛称ってさ、るーく?、……え、ちょっと待って。まさか……。嘘だろ……?
 
「ルーカスって、まさか、る、……ルークって、……ルーカス・アバティーノ……っ?!」

 異世界生活二ヶ月の俺でもその名を知っている。泣く子も黙るルーカス・アバティーノ。
 
 この街で彼の名を知らぬ者はいない、この街の元締め、最高統治者。組織の古く凝り固まった老幹部たちを一掃し、他の犯罪組織を力尽くでまとめ上げた。人種、年齢、性別に拘らず人員を登用し、犯罪をビジネスとして成り立たせた。彼が立ち上げたそのビジネスのおかげで街の治安はむしろ良くなった。
 だが、彼に歯向かう者には無慈悲。どんな手を使ってでも容赦なく叩き潰す。冷酷な男。それがルーカス・アバティーノだ。
 そんな冷酷な男ではあるが、見目が良く、整った顔立ちに男らしく素晴らしい身体を持つ。ベッドを共にしたいと願う女も男も掃いて捨てるほどいるという。だが実際にベッドを共にするのは一度きり。そしてその一度で手酷く抱かれ、壊されるのだ。そんな噂が流れているのに、それでも抱かれたいという男女は絶えない。
 

 ガセでよかったよかった、と笑をこぼすオーナー。

 反対に俺は悲惨な顔になっていく。血の気が引いて顔が青ざめ、心臓がドクドクと嫌な音を立て始めた。

「……オーナー。……もし、もしですよ?そのルーカス・アバティーノを、や、ヤリ逃げなんてする奴がいたら、そいつ……どうなりますかね?」
「あのルーカス・アバティーノを?そんなことあり得ないだろ」
「だ、だからっもしもの話ですよ」
「まぁ、もし仮にそんなことをする奴がいるとすれば、そいつはやばいんじゃないのか。殺されるだけじゃすまないだろ。あのルーカスをコケにしたってさ」

 やばい、やばいやばいやばい。

 そんな俺の異様な様子に気づかず、オーナーはご機嫌な様子で俺の顔を見てきた。
 
「おおそうだ。もし昨日相手がいなかったんなら、今夜俺と一晩……」
「オーナー!俺今日でレストラン辞めますっ!」
「えっ、はっ?」
「そんでここも出ていきます!今までありがとうございましたっ!」

 急いで借りている部屋へと戻って貯めていた有金全てを抱える。荷物はほとんどないに等しい。すぐに部屋を飛び出て、あれだけお世話になったオーナーに挨拶もろくにせずに乗合馬車へと飛び乗った。

 やばい、どうしよう。

 ぐるぐると頭で反芻して焦りで何も考えられない。逃げるように顔も合わさずにルークの屋敷から出てきてしまったのだ。そんな不義理な相手に、ルークは容赦はしないだろう。

 一日で、しかも金もそんなにない中で行くには二つ隣の街が俺の限界だった。ボロ宿の安そうな所に部屋をとってうずくまって怯えながらその日は寝た。
 次の日も気分は最悪。外に出るのも億劫、働く意欲すらも湧かない。だが、生きていくため、食べていくためには外に出て働かなければならない。

 有金をこんな安宿に置いていくのは不安だったが、じゃらじゃらと金を持って出歩くのも良くはないだろう。
 「はぁ」とため息を吐いて仕事を探すため外に出る。外に出る前に宿のおばちゃんに仕事探しはどこですればいいか尋ねると、商業組合に行けと言われた。
 




 

 商業組合での仕事探しはあまり芳しくなかった。あまり金にならないけど体力的にきつい仕事ばかりしかなかったのだ。ドブ掃除とか、ゴミ処理とかそんなのばっかだ。他に何か金になる仕事はないのかと食い下がると、受付の男は、あるにはあるが、と言ってニヤニヤと舌舐めずりしながら俺を見た。その目で見られた俺は気持ち悪くなりすぐにその場を立ち去った。
 レストランで働けたことはラッキーだったんだなとしみじみ思う。あの区画は治安もよかったし、この街と比べると雲泥の差だ。ここは小さい街だし、薄汚れていて道にはゴミが散乱している。そこに住む人たちも愛想はないし格好も小汚い。
 
 俺は魔法が使えるのかもしれないが、相当の修練を必要とすることがわかった。その修練のために他の魔法使いに金を払って教えを請わないといけないらしい。すぐに使えるものじゃないし、金がかなりかかる。
 稼いだ金もすぐに生活費に消えていってしまうだろうから、魔法を覚えている暇などないかもしれない。せっかく魔法使いになってみようと思ったのに。
 

 
 悠長にそんなことを考えている俺は知らなかった。
 この逃げてきた二つ隣の街もすでにアバティーノ・ファミリーに牛耳られていることを。
 そして、ルーカス・アバティーノもこの街に既に足を踏み入れていることを。

 宿に戻って自分の泊まっている部屋の前にたどり着くと、部屋のドアが空いていた。空き巣に入られでもしたのか。部屋には全財産がある、それが無くなったら俺はショックで倒れる、最悪死ぬ!
 急いで部屋に入った。
 すると中には大きな上背のある男が背を向けて葉巻をふかしているところだった。
 ギクリと肩が揺れた。

「ルーカス・アバティーノ……」
「ルークと呼べと言ったはずだ」

 男はなおも葉巻をふかし続けてこちらを見ない。

「どうしてここに……」
「服を脱いでベッドに上がれ」

 葉巻を落として足で潰して火を消した。

 死刑を宣告された罪人の気持ちがわかる。これから俺は殺されるのか。壊されて、手酷く抱かれて。

 男はやっとこちらを向いた。酷く危険なオーラを纏っていて、その威圧感に後退りしそうになる。ゴクリと喉を鳴らして唾を飲み込んだ。有無を言わせないその視線。余裕のない俺は震える手で服に手をかけた。全てを脱ぎ去ってベッドへと上がる。

「酷くはしない。気持ちいいことだけだ。俺から逃げられると思うなよ。……覚悟はいいな?」

 俺の身体が震えているのは恐怖からか期待からか。その両方か。
 強い眼差しに肌が焼けるように痛い。乱暴にされるかと思ったのに、手つきはやけに優しい。力強いのに、優しく甘い口付けに身体の緊張がほぐれていく。

「何で逃げた」

 ルークは俺の中に挿入する前にそんなことを聞いてきた。

「ルークは、俺のこと……好き?」
「……好きじゃない」

 その言葉に胸が張り裂けそうになる。
 辛い。苦しい。
 
 俺は開かれた脚の間を両手で隠す。

 俺のことを何とも思ってもない相手とこんな風に身体を合わせていいことなんか一つもない。例え、俺がどんなに相手に焦がれていたとしても。

「ラック、手をどかせ。入れられないだろ」
「いやだ」
「ラック」

 強い口調で圧力をかけられる。だが、そんなものに負けじと俺はルークを睨みつけた。
 例えルークに殺されるとしても、身体は明け渡さない。しちゃいけない。心はもう完全に彼のものになっていたとしても。

 はぁとため息をルークは吐いた。そのため息を聞いて俺は何だが自分が情けなくなった。情けなくって、辛くって。

「どれだけこの俺を振り回せば気が済むんだラック……」

 そんなことを言ってのけるルーク。

 どの口がそんなことを言うんだ。振り回されているのは俺の方。常にルークは余裕綽々で、乱されてしまうのは俺ばかりなのに。

「ラック、よく聞け。俺はお前を好きじゃない」

 そんなこと何度も言わなくたってわかってるよ!もうわかったから、これ以上言わないでくれ。もうこれ以上俺の中に入ってくるなよ。頼むから。

「ラック、愛してる……。愛してるんだ。好きだなんてそんな簡単な感情じゃない」
「え……?あいしてる……?」

 あいしてる?って何だっけ?

 びっくりしすぎて何が何だかわからなくなった。

 あの、泣く子も黙るルーカス・アバティーノ。街々を裏で牛耳る冷酷卑劣なアバティーノ・ファミリーの頂点に君臨するこの男。

 そんな男が俺のことを愛してるだって?

「嘘だ」

 夢でも見てるのか俺は。いや、きっとルークの笑えない冗談か嘘だ。まんまと引っかかりそうになった。

「嘘じゃないさ。冗談でも、愛してなきゃこんなボロ宿まで俺自ら追いかけてきたりしない」

 それもそうだ。こんな上等な男がこんな錆びた街に一人で乗り込んでこないだろう。殺すとしても、他に人を使えばいい話だ。

 愛してる。

 ルークの言葉が俺の中に染み渡って熱を持つ。じわじわと広がっていった。

 いつの間にか俺は手をどかしていてルークが俺の中に入り込んだ。

 ギシギシとベッドが揺れて、ボロいベッドが壊れそうだった。だが、痛いことはされなかった。むしろ酷く抱いて欲しいと思うほど、優しすぎて苦しい責苦だ。ぐずぐずになるまで甘やかされて、俺はとろけ出した。

「ああっ!……ルークぅ……」
「そうやって可愛く俺の下で鳴いていろ」

 弱いところを責められて、もっと欲しいと自ら腰を振る。

「あ、あ、……ん、んぅ」

Te Amo愛してる」と何度も言われて奥を突き上げられ続けた。

 
 

 明け方まで俺の甘ったるい嬌声が宿に響いて寂れた街にも届きそうだった。
 ルークが金を払って人払いをしていたため宿には俺とルークしかいなかったことを、俺はルークの屋敷に連れ戻された後に知った。
 でろでろに甘やかされて愛されて、これは夢かと思ったが一向にさめない。

Te Amo愛してる、俺の可愛い Nigrum cattus

 この先ずっと、この危険な男に愛される俺の人生って勝ち組人生?
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